学園で有名な『氷』の美人姉妹を助けたくらいで、俺の平凡な生活は変わらない……と、思っていた。   作:沙悟寺 綾太郎

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第17話

 

「んじゃ、今日はここまで。お前ら、早く終わったからって、寄り道するなよー」

 

 四限の古文の授業後。帰りのホームルームがが終わり、俺たちは堅苦しい空気解放された。

 

 入学して、はや二週間が経ち、学校に慣れ始めたところで早速イベントがやって来た。

 今日は、その準備日ということで昼までの授業なのである。

 その名も──部活祭だ。

 

「真壁ー、この後暇か?」

 

「暇、だな」

 

 大野木に声を掛けられた俺は頷く。

 残念ながら、俺は新生活のスタートダッシュに失敗したらしく、クラスには大野木くらいしか話し相手がいない。つまりは遊び相手も同じ。

 

 ……友達百人は流石に厳しそうだ。

 

「んじゃ、ちょっと顔貸してくれるか?」

 

「おう」

 

 廊下に出て、階段の方へと向かう。その途中で俺は尋ねた。

 

「どこに行くんだ?」

 

「校舎裏。あまり聞かれたくない話がある。ほんとはグラウンドの方がいいんだけど、部活祭の準備でごった返すだろうからな」

 

「部活祭……」

 

 うちの学園は、一年に三つの祭りがある。

 一つは、秋の文化祭。もう一つは、夏の体育祭。そして、最後。春の部活祭だ。

 

「そもそも、部活祭って何をするんだ?」

 

 一応、文化祭と体育祭に関しては調べたが、どうにも部活祭だけはよく分からなかった。恐らくは、この学校固有のイベントなのだろう。

 

「うーん、なんて言えばいいのかな。ほら、一学期の初めに普通の学校なら部紹介があるだろ?」

 

「お、おう」

 

 直接見たことはないけど、存在は知っている。

 

「うちのそれは体験型なんだよ。部活ごとにちょっとした出し物をして、どんなことをする部活なのかとか、どんな雰囲気なのかをそれを通じて新入生に伝える。そんなイベントだ」

 

「なるほどなぁ」

 

 階段を降り、昇降口を出る。すると、外では多くの生徒たちが、テントや折り畳みの机など様々なものを運んでいた。

 

「やっぱりやってるな。んじゃ、ちょっと待っててくれ」

 

 校舎の裏に到着するなり、俺を待たせて、大野木は何処かへと走り出した。

 

 ものの数分で帰ってきた大野木の手には、グローブが二つ……いや、片方は分厚い。ミットだ。

 

「えーと、何をさせるつもりだ?」

 

「この前のスイングで分かったんだ。お前、投手やってたんだろ? それもかなり上手いと見た」

 

「……は?」

 

 上手い? 俺が? 冗談はやめて欲しいものだ。クラブに参加はしていたけれど、ほとんど大会にだって、出たこともないのに。

 

「隠さなくたっていいぞ。何か理由があって、野球辞めたんだろ?」

 

「……まあ、それはそうだが」

 

 チームの人数が足りなくなって、解散しただけだけど。

 

「そんなお前に、頼みがある」

 

 やけに真剣な顔で、大野木は頭を下げた。それこそ、一世一代の、一生に一度のお願い。そんな風情だ。

 

「それと野球が関係ある、と?」

 

「ああ。うちの学校の都市伝説はこの前話したよな?」

 

「……ああ、一昨年の生徒が三股してたってやつか」

 

 あれはかなりインパクトの強い話だったな。ほんと。

 

「違……くわないが、ホームランの話だ」

 

「あー、そっちね」

 

 確かグラウンドからテニスコートのフェンスを超えるホームランを打ったらモテモテになれる、だったはず。

 

「俺さ──好きな奴がいるんだ」

 

「……!?」

 

 キ、キタァ!! これはあれじゃないか!? ホームランを打ったら告白する的な!?

 

「そ、それで?」

 

「打ちたいんだよ。ホームラン。そうすれば、告白する勇気が湧いてくる、はずなんだ」

 

「ま、まじか」

 

 口では困ったような反応をしたが、その実、俺のテンションは爆上がりだった。

 そうそう、青春といえばこういうやつだよなぁ。いいぞ、いいぞ。

 

「だから、俺がホームランを打つまで……その、投手をしてくれないか?」

 

 ぶん、勢いよく大野木は頭を下げて、強く頼んできた。

 

「ちなみに、誰が好きなんだ?」

 

「……まあ、他の奴らに言うよりは編入生のお前にバレる方がマシ、か」

 

 大野木は頭の後ろをぼりぼりと掻いてから口を割った。

 

「絶対誰にも言うなよ。その……茅田、だ」

 

「茅田? ……あ、あー、この前の」

 

 茅田 優子。確か、この前に月乃江姉妹と一緒に出かけたのをナチュラルにストーキングしてきたメガネの子だ。

 

「むむ、なんか意外だな」

 

「そうか? 茅田とは小学校からの付き合いでな……色々とあったんだよ」

 

 その色々な部分を詳しく聞きたいところだが……まあいい。

 

「事情は分かった。けど、逆に分からないな、なんで俺に投手を頼むんだ? 野球部のやつの方がいいだろ、コントロールいいだろうし」

 

 野球部の誰かでも、それこそボールを放るだけなら誰だっていいはずだ。

 

「俺は中等部までで野球を辞めたんだよ。だから、野球部に頼むのは、正直気まずい」

 

 なるほど。確かにそれはちょっと気まずいかもな。とはいえ、だからと言ってわざわざ俺に頼る必要もなかろう。

 

「それに、ホームランを打つために投げてもらうんじゃ違う。そんな数打ちゃ当たる戦法に意味ないだろ? 真っ向から戦って、打ちたいんだよ、いや打たなきゃいけないんだ」

 

「ふむふむ」

 

 つまり、ホームランを打つのが目標ではあるが、そのアシストとしてボールを投げてもらうのではなく、れっきとした勝負の結果のホームランがいい、と。

 

「だから、お前に頼んでる。相手が実力者ならホームランを打った時、胸を張れる」

 

「……なんで、そう思ったんだ?」

 

 過大評価すぎないか? 俺、田舎の草野球チーム出身だぞ? 

 

「それは、お前のバッティングフォームが……」

 

 大野木がそう言い掛けたところで。

 

「あ、喜一いた」

 

 ひょっこり、間後ろから声がした。

 

「うわっ!? 白葉っ!?」

 

 背後。振り返ると、頬を膨らませた白葉がいた。

 

「む、驚きすぎ。……そっちは、誰?」

 

 白葉の無感情ながらも、不満げな目が大野木へと向いた。

 

「あ、と。こいつは友達の大野木。大きい野の木で大野木だ」

 

「……そう」

 

 うーん、あんまり興味はなさそう? だな。

 

「ど、ども」

 

 流石のコミュ強大野木さんも戸惑っていた。

 

「喜一。お昼、一緒に食べる。早く行こ」

 

「あ、ちょーと待ってくれ」

 

「だめ、待たない」

 

 ぐいぐいーと腕を引っ張られる。

 

「ぐわぁー、お、大野木。すまん」

 

 勝てそうにない。かなりのパワーだ。

 

「お、おうよ。んじゃ、後でまた連絡する。今日の、三時半くらいからなら会えるか?」

 

「大丈夫だー」

 

 またな、とドーナドーナされてゆく俺に大野木は手を振った。なんか気を遣わせたようで悪いな。

 

「……喜一」

 

 しばらくして、白葉は立ち止まる。校舎の裏から、グラウンドの付近に着いた時だ。

 

「あ、はい。なんでしょうか?」

 

「喜一は言った。私とお姉ちゃんのことを『友達以上』だって」

 

「確かに、言ったけど……」

 

 だからって、ここまでする必要はなかったのではなかろうか。

 

「むむ、言葉の意味、分かってる?」

 

「分かってる、つもりだけど?」

 

「なら、一緒にいて。友達よりも、私たちと。そうしてくれるなら、喜一にいっぱい()()()()させてあげるから」

 

「……言葉を返すようで、悪いんだけど、それこそ言葉の意味、分かっています?」

 

 それは、男に言うような言葉ではないだろうに。誤解を招いてからでは、遅いぞ?

 

「知ってる。喜一が一番したいこと……それは」

 

「そ、それは?」

 

 うん、俺にも俺が一番したいことなんて分からない。が、とりあえず聞いてみようではないか。

 

「ふふふ、喜一は誤魔化すのが下手」

 

「お、おう」

 

 白葉は何か意味ありげに笑う。

 そして、満を辞して、言った。

 

「喜一が一番やりたいこと……いや、ヤりたいこと。それは──ズバリ、姉妹丼!」

 

 ……。

 ………。

 へ?

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