底辺VTuberの俺と美少女売れっ子VTuberのてえてえはありますか?   作:詩乃宮

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第2章 転生したら強くてニューゲームって本当ですか?③

 ———2039/07/03

 

「暑い」

 

 その日は項垂れるような暑さだった。酷く暑くて、埼玉の方では40度を超したとかなんとか。そんな真夏の人が出歩く気温じゃない日にインターンとして呼び出した会社に殺意すら湧きながら、渋谷の駅から這い出る。

 

「あっつい……」

 

 ぜえはあ、と言いながら、鞄に入っていてぬるくなったカフェイン飲料をカシュッ、と開けて飲み干す。そのぬるくなったカフェイン飲料に清涼感なんてなく、むしろ、口の中を甘ったるくするだけだった。

 

「だあぁ———……」

 

 諦めてコンビニで冷たいカフェイン飲料を買うか、なんて考えて眩しい太陽を見上げる。そう、顔を上げると。

 

 ~~~~♪~~~~~~♪

 

 聞こえてくるのは、軽快な音楽。夏らしい爽やかな印象を与える音楽だった、その音楽に思わず聞き入ってしまう。……これは好きだ。

 

「おお……サブスクで探すか」

 

 そうして、検索するための情報を得るために街頭モニターに視線を写す。

 

(曲名は……ウィング……歌っているのは鈴堂うぃん……)

 

「あ、これうぃんたその曲か……」

 

 うぃんたそ、鈴堂鈴堂(リンドウ)うぃん、それは最近とても熱い、人気に火が付き始めたVTuberの名前だった。俺は……結局的には趣味嗜好は前世から変わらず、ある程度のネット閲覧の自由を手に入れてからはカードショップに入りびたり、VTuberを追っかける日々に着地しつつあった。それでも、流石に就活中は自重しようと、VTuber&カードゲーム断ちをしていた。だから、うぃんたそが新曲を出したことに気づけなかった。

 

「それにしてもいい曲だな……」

 

 サブスクで新曲の検索して、端末で歌詞を見ながら街頭モニターから流れてくる音楽を聴く。貴方はそれでいいの?よくない、私は飛び立つ、そんな歌詞の曲。その歌を聞いて、思い至る。

 

(……俺はこのままでいいのか?)

 

 本当にこのままで、前世と同じように会社に就職して、サラリーマンになって……そんな人生でいいのか、そう思い至る。

 

 ~~~私はいつか飛び立つ♪

 

 俺は2週目の人生こそは、誰かの記憶に残る人間になるんじゃなかったか。思い出した初心に、心が燻る。

 

 このままでいいのか?———嫌だ。

 このまま諦めるのか?———でも、もう何もない。

 それは本当か?———ッ。

 

 そんな自問自答の中、うぃんたそのサビに入る瞬間の溜めからの解放と同時に、俺の体が稲妻に打たれた様な感覚が走る。気づけば、俺はUtubeのホーム画面を開いていた。

 

 ———秋城はあの伝説の配信から飛躍的に登録者数を増やし。

 

 今の俺のアカウントをログアウトする。そうして、勢いよく打ち込むのは俺の……前世の、秋城のアカウント。

 

 ———その登録者数は、30万人にも上った。

 

 入れるように強く、強く祈りながらログインのためにくるくると回るボタンを見つめる。そうして、くるくると回るアイコンが消え、そこには。

 

「———ッ、入れた!」

 

 表示される、懐かしい画面。俺のチャンネル。登録者数は50.5万人。俺が見た記事では30万人を超えたと書かれていたが……それにしても伸びすぎだろう。驚きに目を見開きながら、端末を握りしめる。

 

「もう一度、やってみるか———なあ、秋城」

 

 そうして、俺はもう一度VTuberとして活動してみることを決意したのだった。

 

 

「えー……と、パソコンのスペックは問題ないな」

 

 思い立ったが吉日。インターンを終えた俺は家に帰り、パソコンのチェックに入る。大学入学時に買ってもらったパソコンだが、そこそこスペックが高く、メモリも256GBある。一体両親は何を見越してこのパソコンを買い与えたのか首を捻りたくなるが———まあ、子供に少しでもいい環境を与えたかったのだろう。そう強引に納得して、俺はブラウザを立ち上げる。検索窓に打ち込むのは前世で使っていたオンラインストレージのサービスサイト。閉鎖していないことを偏に祈りつつ、そのサイトが検索結果一覧に表示されれば俺は胸を撫でおろした。そうして、クリックして打ち込むのは前世で使っていたアドレスとパスワード。なんなくログインして、そこに格納されているファイルをダウンロードする。その、ダウンロードしたファイルとは……秋城のlive2Dモデルだ。ファイルが破損していないかなど、細心のチェックをし、問題ないことにほっとし詰めていた息を吐きだした。

 

「って、今思うと簡素だなあ……」

 

 秋城のlive2Dモデルは黒いロングの髪、赤い瞳、スーツ姿以外特に目立った要素のない男のモデルだった。今活動しているVのアバターから考えるとあり得ないぐらい簡素だ。

 

「まあ、これは後々新規モデルを依頼するか……そこまで続くといいな……」

 

 踏み出しはしたが、いまいち自信のない言葉に苦笑しつつ、買うものをリストアップしていく。

 

「ウェブカメ……マイクも買った方がいいな、キャプボは保留かな、ゲーム配信、憧れるが……」

 

 ぶつぶつと独り言を発しながらリストを作る。そうして、出来上がったリストの欄の隣にそれぞれの金額を打ち込んでいく。

 

「うわ、貯めこんどいて正解だったな……」

 

 悲しきかな前世の性。なんとなく収入がないことが落ち着かなくて、特に目的もなく大学に入ってからはバイトに打ち込んだのだった。そうして、冬眠する前のリスのごとくため込んだお金は軽く80万近く……これはあくまでバイト用の口座なので毎年溜めているお年玉とかもこみこみにすれば配信用の機材をそろえることは楽勝だろう。リストアップした機材を某大手ネット通販のカートに放り込めば、今できることはもうない。

 

「さて、なんて言って舞い戻ってやろうか」

 

 そんなことを呟いていると、やけに俺の端末が騒がしい。なんだなんだ、と思いながらホーム画面を見れば、そこには秋城のアカウントからの通知が表示されていた。

 

(ん……?俺なんかしたか?)

 

 間違って秋城のアカウントを動かしてしまっただろうか、そんなことを考えながら恐る恐るその通知を見れば———秋城のUTubeの最後の、いや、最期の配信アーカイブに今なおコメントがされているようだ。

 

『どうか安らかに眠れますように……』 

『いきなり亡くなるとか……もっと早くに知りたかったぜ』 

『環境考察、今もたまに見るよ』

『天国でも配信してくれよな~‼』

『天国に配信見に行くわ』

『まだ来るなって追い返されるだろw』

 

 そんな暖かいコメントが今なお、送られ続けている。そんな状況にじんわりと胸を熱くしながら、大きく息を吐きだした。

 

「天国からじゃあないが……配信、楽しみにしてろよ」

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