底辺VTuberの俺と美少女売れっ子VTuberのてえてえはありますか? 作:詩乃宮
———2018/08/03
「いけッ‼怒怒怒
「うわ———引くな引くな引くな引くな‼」
そんな声が部屋の中に響き渡る。そうして、俺はウェブカメラの画角を意識しつつ、デッキの上からカードを引く。パソコン画面上にはまばらではあるがコメントが流れる。
『引いたか⁉』
『怒怒怒4枚目は流石にインチキw』
『いやでもこれ、アクセル除去しなきゃこの後繋がらなくね?』
『こうなった怒怒怒は止めらんねーよなあ』
コメントの量は決して多くない。———そもそもコメントとはなんぞや?俺がいったい何をしているのか、そこから説明していこう。今俺がやっているのは配信、動画サイトにてリアルタイムに俺たちの声などが届く、いわば生放送だ。その配信の中でも最近流行ってきたVTuberという仮想のアバターを使った、現実の俺はカメラに映らないタイプの配信だ。俺———配信での名前は『秋城
「ライフトリガー‼ドン飲み‼」
それは俺の番面に対する的確なアンサーであった。相手の行動を阻害するアクセルを除去しながら、次のパーツをかき集められるカード。対戦相手のアキ健さんが山札を捲る。今度は俺が来るな、来るな、と祈りながら相手の行動を待つ。そうして、アキ健さんが見せてきたのは————。
「ドンゴン・リスッ⁉」
それはアキ健さんの使う、ラッカ・ドラゴン終のキーカード。それが手に加わったことによって、俺の次のターンの負けが濃厚になる。そうして、ドンゴン・リスを手に加えたことによってドン飲みのもう一つの効果、モンスターのバウンスが発動し、俺の番面に居たアクセルが手札に戻ってくる。
「くッ……」
「これでお前は俺のライフは割り切れても、ラストアタックまでは取れない……‼俺の勝ちだ‼秋城ッ‼」
「くそぉぉぉおおおおお‼」
『まあ、秋城ニキのデッキほぼ受けないし』
『攻めることしか考えないデッキだからなあ』
『やっぱり立ち回りは終が最強か~?』
ヤケクソ……もとい、次のターンがなんかまかり間違って渡された時のために相手のライフカードを0にしておくアタックをする。
「エンドだ……」
「んじゃあ、ターン貰うな。ドロー」
そこからは……言うまでもなかった。ドンゴン・リスからドラゴン終が降臨し、受け札のない俺のデッキはぼこぼこにされたのだった。
「くう……これがアニメなら逆転の1枚を作り出して、それがライフに入ってるんだぜ?なあ、アキ健」
「はいはい、オリカをデッキに混入させるのはやめてくださーい」
そんなゲーム終了後のふざけ合い。
『ガッチャ、いいデュエルだったぜ‼』
『まあ、あれはドン飲み踏んだから負けた試合』
『むしろ、主人公はアキ健さんなのでは?』
『確かに、あそこでドン飲みは持っている側の人間』
「お前ら~~~俺の配信なんだから俺を擁護しろよ~~~」
そんな泣き言を零しながら、俺はカシュッ、と手元の缶を開けたのだった。
『お?』
『それ何缶目でござるか~秋城殿~』
『カフェインの飲みすぎは駄目って、カーチャン言ってるよね?』
「いや、お前は俺のカーチャンじゃねえって」
俺が明けたのはカフェイン飲料の缶、何回目かの配信のころから俺が一息入れる際の合図になっている。その度に視聴者からは『そんなものに頼るな』『寝ろ』だのの意見が流れるようになってきた。
(まあ、一種のプロレスだよネ)
んくんく、とカフェイン飲料を飲む。そこから配信はさっきの戦いの振り返り———と言っても、キルまでのターンが短すぎてアレがあったら勝てたな、みたいな僕の考えた最強の動きを言い合う雑談から、2回戦目、3回戦目、と縺れていった。そうして、時間は深夜2時を回る。視聴者の数も減り、同時接続数は3人になった。俺はもう一度カフェイン飲料の缶を開け、煽る———その瞬間、ぐらり、と揺れる視界。
「お……あっ、ぐっ……⁉」
「おい、秋城?」
酷く痛み出す頭。その痛みはまるで頭の内側からトンカチでガンガンと打ち鳴らされているような。そんな痛みに誘発されるように、胃の奥からモノがせり上がっていく感覚。
「おっ、おぇえっ」
ぷしゃっ、と蹲りながら嘔吐する。
「秋城⁉おい、秋城⁉」
何が起こったか分からないだろうアキ健が戸惑いの声を上げる。そりゃそうだ、いきなり手元のカメラからフレームアウトしてえずく声が聞こえるだけなのだ。だけど、今の俺にアキ健の状況を気遣えるだけの余裕なんてなかった。頭が割れるように痛くて、痛くて仕方なくて。胃の中のものがせり上がってくる感覚が止まらなかった。そうして、必死に声を嘔吐しながら絞り出す。
「だす……だすげ、て……」
俺はそんな声を上げるのがやっとだった。
「助け……⁉け、警察か、いや、おい、秋城‼」
混乱するアキ健の声———そこで俺の意識は途切れたのだった。
ふわふわ、ふわふわ、と意識が浮上する。心地よく寝ていたのに徐々に鮮明になる意識に不快感を示しながら目を擦る。
(あれ……俺何してたっけ……)
記憶を手繰る。何かを頭の中で掴んだ瞬間、フラッシュバックする激しい頭痛と嘔吐による不快感。その感覚を思い出して、俺はバッ、と勢いよく起き上がった。
「……?どこだ、ここ……?」
首を傾げる。部屋を見ると、そこは俺が倒れる前に居た部屋ではなかった。むき出しだった床には防音マットが敷かれ、部屋の中の棚にはプラレールや恐竜のソフビが入っていた。月明かりが窓から入り込む、その月明かりに誘われるように窓を見れば———。
「は……?」
そこに映った俺は、……子供の姿をしていた。
「は?」
現実が受け入れられなくて、その窓に向かって手を振ったり、変顔をしたり、自分じゃない動きをすることを期待して動きまくる。でも、どんな動きにも俊敏についてきて———いや、当然だ。この部屋には俺しかいない。俺以外は存在しない。つまり、この窓に映っているのは俺で。
「いや、誰だよ」
窓に近づいて顔をマジマジと見る。年齢は、4歳……いや、5歳と言ったところだろうか。小学生にはまだ上がっていないんじゃないだろうか、という年齢だ。赤茶色……ちょっと明るいかな?という瞳の色に黒髪……標準的な日本人というところだ。
「あー……あー……」
声も普通の子供の声。若干クソガキ感を感じるのは何故だろうか。……改めて手を握っては開くを繰り返しながら掌を凝視する。
「これは所謂……」
トリップ……?いや、転生なのだろうか。これはまず確認しなければいけないことが大量にあるな、そんなことを確信しながら俺はベッドに戻る。
「……とりあえず寝よう」
もしかしたら、明日になったら元の体に戻っているかもしれない、これは夢なのかもしれない、そんな淡い期待を込めて、俺はもう一度意識を落としたのだった。