宇宙戦艦ヤマト・ガミラス外伝 第23植民工廠惑星戦線戦記。 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
拡大せよ‼︎…これこそが、我が帝国の国是であった。
総統アベルト・デスラーの鶴の一声で我等ガミラスは大マゼラン、小マゼラン、そして銀河系へと版図を広げた。
その裏では、技術の発展は続いていた。
今、小マゼランの片隅を航行する彼らの様な技術試験部隊は華々しい戦いの裏で、同胞の勝利に貢献している…。
数隻の小艦隊が、味方との合流を急いでいた。
ゲルバデス級戦闘空母を旗艦にした、クリピテラ級航宙駆逐艦3隻、ケルカピア級航宙高速巡洋艦2隻、デストリア級航宙重巡洋艦一隻という細やかな編成のこの小艦隊は第309技術試験部隊である。
その司令官であるフェムト・ブラウン技術中佐は、ゼルグート級一等航宙戦闘艦のエンジン出力を飛躍的に向上させる試験デバイスの輸送、試験運用のデータ取得を命令され、小マゼラン方面軍第六空間機甲師団、ガミラスの名将エルク・ドメル中将の元へ向かっていた。
フェムト
「全く、不機嫌な仕事だった…ゼルグートは遊覧船じゃないんだぞ、貴族の莫迦共め…。あれは巨大な大砲であり、破城槌だと言うのに、あんなに過剰に装甲を積みよってからに…だからあんな重くなって、艦隊運用にも支障をきたして、挙句こんな追加手術が必要になる。…まぁ艦隊旗艦としては良いのかもしれんが我が帝国軍の戦術には合わんよ。」
この若い技術中佐の経歴はこうだ。
元々は戦場畑の人間であった、だが彼の父、設計技師兼機関技術者であった父が突然開拓団を組織して、消息を絶ち、行方不明になり、この若い男は家業を継がねばならなくなったのだ。
家業を継いだこの男の最初の仕事は父のやり残していた戦闘空母、つまりゲルバデス級の設計、建造計画の指揮であった。
万能戦艦を目指して建造された本級であったが…空母としては中途半端、戦艦として運用するには火力不足、主砲に至ってもデストリア級の副砲程度しか無いのだ…尤も手数の面ではガミラス航宙艦の中でも随一の砲火力を誇る為実際の所は必要十分ではあるが、コストの割に合わないと言わざるを得なかった…。
技術局はゲルバデス級の少数生産、星系警備部隊向けへの配備を決定したが、父の事実上の遺作となった本級の評価を不服と捉えたこの男は他の艦には無い、長距離航行能力、単艦作戦実行能力を背景に評価見直しを要請、更に後ろ盾を得る為にヘルム・ゼーリック国家元帥以下旧貴族勢力と接触し、彼らの肝入り(そして戦場見物という酔狂)で建造計画が進んでいたゼルグート級の開発にゲシュ=タム(波動)機関の部門に参加し、彼らを満足させた事で、ゲルバデス級の再評価試験の後ろ盾を得たが…。
フェムト自身は、ゼルグートの性能に満足していなかったのだ。
重戦闘艦としては十分であったが、余りにも鈍重過ぎるこの艦を不憫に思い、それを改善するために出力増強デバイスを開発し、それを彼の乗艦ゲルバデス級「チューリンゲル」に積んでいる。
この出力増強デバイスをつければ多少の出力向上が期待され、多少なりの速度向上が狙えると言うものだ、このデバイスの有用性が証明され、今後建造されるゼルグート級に標準装備される事になれば、彼の実績にも繋がる。
?
「そして、ゲルバデス級の再評価も進む。そんな上手く行くとは思えませんがな?」
フェムト
「勿論、この仕事が終わったらゲルバデスにも手を入れるさ、軍主体で開発して、中止中の「ゲルバデスのそっくりさん」も私が面倒を見る事になりそうだし…何とかなると信じようよカイト副官。」
カイトと呼ばれたこの初老の副官はブラウン家に仕える一門の出身であり、代々軍人として造船技師として名家に名を連ねるブラウン家に仕えている。
カイト
「然し、一等航宙戦闘艦のゲシュ=タム(波動)機関増設デバイスとなるとやはりデカいですなぁ…本艦の格納庫がまるまる使う事になったせいで艦載機を全て下ろさねばならなくなりましたからなぁ…。…後些かこの艦速度が落ちておりますな、デストリアから移る時からも分かりましたぞ。」
フェムト
「うん、本当に重い…。早くドメル閣下と合流してコイツをくっつけてやらんとなぁ。ドメル閣下は山の如く構えるお方だが、先陣きって戦う猛将でも在られる、これでその辺の自由も効くようになるさ。」
カイト
「ドメル閣下とお会いするのは久しぶりですなぁ。ハイデルン大佐や、バーガー少佐、ゲットー少佐、クライツェ少佐も健在だと良いですなぁ?」
フェムト
「ああ、みんな生きてるさ。久し振りの同窓会と行こう。」
カイト
「ドメル軍団に戻りたいですか?」
フェムト
「それは無理だなぁ、父上のやり残した仕事、というより一族の家業がある。我がブラウン家は造船で財を成した、職人としてこの仕事は手放せないよ。」
だが彼らが第六空間機甲師団と合流する事は無かった。
この後ガミラス帝星より通信が入った。
フェムト
「受け渡し、及び改装作業中止とはどう言う事ですか?タラン国防相。」
ヴェルテ・タラン
「ドメル中将は、叙勲式の為帝都に召還され、帝星ガミラスに戻る事になったのだ。急な事ですまないが分かってくれ中佐。」
フェムト
「タラン閣下、我等309技術試験隊が寝ずに調整し、遥々小マゼランまで運んだコイツを倉庫の肥やしにしろと仰りたいのですか?」
ヴェルテ・タラン
「そうではない、あくまで延期だ。貴官らが休日返上で作業していた事は私も把握している。中佐、私もテクノクラートだ。悔しいのは分かるが理解してくれ。…それと貴官らはガミラス本星ではなく、とある場所に配置転換になった。」
フェムト
「配置転換ですか?」
ヴェルテ・タラン
「それに関しては、ガル・ディッツ提督から説明してもらう。」
通信パネルにディッツ提督の顔が映る。
フェムトとカイトはガミラス式の敬礼をすると相手も返してきた。
フェムト
「閣下、配置転換とお聞きしましたが。」
ガル・ディッツ
「うむ、第六空間機甲師団を配置転換せよと総統からの御命令があり、代わりの戦力を動員したのだが、幾つか穴が出来てしまってな、星系警備部隊を各所に回したが、とある星系に回す戦力が足らなくなってしまい、然もこの地も重要な要所ときてな…ある程度実績のある指揮官が率いる部隊に守らせたいと思ってな。そこで貴官に頼みたい。元ドメル軍団幕僚の貴官にな。」
フェムト
「閣下、お言葉ですが、私が前線を離れて二年は経ちます。更に我が309技術試験隊の戦力は余りにも貧弱で星系警備艦隊以下です。」
ガル・ディッツ
「分かっている、故に幾つかの独立部隊を合流する手筈を整えた。貴官は現地にてこれら部隊を吸収し、独立混成部隊を組織して、同地の防衛に勤めてもらいたい。」
フェムト
「戦力を増強して下さるなら…分かりました。して何処を守れば宜しいのか?」
ガル・ディッツ
「第23植民工廠惑星だ。」
フェムト
「何と…あの地はガミラスの技術的分野に於いて最重要拠点ではありませんか‼︎それを独立混成部隊だけで守れと?」
ガル・ディッツ
「落ち着け中佐、ガトランティスを警戒しているなら、その心配はない。ドメルが本国に戻る前に完膚なきまでに奴等の尖兵を叩き潰しているし、国境線を守る部隊もそれ相応の戦力を回している。そうそう貴官の守備範囲には入ってはこんよ。」
フェムト
「はぁ…。」
ヴェルテ・タラン
「それに貴官にとっても悪い話ではない。第23植民工廠惑星はゲルバデス級の設計に関わった軍事企業が存在しているから君とも関係が深い者も居るだろうし、何より今貴官の手にあるゲシュ=タム(波動)機関出力向上増設デバイスの試験運用も出来る環境が整っている。」
フェムト
「と言いますと?」
ヴェルテ・タラン
「実はあの星には軍から委託されて建造途中のゼルグートが一隻いる。その艦を君の管轄に回すと言う事でどうかな?」
フェムト
「ここまで仕事場を整えてくれると言うのであればお引き受けしない訳には行きますまい、因みに…ゼルグートはどの程度建造過程は終わっているのですかな?」
ヴェルテ・タラン
「先日の報告では30%程だな。」
フェムト
「前言撤回致します。タラン閣下、まさか私にゼルグート建造の指揮も取らせるおつもりですな?民間企業はあの馬鹿でかい戦艦を建造するノウハウは有りませんから現地で指揮する人間が必要になったからついでに片付けてしまおうと…!」
タラン国防相は少しバツの悪い顔をしていた、どうやら図星らしい。
ディッツ提督が咳払いをしたので、一旦フェムトも黙った。
ガル・ディッツ
「兎も角、命令は伝えた。つつがなく遂行する様に。」
フェムト
「ザ・ベルク!」
ディッツ提督は通信を切った。
ヴェルテ・タラン
「…ハァ、頼むからそうむくれないでくれるか?おそらくこの人事は一時的だ。技術者としての本文に戻るのもそう遠い話じゃないんだぞ?」
フェムト
「そうは言いますがね、先輩。流石に急すぎますよ。全てが、一体何が起きているんですか?銀河系方面で何か宜しくない事が起こっているとは聞いていますが?」
ヴェルテ・タラン
「すまないが今は、詳しく話せないんだ。悪いが今はそれで納得してくれ。」
フェムト
「先輩、私は「元」ドメル軍団幕僚ですよ?多少は察しがつきます。テロン、窮鼠と化しましたか…?」
ヴェルテ・タラン
「…はぁ、エルクといい、お前といい、どうしてこうドメル軍団の連中は勘が良いんだ。そうだ、連中はどう言うわけか、突然、恒星間航行技術を完成させ、テロン製ゲシュ=タム(波動)機関を積んだ一隻の戦艦が…いやこれ以上はまだ機密だが、後は察してくれ。」
フェムト
「…ふぅ、分かりました。勝負は水物、こう言う事もございましょう。我々は第23植民工廠惑星へ向かいます。」
ヴェルテ・タラン
「うむ、頼むぞ、ブラウン。」
通信を終えると、フェムトは艦長席に座り込んだ。
カイト
「タラン閣下とは、士官学校の先輩後輩の関係でしたな?」
フェムト
「向こうは何期も前だが、既に一流の科学者として名声を馳せていた奴さんがウチの学校に来た時に知り合って、公私共にちょっとした世話になってるって感じだな。…さっきは悪い事をしたなぁ…。遠路遥々航海したのが無駄になったのが気に入らなくて少し拗ねてしまった。」
カイト
「温厚な方ですから、許して下さいますよ。私はデストリアに戻ります。」
フェムト
「うん、了解した。第309技術試験隊各員に達する、軍本部の命令により、我々は第23植民工廠惑星に配置転換、同地の警備、及び同地での本来予定されていたゲシュ=タム(波動)機関出力向上増設デバイスの試験運用とその準備作業に掛かる。」
309技術試験隊が進路を変え、航海を始めて少し経った頃、自体は急転直下を迎えた。
アベルト・デスラー総統が暗殺されたというのだ。
秘密裏に銀河系方面軍本拠地バラン星への視察に赴く際に乗艦であったゼルグート級二番艦デウスーラ二世が機関暴走を起こし、護衛艦を巻き込んで爆沈、その犯人として、ディッツ提督とドメル中将が逮捕されてしまい、ドメル中将は死刑を言い渡され、ディッツ提督は監獄惑星レプタボータに収監されてしまったのだ。
ガミラス国内は大いに混乱し、それは軍部も同じであった。
309技術試験隊は外洋にて作戦を行う部隊である為、当然ディッツ提督の管轄内でもあったが、技術試験部隊という事もあり、技術局の長官であるヴェルテ・タラン国防相も命令権を持っていた。
兎も角第23植民工廠惑星に向かい、待機せよ、と命じられた309技術試験隊は事態が全く飲み込めないまま、任地に就く事になった。
フェムト
「何がどうなってるんだが…。」
カイト
「まだ他の部隊は到着していない様ですが…。」
通信士官
「レーダーにゲシュタム・ジャンプ(ワープ)アウト反応を検知‼︎」
フェムト
「味方か?」
通信士官
「いえ…これは…識別信号赤‼︎敵です‼︎ガトランティスと思われます‼︎」
カイト
「バカな‼︎国境の装甲師団を破ってきたというのか‼︎」
フェムト
「数は?」
通信士官
「12〜、いや15隻、艦種特定、ラスコー級突撃型巡洋艦5、ククルカン級襲撃型駆逐艦10!」
カイト
「我が方の二倍ですな。」
フェムト
「だが、連中、旗艦となるべき、ナスカ級空母も居なければ、ゴストーク級ミサイル戦艦も居ない…。見たところ逸れと見るべきだろうな。こちらは数の上では劣勢だが、火力の上ではこちらが優勢だ。砲戦甲板開け、全艦魚鱗体形を取り、敵艦隊中央を突破するぞ。」
カイト
「私はデストリアに戻ります!左翼は私が!」
フェムト
「ああ、頼んだ!」
通信士官
「敵艦隊向かってきます‼︎」
フェムト
「各艦、各砲座、敵艦隊中央に照準合わせ、一斉射後に突進するぞ‼︎」
通信士官
「有効射程距離迄、5(ガル)、4(ジー)、3(ネル)、2(ベオ)、1(アル)…」
フェムト
「撃て‼︎‼︎」
ゲルバデス級先頭空母の正面火力は大口径砲が無いにしてもその砲門数は50門以上。
正に弾幕を持って敵を圧すると言う意味ではこの艦の戦闘能力は戦艦と一切遜色無い。
そしてフェムトの読みは当たり、敵は敗残の逸れ艦隊であった。
中央に風穴を開けられたガトランティス艦隊は一切の統率も取れず、四分五裂。
カイト
「撃て!逃すなよ、魚雷も叩き込んでやれ‼︎」
デストリア級以下309技術試験隊の水雷戦隊は残敵を全て追討した。
一切の損失無く、全艦集結したのは戦闘が始まって僅か30分後であった。
フェムト
「まぁ、敗残の兵ならこの程度よなぁ。」
カイト
「寧ろ、この地まで逃げて来れたこと自体が彼らにとって僥倖でしょうな。」
フェムト
「本当に逃げて来たのかすら怪しくなって来たなぁ…国境線の部隊に警告を送ろう。」
通信士官
「後方よりゲシュタム・ジャンプ(ワープ)アウト反応、今度は友軍です。」
編成はそれなりに違いがあるが、独立小艦隊が4個艦隊程、ワープアウトして来たのだ。
フェムト
「これらを指揮下に入れて戦う訳か…まぁ警備艦隊よりはマシな戦力ってところか。」
後にこの309技術試験隊を基軸に新生第六空間機甲師団が組まれ、その中核を担う部隊と将がこの場に集まったのだが、それはまだ先の話である。