終末世界で華や散るらん   作:ランハナカマキリ

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Fairly

夕暮れの荒野、二台のバンがアスファルトの道路を切り裂くように走っていた。

先頭車両の荷室では、数名の戦闘員が無言で銃の手入れをしている。

 

その車の助手席には、帽子を目元まで深く被った老人ーー佩太郎がいた。

佩太郎が、低く口を開いた。

 

「それで?勝峰(ションフォン)から連絡は?」

 

荷室にいた戦闘員のリーダー格。フードを深く被り、金属製の機械の顎を鈍く光らせる狙撃手の男がスナイパーライフルにスコープとバレルを付けながら返事をする。

 

「………交渉は決裂したと報告が」

「まぁソレは予想できたことだな…で、勝峰の居場所は?」

「戻る途中で奴らの奇襲に遭って返り討ちに………現在カチコミかけてるそうですがーー」

「向こうのリーダーがシェルターに引きこもって膠着状態みたいですよ。このまま好きにさせてもいいんじゃないんですか?」

 

運転席には、黒髪のおさげの女。タバコをくゆらせながら、左手にはメリケンサックを嵌めている。深くスリットの入った装いの上から、チェーンをベールのように被った彼女が気だるげに話しかける。

 

佩太郎はため息をつきながら窓の外を眺める。

 

「向こうのリーダーは人身売買をしてやがったんだ。郊外でも何件か被害が報告されている。無視すれば俺たちに従うものたちも離れていく。何よりも連邦共和国設立に尽力してる総裁ちゃんの沽券に関わるしな……」

「戦友の忘れ形見のお節介したいだけでしょ?完全にお爺ちゃんですね」

「………惜しいな。俺はただ、久々に血が見たいんだけさ」

「ーーーこわ」

 

バンが停車し、戦闘員たちが降車する。

 

廃工場の入り口付近には首が斬り飛ばされた死体が二つ。

 

工場の中には棚に突っ込んだ死体が一つと、随分前に停止した工場設備の上に死体が三つ。

 

そして工場の奥、硬く閉じられた扉の前に積み上げられた死体の山。

その山の上に胡座をかいて座っているのは、シカのシリオンだった。

 

「〜♫〜♬」

 

左角が途中から切断され、左耳も銀色の擬耳になっている。

ダボっとした黒色のチャイニーズジャケットを見にまとい、右耳にイヤホンをつけた彼は、血が滴る日本刀と牛尾刀を腰に差して歌詞を口ずさんでいた。

 

「随分と派手にやったな?勝峰」

「アぁ?何だジジイか……クズどもはこの先だ。俺は久々に暴れられたからもう満足だぜ……だから美味しいトコロはアンタにやんよ」

 

勝峰と呼ばれた青年が顎で指した扉を蹴り破ると、震える男らが数名。

ひとり、妙に着飾った男が握っていた拳銃を投げ捨てる。

 

「こ、降参!!降参すーーー」

 

閃光。

佩太郎の刀が一閃し、男の首が宙を舞う。悲鳴すら上がらない。

残りの男たちにライフルを突きつけーー引き金を引く前に、おさげの女がメリケンサックをつけた拳で全員殴り殺してしまう。部屋を出ると、部下の一人が近づいてくる。

 

「旦那、裏手にトラックが来ました。おそらく連中の増援かと」

「じゃ、今までの雑魚どもは時間稼ぎ用の使い捨てだったわけカぁ?」

「数は?」

「50」

「武装は?」

「ぼちぼちです」

 

拳のメリケンサックから血を滴らせながら、おさげの女ーーサンソンが口を開く。

 

「どうしますか?八神の爺様」

「はっ、決まってんだろ…………」

 

床に転がる死体を見下ろし、佩太郎は低く叫んだ。

 

「皆殺しだ……!ネズミ一匹逃すな!!」

 

廃工場に、銃声と断末魔が響き渡った。

 

 

 

 

 

△△△

 

 

道場から数本離れた裏路地。

昼間でも陽が差し込まず、湿った空気だけが淀んでいる。

 

「おい次はあのオンボロ道場だよな?」

「へぇ、そうらしいですがね」

「あの土地まで手に入れれば……」

 

黒いスーツにサングラスの男たちが、ゴミ袋の脇に集まっていた。

 

「頼みますよ、兄貴。この案件を成功させりゃぁ俺ら上に気に入られまっせ!!」

 

若い男がへつらうように言うと、腕を組んだ大柄の男が鼻で笑った。

 

「へっ、任せとけ。"立ち退きの鬼"と呼ばれた俺様の名演技、見せてやるよ!」

「さすが兄貴!!」

 

男の声が路地に響く。

 

その瞬間だった。

背後から、わざとらしく控えめな咳払いがひとつ。

 

「……コホン」

「「「ん?」」」

 

男たちが一斉に振り返る。

そこに立っていたのは、ポニーテールの少女だった。

彼女の手は、ガードに黄金の鳥の翼を象った装飾があるロングソードの柄に添えられていた。

 

少女はにこりと男たちに微笑う。

 

「どうも、はじめまして……そして、おやすみ」

 

次の瞬間、路地裏に一条の光が走り、散血が散った。

 

 

 

 

 

ブンッ!!

 

「997、

 

ブンッ!!

 

998…」

 

あれから数日、邪兎屋救出の任務を終えた誠音は庭で素振りをしていた。

ホロウを脱出し、ビデオ屋に向かった一同は報酬について話し合ったのだが彼女の依頼は『社員の救助と盗品の回収』だったため、報酬は後払いとなった。

 

ただしそれはパエトーンへの依頼、誠音たちへの依頼とは別であった。

ビデオ屋にやってきた経費係のリードがジョンと共にニコから金を貰おうとした。

 

『ほんっっとありがとう!!!この借りは必ずーー『そっすね〜依頼料の合計金額は戦闘費、抗侵食剤費、遠征費、その他etcを合わせて…』ーーえ?ちょっ、ちょっと!!?』

 

目にも止まらぬ速さで電卓をポチポチするリードと逃げ道を塞ぐように出口を陣取るジョン。

 

『てなわけで、依頼料につきましてはーーー『ちょっと待って!!?今は無理!!!大丈夫大丈夫!!!もうすぐまとまったディニーが入ってくるから!!!?だからそんなものしまって!!!?』

 

と言った感じで報酬は後払いに決まり、ジョンが無言で突きつけていた槍の穂先から後ずさるニコに支払いの血判を押させ、リードとジョンはニヤニヤ笑っていた。

 

『悪い奴だな』

『守銭奴と言ってくださいっすよ〜あと、八神さん来てたっすよ』

『ーーマジ?』

 

 

ブンッ!!

 

「999、

 

ブンッ!!

 

1000っっと!!」

 

汗を滝のように流しながら、誠音は握った木刀を再び振るう。

するとパチパチと拍手する音が聞こえる。

見ると、拍手しながら近づいてくる人物がいた。

 

「はい、次は私の番よ」

「おぅ、セレッソ…血、ついてんぞ?」

 

セレッソはこの道場において誠音の次に古株であり、壬生狼零番隊副長でもある。

なぜ喧嘩したことに気づいたのか、理由は彼女の顔には返り血がついていたからだ。

 

「安心しなさい。殺してないわよ…()()()()?」

「その渾名やめろ。たっく…久々に手合わせするか?」

 

セレッソはこの陣営の中で唯一の西洋剣使い。

木剣を投げ渡し、それを受け取ったセレッソはニヒルに笑った。

 

 

 

この世界について説明しよう。

 

はっきり言ってしまえば終末の世界だ。

 

この世界の文明は"ホロウ"と呼ばれる、すべてを飲み込む異常な空間によって崩壊した。

 

ホロウ内では、"エーテル"という物質に適応していない体質の人間はそれに侵蝕されると、"エーテリアス"と呼ばれる異形の怪物に変化する。最後の文明都市といわれる新エリー都は、ホロウによる災害に対抗し技術を発展させ、ホロウ内で採れるエーテルを資源にして繁栄している。

 

そのホロウに入ってエーテリアスと戦い、中にある資源や旧時代の遺物を探すものたちをホロウレイダーと呼ぶのだ。彼の友人であるアキラと妹のリンはホロウレイダーの案内人であるプロキシ。そして、誠音の一派はホロウレイダー…民間武装組織『壬生狼零番隊』である。

 

彼が住んでいる道場『壬生道場』から名をとった剣客集団であり、この道場は新エリー都のヤヌス区にある六分街にある。

 

零番隊組長は誠音。

そして彼のこの道場での肩書きは師範代。

 

この道場の正式な師範は佩太郎となっているが、数年前に置き書き残して出ていき、テロ行為に明け暮れているため、誠音が師範代としてこの道場の管理を行っている。

 

主な仕事といえばホロウレイダーの護衛や、ストリートの治安維持、治安局が人手が足りない時に非公式に協力するなど、かなりアンダーグラウンドな組織である。この剣術道場は一見ボロボロだがこういう仕事をしているため報酬で水道代や電気代をやりくりしている。だが一年ほど前に防衛軍の目に留まり、外部協力者で構成される部隊のメンバーとなった。

 

なお、基本的にオボルス小隊と共に行動することが多いため、小隊の隊長である知能構造体とはかなりの頻度で言い争いになる。まぁ、嫌味言われたからって誠音が『ババァ』と呼んだことが原因ではあるのだが…

 

そんな道場の庭は、今や戦場と化していた。

 

カンッ!

 

目の前に立っていたセレッソが消え、誠音の真横から木剣が迫る。

 

ビュン!!

 

それを躱し、木剣を持つ手に木刀を振り下ろす。

 

再びセレッソの姿が消えーー上空から斬り下ろされた一撃を防ぐ。

 

カァンッ!!

 

「は!!」

「っーーやるな」

 

誠音が木刀を握る力を上げ、木剣を弾く。

この瞬間、彼女の胴体が無防備になる。

 

「くっ!?」

「隙あり」

 

龍尾剣

 

再び下に構えた木刀で、重力に引っ張られるセレッソに向かって斬り上げる。

脇腹にめり込む木刀に彼女は苦い顔をして飛び退く。

 

「っーー痛いわね…」

「上空からの一撃は前と変わらないな…本気でやろうぜ?」

「…えぇーーー覚悟して」

 

次の瞬間、両者の姿が消えてーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

カァァァンッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

数分後、道場内にて。

額から血を流すセレッソが、リードに手痛い治療を受けていた。

リードは学生だが、治療の腕は一級品であり、下手な医者よりも高い医療知識を持っている。その代わり治療の代金は高い。

 

包帯一巻きにつき5000ディニー。

ホロウ内の治療なら1000000ディニーを超える。

 

「はい、処置は終わりましたっすよ〜。にしてもセレッソさんも懲りないっすね〜」

「五月蝿いわね……」

「にしても、市川さんの鼻折るってセレッソさんもやるっすねぇ〜」

 

その言葉通り、台所で料理している誠音の鼻根には絆創膏が貼られており、見てて痛々しい。

 

「そういや、ホロウレイダーの数減ったな」

「市政選挙近いですからね。不逞な連中を取り締まるために治安局も必死なんでしょうね……皆さん、気をつけてくださいよ?」

 

台所に顔を出したのはジョン・ドゥー。

彼は上階の部屋に集まって神経衰弱をしていたハヤテたちに同意を求めるように声をかけた。

それに対してハヤテはムッと眉間に皺を寄せる。

 

「俺らフテイじゃねぇだろ、多分」

「ハヤテく〜ん、君が治安官学校を退学処分になった理由は?」

 

正面に座っているツイッギーが質問する。

 

「………ムカつく教官を半殺しにしたからです」

「じゃあ不逞の連中ってアンタじゃない」

「あぁ!?闇市で自分のクローン作って内蔵売ろうとしてたお前じゃね〜の?」

「はぁ?アレは未遂で終わったから。本格的に事業に手を出そうとしたらイカレジジイ(師範)にカチコミされて一文無しにされてこの道場に預けられただけだから〜」

 

「言葉にすると中々に重いわね」

「ていうかオヤジも『厄ネタ拾ったから面倒みてくれ』って置いてったのが逆に軽くてムカつくな」

 

「ていうか、不逞の輩って言ったら他にも居んだろ!!!なぁ蒼烈、そしてリード!!」

 

ハヤテは部屋の隅っこにいた巨体ーー蒼烈と、下の階でセレッソの治療を終えて後片付けをするリードに話を振る。

 

「むむ、拙者は不逞ではない」

(元反乱軍知能構造体部隊に所属していた知能構造体)

「そ〜そ〜巻き込まないでくださいっすよ」

(ホロウレイダーへの治療で小遣い稼ぎしてた闇医者)

「嘘つくんじゃねぇよ!!!どっからどう見てもお前ら疑われるだろ!!!」

 

考えてみれば、治安官学校を退学になったことよりも反乱軍の残党や闇医者の方が現在進行形でルールや法律などを破っている。

 

「みんな不良よね」

「だよな」

「アンタらが一番ヤベェんだろうが!!!」

 

ハヤテに同意するセレッソと誠音だが、ハヤテが一番"不逞"と思っていたのはどうやら二人のことらしい。

 

「あら?」

(裏社会の殺し屋まがいの仕事をしていた人)

「お?」

(10歳の頃からホロウへ不法に侵入、テロリストの弟子)

 

「つーか、先輩は色々とヤバい身の上だろ?本当に気をつけろって!」

「…細いことをいちいち気にしてたら禿げ出すぞ?」

「禿げてね〜よ!!」

「そういえば、マコさんの身の上って私知らないんだけど?」

「僕もっすね〜?」

「あ、私も」

「拙者も知らないでござる」

「…てことは何故ハヤテ君だけに話したんですか?隠し事なんてできなさそうなのに「おいゴラ」何か理由でもあるのですか?」

「それはーーー「誠音さぁぁぁんっっっ!!!!」

 

扉を蹴破るように現れたのは、先程の話に出たリンだ。

慌てて来たのか、息が荒れて肩で息をしている。

 

「今日も今日とて騒がしいやつだな。アキラに課金がバレたか?イアスが家出でも?またアキラ(女誑し雰囲気未亡人な朴念仁男)が痴情のもつれを?」

「いや課金はまだバレてないし、イアスは家出なんてしない子だしーーーお兄ちゃんに変なあだ名付けるのやめて?それよりも、お兄ちゃんがぶっ倒れてH.D.Dに変なのが現れたの!!!」

「ごめん、何て?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六分街のビデオ屋『Random Play』

店のカウンター隣にある重い扉を開けた先には、ソファに仰向けで倒れたアキラと異様に点滅したパソコンやモニターが並んでいた。

「なるほど、謎のハッカーにH.D.Dシステムを乗っ取られたからホロウの脱出ルートが計算できなくなって、仕方なく邪兎屋が回収した金庫に入ってたデータチップに脱出の望みを賭けてイアスにチップを挿入、そしたらイアスが光り輝いておかしくなって、ついでにアキラも昏倒。ホロウから脱出はできたが、代わりにH.D.Dシステムに変な目玉が現れた……てことでいいんだな?」

「そうなの……ねぇ、いるんでしょ!『Fairly』!!!」

 

モニターに青い目が映し出される。

 

『はい、います。隣の方は初めましてですね。私はⅢ型総順式集成汎用人工知能。Fairyとお呼びください』

「…壬生狼零番隊組長、市川誠音だ。質問、アキラは大丈夫なんだな?」

『肯定。現状は昏睡状態ですが、じきに目を覚まします』

「……質問、お前は敵か?」

『否定。私はマスターがサインした利用規約に則り、あらゆる面でマスターをサポートし、マスターの作業を完了出来るよう協力いたします。『その時』が来るまで…』

 

誠音は眉間に皺を寄せる。

怪しい。怪しすぎる。

アキラがどういう契約をしたのか、そもそも昏睡状態になるほどに脳への負荷がかかった状態で結ばせた契約なんぞ、素面の状態でなら契約しないかもしれない。つーか、やってるノリが詐欺に近いし、押掛け女房のようだとも誠音は考えた。

 

誠音は鯉口に手をかけて、いつでも液晶に斬り掛かれる構えをとる。

 

「胡散くせぇな……H.D.Dごと捨てたらどうなる?」

「ちょちょちょ!!?そんなことしたらプロキシ業を再開できなくなるし、ビデオ屋も畳むことに!!?」

『………』

 

 

 

 

 

数十秒、いや数秒無言が続きーー誠音は構えを解いた。

 

「………いや、俺が決めたら形が良くねぇな。ここはアキラが目を覚ましたら、本人に決めさせよう」

『賢明な判断です』

「よかった〜……とりあえず借金地獄にはならなさそうで………」

 

その後、このビデオ屋に多額の電気代という地獄が来ることを彼女はまだ知らない。

 





Fairyの口調これでいいのかな?
あとこの間のストーリーでFairyの声がなかったのって自分だけですかね?

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