学園で有名な『氷』の美人姉妹を助けたくらいで、俺の平凡な生活は変わらない……と、思っていた。 作:沙悟寺 綾太郎
土曜日。朝食を取った俺、銀花さん、白葉の3人は、電車へと乗り込む。
「喜一。どこ行く?」
「ん? 着いてからのお楽しみ」
と言っても、別に大したことをするつもりはない。ただ、今日は目一杯三人で楽しむ。それだけだ。
にしても。
「すげえ美人。あの二人、多分姉妹だよな」「んじゃあ、あの男はどっちかの彼氏? どっちにしても、うらやましー」
よくもまあ、目立つものだ。もう慣れたけれど、やっぱり二人は人目を惹くのだろう。
俺があたりの様子を軽く伺っていると、シャツの袖を引っ張られた。
「本当に良かったの? 喜一君。折角の土曜なのに、私たちと一日過ごしてしまって」
友人関係とかあるでしょう? と銀花さんは付け加えた。
まあ、確かに高校に入学して、初めての週末。通常であれば、新しく出来た友達と遊びに行ったりするのだろう。
「大丈夫ですよ。二人のことは友人以上に大切だと思っているので」
「喜一……」
「そ、そこまで思ってくれているのね」
あれ、なんか凄い……あれだ。女たらしみたいだな。今の俺。
とまあ、和気藹々としばらく話していると、目的の駅に着く。少し遠い。快速電車で一時間くらいの場所だ。
「うわー、落ち着くー」
降り立った駅は、都会の喧騒から離れた静かな町。大きな建物はないけれど、その代わりに落ち着いた雰囲気を醸す、片田舎だ。
「ここから、どうする?」
「バスに乗ります。そうすれば、すぐに到着です」
「この辺りは来たことなかったかも。少し楽しみね」
実は、今日行く場所を探すのは少し苦労した。そもそも、俺は都会での遊び方をいまいち知らない。
あれだろ? ゲームセンターに行ったり、遊園地に行ったりするのだろ? 正直、そんな場所で人をエスコートすることなんて想像できないのだ。
それに、今銀花さんに必要なのは、都会の慌ただしさよりもこういう静かで穏やかな場所の方がいいと思った。
だから、そう。俺はここを選んだのだ。
「……牧場?」
「ノーノー。ただの牧場じゃない、色々なアクティビティがある牧場だ」
バスを降りたそこは、山際にある緑の領域。
鼻には、牧草の匂い。風は木々をざわめかせる、穏やかな世界。
「驚いた。こんなところに牧場があったなんて」
「俺も少し驚きました。……さあ、まずはヤギに餌をあげに行きましょう」
踏み慣らされた土の道を歩いて、ヤギの飼育エリアへと向かう。
「ヤギ、可愛い」
「そうかしら。私は少し……目が怖いかも」
二人の反応は、真逆だった。
餌を両手にヤギ用のフードを持ちながら、楽しそうにヤギを愛でる白葉。
そして、ゆっくりと。恐る恐ると言った感じでスティックの人参を差し出す銀花さん。
いやぁ、ほっこりするなぁ。
ちなみに、二人を見ている俺はというと。
「よぉぉぉし!! 分かった!! 分かった!! いい子だから? な? ぐっ!? やめろぉーー!!」
今まさに、ヤギの突進を両腕で堰き止めていた。そう、何を隠そう俺は田舎育ちでありながら、なぜか動物には嫌われるのだ。
そして、結局。
「ぐへっ!」
ごめん、ヤギには勝てなかったよ……。
渾身の一撃を腹部に受け、俺は膝を折った。
手持ちの餌が無くなって、俺たちは次の場所に向かうことにした。
「ヤギ、もっと太れ。そして、でかくなれ」
白葉は最後にヤギの頭を撫でてから、少し離れた俺たちに駆け寄ってきた。
まさかとは思うが、太らせて食うつもりか? ここのヤギは除草とヤギミルクのために育てられているから、食べないぞ?
「喜一君、大丈夫?」
「あ、ああ。田舎じゃ猪に一発貰ったことあるから、それよりはマシです」
が、今回のも中々のいい頭突きだった。腹筋を鍛えていなければ、即死だったろう。……ちょっと盛った。
「た、大変ね」
「次は、そうですね。俺がこの世で最も可愛いと思う生き物のところに行きましょう」
次に向かったのは、うさぎとモルモット、鶏小屋のある小動物とのふれあいコーナー。
「か、可愛い……」
「凶暴な齧歯類。こいつらも手懐けて、太らせる」
緑の芝の上、木の柵とフェンスによって二重に囲まれたウサギの区画、その隣の同じく囲まれているモルモットのコーナー。
銀花さんはモルモットに夢中だった。近くのベンチに腰掛けて、膝の上に置いたモルモットに野菜の切れ端を食べさせている。
白葉は角の方に固まって集まっているうさぎに狙いを定めたようで、ゆっくりと誘き出すように、牧草を向けながら接近していく。
いやぁ、可愛いうさぎとモルモット。そして、そこに二人が混ざる。可愛いの天元突破が、今俺の目の前にはある。
が、俺はというと。
「ぐわぁ!! なんでキレてるんだっ!! 卵はとらねぇよ!!」
その隣、気まぐれに入ってみた鶏小屋。なぜだか、修羅の如くキレ散らかす鶏の群れにリンチされていた。
膝蹴り、羽ビンタ。
マジで、鶏ってキレると金切り声を上げながら、嘴やら足やらで暴力に訴えかけてくるからタチが悪い。
俺はボロボロになりながら、敗走。鶏小屋から出て、隣のうさぎの柵へと避難した。
……心なしか出る時、
「と、とほほ」
「喜一。騒がしかったけど、どうかした?」
「……いや、ちょっとな。人類が滅んだら、この世を征服するのは鳥かもしれないという事実に気づいただけだ」
「むむ、興味深い仮説」
そのまま俺はうさぎエリアを抜けて、モルモットのふれあいコーナーと書かれた看板の隣、ベンチへと腰を下ろす。
「喜一君は、モルモットとうさぎどっちの方が好き?」
モルモットを抱えたまま、銀花さんは俺の隣に座った。
「うーん、どっちも可愛いのは間違いないですけど、強いて言えば……うさぎ、ですかね」
可愛いし……バニーガールは大好きだし、そして何より食べても美味いし。
「そうなんだ。なら、なんでこっちに来たの?」
あくまで穏やかに、それでいて、こちらを揶揄うような口振りで尋ねてきた。
「そりゃ、銀花さんがいるからですよ。白葉は何やら、秘密の作戦を実行しているようだし。邪魔するのは悪いかと」
「ふふ、確かに。白葉は私でも何を考えているのか分からない時があるわ」
うさぎコーナーの白葉は牧草についに齧り付いたうさぎをじっと観察しながら何やらきゅーきゅーと話しかけていた。
側からだと、意思疎通を試みているように見える。
「ところで、喜一君。私に見せたいものというのは一体何なのかしら?」
「うーん。今言ってもいいんですけど、もう少し遊んでから伝えます」
「喜一君って、意外と焦らすのが好きなのね」
「いえいえ、その方が効果的ってだけですよ。それに、もう少しでお昼ですし。本懐を遂げるには、少し早いかなと」
「じゃあ、楽しみに待っておくことにする」
銀花さんは笑ってくれた。安心した。かなりリラックスは出来ているようだ。
「喜一。お姉ちゃん、見て。これが白葉完全形態」
「んー?」
白葉に声をかけられて、ふと目を向けるとそう、そこにいたのは。
「よし、ぴょん吉。うさ次郎。来て」
「な、なっ!?」
そこに広がっていたのは、目を疑う光景だった。
「──合体!」
掛け声で、二匹のうさぎが白葉の下げた両腕をそれぞれ駆け上がる。
それだけでも、あり得ない。あり得ないのだ。
しかしっ!! さらにっ!!
「ふふふ。この形態を見て、生きて帰った者はいない」
白葉の肩に、うさぎ二匹がジャストフィット。ガン○ャノンみたいになっていた。
「「……」」
「どう? これが白葉ファイナルデストロイキューティーモード」
うん、凄い。確かに曲芸としてはかなーり凄いんだけどなー。でも。
「流石に、名前負けしてると思うぞ。それは」
俺はただ、ありのまま感想を述べたのだった。
やっぱり、デストロイとか付けるなら赤か……出来れば緑に光らないとね。