「……チッ!地味にウゼェな!」
「ひぃっ!?」
宇髄 天元はキレていた。
人が通ることが少ないのか、派手に伸びた雑草が生い茂る山林。
気配が無く、痕跡すら残さない鬼。
そして、
――くっついて離れない継子。
これら三つの要素が天元のストレスを溜め続けた結果、キレた。
「あーウゼェ!離れろぉっ!」
「え?………うわっ!」
天元は槭の首根っこを掴み、そこら辺に放り投げる。
槭の小柄な体は綺麗な放物線を描き、背の高い雑草の中に消えた。
雑草の中から涙ぐんだ声が聞こえた。
「い、いきなりな、何をするんですか!?」
「うるせぇ!テメェが派手に隊服を掴んでくるから歩きづらいんだよ!」
「……ひ、ひどいですよっ!わ、私が怖がりなぐらいわかってるじゃないですか!」
ついに草むらの中から聞こえる声は泣き始めた。
「お前も隊士だろ!暗闇でビビっている暇があるなら鬼を探せ!」
「………わ、わかりましたぁ……」
二人は別れて鬼を探すことにした。
天元は森の奥を、槭は今いる場所の周辺を。
会話がなくなると静かな暗闇がさらに槭の精神を削っていく。
「……怖くない怖くない、落ち着いてぇ………ぴやっ!」
周りを警戒し過ぎて足元を全く見ていなかった槭は石に躓き、顔面から雑草に突っ込む。
「………うぅっ……えっ?これって……」
顔を上げた槭の目に映ったのは一本の日輪刀だった。
持ち主は水の呼吸の使い手だったのだろうか、刃は薄い水色だった。
「だ、誰のかなぁ……?ここで戦ったのかなぁ……」
日輪刀は鞘に入ってなかった。
つまり、少なくとも持ち主の隊士は何かと戦おうとしていた、と言うことになる。
恐怖で槭の心臓の鼓動が早くなる。
その時、不意に後ろから声をかけられた。
「……おやおや、お嬢さん。こんな暗い時間に何しているのかな?」
「……ひぃっ!……な、なに……?」
「あらら、驚かせてしまったねぇ。怪我はしてないかい?」
後ろに立っていたのは年老いた老婆だった。
老婆は、驚いてその場にしゃがみ込んでしまった槭に優しく話しかける。
「こんな森に一人でいて怖かっただろうねぇ。もう安心だよ。おばちゃんの家に来るかい?」
「は、はいっ!行きます!」
「そうかい。じゃあ、しっかり付いておいで」
背の高い雑草をかき分けて進む老婆の後ろを槭はピッタリとついて行く。
――日輪刀をその場に置いて。
老婆の顔が不気味な笑顔に染まった。
「……どんだけ地味な鬼なんだよ。痕跡が一つも残っていなじゃねぇか」
槭と二手に別れてから十数分後、天元はクナイで派手に伸びた雑草を切りながら進んでいた。
いまだに鬼の痕跡と見られるようなものは一つも見つかっていない。
「もう二度も隊士が来ているから縄張りをもう変えたのか……?」
後で追加の隊士でも送ってもらおう、と考えながら天元は槭と合流するために来た道を戻る。
幸い、雑草を切りながら進んできたので、戻りは楽に進めた。
「……ったく、槭のやつ、地味すぎてどこにいるかわからねぇんだよ。
おーい!槭!怖がってないで出てこーい!」
槭が恐怖でうずくまっていると思った天元が大声で呼ぶ。
すぐに泣きながら来ると思っていたが、2、3分過ぎても何も聞こえなかった。
「……あいつにしては派手にいなくなったな」
派手に消えた(?)槭を探しに周りを調べていることにした。
少しすると槭が通ったであろう跡を見つけるとそれに沿って歩く。
臆病な槭にしてはかなりの範囲を探したらしく、いくつかの分かれ道も見つけた。
「槭、どこだー。地味に隠れてないで出てこーい」
そう言いながら探すが、全く見つからない。
普通、このくらいの大声なら聞こえるはずなのだが、返事すらない。
「……鬼の血鬼術か?」
天元は頭の中で様々な説を考える。
殉職した、という最悪の説も出てきたが、過去の槭の任務から見て一蹴された。
槭は今までに何度か先遣の隊士が消息不明になった任務を受けたことがあるが、どれも特に大きな怪我もなく帰ってきているからだ。
それに毎回、怪我よりも砂や泥などの汚れの方が多い。
考えられる仮説を作っては消してを繰り返していると、槭が進んだと見られる道が途切れた。
他にはないか、と周りを見渡すがこれだけしかない。
そして天元はふと、足元に落ちている物を見つけた。
「これって……あいつの日輪刀じゃねーか」
鍔に彫られている槭樹の葉を見て天元はすぐに持ち主を特定した。
「………派手に日輪刀を落とすか?あいつ何して……「ドォン!」……は?」
闇に包まれた森の奥から爆発音が響く。
一般人には普通の爆発音にしか聞こえないが、天元にはいつも使用する火薬と同じ音が聞こえた。
任務前に天元が万が一のために槭にいくつか渡していたのを彼女が使ったのかもしれない。
つまり、槭は戦闘中ということである。
――日輪刀は置いているが。
「クソッ!槭のやつなんで日輪刀を置いて戦ってるんだよ!」
天元は全速力で爆発音のした方向に走った。
「……あったか〜い」
居間の中央にある囲炉裏に手をかざしながら槭は眠たそうに呟く。
森で偶然遭遇した老婆に連れられ、彼女は村の近くにある家にお邪魔している。
「お嬢さんは森で何をしていたのかな?」
「……あ、えっと………鬼を探していました……」
「……鬼?」
老婆は槭の返答に目を丸くする。
「昔話じゃないのかい?鬼なんて聞いたことないよ」
「すぐ近くにある村で人が失踪していると聞きまして……」
「……なんだ、そのことかい」
老婆は手を、ぽんっと叩くと納得したように話し出した。
「確かに昔から村人がたまに失踪するんだよ。
警察にも伝えたんだけどね、詳しく捜索をしてくれなかったんだよ」
「なるほど……」
槭が詳しく聞くと、老婆は微笑みながら答えてくれた。
最初の村人の失踪は去年の秋ごろ。
森の中に入ってしまった子どもを探そうと親が森に向かったがその後、子どもだけが戻ってきたらしい。
夜になっても戻ってこないので、村の者が総出で夜明けまで捜索したが見つからず、警察も捜索隊を作ってくれたが見つかったのは草履の片方だけ。
そして二人目が失踪してから数日後、刀を持ち背中に『滅』と書かれた詰め襟を着た青年が村にやって来た。
その青年は失踪事件について調べているらしいが翌日、森に向かうのを最後に行方不明になる。
また数日後に同じ格好をした若い男が来るが、その男も後日いなくなった。
で、一昨日に村の医者が失踪した。
以上がこの村で起きている失踪事件の詳細だ。
槭は震えながらも、なんとか事件の詳細を覚えようとしていた。
話し終えた老婆は肩が凝っているのか、肩を軽く揉む。
槭の体が跳ねた。
「……そんなに怖がらなくてもいいのよ。おばちゃんがいるから、安心しなさい」
震える槭の肩に優しく手を置きながら老婆は柔らかい声で言う。
効果があったのかはわからないが、震えが少し落ち着いた。
そして、槭がようやく口を開く。
「…………おばあさん。一つ、聞いてもいいですか?」
「どうかしたのかい?」
槭は覚悟を決めたように質問を聞いた。
「………あなた、……鬼ですね?」
その瞬間、今までのゆっくりとして動きが嘘のように老婆が高速で槭に向けて爪を振るう。
「―― っ!ご、ごめんなさいっ!」
爪の攻撃を間一髪で避けると、槭は謝りながら思いっきり老婆を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた鬼は障子を突き破り、隣の部屋に突っ込んだ。
鬼との距離を確認し、すぐさま台所に向かおうとした槭だが一瞬、ピタリと足を止めた。
畳の上を歩いているはずだが、ここに見えない何かが落ちている気がする。
「――この餓鬼がぁ!なぜ気づきやがったぁ!」
立ち上がった老婆の鬼がものすごい形相で睨みつけてくる。
「あ、あなたが肩を揉んだ時に首についた傷が見えたんですよ!
普通、あんなところに大きな傷なんてできません!」
「なら死ねぇ!………あ?なんで……」
老婆の鬼が膝から崩れ落ちた。
咄嗟に足を見ると、数本のクナイが刺さっていた。
「……あ、危なかったぁ……」
老婆の鬼の前に両手でクナイを握り締めている槭がいた。
この鬼は知らないが、このクナイには藤の花の毒が塗られている。
元々は天元が生み出した物だが、潜入任務を行う嫁や、よく戦闘中に刀を落とす槭にもしもの時のために渡していた。
これ以外にもいろいろな道具があり、槭は他に煙玉や(勝手に持って来た)手裏剣などを装備している。
「えっと火薬玉、火薬玉……「死ねぇ!」……わっ!……あ」
槭が火薬玉を取り出した時に顔に目掛けて爪が飛んでくる。
間一髪で避けたが、火薬玉を変な方向に投げてしまった。
その方向にあるのは、火のついた囲炉裏。
爆風が槭と鬼を襲った。
「………うっ……いてて……あれ?」
「おっ!起きたか、地味な槭」
「………し、師匠……?」
爆風で飛ばされて気絶した槭が目を覚ますと、特徴的な額当てをつけた大柄な男が視界に入った。
天元は槭が起き上がると、手に持っていた長い棒のような物を渡す。
「これって……」
「なに任務中に派手に日輪刀を落とすんだよ。
……で、鬼は?そこに倒れているババアか?」
「儂の術を解きやがって……今すぐ殺してやるぅ!」
この鬼は回復が遅いのか、足がまだ完治しておらず、地面に這いつくばった状態で槭に手を伸ばしていた。
「……あ、あれです」
「なら派手に首を飛ばして帰るか」
天元は大包丁のような日輪刀を背中から取り、鬼に近づく。
あと数歩で刃が届く位置まで来た時、老婆の口角がニヤリと上がった。
そして突如、白い煙が辺りを覆う。
「かかったな!馬鹿な鬼狩りめ!」
「うおっ!…槭!お前、煙玉落としたな!?」
「……ほ、本当だ!落としました!」
「気づくのが遅えぇ!」
煙が視界を奪い、鬼はその場から逃走する。
しかし、二人が使う呼吸はこの状況にピッタリであった。
「……音の呼吸 肆ノ型・響斬無間!」
天元の二本の刃と仕込まれた火薬が爆発し、辺りの煙を全て吹き飛ばした。
「……すごい威力」
「お前は地味に力が足りないんだよ。常中も中途半端だろうが」
天元は鬼が逃げた方向を見る。
そして槭の背中を押す。
「ほら、あとは任せた」
「え?えぇ……無理です……」
「行 け」
「………はい」
にっこりと笑いながら天元に背中を押された槭は渋々、鬼が逃げた方向に走って行った。
「……はっ、はっ……はぁ、はぁ。ま、撒けたな」
回復した両足を見ながら老婆の鬼は呟く。
鬼になって数年、適性がないのか、普通の鬼よりも回復がかなり遅い。
なので戦闘にはとても不利だ。
だから血鬼術で幻覚を生み出し、油断しているところを殺してきた。
鬼狩りも二回来たが、特に問題もなく殺せた。
今回の鬼狩りも余裕だと思っていたが、それは全く違った。
刀を置いてこさせても、武器を隠し持っている。
それに今までに比べて強く、仲間も呼ばれた。
「で、でもここまで来れば……!」
「み、見つけましたよ……」
後ろから声をかけられて驚き、急いで振り返るとそこに槭がいた。
「しつこい餓鬼めぇ……!」
「……し、しつこいですか?わ、私に言われましても……」
槭はちょっとショックを受けたような表情になる。
それを好機と捉えた老婆の鬼は高速で飛び掛かろうとした。
「儂を追って来たことを後悔しろ!」
「………ふぅ…… 音の呼吸 壱ノ型・轟!」
槭が刃を鬼に目掛けて振り下ろす。
それに合わせて刃に仕込まれていた火薬が爆発し、鬼の両腕を吹き飛ばした。
「うぎゃぁぁぁ!う、腕がぁぁぁ!クソォッ!」
「あ……ちょ、ちょっと!逃げないでください!」
また逃亡した鬼に向けて槭はクナイを数本投げる。
慌てて投げたため、半分以上が当たらなかったが、奇跡的に一本が背中に刺さった。
「あぁ………ま、またこのクナイか!卑怯だぞ!餓鬼がっ………あ、あれ?」
首が地面に落ちた。
視界がいきなり変になった鬼は戸惑いを隠せない。
けれども、自分の体が崩れている様子を見て自分がやられたと気づいた。
「な、なんで全て、全て順調だったのに……この餓鬼のせいで………」
鬼の意識が闇に塗りつぶされた。
頭が完全に消えるのを見届けた槭は、自分の両手を眺めていた。
「………どうしても爆発の反動を抑えられないんだよなぁ……」
「地味に訓練しているからじゃねぇか?」
「……ひゃっ!……し、師匠!?」
「さぁ、楽しい修行のお時間だ。ド派手に行くぞぉ!」
天元は槭が逃げないように脇に抱えて歩き出す。
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ………」
抵抗虚しく槭は宇髄邸に連れて行かれた。
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
週一投稿目指して頑張ります。