終末世界で華や散るらん   作:ランハナカマキリ

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列車奪取計画

ビデオ屋のドアが開き、猫又は急いで入ってくる。

 

「ただいーー」

 

彼女の言葉が止まったのは、首元に刀の切先が向けられたからだ。

抜刀した誠音が、さっきを帯びた目で見つめていた。

 

「にゃにゃ…!?」

「質問に答えてもらおうか、猫又。お前と邪兎屋は一体何に巻き込まれた?茶化したらーーこの『機龍・赫』を心臓まで斬り下げることになるぞ?」

「あれは爆薬の輸送列車だと報道されてたよね?なのに、どうして治安局に偽装した奴らが乗ってるの?」

「猫又、僕たちのことを嵌めようとしてないか?」

「あたし…そ、その…」

 

猫又は全てを話した。

 

「これが真相…ニコたちはひとまず工事エリアで委任状を集めて、ヴィジョンの動向を探るって言ってた。そしてあたしの任務は、「パエトーン」に助けを求めることだった。ニコたちと別れたあと、あたしは一人でデッドエンドホロウを抜けて、あんたたちの店に来たんだ。嘘はついてない!ニコも、爆破エリアの住民たちも、絶体絶命の状況に置かれてるんだ!」

「意外だな……てっきり金の返済に困った邪兎屋が、俺らごと始末しようとしてんのかと」

「ニコってアンタらにどう思われてるんだ…?」

 

誠音が唸りながら、答えを捻り出す

 

「俺の師匠の、ジジイの刀を質に売ろうとした子悪人…?」

「うわぁ…」

「それでリードは、お前を列車から逃がして行き方知れず……」

「うん、彼の強さは僕も信頼してるけど…心配だね」

 

「心配する必要はねぇよ…アイツは"約束"を反故にしたまま散らねぇよ……」

 

◆

 

 

数時間前、猫又が去った後の列車内部にて。

 

「血を見せな!!!トカゲぇぇぇ!!!」

 

両手に握った大鉈を、叩きつけるように振り下ろす。

その攻撃を躱し、リードは一気に懐へ潜り込む。

 

壬生道場にはこんな教えがある。

 

『示現流ーー最上段の刀の、初撃は避けろ』

 

それは幕末の京で、最も隊士たちの命を奪った太刀。

薩摩藩秘伝、二の太刀要らずの示現流だ。

 

目の前の男が示現流の名人とは、リードは思っていなかった。

どちらかと言えば、新エリー都という闇渦巻く街で生き抜くために独自に編み出したものであると。

 

必殺の初太刀を避け、二の太刀で斬る。

 

それこそが、この戦闘における唯一無二の勝利条件に見えたーー

 

 

 

 

 

 

ーーはず、だった。

 

「初太刀は躱す、って思ったぜぇ?」

『ーーっ!』

 

この大鉈の、総重量は通常のそれの十倍はある。

振り下ろされた大鉈は下方へと加速し、慣性の法則により剣の急停止はほぼ不可能。

 

だが、この男のーー全身に剣圧が満ちた肉体が、大鉈を急停止させ、上に斬りあげる。

 

曰く、『蜻蛉斬り・宙廻』

 

 

ゾンッッ!!!

 

 

大鉈がリードの胴体に触れーー胴体が二刀両断される前に、天井へ張り付いた。

 

『アンタ……流派は何流っすか?』

「お?我流だぜぇ…?人をぶち殺すのに、一番これが手っ取り早ぇだろぉ?」

『我流で、示現流のような太刀をーー化け物でゲスね』

「それにしても、何で一人で戦ってんだぁ?さっき居た猫のシリオンはどうした?」

『二人で倒したら儲けが減るでゲス。あっしは大儲けしたいんでゲスよ』

 

血が流れるが、思ったほどではない。

彼の服の隙間からは、鎖帷子が見えていた。

 

(鎖帷子…今の一撃でぶった斬られてやすね……鎖帷子(コレ)があるから死地に飛び込めたんですが、次の一太刀は生身でゲスね…)

 

「にしても…避けられたのは初めてだ。しかもその後すぐに、懐に入ってきたのも初めてだぜぇ?やるなぁトカゲぇ?」

『本当は、入った瞬間に逆袈裟かまして終わりだったゲスけど……』

 

男が再び、両腕を上へ伸ばし、大鉈を背中に隠すように構える。

リードもダーダオを逆手に構え、すぐにでも走り出せるように前傾姿勢をとる。

 

列車が大きく揺れ、両者は駆け出す。

 

男は疾く鉈を振り下ろし、リードは二剣で左右に斬り開きーーー

 

 

 

ズババババッ!!!

ザンッッ!!!

 

 

 

男の両腕、胴体、首筋から血飛沫が舞い、リードの肩に大鉈がめり込んでいた。

天井から、リードが床に落ちる。

 

「はっ……俺の勝ちだぁ!!」

『ーーーがっ!?!』

(……こりゃ、逃げが勝ちでゲスね)

 

リードは懐から小さな玉を取り出し、地面に叩きつける。

 

 

ボホォン!!!

 

 

その瞬間、凄まじい煙が列車内に溢れ、遅れて窓が割れる音がする。

 

「ーーっ。煙幕かぁ?ヒキョー者め……なら鬼ごっこと行くかぁ!?」

 

男が追いかけようとした瞬間、電話が鳴った。

 

「ちっ、なんだぁ?」

『私よ。地下鉄改修プロジェクトの爆破解体は、明日までに延期する。列車がルートを外れた影響ね…中で何が?"闇討ち十兵衛"?』

 

女は彼の通り名、知られている名前を呼ぶ。

 

「邪魔が入った。スカーフ巻いたボンプと、猫のシリオン、そしてダンダラ羽織を着たトカゲの小僧だ」

『………ダンダラ、壬生狼零番隊ね。厄介な連中が現れたわね…』

「ミブロ…数年前から、ホロウの内外で暴れまくる剣客集団か?」

『そうね……星見雅のような圧倒的な強さは持ってないけど、一番の強みは死を全く恐れてないってとこよ。特に組長の市川誠音…剣の冴えも剣才も、一目置くところだけれど……私の見るところ、彼は天性の喧嘩屋ーーーいや、天性の人斬りね』

「……やけにベタ褒めすんなぁ?もしかしてファンかぁ?」

 

電話の向こうから、クスクスと笑い声が聞こえる。

 

『いいえ?私じゃなく、司教がファンなのよ…』

「へっ…それよりどうする?こっちの人員は減っちまったぜ?俺としちゃ、あのトカゲを追いかけてぇんだが…」

『任務に集中しなさい。もし追いかけるのなら、住民を始末した後にして』

「ちっ、めんどくせぇ…」

 

十兵衛は舌打ちしながら傷口から流れる血を拭い取り、残った大鉈を担いで列車を降りた。

だが、住民たちのいるカンバス通りを目指すのではなく、リードの血の跡が続くホロウ深部へと足を進めた。

 

▷

 

カンバス通り。

ヴィジョンによって外と隔絶され、数多くの住民を残したまま爆破されようとしている死地にて。

 

アンビーは住民の委任状を集めていた。

 

ニコは厄介ごとに巻き込まれたことを逆にチャンスと見て、ヴィジョン・コーポレーションから金を巻き上げるために、住民たちの訴訟代理人になるための委任状をかき集めていたのだ。

まぁ、商才豊かと褒めるべきか、単に金にがめついと言うべきか…

 

「それにしても遅いわね…」

『そんなに心配してくれたのかい?』

「この声は…プロキシ!」

 

アキラと猫又から、これまでの経緯と現在の状況を聞き、彼らはすぐさま脱出プランを立てる。

 

「いい?私たちは列車の奪取、アンタら壬生狼は安全なルートの確保と例の敵を対処して!」

「だとしても、ここに来る偽治安官たちはどうする?住民たちを守りながら戦うのはキツイーーー」

 

ドゴォォォン!!!!

 

すると、モールの壁を突き破りーー偽治安官が数名気絶した状態で転がってくる。

 

『セレッソ副長、周囲に多数の生命反応あり』

「あら、何で人が?」

 

そこには蒼烈とセレッソがいた。

どうやら偽治安官たちから逃げている間に、このカンバス通りまで来ていたようだ。

 

「お、セレッソ」

「マコさん…一体どう言う状況なの?」

 

かくかくしかじか…

 

「なるほど、つまり住民を避難させるために列車がいると」

「本陣にいる偽治安官の数はお前らが倒した30人含めて…大体50人以上か」

「それでリードは、お前らも見ていないのか…」

『うむ…』

「…とっくにやられてるかもな」

 

そう、ホロウの中で音信不通ということはもはや死亡と同意義。

彼の生存確率は絶望的だった。

 

「いや、アイツは生きてる。俺の知るアイツなら、どんな手を使っても生き延びる」

 

一人、誠音だけがリードの生存を信じていた。

 

 

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