底辺VTuberの俺と美少女売れっ子VTuberのてえてえはありますか?   作:詩乃宮

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第3章 2週目初配信、大荒れってアリですか?

 

 

 結局、一番始めの復帰配信は雑談枠を取ることにした。理由は簡単、まず対戦配信は呼べる人間がいない、開封動画に関してはめぼしい新弾がない、考察動画に関しては就活をしていたせいで最近のバトマスの環境を把握していない、そんなないないづくしの結果だ。

 

 

(まあ、話すこともないんだけどな……)

 

 

 ぶっちゃけ話題なんてない、所謂見切り発車だ。だけど、あの、死んだはずの秋城が生きてるとなっては気になるのが人間の性だろう?コメントしちゃうだろう?そんなちょっと打算的な思考。俺は配信環境を細心の注意を払ってチェックし、問題なく動作していることを確認する。そして、俺は配信開始のボタンを押した。オープニングもなにもなく、あの時の様にいつも通り秋城のアバターと簡素な背景が映し出される。

 

 

「あー、あー、音声大丈夫か?」

 

 

 そんなことを言っても返事は返ってこないだろう、同時接続数だってまだ———そう思って同時接続数を見た瞬間であった。

 

 

(え、ひゃ、ひゃくじゅっ……)

 

 

 声には出さないが驚愕はする。そこの文字数は俺が配信を行っていた当時では考え付かないような数字を叩きだしていた。当然、コメントも流れ出す。

 

 

『え、本物?』

 

『ニキ死んだんでしょ?』

 

『乗っ取りだろwwww』

 

『本物ワンチャン』

 

『復 活 の 秋 城』

 

 

  生前ではあり得ないぐらいのコメント数に呆然としそうになっていかんいかんと意識を戻す。

 

 

「えー、なんか音声大丈夫そうだし始めていくか。秋城の生放送、はっじまるよーゆっくりしていってね」

 

 

 そんなこの間の延長戦のようなノリでいつも通りの挨拶をしていく。

 

 

『いやいや、そんないつも通りの挨拶されても……』 

 

『死んだん?生きてるん?』

 

『死んだの嘘ってこと?』

 

『炎上商法マ???』

 

 

 コメントの方向性はやはり、というか一色に染まっていく。俺が生きているのか、死んでいるのか。

 

 

『分からん、地獄から配信しているかもしれん』

 

『地獄確定は草』

 

『うそつきは地獄行きだからな~』 

 

 

「んー、なんだろうネ。俺も詳しく話していいのかクソ悩んでんだよな……まあ、そんなことりっ⁉」

 

 

 再度、視界の端でちらりと確認した同時接続数は1万を超えて少しになっていて。その数字に目を剥きながら、咳払いをする。

 

 

『ことり?』

 

『ちゅんちゅん(・8・)』

 

『それより、どういうこと説明しなさいよ‼(ツンデレ幼馴染風味)』

 

『説明しろ!秋城‼』

 

 

 某ロンパゲームのキャラのようなコメントが溢れる。いや、これは正直収拾がつかない。そんなコメントの勢いに気圧されてしまう。

 

 

(これが50万登録者のVTuber……)

 

 

 唾をごくり、と飲む。それからは———散々だった。どんなに日常の話題を話そうとしても、コメントによって話題はすぐにあの伝説の配信はなんだったのか、に連れ戻される。だが、その話題に触れるな、とも言い難くて。俺のそんな2週目初配信はボロボロな結果に終わった。

 

 

 

「こ、コメントこぇええええ~~~~」 

 

 

 ベッドの上でじたばたと藻掻く。どういったらいいんだろうね、これ、本当に。そんな困惑を抱えながら、ゆったーを開くと。

 

 

「ひぃっ……」

 

 

 トレンド1位に来ている、秋城復活の文字。これは絶対触ったら後悔するやつ……そう思いつつも、好奇心を抑えられずに、俺はそのトレンドをタップしたのだった。そこに溢れかえるのは人々の悪意。

 

 

『死ぬってことをチャンネルの登録者数集めに使ったってこと?』

 

『妹共犯?』

 

『そもそも妹なんていなかった説』

 

『んじゃあ、あのアキ健ってやつも共犯じゃね?』 

 

 

 悪意が、俺の妹や当時の友人に飛び火する。俺はその様子があまりにも恐ろしくて、端末をぽろり、と枕の上に落とした。俺はもしかしてとんでもないパンドラの箱を開いてしまったのではないか?いや、その箱に希望が残っていればいい……これが希望も何も残っていないただの悪意の箱だったら?一気に、SNS上で秋城が死んだ瞬間を都合よく配信で流せたのはバズり目的、なんてカバーストーリーが作り上げられる。登録者数は減る勢いが最初優勢に見えたが、徐々に増えていく方向に転じていく。みんな、新しい殴ってもいい、生きているサンドバックが欲しいのだ、そのことを悟る。とてもじゃないが、これじゃあ真っ当な配信なんてさせてもらえない。

 

 

「……っまあ、だよなあ。俺でも同じコメントするわ」

 

 

 手が震えてる、正直怖い。親に迷惑だってかけるかもしれない。だけれど———。

 

 

「このぐらいの逆境、リアルに死ぬ訳じゃねえしなぁ」

 

 

 そうニタリ、と笑う。そうだ、これぐらい吹き飛ばしてこそだろう。これぐらい吹き飛ばせなきゃ、人々の記憶になんか残らない、俺は今世こそ無名VTuberじゃ終わらないッ‼

 

 

 

 

 決意をするのはいいがやることはない。それがリアルなところであった。俺はゆったーを開きっぱなしの端末を触る。とめどめなく溢れる、悪意、悪意、悪意———。

 

 

「お?」

 

 

 俺はそれを……そのメッセージたちを見つけた。どうやら、これは本当にパンドラの箱だったようだ。悪意の中に、ほんのちょっとの善意がきらきらと輝いている。

 

 

『生きていること喜ぶ方が先だろ!』

 

『もしかしたら、昏睡してて今起きた、とか?』

 

『いや、身内からの死亡報告なんだったんだよ、じゃあ……』

 

『早とちり?』

 

『早とちりで死亡報告するやつがあるか』

 

 

 そんなゆったー上のやり取りに心が温かくなる。少なくとも、俺を囲ってボコ殴りにしたい奴らだけではないということに安心感を覚える。ふんわり、と温かくなる胸を服の上から押さえながら笑う。

 

 

「ああ、そうだ。とりあえずバトマスの環境考察とかしないとな、就活で触れていなかったし」

 

 

 希望に触れると不思議とやりたいことがいっぱい心の内側から溢れてきた。あれがやりたい、これがやりたい、これができなかった、今ならできるんじゃね?そんな幸せのスパイラル。

 

 

「あ、あと、これを機にデジタル版バトマスを触ってみるのもありか……俺の生きていたころの環境のカードまだ使えるか?……ってまあ、それは難しいか……なんだったら、今配信してるのも俺の死後の環境だろうしな」

 

 

 自分で自分の言葉にツッコミを入れて、たはは、と笑う。笑えるのもいいことだ。気分が前向きになる。

 

 

「開封動画もあげたいなよなあ、次の新弾いつだっけ……えーっと……3か月周期だから……」

 

 

 そこまで考えて、もう一度ゆったーの画面を見つめる。希望に浸るのもいい、だが、悪意から目を逸らし続けるのもよくない。いつかこの悪意に真っ向からぶつからなきゃいけない。……俺の転生を明かすも、明かさないも、だ。でも、明かさないなら視聴者を納得させるだけのカバーストーリーを用意しなきゃいけない、それはきっと容易ではないだろう。っていうか、ぶっちゃけそんなの思いつかない。でも、みんなには俺が秋城本人だって信じて欲しかった。

 

 

「なーんて、都合がいいよなあ……」

 

 

 ベッドに倒れこみ、枕に頬を擦りつけて目を細める。全部俺にとって都合がよすぎる。……でも、これ俺の想像だぜ?想像でまで自分自身を痛めつける必要もないだろう。そこまで考えて、ベッドの上を転がり仰向けになる。

 

 

「とにもかくにも、鉄は熱いうちに打て、だ———2回目配信のことでも考えますかね」

 

 

 そう口にして、端末のブラウザを立ち上げようとした瞬間であった。

 

 

「隼人―ご飯よー」

 

 

 そう階下から俺を呼ぶ声。その声を聞き、俺は咄嗟に声を上げる。

 

 

「あ、今行くわー」

 

 

 そうして、端末をスリープモードにしてベッドから降りる。うなじを爪でガリガリとひっかきながら階下へ下り、リビングに向かった。

 

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