禪院直哉成り変わりー禪院家が壊滅しないよう色々頑張ってみるー   作:AKHT‐47

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二話振りに直哉の出番。宿儺と爺ちゃんと悠二の絡み書こうと思ったら凄い筆乗っちゃった…
基本的に土日に書き溜めてますがコメント欄に精度の高い予言者がいて怖いです。


恵君と津美紀ちゃん

 羂索という千年の呪いを札束と暴力でねじ伏せてから、数日が過ぎた。呪術界の裏側では、羂索と内通していた上層部の腐敗した幹部たちが次々と名目上は「不慮の事故」で消えていくという、俺による血の入れ替え作業が着々と進んでいた。体制側でありながら呪詛師に与するような連中を始末する事に特に心は痛まなかった。何より甚爾君が横にいるし。

 

 そんな俺には今、自分の隣にいる男に果たさせなければならない「責任」があった。

 

「……嫌だ。絶対に嫌だ。………まだ後遺症も残ってるし。」

「嘘吐けい。家入ちゃんは驚異的な回復力、もう殆ど治ってる言うてたで。」

 

 高専の自室。あの一戦で負った傷を家入ちゃんに治してもらった甚爾君が、ベッドの上で丸くなって駄々をこねていた。相手は、千年呪いを振りまいた不幸の元凶を屠った「術師殺し」だ。それが今、小学生が登校拒否をするような顔で俺を睨んでいる。

 

「何言うてんの。成功報酬の1億、もう口座に振り込んだやろ。星漿体護衛任務の時に渡した8億だってまだ幾らか残ってる筈。なら、次は『仕事』以外の誠意を見せる番や」

 

「誠意ね………んなもん、俺の辞書にはねえよ」

「ハァ…あんたが蒸発して、パチンコだのボートだのウマのレースだのに明け暮れてる間に、向こうにはあんたが捨てた『家族』がおるんや。……恵君と、津美紀ちゃん」

「………誰だっけ」

「誤魔化すのが下手やな。六眼も天与呪縛で底上げされた五感もない俺でも分かるくらい」

 

 うっせーと甚爾君は誤魔化したが、恵、という名前を出した瞬間、身体が僅かに強張ったのを、俺は見逃さなかった。原作では死に際に悟君に託しただけの、彼にとって唯一の心残り。それを、生きているうちに、自分の言葉でカタを付けさせる。それが俺が彼を買い取った「真の目的」の一つでもあった。

 

 「……今更あいつらに合わせる顔がねえ。あいつらにとっても俺なんかいない方が幸せな筈だ」

「そんなん、あんたが決めることやない。……ええか、甚爾君。あんたは最強の怪物やけど、一人の人間として、あまりに逃げすぎや。俺が背中押したるから、子供達に会いに行くんや。二人が住んでるボロアパートの位置も把握しとる。あんたも行けば思い出すやろうけど。全く、あんたが二人捨てたせいで数少ない貯金を小学生だけで切り崩して生きてたんやで?もう逃げるのはナシや」

 

 甚爾君は強靭な肉体に対して心の強さには問題がある、まあそこもある意味可愛げがあるのだけど。俺は抵抗する暴君を、投射呪法の加速を併用した強引な力で引きずり出し、車に乗せた………まあ本気で抗うなら俺が力負けするだろうし何だかんだ会う気はあるんだろう、多分。

 

◇◇◇

 

 都内、閑静な住宅街。  一軒家のリビングで、幼い伏黒恵と伏黒津美紀は、突然現れた「父親」を前にして、石のように固まっていた。

 

「……」 「……」

 

 沈黙が痛い。あれほど戦場では饒舌に、傲岸不遜に敵を煽る男が、今は居心地が悪そうに視線を泳がせ、座布団も敷かず木造建築の冷えた床の上で縮こまっている。その姿は、フィジカルギフテッドの威厳など微塵もなく、ただの「逃げ癖のあるダメ親父」そのものだった。

 

「……あー、なんだ。……元気、だったか」

 

 絞り出すように出た第一声がそれかよ、と俺は背後で頭を抱えた。恵君は、冷めた、どこか甚爾君の面影を感じさせる鋭い瞳で、実の父親をじっと見つめている。

 

「……誰、この人」

 

 恵君の短い一言。甚爾君の肩が、目に見えてビクッと跳ねた。特級呪具を向けられるより、よっぽど効いているらしい。本当に覚えてないのか、反骨精神から拒絶しているのか…両方だろうか。

 

「恵、やめな。……お父さん、久しぶり………」

 

 姉の津美紀ちゃんが、困ったような、それでもどこか期待を込めたような笑顔でフォローを入れる。その優しさが、逆に甚爾君の罪悪感を抉っているのが分かる。

 

 「あーそういうことね、俺達を捨てたロクデナシか。今更何の用だよ?ていうか後ろの人は?」

「恵!そういう言い方は、」「姉ちゃんは甘いんだよ」

「まあまあ落ち着いて二人共。恵君、俺は君達のお父さんのスポンサー…は子供にはちょっと難しいか。一緒にお仕事してるもんや。金が出来たから、そろそろ子供達と向き合えやって背中押しに来たんや」

俺は自己紹介も兼ねつつ

「お、おう。……そういうことだ、一応な……………悪かった。ずっと、ほったらかしにして」

 

 長い間があったが、甚爾君が、恐らく生まれて初めて「謝罪」という呪文を口にした。彼は膝に手を置き、子供たちの目を見ようとして、やっぱり目を逸らした。あの「天与の暴君」が、怯えている。自分の過去と、自分が捨てた命の重さに。

 

 「直哉、もういいだろ。帰るぞ。俺は、これ以上こいつらに何を言えばいいか分からねえ」

「アカン。逃げんな。あんたはこれから、子供達と一緒に過ごすんや。億単位の金があれば、一生働かずに過ごす事も、恵君を聡く強い術師に育てることも、津美紀ちゃんを幸せにすることもできる。……あんたには、その親としての責務があるんよ」

 

 俺は甚爾君の背中を、ドンと強く叩いた。甚爾君は、数分間の長い沈黙の後、ようやく恵君の正面に膝をついた。

 

「……恵、それから津美紀。お前には、いろいろ迷惑をかけた。……今更、父親面するつもりはねえ。だが、これからは……少なくとも、腹を空かせるような真似はさせねえ。……だから、その、なんだ。……一緒に、暮らすぞ」

 

 不器用で、身勝手で、それでも彼なりの精一杯の言葉だった。  恵君は、しばらく父親の顔をじっと見ていたが、やがて小さく溜息をついた。

 

「……お金は、ちゃんとあるの? 借金とか、してない?」

「……ああ。そこにいる金満坊主(直哉)から、アホみたいな額をせしめた。一生遊んで暮らせる」

「……じゃあ、いいよ。とりあえず、ご飯くれるなら」

 

 恵君の現実的な返答に、甚爾君は拍子抜けしたような顔をしたが、すぐにホッとしたように口角を上げた。

 

「……よし、決まりだ。津美紀、恵。今日は、直哉の奢りで美味いもんでも食いに行くぞ。何がいい?」

「「ハンバーグ!」」

 

 子供たちの元気な声。甚爾君は立ち上がり、俺の方を向いてニヤリと笑った。俺も今までの環境のせいか大人びている子供達の年相応な側面に思わず綻んでしまうが…

 

「聞いたか、直哉。ハンバーグだ。……おい、時雨も呼んでいいか? あいつも最近、食い詰めてたからな」

「……なんで俺の奢り前提なん。あんた今9億くらい持ってるやろ」

「バカ言え。俺の金は、俺がギャンブルに使うための軍資金だ。……さあ行こうぜ、坊ちゃん。今日も限度額まで使い倒してやるよ」

 

◇◇◇

 

 甚爾君は、もうすっかりいつもの調子に戻り、津美紀ちゃんを肩車し、恵君の頭を乱暴に撫でながら歩き出した。高級レストランのテーブル。甚爾君はメニューを端から注文し、さらに時雨さんまで呼び出して、「これ、また直哉の奢りだから!」と、親友の為にワインのボトルを何本も開け始めた。酔えないから彼自身は酒を飲まないし自分の金では絶対に奢らないのだが、俺を通すとこうも時雨さんに気の良い親友仕草をする…調子いいでホンマ。

 

「……あのおじさん、あれ(・・)が本当に僕たちの父親なの?」

 

 恵君が、山盛りのハンバーグを前に、酒を呷ってる友と一緒に大笑いしている甚爾君を冷ややかな目で見ている。

 

「これでもまだ16やからおじさんはやめてな?………残念やけど、あれが君達のパパや。まあ、金の事は仕事仲間の俺が何とかするから安心してええよ」

 

 俺は、財布の中身やクレジットカードの残高を計算しながら溜息をついた。天与の暴君、呪術界最強の刺客。その実態は、子供たちさえ引かせるほどの、救いようのないロクデナシだった。だが、父親の楽しそうな笑顔を見て笑う津美紀ちゃんと、呆れながらも食事を口に運ぶ恵君。

そして、晴れやかな顔をした甚爾君と時雨さん。俺の札束が、この光景を買えるのなら安いものだ、と俺は心の中で己に言い聞かせながら、自分もハンバーグを口にした。    




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