派手な柱の地味な継子   作:理由もなく歩く人

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不定期更新にしようと思います。





地味な継子の派手な稽古

「はい、服を戻していいですよ」

 

鈴を転がすような声が薬品の匂いがする部屋に響く。

槭はこの後にある天元の稽古をどう回避するか考えていたので、その声を聞き流した。

 

「…ほら槭さん!ぼーっとしてないで、女の子がそんな格好のままいたらダメですよ」

 

「……ん?…あ、……は、はいっ!」

 

診察を担当していた蝶の髪飾りをしていた女性に呼び戻され、我に帰った槭は急いで釦を留め始める。

留める位置を間違えたりしながらも、ようやく終わらせることができた。

 

「えーっと、今回も骨折などの大きい怪我はありません。ですが……」

 

そこで言葉を区切ると、蝶の髪飾りをつけた女性は少し声のトーンを下げて言った。

 

「おそらく、槭さんに音の呼吸は適性じゃないと思います」

 

「………や、やっぱりそうですよね……」

 

自覚があるのか、槭は少し苦笑いをする。

少し驚きながらも女性は机の上にある紙を取り、内容を読んだ。

 

「ご存知だと思いますが、音の呼吸は宇髄さんが雷の呼吸から独自に編み出した呼吸です。

 なので、宇髄さんのような体格の良い男性じゃないと使いこなすのは厳しいと思います」

 

「でも、これ以外に自分に合う呼吸が見つからないんです……」

 

「……でしたら、自分で呼吸を作ってみるのはどうですか?」

 

槭はこてん、と首を傾げる。

 

「自分で新しい呼吸を作る、と言うのはかなり普通のことですよ。

 実際、私も蟲の呼吸は自分で作りましたから」

 

蟲の呼吸を作り出した女性――胡蝶 しのぶは部屋の隅に立てかけてある自分の日輪刀を見つめる。

しのぶはかつての苦労などを思い出すと懐かしそうに目を細めた。

その間、槭は何をしたら良いのかわからず、わたわたしていた。

 

「……とりあえず、少し考えてみてください。

 自分に合わない呼吸を使い続けて腕を怪我することもありますし」

 

「わ、わかりました。考えてみます……」

 

診察は終わりです、としのぶは机に向き直る。

そして違和感を感じ、患者用の椅子の方を向いた。

なぜなら、まだそこに槭が座っていたから。

 

「………?槭さん?診察は終わったので戻って大丈夫ですよ?」

 

「…あ、いえっ、そのっ………戻りたくないんです……」

 

槭の顔が青ざめ、体が震え始める。

何かに対する怯えを感じ取ったしのぶは、落ち着かせるように優しく話す。

 

「何かありましたか?誰にも言いませんので安心して話してください」

 

その言葉に槭は決心すると恐る恐る口を開く。

部屋の空気が張り詰めた。

 

「…………し、師匠の稽古がやりたくないんです……」

 

「………はい……?宇髄さんの稽古ですか……?」

 

しのぶが呆けた声を出す。

槭は頷くと、目に涙を浮かべながら話す。

 

「あ、あの人の稽古は、ほ、本当に地獄なんですよ!?

 休憩は少ないですし、本気で木刀を振ってきて本当に痛いんですよ!

 そ、それに「お前は地味だから」とか言って稽古時間を延ばしますし、あとは………」

 

「……お前にしては派手に話すじゃねぇか。俺に対する愚痴だがな……… 槭…?

 

「ひゃっ!?……し、師匠!?」

 

いつの間にか後ろに立っていた天元に今までにないほど驚いた槭は、椅子から飛ぶように立ち上がり、しのぶに抱きつく。

飛びついてきた槭の頭をかわいい、と撫でながらしのぶは天元に話しかけた。

 

「宇髄さん、急にどうしましたか?」

 

「よぉ、胡蝶。うちの槭の戻りが地味に遅いから見にきたんだ」

 

天元は額に青筋を立ててにこやかな表情で槭の顔を覗き込む。

対して槭は恐怖で泣きながらしのぶの後ろに隠れた。

 

「派手に話を聞く限りよっぽど俺の稽古内容が嫌いなようだなぁ?槭……?」

 

「……だ、だって、地獄なのは本当じゃないですか!この前は………こ、胡蝶様!?」

 

「診察は先程終わりました。特に大きな怪我はありませんよ」

 

しのぶは後ろで羽織を掴みながらガタガタ震えている槭を天元の前に引っ張り出す。

 

「そうかそうか。うちの槭が派手に世話かけたな、胡蝶。

 ……おらっ!帰って稽古するぞ!派手に鍛えてやるっ!」

 

「うわっ!……やだっ!行きたくない!助けて胡蝶様ぁぁぁぁぁ……」

 

天元は礼を言うと、脇に槭を抱えて診察室を出ていく。

力で圧倒的に劣る槭は抵抗虚しく連れて行かれた。

 

「槭さんを私の継子にしたいな……」

 

しのぶはそんなことを呟きながら、机に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に立派な造りの屋敷が映る。

先程居た蝶屋敷ほどの大きさではないが、ここもそれなりの大きさがあった。

 

その屋敷の前を の着物を着た若い女性が箒で掃き掃除をしていた。

 

「雛鶴さん!」

 

その女性の姿を確認した瞬間に槭の顔がパァッと輝いた。

名前を呼ばれた雛鶴は笑顔で振り向くと過去にも何度か同じ状況を見てきたのか、諦めたかのような笑顔に変えた。

 

「あらっ?槭、おかえりなさい……天元様?

 もう槭を脇に抱えているのはやめたらどうですか?

 他の人から見たら少女を誘拐した人攫いですよ」

 

「ん?ああ、それなら問題は無い。

 いつも派手な俺にしては地味すぎるが、一般人に見られないように全力で駆けてきたんだからな。派手に全力でな」

 

「そっ、そのせいで何回も舌を噛んだんですからね!?……て言うか、降ろしてください!」

 

いまだに脇に抱えられたままの槭が拗ねたような表情で天元に抗議する。

槭の自分に対する愚痴を偶然、全て聞いてしまい機嫌が地味に悪い天元は、冷めたような視線を

送ると、

 

「ほら、もう降りていいぞ」

 

と言い、槭を放した。

突然放された槭は受身を取れず、地面に全身を打ちつけ、「ぐげっ」とカエルが潰されたような声を出した。

 

「もぉ、天元様?男の子ならいいですけど、槭は女の子ですよ。

 もっと優しくしてあげてください。まきおや須磨も同じことを思っていますよ」

 

「……わかった、わかったから。おい槭、悪かったから地味に泣くな。稽古始めるぞ」

 

「槭、稽古終わったらお菓子食べようね。ほら、頑張れる?」

 

一度着替えさせるために雛鶴は槭の手を引いて屋敷へと向かう。

手を繋いだ瞬間に笑顔になった槭を見て、天元はどこかショックを受けたような気がした。

 

「あ、天元様!おかえりなさい!」

 

「ああ、まきをか。……槭に懐いてもらうためにはどうすれば良いと思う?」

 

「えっ?天元様、急にどうしました?」

 

「実はさっきこんなことがあってな………」

 

稽古が始まるまでの時間、どう槭を懐かせるか考え続ける天元であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬の冷気が夜の山林を包み込む。

吐く息は白く、呼吸をする度に肺から体内が冷えてゆくような感覚がする。

木刀を持つ手は震え、寒さのおかげで手に力が入らない。

 

「………ま、まだ終わらないの……?」

 

槭は周りを確認すると、自分の体を抱きしめるようにその場にしゃがみ込む。

日が傾く前に始めた稽古はいつの間にか月が昇っていても続いていた。

 

「……寒い……。早く終わりになってよぉ……」

 

「槭ちゃん、みーつけた!」

 

「うわっ!?なんで!?」

 

一息ついた矢先、須磨が木の上から木刀を振り下ろしながら飛び込んできた。

槭は後ろに飛び下がり、間一髪で避けると足元に落ちていた石を投げつける。

石は全く違う方向に飛んでいった。

 

「あれれ?避けられた!さすが槭ちゃん!」

 

「……ひっ、一声ぐらいかけてくださいよっ!」

 

「敵側がそんな事しちゃダメでしょ」

 

「た、確かに………」

 

まるで寒さを感じていないような口調で話す須磨に槭は少し引く。

いつの間にか月は真上に上がっていて、暗い山林もいくらかは明るくなった。

 

「……そういえば、須磨さんが敬語を使わないのって私だけですよね。何でですか?」

 

どんな返答が来るかわからないが時間稼ぎのために槭は思い切って聞いてみた。

 

「うーん…………歳が私より下(19歳と13歳)だから?」

 

「さいですか……」

 

もっとちゃんとした理由が返ってくるのかと期待したがちょっと落胆した。

やがて足音が聞こえてきたと思ったら雛鶴がやってきた。

 

「稽古はもう終わり?二人とも寒くないの?」

 

「雛鶴さん!今ちょうど槭ちゃんと話していたんですけど………稽古はまだ続いて……あ!」

 

慌てて須磨が振り返るとそこに槭の代わりにいくつかの煙玉が置かれていた。

導火線が全て焼き焦げた。

 

「ちょっ!槭ちゃん!?山の中で煙玉はダメだって………うわっ!」

 

須磨の視界が白煙で埋まる。

慌てて後ろを向くが煙が広がる方が一足速かった。

 

「ケホッ!あー!天元様に怒られ「須磨!すぐにそこから離れて!」……え?雛鶴さん!?」

 

「ごめんなさいっ!」

 

「あっ!?」

 

槭の手刀が須磨の首筋に吸い込まれるように打ち込まれる。

煙の中で須磨が気絶したのを確認した槭は全力でその場から逃げようとする。

だが、遅かった。

 

 

「………槭?山中で煙玉を使うなとあれほど言ったんだが………随分と派手にやってくれたな?

 

 

「………し、師匠ぉ……これは、その…………うあっ!?」

 

拳を腹にくらい、槭は倒れ込む。

天元は槭をこの前よりは丁寧に脇で抱えた。

 

「……雛鶴。今月の炊事担当は罰として槭にやらせる」

 

「それは…………

 

 ―――天元様がやりたくないだけなのでは?」

 

ピタッと天元が一瞬止まる。

どうやら図星だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございます。


・天元が槭に放った拳
遊郭に行く前に寄った藤の花の家紋の家で善逸と伊之助が受けたやつ。
見事に槭は数メートル飛んだ。

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