終末世界で華や散るらん   作:ランハナカマキリ

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本編
結ぶ華


 

 

 武士とは――無死なり。

 

 

 

 

 

 

 武士とは――武死なり。

 

 

 

 

 

 

 ただ、武に咲き、武に散る。

 

 

 

 

 

 

 武士は、散ることを恐れず、咲き誇る華ーー

 

 

 

 

 

 

 その漢たちまさに、幕末の世に咲く、最期の徒華であった。

 

 

 

 

 

 

蝦夷地・五稜郭。

新政府軍は、蝦夷共和国最後の拠点である五稜郭及び函館への総攻撃を3方向より開始。

戦闘員1000を切る蝦夷共和国軍に対しーー

新政府軍は、10,000を超える兵すべてを投入。

また箱館山方面から千代ヶ岡陣屋に、七里山方面から四稜郭と権現台場、そして五稜郭へと進軍。

 

陸海から水も漏らさぬ包囲作戦を展開した。

 

旧幕府軍は防戦を続けた。

だが、箱館山の後背から上陸した新政府軍により箱館市内を制圧されため、弁天台場付近の海上にあった旧幕府海軍の回天丸は苛烈な砲撃により炎上。残された船は蟠龍丸ただ一隻となってしまい、箱館湾の制海権消失を意味していた。

 

この制海権消失は、ただ不利になるだけではなかった。

北上してきた新政府軍旗艦である甲鉄が湾内へと侵入、そして甲鉄のアームストロング砲が五稜郭を射程に捉えてしまうことーー敗北を意味していた。

 

 

 

 

「これで………ついにオレらは丸裸ってわけね……まっ惚れた()に狙われるってのも悪かないか!!カカカカッ!!!」

蝦夷共和国総裁、榎本武揚

 

「…弁天台場の魁たちは?」

 

「まだ踏ん張ってくれていますが…箱館市街が新政府軍に占拠された今、完全に孤立しています」

蝦夷共和国陸軍奉行、大鳥圭介

 

弁天台場の守りは堅いが、守備兵は200名ほど。

もって3日の状況であった。

 

「……ちょっと出てくる」

「…助けに行くつもりですか?不可能です」

 

箱館市街は、新政府軍によって完全に制圧。

いくら目の前に立つ男でも、弁天台場にたどり着くことは不可能だった。

 

だが、この漢達は知っていた。

この漢が、死場所を探していることを。

この漢が、仲間を見捨てないことを。

この漢が、とんでもない馬鹿をする漢であることを。

 

「それでも…アンタは行くんだな?」

「榎本さん。大鳥さん。蝦夷地に来てよかったよ………おかげで最高に楽しかった」

 

この漢は、多摩の農家の四男という穀潰しだった。

2度も商家に奉公へ出されるも逃亡。

家業の石田散薬を行商するかたわら、関八州の道場を道場破りしていた。

 

「あぁ!!オレもだ!!」

「ど…同感です!!」

 

天然理心流試衛館で道場主である近藤勇と出会い、仲間達と剣を磨いた。

井伊大老が暗殺されたことで始まった激動の時代を、己が剣と信念で生きた漢。

 

「オレは…()()()は咲けるだけ咲いた」

 

漢の名は、土方歳三。

 

「心の底から、そう思えた時が散る時だ」

 

 

 

 

"梅の花

  咲ける日だけに

      さいて散る"

 

豊玉発句集より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと…オレが弁天台場に行ったってことは"アイツ"には言うなよ」

「ーーおう」

 

△△△

 

黒煙は空一面を覆い、焼け焦げた硝煙が鼻を刺す。

地面は泥と血が混ざり合い、踏みしだかれた草は原形を失っていた。

 

「はっ、はっーー」

 

土方は単騎で、敵陣目掛けて馬を走らせていた。

後方では異国の友人が自分を先に行かせるために、命を捨てて道を作ってくれた。

 

目の前には土嚢の積まれた敵陣。

こちらに向かって構えられた銃。

 

土方は銃を構え、引き金を引く。

 

鋭三郎…

 

山南さん…

 

平助…

 

源さん…

 

山崎…

 

佐之…

 

オヤジ…

 

総司…

 

新八…

 

ハジメ…

 

魁…

 

鉄…

 

そして"佩太郎"…

 

 

 

 

 

みんな……ありがとうな。

 

ズドゥン!!!!

 

 

「ーーーぐっ………!」

 

土方歳三は乱戦の最中に腹部に被弾、落馬したとされる。

 

果たして、それは真実なのか?

 

否っ!!!

 

彼は左腹を撃ち抜かれ、衝撃で馬から投げ出されたが、なおもその瞳は死んでいなかった。駆け寄って首を取ろうとした敵兵を斬り殺し、血で濡れた地面を踏みしめ、刀の柄を握りしめていた。

 

「かかれぇ!!!!」

 

抜刀した新政府軍の兵らが、獲物を前にした野犬のように、土方に迫る。

 

「うらァッ!!」

 

最初に斬り込んできた兵士に一閃。

刀が肉を裂く生々しい音が響き、兵士は目を見開いたまま地に崩れ落ちる。

さらに別の兵士が背後から飛びかかったが、土方は血が噴き出す腹を押さえもせず、身体をひねり込んで胴を断ち割った。

その後も何度も、何度も、敵を斬り伏せる。

 

「ーーーうっ……」

 

だが失血で視界が滲む。立っていること自体、奇跡だった。

 

「土方歳三!!その首、もらーー」

 

ザンッ!!

 

新政府軍抜刀隊の兵士が土方の眼前で崩れ落ちる。

その兵士の背後から現れたのは、一人の青年だった。

 

肩まで伸びた黒髪を後ろでまとめ、土方同様に洋装で身を包んだ優男。

その目はギラギラと燃えており、額にある大きな刀傷には汗が浮かんでいる。

唯一の違いが、羽織っているのはコートではなく浅葱色のだんだら模様の羽織であった。

 

新撰組一番隊隊長助勤『八神佩太郎』

 

「はっ……生きてるよな……?」

「佩太郎ーーテメェ、付いて来てたのかよ……」

「当たり前だ、アホバラガキ………榎本さんからお前が外に飛び出したって聞いてな」

 

荒い息を吐く佩太郎が、今にも倒れそうな土方の肩を支えた。

彼の刀もまた返り血で真紅に染まっている。

その周囲には複数の新政府軍兵士が転がり、まだ温かい血の匂いが立ち上っていた。

 

遠くから、新政府軍の兵士たちの足音が近づいてくる。

 

「おい、佩太郎……ありがとよ。最期まで、俺のバカに付き合ってくれて」

「……気にすんな。お前を死なせたらハジメにドヤされるし、永倉さんにも『あのバカを頼む』って言われてんだよ……それに、死んだ沖田さんや近藤(オヤジ)さんに向ける顔がない…一緒に戦えて、楽しかったよ」

「俺もだ……散ろうぜ」

「あぁ……」

 

土方と共に、佩太郎は駆け出す。

 

「敵は新撰組の土方!!!隣にいるのは"血雨"佩太郎だ!!!いっせいに掛かれぇい!!!」

 

敵は京でも会津でも戦った薩摩の抜刀隊だ。

全員が刀を抜き、示現流の構えで突っ込んでくる。

 

「チェスtーーー」

「とうっ!!!」

 

刀が振り下ろされる前に、佩太郎の刀が唸り、新政府軍兵士の腹を横に裂く。

返す手で抜いた脇差しが、別の兵士の喉を貫く。

血飛沫が雨のように降りかかり、視界の端が赤く染まる。

 

「構えぇぇ!!狙えぇぇ!!……放てぇぇぇ!!!」

 

周囲で銃を構える鉄砲隊が叫ぶ。

 

ドンッ!! ドンッ!! ドンッッ!!

 

銃撃の集中豪雨が佩太郎の体に叩きつけられる。

布が裂け、肉が捥がれ、熱い弾丸が皮膚を焼きながら通り抜けた。

背後の地面が弾丸にえぐられ、土と血のしぶきが爆ぜる。

 

「っ……ぐぁっ……!!」

 

脚が崩れ、膝をつき、泥に血が混ざって広がっていく。

 

「その首もらーーザンッ!!ーーうぇ?」

 

敵兵の首が突然、掻っ切られていた。

佩太郎の脇差しが反射的に振るわれていた。

 

「ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

最期まで、足掻けるだけ足掻く。

立てなくとも、泥に膝を沈めながら刀を振るう。

近づく敵兵が悲鳴を上げ、死んでいく。

 

「どうしたーー来い…!」

 

「嘘だろ……?この…化け物っ!!!」

「ひっ、怯むな!!おはんらそれでも薩摩隼人かぁっ!!!」

「臆すな!!斬り込めぇ!!!」

 

斬り込んできた敵を逆袈裟で両断し、左手に握っていた脇差で死角から来る敵の刀を防ぐ。

そして近寄って来た敵、およそ8人以上。

「うぐっ!?」

左手の脇差で押さえいた敵の刀を弾き、右手の刀で袈裟斬りにする。

 

そのまま、左手で逆手にした脇差を。

右手には振り下ろした刀を返して。

 

両手に握った二刀を、体と足を軸にして回転するように斬り上げる。

 

龍尾剣・蜷

 

8人以上が両手ほどの肉塊に斬り刻まれ、散血が雨のように飛び散った。

 

もうこの戦争には勝てない。

もし生き残れたとしても碌な末路は訪れないだろう。

なら武士として潔く、最期まで戦い続けよう。

 

たとえ足がもがれても、腕を斬り飛ばされてもーー

 

「うげっ!?」

「ひっ!?」

「怯むな!!串刺しにしろぉぉぉ!!!」

 

ーー己が命を燃やし尽くして、散りたい。

 

グサッ!!グサグサッ!!!

 

佩太郎の肩に、腹に、背中に、次々と刃が突き立つ。

骨に当たり、鈍い衝撃が全身を揺らす。

肺から血が込み上げ、口から赤い泡が溢れた。

 

「し……仕留めーー」

 

ズバッ!!!

 

「はぁっ、はぁっーーー」

 

密着していた抜刀隊員十名ほどの首が、一瞬にして飛び散った。

佩太郎は両手から力を失い、刀が泥へ落ちる。

 

(オヤジさん……沖田さん、ハジメ、山南さん、鋭三郎、左之助さん、井上さん、平助さん、山崎、魁……今、逝くぜ……)

 

視界の端で、血まみれの土方がこちらへ振り返った。

 

「ーーっ!!!」

「……まったく……そんな顔、すんじゃねぇよ……」

 

悪友であり、個人的な敵でありーー親友であった漢と眼が合う。

俺の最期を見るのがコイツなのは癪だが……

 

「あぁーーー悪くなかった」

 

視界が闇に閉ざされ、銃声も怒号も潮が引くように遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明治二年1869年5月11日ーー土方歳三義豊ならびに八神佩太郎 散る。

享年三十四歳ならびに二十八歳。

 

佩太郎の死体は後に捜索されたものの、見つかることはなかった。

これは幕末最大の謎として知られている。

 

 

 

 

 

 

 

 その七日後。五稜郭は開城。

 

 最後の武士たちが抱きし夢は潰え……

 

 その後、幕末に咲き誇こりし華は、ひとつまたひとつと散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから幾星霜、漢たちの物語は人々の記憶から薄れ、散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

佩太郎は目を疑った。

血でベタベタした瞼を閉じる前まで戦場にいたはずなのに、瞼を開けたら景色が違っていた。灰色の建物が森の木のように立ち並んでおり、地面からは緑色と黒色の突起物が貫き出ていた。そして何よりも、目の前に広がる街からは人の気配がせず、ただ死地の気配がしていた。

 

「蝦夷地じゃないよな……何処だここ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、50年後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新エリー都、ヤヌス区六分街。

とある古びた道場にて。

 

数名の人影が、固唾を飲んでその試合を見ていた。

 

一人は身長二メートルはあろう機械人、もう一人は萌葱色の髪の少年。

 

「それでは、参るっ!!!」

 

機械人が仕掛ける。

全身のギアを稼働させ、大木と見間違うほど太い木刀を振り下ろす。

灰色の人工筋肉が膨張し、黄色い単眼が残光を生み出す。

 

「ぬぉぉぉぉぉ!!!」

 

巨体が床を踏み抜く勢いで、木刀を振り下ろす。

その木刀を、少年は木刀で受け止める。

 

この時、勝負は決まった。

 

少年は木刀の峰に右手を合わせる。

そして右手をかち上げ、一気に逆袈裟斬りを振るう。

 

変則・龍尾剣

 

機械人のボディに傷が入る。

 

「参りました。流石は我らが師範代……」

「反撃を考えてなかったな。データに加えとけよ」

 

戦闘用知能機械人『蒼烈』

 

彼は巨体を屈ませながら、師範代ーー目の前にいる少年と言葉を交わしていた。その横で、両手足を生身のものではなく灰色の機械の手足にした少女が、ノイズがかったような機械的な声色で口を開いた。

 

「相変わらず卑屈ねぇ?蒼烈先輩」

「"謙虚と向上意欲"の間違いだろ、ツイッギー。その捻くれた性格、いい加減治せよ」

 

少女の後ろの壁にもたれかかっていたハイエナのシリオンの青年が、オールバックにした灰色の前髪を撫で、口元からは犬歯がのぞき、険しい顔つきに皺を寄せ、耳先が欠損している左耳を立てながらため息を吐く。

 

「………あら生意気ね。私より二ヶ月先にこの道場に入門したから先輩面したいの?ハヤテちゃん?」

「なんだとぉ…?」

 

ツイッギー・デマラ

大和ハヤテ

 

「やんのかテメェ……上等だゴラァ…!!」

「あらあら……生意気な子犬ちゃんだこと!!」

 

バチバチと火花を散らせる二人。

近くにいた男は溜息を吐きながら、巻き添えを喰らわないよう離れる。そしてちょうど出先から道場に戻ってきた、トカゲのシリオンの少年に声をかける。

 

「全くーーリードくん、喧嘩を止めてきなさい」

「はい。後それから、調査員護衛の任務について…報酬が振り込まれましたっすよ。これで今月の生活資金は充分です」

「おいくら?」

「300000ディニーです」

 

レイ・リード

弾き出したそろばんを片手に、ニヤリと笑った少年は白髪の髪を目が隠れるまで伸ばし、舌はY字に割れていた。ズボンの後ろ、腰からは白い鱗に覆われた太い尻尾が伸びている。

 

「どうです?この金を倍に増やせる方法がーー」

「治安局に引き渡しますよクソガキ……チャカを額に突きつけてさらに倍の金を出させる方が簡単ですよ」

「悪い大人だなぁ…」

 

ジョン・ドゥ

ネズミのシリオンの男は灰色の髪を長くして、その後ろ髪を三つ編みにひとつにまとめている。その年季と知的さを感じるメガネの裏には、キリッとした鋭い眼が並んでいた。

 

「アンタら……」

「「ん?」」

 

2人の隣に立って壁にもたれかかっていた少女は、膝まで届くほどの長いミッドナイトブルーの髪を後頭部で束ねてポニーテールにし、そして右側に流れる長い前髪には銀色の羽型の髪留めをつけている。彼女が着ている黒いタンクトップには白い牙の意匠が施されており、オレンジ色の瞳を持った目を細くして、ハヤテたちの喧嘩を見ていた。

 

セレッソ・トリンプ

 

「ねぇ、あの2人止めないの?」

「勝手にしやがれですよ。それにーーー」

 

喧騒が大きくなり、両者が獲物を抜く。

ツイッギーが抜いたのは双刀、ハヤテは銀色の牙を模った御手。

何も知らない部外者が見れば、それは恐ろしい光景だ。

だがこの道場では、この喧嘩は日常の風景だ。

 

そして…

 

「………おい、お前ら」

 

その喧嘩に参加する者もいるのも、日常。

 

「「ーーっっ!!」」

 

凄まじい剣圧。

牙を剥いた狼を目の当たりにしたような威圧感をもつ少年、先程まで蒼烈と試合をしていた少年が、ニヤニヤと笑いながら歩みを進める。

 

「喧嘩すんならーー俺も混ぜろ」

 

市川誠音

深緑色の前髪をかき上げ、木刀を霞の構えに構える。

 

「ーーあの戦闘狂が静かにさせますから」

「あ〜あ……アイツら死んだ」

 

 

一触即発のその時ーー

 

 

prrrrrrrr…………

 

 

道場に備え付けの電話が鳴った。

 

「ちっ……」

 

誠音が興が削がれたような、つまらなさそうな顔で電話を取りに行く。

格子戸がパタンと閉じた瞬間、喧嘩していた2人はどかっと床に倒れた。

 

「「死ぬかと思った」」

「反省しているなら庭の掃除でもしてきなさい」

 

△△△

 

「もしもしーー『あ!もしもし!?あたしよ!!邪兎屋のニコ!!一生のお願い!!!アンタたちの力を借りたいの!!!』………ホロウ関連か?」

 

電話の主はニコ・デマラだった。

邪兎屋という何でも屋をやっており、毎年金欠の赤字会社だ。

 

聞けば、ヤヌス区十四分街で発生した共生ホロウの近くのマンション高層階で爆発が起こり、邪兎屋が回収を依頼された金庫とニコの仲間であるアンビー・デマラとビリー・キッドがホロウに落ちたそうだ。

 

『ーーてなわけでお願い!!!』

「いや、既に『パエトーン』に依頼してんだろ?なら安心しろよ。アイツらの腕は保証すーー『そう言って断ると思ったよ、誠音

「はぁ………アキラ、いつから聞いてたんだ?」

『ニコが電話し始めた辺りからだ。誠音、今回の仕事は君らの助けが必要なんだ。

そう、君たち"壬生狼零番隊"の助けがね』

 

「はぁ〜〜〜……ダチの頼みだ。行くよ」

 

誠音は道場の扉を開ける。

 

「セレッソ、行くぞ」

「……えぇ、準備してくる」

「あら、ホロウ案件?」

「ちょうどインターノットで話題になってますね。治安局のブリンガー長官が、何やら重い腰を上げたようで…」

「……けっ、あのケツアゴ野郎」

「口が悪いぞ、ハヤテ。兎も角、動くなら迅速にしなければ」

「あの〜ツイッギーさんが行っちゃいましたよ?」

「はっ!?あんにゃろう抜け駆けさせねぇぞ!!!」

「まったくバカ1号め………あ、バカ2号も止まれ!!」

 

 

 

 

ヤヌス区十四分街、クリティホロウの縁にて。

 

防衛軍の制服の上に浅葱色のだんだら羽織を着た誠音が、ハーフフィンガーグローブを装着しながら腰に差した刀の柄を撫でる。すると後ろから、スカーフを巻いた小さなボンプがポテポテと歩いてくる。

 

このボンプの名はイアス。

先ほど電話で会話した青年『アキラ』は伝説のプロキシ"パエトーン"と呼ばれており、独自の演算装置H.D.Dシステムにより、本来は不可能であるホロウ内外でタイムラグ無しの通信・援護を可能とし、ボンプと感覚を同期できるのだ。

 

『やぁ誠音。準備はいいかい?』

「俺はな。治安局と鉢合わせないよう迅速に動くぞ」

「市政選挙が近いですし……パパッと終わらせましょう」

「俺らが前衛、市川先輩はーーー「洒落せぇ」ーーちょ、先輩!!」

 

御手同士をぶつけるハヤテを尻目に、誠音がホロウ壁面に突入した。

 

「血が激ってんだーーとっとと征くぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホロウ内部の地下鉄分岐駅某所。

何でも屋『邪兎屋』の従業員、アンビーとビリーがエーテリアスと逃走劇を繰り広げていた。

 

「クソッ、キリがねぇ!これじゃ、弾代だけで大赤字だぜ……!」

「ーー来る、構えて」

 

アンビーは鉈を、ビリーは二丁拳銃を構え、迎撃態勢に入る。

 

すると二人の背後から何か球体のものが転がり、煙を吹き出した。

エーテリアスの視界をくらませーーその煙の中で黒い影がエーテリアスに刀を振るい、一刀両断する。もう一体のエーテリアスが標識を振り下ろすも、刀で受け止めてその攻撃をいなし、目にも止まらぬ速さでコアに3回、刃を突き立てる。

 

「ふぅーー」

「おーいこっちだ!急いで!」

 

呆然とする二人に、背後の脱線した列車の影からあのボンプが呼びかける。

 

「やぁ、お疲れ様!」

「スカーフの、しゃべるボンプ」

「おお!もしやーーーパエトーン!!」

 

「俺には礼はなしか?ビリー?」

「お!?誠音!!久しぶりだな!!!」

「久しぶりね、誠ーーー「隊長ぉ〜!!」ーーツイッギー、元気そうね」

 

アンビーにツイッギーが飛びつき、アンビーは手慣れた様子で頭をよしよしと撫でる。

すると後ろからハヤテがエーテリアスを殴り飛ばし、セレッソがロングソードを片手に現れる。

 

「誠音、エーテリアスの群れがさらに接近してるわ」

「数は?」

「低く見積もって二、三十体」

「はぁ!?もう油圧ロッドが限界だぜぇ!!?」

 

ビリーは悲鳴に似た叫びをあげるが、誠音はニヤリと笑った。

 

「ふっ………」

「?なぜ笑うの?」

「あ〜ウチのリーダーっていっつも()()なのよ」

「…死地でだけ、生きてるって感じるらしくてーーほんとに救いようのないバカ」

 

笑うことを不思議がるアンビーにツイッギーが返答する。そして、セレッソがため息をつくように彼の癖を述べる。

 

「しかも自分より格上の相手に臆さず戦いを挑みますから………数ヶ月前のあの件しかり」

「あ〜、あれは死んだな〜って思ったのに……土壇場で強くなって勝っちゃうって」

『みんな集中してくれ。エーテリアスが来る!』

 

目の前からは大量のエーテリアス。

その大群の中に、誠音は斬り込み、仲間は後に続く。

 

「征くぞっ!!!」

「「「はっ!!!」」」

 

彼らの背負う浅葱色のだんだら羽織が、風にはためいた。

 

 

 

 武士とは――無死なり。

 

 

 

 

 

 

 武士とは――武死なり。

 

 

 

 

 

 

 ただ、武に咲き、武に散る。

 

 

 

 

 

 

 武士は、散ることを恐れず、咲き誇る華ーー

 

 

 

 

 

 

 その漢たちまさに、終末の世に咲く、結実華であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー帰ってくるの珍しいっすね」

「おう、久しいな」

 

一方その頃、道場で留守番していたリードは珍しい客を出迎えていた。

 

その客は帽子を被った七十代の老人だった。

長い白髪を後ろでまとめており、顔や腕、胴体には無数の刀傷。

龍の柄が織り込まれた着物を見に纏い、その上から羽織るくたびれたコートには落としても消えない血の匂いがする。そして腰に刺した刀は、『和泉守兼定』である。

 

「にしてもーー俺のバカ弟子はまたホロウで暴れてんのか。この間、星見の嬢ちゃんに一太刀浴びせた件で良くも悪くも話題になったからな、防衛軍からも切り捨てられるんじゃないか?」

「いやいや〜あくまでHIAセンターのVRの話だからそこまで問題にはならなかったっすよ〜……ていうか、TOPSに戦争吹っかけたジジイがよく言うよ」

 

その男は、エリー都時代に起きた内戦で後の市長となる男が作り上げた私設軍隊に参加。この内戦を引き起こした反乱軍の総帥を斬り殺し、『虚狩り』に匹敵する功績をあげるも、授与を拒否。その後、市政やTOPSから独立した連邦共和国設立を目指して軍を起こす。

 

TOPSに喧嘩を売って指名手配されたテロリストの首魁。

 

「ーー俺は喧嘩が好きなんだよ」

 

この道場の師範、八神佩太郎

『ちるらん』読んだことある?

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