忘れ去られたい青年の幻想入り   作:ohagi57

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日の光の下を共に歩こう

翌日。

陽の光が上がった時に目が覚めたが…フランちゃんはまだ寝ていた。

というか吸血鬼って昼間に行動するもんなのか?

 

「寝かせておこう…」

 

俺は静かにフランちゃんを俺の上から下ろし、俺が寝ていたベッドに寝かせて、毛布をかけた。

そして、静かに扉を開けて部屋から退室した。

 

「ふぅ…」

「おはようございます、天津さん」

「ぶっ!?」

 

急に後ろから声をかけられ、叫びを上げかけたが…我慢した。

 

「お、おはようございます…咲夜さん」

「ぐっすり眠れましたか?」

「それはもう」

「良かったです、それよりも凄く静かに部屋から出てきましたが何かありましたか?」

「あー…」

 

これって正直に答えていいものなのか?

フランちゃんが俺の寝ているところに来ましたって。

…でも後から変な誤解をされるよりかはマシか。

 

「…フランちゃんが昨夜に俺の部屋に来て俺の上で寝てたんですよ」

「!?」

「それでさっき静かに下ろして、それで部屋から出てきました」

「フランお嬢様は?」

「多分、今も静かに寝てます」

「…一応聞きますが、何もしてませんよね?」

「!!?」

 

一気に咲夜さんの周りから殺意が漏れ始め、気がつくと俺の周囲にナイフが貼られていた。

なんだこれ…幻覚か!?

 

「さ、流石に何もしてませんよ…!というか出来ませんよ…」

「何故ですか?」

「フランちゃんは確かに年齢は俺より上かもしれませんが、流石に会ったばかりの子に手を出すほど俺は外道じゃないです」

「…」

 

静寂な空気が俺たちの周りを漂う。

すると

 

――キィッ…。

 

「ん!?」

「おにい…さま?」

 

さっきまでいた部屋の扉が小さく開き、明らかに眠そうなフランちゃんがぬいぐるみを抱えながら姿を表した。

…可愛いな、手を出す気はサラサラないが。

 

「おはようございますフランお嬢様」

「咲夜…?」

「お聞きしますが…昨夜は何処へ?」

「お兄様の部屋…なんか眠れなかった」

「そうですか…それで何もされませんでしたか?」

「何もされてないよ?でも起きたらお兄様が居なくて」

 

俺はお兄様じゃないぞっていう訂正をするのはもう遅いか。

それとフランちゃんが俺が手を出さなかったことを公言したお陰で俺の周りを囲んでいたナイフは一瞬の内に全て消えた。

まるでそこには元々何もなかったかのように。

 

「…どういう原理だ」

 

目が覚めていきなりこれじゃあ流石に混乱する。

 

「それと天津さん、朝食がありますが頂いていきますか?」

「い、いいんですか?」

「構いませんよ。それにそろそろ皆さんも起きてくるころだと思いますし、私はレミリアお嬢様を起こしにまいります」

「…咲夜さん、こんなことを聞くのはアレなのですが…吸血鬼って夜に行動するイメージがあるんですがフランちゃんとレミリアさんは違うんですか?」

「ふむ…そうですね、実際に言うと夜でも行動するっていうのが正しいでしょうね。ですがフランお嬢様もレミリアお嬢様も朝は寝起きが悪いです。人間で言う朝が弱いってことですね」

 

なるほど、行動できるが朝に弱く行動するのが遅いってことか。

吸血鬼に対する考えは一種の偏見だったかもな。

 

「なるほど…すみません、変な事を聞いて」

「あ、ちょっとこちらからもいいですか?」

「はい?」

「そちらの世界の吸血鬼は夜のみ行動するんですか?」

「うーん…朝に行動するメリットがないから夜だけみたいな感じになってます。俺がいた世界と同じ感じであれば吸血鬼が日の下に出ると塵になって消えますし」

「お、恐ろしいですね…」

「実際はわかりませんでしたが、そういうイメージは定着してました」

 

なんて咲夜さんと吸血鬼談義をしていたら…廊下の先から美鈴さんとパチュリーさん、そして小悪魔さんが歩いてきたのでそのまま朝食を頂くことになった。

朝食は…如何にも朝食って感じだ。

パンや卵といった消化によく、朝食にピッタリなメニュー。

んで…横を見ると。

 

「んむ…んむ…」

「う~…」

 

めっちゃ眠そうなレミリアさんとフランちゃんが朝食を食べていた。

普通に可愛いな。

 

「ん”ん…」

「咲夜さん!?」

 

すると、咲夜さんの鼻から鼻血が少しこぼれた。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫です…」

 

忠誠心が鼻から溢れ出ている…いやまぁ、否定はしない。

実際、二人は滅茶滅茶可愛いし愛らしい。こういう姿の人形とか居たら衝動買いするほどに可愛い。

 

「…」

 

にしても…改めて俺に能力があるのは衝撃だった。

ただなぁ、妙に引っ掛かりがあるのもまた事実。俺の能力…というよりかは何かがまだ俺の中に眠っているのか?

 

「んん…」

「おっと!?」

 

もぐもぐと咀嚼していた眠そうなフランちゃんの手からフォークが離れ、倒れそうになった瞬間…フォークをキャッチしつつフランちゃんを受け止めた。

 

「あっぶねぇ…」

「おにい…さま…?」

 

うーん…変に起こすのもあれだしなあ…どうしようか。

なんて思っていたら

 

――コンコン。

 

とノックする音が聞こえた。

だがノック音は扉からではなく…この部屋の窓から聞こえた。

咲夜さんがその窓に近づき、カーテンを広げると…そこには浮遊している魔理沙さんが居た。

 

「んんっ!?ごほっげほっ!?」

「ま、魔理沙…!?」

 

俺は急な出来事に驚きすぎて喉に飯が詰まりかけた。

胸元をトントンと叩き、何とか呼吸を整える。

 

「よっ!咲夜」

「何してるのよ…」

 

咲夜さんは若干呆れつつも魔理沙さんに話す。

それに対して魔理沙さんは普通に元気そうだ。朝は強いんだな、魔理沙さんって。

 

「レミリアはまだ?」

「私はもう起きてるわよ?」

「え」

 

その声に反応して隣を見るとレミリアさんは確かに目がカッと開き、目覚めていた。

…先程の可愛い姿は何処へ?

 

「それはそうとこんな朝にどうしたの?」

「いや霊夢が宴会するってな」

「…絶対何かあったわね」

「いやまぁ…そうなんだが」

 

宴会…やべぇわかんねぇ。

宴会ってなんだ…!?

 

「紫が霊夢に『そろそろ宴会したいわねぇ~』って」

「それだけで霊夢が動くと思わないけど」

「天津の歓迎会を含めてやるっていうのもそうだけど、お賽銭してくって言った瞬間…霊夢の姿はそこにはなかったんだぜ」

「…なるほどね、それで何時からなの?」

「夕方からスタートするってよ」

「分かったわ」

「それと本を借りてくぜ!」

 

そういって魔理沙さんは箒に乗り直し、何処かへ飛ぼうとした瞬間…俺の動きの方が早かった。

俺はフォークを握りしめて

 

「お前は相手を拘束できる!」

 

そうつぶやいてから魔理沙さんにフォークを投げる。

投げたフォークは空中で変形し始め、手錠になり魔理沙さんの両手と両足を拘束する。

 

「何だぜ!?」

「よいしょっと!」

 

身動きが取れなくなった魔理沙さんを確認した瞬間、フランちゃんを静かに椅子に座らせてから魔理沙さんを回収して、部屋の中に入れる。

 

「おぉ…こういう使い方もできるんだな」

「いや天津!何するんだぜ!?」

「えーっと…じ、実験?」

「実験!?」

 

魔理沙さんは俺に抗議してくるが…許してほしい。

実験もそうなのだが、俺は紅魔館に恩を感じている。泊めてもらえたのもそうなのだが、朝食を頂いたんだ。

朝食の分はこれでチャラにしてほしい。

 

「咲夜さん、朝食の恩のお礼はこれでよろしいでしょうか」

「十分すぎるわ、ありがとう」

「今、私の事をこれって言ったか天津!?」

「しょうがないじゃないですか!魔理沙さんが一生返さないって聞きましたし、朝食を頂いたんですから!」

「じゃあ私も朝食を作るから拘束を解いてくれ!」

「…一応聞きますが何を作るんです?」

「ぐつぐつのキノコシチューだぜ」

「…それは後日頂きますので、今は我慢してください」

「むー!!」

 

めっちゃ俺に抗議の目を向けてくるが…許してほしい。

そうしてそのまま魔理沙さんはパチュリーさんと小悪魔さんに引きずられながら何処かに連れていかれてった。

 

「すみません…魔理沙さん」

 

俺は合掌しながら…魔理沙さんを見送った。

 

「天津、幻想郷に慣れてきたわね」

「そうなんですかね」

「十分よ。能力に慣れて、常識に縛られないような動きが出来ればね」

 

…まぁ確かに常識に縛られてなければこんな動きもできないか。

 

「けど、まさかフォークを拘束具にするなんて思わなかったわ」

「俺も反射的に動いたので…」

 

改めて思うけどフォークを拘束具にするってとんでもねぇ発想だな。

…もしかしてアレが出来るのか。

 

(理論上は鉛筆で三人を始末出来るのか…?)

 

なんて思いながら朝食を楽しんだ。

 

―――

 

それから…博麗神社に戻ろうとしたらフランちゃんに捕まって帰れず、二人で遊んだりした。

まぁ、弾幕ごっこだけど。

ただ…弾幕は打てなかった。弾幕を撃つ感覚も分からないし、どうやって打つのかもわからない。でも戦えないわけじゃない。

瓦礫でも石ころでも何でもいい。物を武器にしてしまえば攻撃手段になる。

そうやって何とか昼から夕方まで耐え続けた。

 

「はぁ…はぁ…疲れた」

「お兄様大丈夫?」

「まぁ…大丈夫だ。ただ能力に慣れないな」

「慣れない?」

「弾幕ごっこの中でどんな武器にするのか、どうやって攻撃するのか…あっちの世界じゃこんなこと考えなかったしね」

「そうなんだ~」

 

なんて話しながらレミリアさんの部屋にフランちゃんと一緒に向かう。

 

「あらフランと天津。ずっと遊んでたの?」

「うん!天津はずっと遊んでくれるし楽しい」

「そう…天津は?」

「楽しいぞ。こんな遊びなんて出来なかったしな」

「ふふっ、まるで兄妹ね」

「…それをフランちゃんの姉から言われるとめっちゃ複雑なんですけど」

「それもそうね。じゃあ早速だけど博麗神社に向かいましょうか、咲夜」

 

とレミリアさんが指パッチンをすると

 

「かしこまりました」

「!!?」

 

急に日傘を持った咲夜さんが現れた。

なんだそれかっけぇ!?

俺の中の童心が刺激されているうちに、美鈴さんとパチュリーさんと小悪魔さんも来て早速外に出ようとした。

すると、夕日の下に出ようとしたタイミングで咲夜さんは大きな日傘を取り出し、傘を広げた。

あぁそうか、吸血鬼だから日の光が苦手なのか。

塵になるかどうかはわからないが…苦手なんだな。

 

「では、行きましょうか」

「あ、待ってくれ」

 

レミリアさんの合図で全員が火の光に出るタイミングで俺はひとつ思いつき、静止する。

 

「天津、どうしたのかしら?」

「フランちゃん、レミリアさん。ちょっとお手を拝借しても?」

「?」

「どうしたの?」

 

俺はレミリアさんとフランちゃんに両手を伸ばす。

二人はすぐさま俺の広げた手を小さく握る。

それを確認した俺は二人の手を握り返し、こうつぶやいた。

 

「日の光を克服する身体と成れ」

「「!!」」

「ぐっ…!?」

 

そうつぶやいた瞬間、俺の身体から力がごそっと抜ける。

三割と三割で計六割…肉体強化はおおよそ三割くらいって考えておいた方がいいかもな。

 

「これで、どうですか?」

 

俺の言葉に反応したレミリアさんは恐る恐る日の光の下に腕を伸ばす。

 

「痛みを…感じないわ」

「えっ!?じゃあ…!」

 

その言葉に反応したフランちゃんは外に飛び出す。

すると

 

「ほ、本当だ!」

「やっぱり…他の物の強化も可能なら他の人の肉体を強化させることもできますよね…」

「凄いわね、天津の能力。でも…大丈夫なの?」

「半分以上は持ってかれましたけど、大丈夫です」

「じゃあ改めて、行きましょうか。咲夜、日傘は閉じて頂戴」

「かしこまりました」

 

そうして俺と紅魔館のメンバーと一緒に博麗神社に向かう。

 

「でも凄いですね。日傘もなく、レミリアお嬢様とフランお嬢様が一緒に歩いてるなんて」

「そうね…ある意味、二人の悲願でしょうし」

 

美鈴さんと咲夜さんはそう話す。

悲願…吸血鬼の弱点を克服する。特にフランちゃんはそうだろう。

日の下を歩けないせいで友達ができないなんてこともあっただろうし。

今だけは自由に歩かせてあげたい。

 

「ありがとうございます、天津さん。また助けられましたね」

「良いんですよ。それに…」

 

と言いながらレミリアさんとフランちゃんを見る。

 

「お姉様早く行こう!」

「ちょっとフラン!そこまで急かさないで!」

 

二人は吸血鬼だ。

本来は日の下を歩くことはできない。

でも、今の姿は…ただの二人の姉妹の戯れだ。

これが見えただけでも、俺にとっては十分だ。

時間も何もなかった俺にとってはな。




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