学園で有名な『氷』の美人姉妹を助けたくらいで、俺の平凡な生活は変わらない……と、思っていた。   作:沙悟寺 綾太郎

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第7話

 

「喜一。何か、言うことない?」

 

「え、ええっと……その、ですね? 言い訳をさせて欲しいんだけど……」

 

 夕食。

 圧倒的な不機嫌。隣の席の白葉は、夕飯の肉じゃがの人参を俺の皿に一つ、また一つと移してゆく。

 

 むむむ、人参の美味さが分からんとは、悲しいやつめ。

 

「どうかしたの? 二人とも」

 

「い、いえ、たいしたことでは」

 

 流石に、俺の口からは言いたくないぞ? 今日一日中、俺のパンツを見ようとする白葉から逃げ回っていたなんて。

 

「喜一。これも食べる」

 

「あ、うん。ありがと」

 

 次は玉ねぎが皿に入れられた。

 あれか。白葉は肉じゃがには、肉とじゃがいもだけさえあればいい派か。

 

「こら、白葉。行儀が悪いわよ」

 

「むむ。でも、お姉ちゃん。私、肉食系女子。がおーって感じで生きてる」

 

「へぇ、私が作った料理はそんなに美味しくないのかしら?」

 

「……た、食べる」

 

 おお。なるほど、流石の白葉とはいえ、銀花さんの圧力には勝てないのか。いい勉強になった。

 

「ところで、喜一君。どうだった? うちの学園の授業は」

 

「ええ、結構難しいですね。勉強を怠るとすぐに置いていかれそうです」

 

 平凡な生活から、置いていかれてしまうかもしれない。

 が、食堂や自動販売機は凄く面白い。おやつや軽食まで売っているのは感動した。

 

「編入したばかりは、骨が折れるかもしれないけれど頑張ってね。勉強で分からないことがあれば、私か白葉に言ってくれれば教えるから」

 

「はい、ほんとお世話になってます」

 

 うう……染みる。こんなにも綺麗な人にこんな風に言ってもらえるなら、どれだけだって頑張れそうだ。

 

「白葉は?」

 

「ん、ふつー。授業は半分寝てた」

 

 白葉は箸で摘んだ人参を鋭く睨みつけていた。

 じーと見た後で、鼻をつまみ、口へと入れる。なんとも、子どもっぽい所作だ。

 

「そうだ、喜一君。良ければ明日からお弁当を作りましょうか? 二人も三人もあまり変わらないし」

 

「い、いえ、そこまでお世話になるわけには」

 

 掃除や洗濯、料理も手伝おうとしても「喜一君はお客さんだから」と断られてしまう。これで、お弁当まで作ってもらうのは、流石に気が引ける。

 

「ぐふ……」

 

 鼻をつまみながら、人参を辛うじて飲み込んだ白葉はほっと息を吐き出してから、俺に顔を寄せてきた。

 

「……喜一。後で、部屋に行く」

 

 囁くように、耳元でそう呟いた。

 

「えー、と……まあ、いいか」

 

「ん」

 

 その後、夕食を平らげた俺たちは代わる代わる風呂に入る。

 一番風呂が白葉で、二番目が銀花さん。最後が俺だ。

 

「かぁー、疲れたー」

 

 浴槽に体を沈めると、体から力が抜けていく。

 実家では、丸い円形の浴槽だったからこうして足を伸ばせるのは新鮮だ。

 

 ささっと風呂から上がった俺は着替えて、自室へと戻った。

 

「……やはり、いたか」

 

「約束。パンツを見に来た」

 

 ベッドの淵に、長袖半ズボンのふわふわルームウェアを着た白葉が座っていた。足を組んでいるせいか、妙に白い肌が目立つ。

 

「そ、そうか。ちなみに、なんでだ?」

 

「今日、クラスの子達が話してた。パンツの種類でその人間性が分かるって」

 

 ……え、まじで? 絶対ガセだろそれ。

 とはいえ、最後まで話は聞こう。

 

「な、なるほど? だから、そんなに俺のパンツが……その、見たい、のか?」

 

「そう。それ次第で、喜一をどうするか決める」

 

「どうする……というと?」

 

 いまいち釈然としなくて、俺が尋ね返すと、白葉はこくんと頷く。

 

「ボクサーパンツはヤリチンと聞いた」

 

「……え、ええ」

 

 つまり、俺がもしボクサーパンツユーザーであるならば……うーん? 何をされるのだろうか。

 

 そんな疑問を察したのか、白葉がふふふと不気味に笑って見せる。

 

「去勢」

 

「ふぁ!!??」

 

 流石に重すぎないか!? まだファンタジー作品の魔王とか悪魔とかの方が慈悲深いぞ!

 

「男は狼を飼ってる。さらにヤリチンなら、お姉ちゃんが危ない」

 

「まあ、確かに言わんとすることは分かるけど……」

 

 というか、銀花さんのことは考えているのに、自分のことはあまり考えてなさそうなのが逆に心配だ。ほんと大丈夫? この子。

 

「むむ。喜一。何を渋ってるの? まさかボクサーパンツを履いてる?」

 

「いや、履いて……ん、あれ」

 

 そういえば、色々試そうと思って、前にモールで買ったんだよな。んで、昨日がトランクス、一昨日がブリーフだったから……ん、あれ、俺今……。

 

 ──罪の証明(ボクサーパンツ)、履いてるくね?

 

「……あ、もうこんな時間だー。学校で習ったことの復習をしないとー」

 

「そんなのは後、喜一。ズボン脱いで」

 

 ちっ、誤魔化せないか。ならば、奥の手を使うしかあるまい。

 

「白葉。俺は思うんだ。こういうのってさ、やっぱりフェアじゃないといけない。何せ、人の恥ずかしい秘密を知るのならば、自分も……」

 

「分かった。なら、私が先に脱ぐ」

 

「あ、あれ?」

 

 白葉は立ち上がり、寝間着のズボンに手を掛ける。そのまま、なんの躊躇もなく下に。

 

「えっへん。これでフェア。あとは……喜一、スケベ。見過ぎ」

 

「す、すみません」

 

 そ、そんなになんの躊躇もなく……もはや、尊敬してしまいそうだ。

 

「くぅ、もう逃げようがないか」

 

 さ、流石にもはや万事休すか。

 

「──喜一君。言い忘れていたことがあるのだけど、今いいかしら?」

 

 ん、おいおいこの状況この前もあったぞ? いや、もうなんだっていい! きっと救いの女神だ!!

 

「はい! 大丈夫……」

 

 ん、と俺は思い出したように白葉を見た。

 目の前には、パンツの少女。そして、動揺した俺。

 

「あ、いや、やっぱ無理です!!」

 

「ん? どっちなの?」

 

 落ち着け。落ち着くんだ俺よ。もしこの状況で、扉を開けられたならどうなる? 

 

 前回は白葉が自ら行ったことだから、無罪放免だったのだろうが、だが今回は違う。

 ある意味、俺がパンツを見せろと言ったに等しいのだ。

 

「白葉。一旦、な? と、とりあえずズボンを履いてくれ」

 

「やだ。喜一がパンツ見せるまでは着ない」

 

「ぐぬぬ」

 

 前門の虎、後門の狼か。

 俺は、ふっと笑う。

 

「……そちらが脱いだのならば、こちらの脱がねば、無作法というもの、だな」

 

「っ!」

 

 そう、俺はズボンに手を掛ける。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

 覚悟を決めた者に、もはや恐怖はなかった。

 しかし、残酷なことに俺の視界の片隅で、確かにドアノブが回った。

 

「何をしている……の?」

 

「あっ」

 

 俺がズボンを完全にずり下ろした瞬間、そう扉が開き、銀花さんと目が合った。

 

「これは……どういう状況?」

 

「え、ええ、と」

 

 あ、寒い。『氷』の姉妹って、そういうことだったんだ。とんでもなく冷たい目を向けられているぞ。

 

「とりあえず、二人ともリビングに来なさい」

 

「「はい」」

 

 俺と白葉はズボンを履いた後で、お縄についた。

 リビングへと強制連行だ。

 

「それで、貴方たちはまた、何をしていたのかしら?」

 

「えっとそれはですね?」「む、それは喜一の」

 

「分かった。一人ずつ、話してちょうだい。まずは、喜一君」

 

 弁解チャンス到来、激アツ演出だ。

 

「えーと、まず、ですね? その白葉が俺にパンツを見せろと言ってきたわけです」

 

「白葉、本当?」

 

「うん」

 

 よし、ここまでは大丈夫だ。

 

「それで、その、ですね? なので俺は提案したんです。見せろというならば、まずは自分から見せるのが礼儀なのではないかと」

 

「……えーと、喜一君? それは、冗談かしら?」

 

「ぐっ!」

 

 やばい、まずった。まずは、俺の考えを伝えた方が良かったか。

 

「いや! それはですね!? そう言ったら、白葉も引き下がると思ったからであって? 俺自身が白葉のパンツを見たいだなんて思ったわけではないんです!!」

 

「本当に?」

 

「ほ、本当です」

 

「嘘。喜一、私のパンツガン見してた」

 

「すみません! ガン見しました!!」

 

 事実ではある。実際、そりゃ見れるなら見てしまうというのが、男子たるものなんだ。

 

 リビングは一瞬、静かさに包まれる。そして、その後で。

 

「……ふふ、はは。貴方達ってほんと面白いわね」

 

「え、あれ?」

 

 銀花さんの反応は、俺の想像したものとは大分違った。

 

「喜一君。ありがとうね。白葉と仲良くしてくれて。でも、白葉? 貴女は少しやりすぎよ」

 

「ごめんなさい……でも、ボクサーパンツはヤリチンだって……」

 

「そんなの、嘘よ。あれは動きやすさを優先する人が履くことが多いの」

 

「……そう、なの?」

 

「ええ。お姉ちゃんがこれまで一度で嘘をついたことあった?」

 

「うぅ、お姉ちゃん……ごめんなさい」

 

 どうやら、事態は丸く収まったようだった。

 感動的だ、うん。昔見た、アニメ映画を思い出す展開。

 

「え、あれ……そもそもなんでこんなことになったんだ?」

 

 確かに、これで学校で『パンツ露出の真壁』なんて呼ばれずに済んだのだろうけど、冷静になってみれば、これって。

 

「結局、俺のパンツは見せ損か」

 

 気づいた俺は、そっとため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

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