学園で有名な『氷』の美人姉妹を助けたくらいで、俺の平凡な生活は変わらない……と、思っていた。   作:沙悟寺 綾太郎

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第22話

 

「……ううむ」

 

 ほんと、どうしたものだろうか。深く考え込む。

 四限。数学の授業。明るい窓からの光が机を照らす最中、俺は朝の会話を振り返っていた。

 

 ほんと、面倒臭いことになった。

 

………

……

 

「え、無理ですけど」

 

 屋上。

 猫を引き取られるか、そう問われた俺は即座に答えた。

 俺は居候の身。そんなことが出来ようはずもないからだ。

 

「あっそ、じゃあ里親探し手伝って」

 

「えーなんでそうなるんですか……」

 

 無論、猫が嫌いなわけではないが、あまり巻き込まれたいものでもない。

 

「残念ながら? この学校にあたし友達いないし? それに、一応、私もWebサイトとかでは探してるけど、顔を分かんない奴らよりはあんたの顔見知りの方がマシでしょ?」

 

 いや、確かにそう、かもしれないけど……。

 

「じゃあ、こうしましょう? もし、手伝ってくれないなら、今日一緒にいた連れにさっき手を抜いてたことバラす」

 

「なっ!?」

 

 ぐわっ、すっごい嫌なとこ突いてくるなぁ。と思いながらも、俺は屈さない。

 

「そ、そんなの脅しにならないですよ?」

 

「ほんとに? あんたの連れ、あの都市伝説実践したいんでしょ? あらかた好きな人がいるとか」

 

「……ぐぬぬ」

 

「嫌いじゃないけどね、そういうちょっと馬鹿な奴は」

 

 やはり、かなりの洞察力。左腕のこともそうだが、芹川先輩には何か人を見通す力のようなものがあるのかもしれない。

 

「そんな奴が、手を抜かれてたなんて知ったらどう思う? あたしなら……絶対許さない」

 

 その目は、いつにも増して鋭い。怒りすら垣間見えるほどに。

 

「……はあ、よくお分かりで」

 

 手だけは抜かないでくれと、そう言われている。まあ、俺だって、手を抜きたくて抜いているわけではないのだが。

 

「じゃ、詳しい話は……そのうち。お疲れ様」

 

 芹川先輩はそのまま、昇降口の屋根の上に登る。この前もいた彼女のテリトリーだ。

 

「……はあ」

 

 という途轍もなく面倒臭いことに巻き込まれたのだった。

 拒否のしようもないし……うん。

 

「おーい、真壁ー、真壁ー」

 

「あ、はい」

 

 ふと、我に帰る。

 いつの間にやら、授業は終わっていたようで、クラスメイトは皆、帰り支度をしていた。

 

「あ、そっか。今日も昼までか」

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

「大丈夫。元気いっぱいだ」

 

 我ながら中々、長い時間ぼーとしていたようだ。とりあえず、俺は横にかけた鞄を持ち上げて、教材を詰め込む。

 

「今日は、本格的に明日の設営があるだろうから、無しにする」

 

 明日は丸一日、部活祭が開かれる。どんなことをするのかは、まるで想像つかないけれど、精一杯楽しみたいものだ。

 

「んじゃ、俺は帰るわ」

 

「おう、お疲れ様」

 

 大野木はそのまま、教室のドアへと向かった。

 あっ、そうだ。と俺はその背中を呼び止める。

 

「大野木。すまん、聞き忘れてた」

 

「ん?」

 

「大野木は、猫好きか?」

 

「なんだよ、急に。まあ、人並みには」

 

 よし、第一関門クリアだ。

 

「確か、実家暮らし……だよな?」

 

「お、おう。ほんとどうした?」

 

 第二関門もクリア。これ、もはや決まったくね?

 満を辞して、俺は尋ねる。

 

「猫とか飼えない?」

 

「……なんかの冗談ではないんだよな? 悪いが、うちは犬飼ってるから無理だな」

 

「ちっ……くそう」

 

 無理かぁ、芹川先輩は「自分は学校に友達いないから」と押し付けてきたが、俺も似たようなものなんだよなぁ。

 

「悪いな、力になれなくて」

 

「いや、こっちこそ急にすまんな」

 

 結局、どうしようもない。ため息をついた後に、とりあえず俺は家へと帰ることにした。

 

***

 

「ただいまー」

 

 玄関の扉を開き、靴を脱ぐ。昨日も思ったことだけれど、こうして昼間に帰ってくるのはかなり違和感がある。

 同時にそこで、もう一つ違和感。

 

「……あれ、白葉は帰ってないのか」

 

 いつもなら扉を開いた時点で、銀花さんか白葉のどちらか、或いは両方から「おかえり」と言う言葉が飛んでくる。

 

 銀花さんは今日、少し帰るのが遅くなるそうなので、いないとしても白葉がいないのは意外だ。

 

 俺は靴を揃えて置き直し、リビングへと向かう。すると、入ってすぐそう言うことかと納得した。

 

「zzz……むにゃむにゃ」

 

「めっちゃ寝てるやん」

 

 白葉は制服を脱ぎ捨てて、ソファーに寝転がっていた。

 

「無防備すぎるって……ほんと」

 

 下着姿。真っ白な肌とその髪に日の光が当たって、少し光って見えた。

 眠り姫。ふとそんな言葉が頭の中に浮かんだ。

 

 ……み、見てないぞー。胸なんて見てないからなー?

 

 俺は足音を立てないように、撤退するべく、そろりそろりと移動する。

 が、少し冷静になってきて、立ち止まった。

 

「……起こさないようにとか、そういう問題じゃないか」

 

 俺は一度、二階に上がって自室から毛布を一枚持ってくる。

 

 白葉は寒がりだと言っていたし、そもそも下着姿で寝るなんて、風邪にかかりたいと言っているようなものだ。

 

 ゆっくりと、俺は毛布を白葉の足元から肩の上までを覆うように下ろした。

 

「……風邪、引かないようにな」

 

 何故かは分からない。けれど、ソファーの上で穏やかに眠った白葉は何故だか酷く、孤独に見えた。

 

 天才。一番そばにいるであろう、銀花さんすら……いや、そばにいるからかもしれないけれど、白葉のことは理解できない時があると言った。

 

 もちろん、姉妹だからと言って、なんだってお見通しという訳ではないのだろうけれど。

 それでもやはり、どうしたって。

 

「……一人は、寂しいよな」

 

 白葉にしてみれば、俺が勝手に同情しているだけに見えるのだろうけど、俺は知っているのだ。

 一人ぼっちの心細さを。

 

 しかし、その刹那。

 

「むぅ……」

 

「へ?」

 

 何故だか、手首を掴まれる。しかも、中々のパワー。

 

「んー、寒い……」

 

「ちょ、え、なに? え?」

 

 ずいずいと引っ張られて気付けば、俺は完全に白葉に取り込まれていた。

 

「……んー、暖かい」

 

「あー、なんか……うん」

 

 男子高校生的な観点から言えば、すごく幸せな状況ではあるが、全く身動きが取れない。

 両手で結構強く、抱きつかれているのだ。まるで、縛られているかの如く。

 

 ……な、なら、嫌でも伝わってくる背中の柔らかいπの感覚に身を任せてもいいよな? いや、ダメか。

 

 そうして、なんと……二時間が過ぎた!!

 

「ただいま……って、喜一君……それは、その、どういう状況なのかしら?」

 

「ええ、はい。俺も疑問です」

 

「ん、お姉ちゃん? あ、喜一もいる」

 

「ずっと前からな?」

 

 そうして、ようやく解放された俺は一つの教訓を得た。

 

 白葉が昼寝をしている時は、安易に近づくのは辞めよう、と。

 ……まあ、美少女に抱きつかれるのはもちろん、嫌な気はしないけどね?

 

 

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