禪院直哉成り変わりー禪院家が壊滅しないよう色々頑張ってみるー 作:AKHT‐47
虎杖家では今日も仲陸まじく一人の翁と一人の幼子の二人、正確には幼子の中にいる「呪いの王」の三人がテレビを流しながら夕飯にありついていた。
「次のニュースです。県内、北上市周辺の公立学校において、先週から児童・生徒が相次いで行方不明となる事件が発生しています」
「警察によりますと、昨夜、新たに北上市内の小学校に通う四年生の男子児童が、放課後の校内で行方が分からなくなっていることが分かりました。現場の教室には児童のランドセルが残されており、争ったような跡は確認されていないということです」
「北上市周辺では、今月に入ってから同様のケースでこれまでに計3名の児童・生徒が姿を消しており、警察は事件と事故の両面で捜査を進めています。また、近隣の教育委員会は、不審な影を見かけた際は決して近づかず、直ちに大人へ知らせるよう注意を呼びかけています」
「はい。現場となった小学校では、本日の登校時間に合わせて警察官による巡回が行われています。保護者の一人は『まさかこんな静かな場所で……。子供を一人で歩かせるのが怖い』と、一様に不安な表情を浮かべています。現場の学校付近では、特定の時間に『奇妙な異臭がした』という証言もあり、警察が詳しく状況を調べています——」
「………」
悠仁の横顔から目と口を出現させて夜のニュースに視線を向けていた宿儺は含みのある無言の圧を発していた。
「なんだ宿儺。今のニュースに興味でもあるのか?」
宿儺が食事の時以外で目と口を出現させるのは珍しい。人前では目立たぬ事という約束もあるので外では当然やらない彼だが。倭助はこういう事件はよくある事、昨今は物騒になったなどと俺の同年代は嘯くが昔の方がよっぽど事件は多かったぞなどと老人語りをするが…
「いなくなっちゃった子…大丈夫かな」
虎杖は生来の優しさからニュースで語られていた行方不明の児童の安否に想いを馳せていたが…
「恐らくもう死んでるだろうな」
「えっ………」「これ宿儺!」
倭助は何を縁起の悪い事を、悠仁が傷付くだろうと怒った。
「すまんすまん、つい忌憚のない意見を述べてしまったが、残念ながらこれは事実だ」
「どういうことだ………?」倭助は初めて出会った時のように、宿儺に質問しその真意を求める。
「先程の事件の原因は十中八九「呪霊」の仕業だろう」
「呪霊…?」「気色の悪い人を食うバケモノだよ!普通の人には見えないんだ」
勝手に外出した時にそれと出くわした事のある虎杖が興奮して声を荒げる。
「そうか………」「なんだ、そんな非常識な存在いる訳ないと否定するかと思ったが」
宿儺は倭助があまりにも素直に呪術の条理を受け入れ、順応した事に意外さを覚えたが、彼は息子の嫁やオマエの存在で非科学的なものには慣れてると返され確かにそうかと腑に落ちた。
「ねぇ宿儺。またあの時みたいに呪霊を倒せないかな?そうしないとまた………」
「奇遇だな。俺もそうしたいと思って………」
「待て、あの時とは一体どういうことだ?」
勝手に話を進める二人に倭助は怒気を発する。以前にもその人を喰らうという危険なバケモノと相対したのかと、心配からくる怒りを向けた。
「あっ、一回だけだって!前に俺が勝手に外出た時に襲われて………宿儺が変身して助けてくれたんだ!」
「変身…?」「俺の生前の姿に一時的に戻っただけだ。そうしなければ、俺諸共小僧は死んでいたからな」
「そうか………宿儺には迷惑を掛けたな」「素直に感謝を向けられるというのはむず痒いな」
宿儺は「片割れ」の感謝と謝意に何とも言えぬ感覚を味わった。
「でも駄目だ、オマエ達を危険なバケモノとみすみす戦わせるなど家族として許可する訳にはいかない。もし何かあったら仁と香織に顔向けできんわ」
「クハッ、呪いの王と呼ばれた俺も低く見積もられたものだ。俺が負ける心配をされるとはな………」
宿儺は倭助の心配を愉快そうに嗤う。
「俺もそこいらの呪霊被害など興味はないが、今回は特別だ。お前が反対しようと勝手に行くぞ」
「何故だ、せめて理由を説明しろ!」
「あの行方不明事件があった学校で暴れてる呪霊は、恐らく俺の”魂”の欠片を取り込んでいる。俺はそれを取り戻したい。」
宿儺の見立てでは、学校に置かれていた「魔除け」として置かれていたのだろう「宿儺の指」が己の受肉を切っ掛けに「共振」し、呪霊を引き寄せ強化する「呪物」となってしまったのだろうと。
幼児の身に受肉し力の弱かった頃はまだ良かったのだが、奥の手の「受肉の再開」を使った事がトドメとなって呪物を活性化させたと宿儺は考えていた。
「オマエ…魂が欠けているのか…?それも香織の中にいた奴の仕業なのか?」
「羂索のことか?まあ奴が俺の魂を20に分けたというのはその通りだが」
宿儺の魂が分割されたのは彼が余りにも強すぎたからそうせざるを得なかったからでしかなかったのだが、倭助はそれを別の意味で捉えていた。主に被害者的な意味で。まあ呪術界の事をまるで知らない彼からしたら魂を切り離されたと聞いたら物騒な想像をしてしまうのは仕方ないだろう。
「ハァ…あらぬ憶測で同情するのは勝手だが、とにかくそういう訳だ。お前が止めようと、」
「………良いだろう、その代わり条件がある」「なんだ?」
止められたら変身を使ってでも無理矢理押しのけようとも考えたが、弟への義理を通す為に、宿儺はその条件とやらを聞いた。
「俺も連れていけ。そして俺の見える範囲から離れない事、これは保護者としての俺の責務だ」
「チッ、呪術の扱えぬオマエがいても足手纏いだがな………いいだろう」
「久しぶりに宿儺の変身が見られるのか!楽しみだなあ!」
悠仁はさながらヒーローショーにでも行く子供の気分だ。お気楽なものである。
「あの学び舎はここから近いな………歩いても数十分で辿り着くだろう」
「まさか今日いくつもりか?」「別に後でも構わんのだがな、放置すれば死人が増えるぞ?」
宿儺は倭助の良心に訴えて要求を飲ませた。
………
オレンジ色だった空はとっくに深い紺色に溶け落ち、北上市の街並みは街灯の淡い光に縁取られている。ニュースで流れた「神隠し」の影響か?件の学校付近を歩く者は誰もおらず、いつも以上に人影は疎らだ。悠仁は、倭助のごつごつとした大きな手をしっかりと握りしめ、冷たくなり始めた夜の空気を思い切り吸い込んだ。
「着いたな」「な、なんだこの面妖な………」
宿儺とは魂の双子であるとはいえ脳の構造が非術師のものである為に呪術を扱えない倭助でも、事件のあった学校が放つ異様な気配を察知していた。常人が入れば間違いなく死ぬ、地獄の門の前に立った気分だ。
「やはり駄目だ!呪術とやらを知らないワシでも分かる、ここは危険………おい!」
倭助の心配をよそに悠仁と宿儺は楽々と屏を乗り越えて校舎へと向かっていく。さながら遊びや散歩にでも行くような軽さで向かっていく。
「俺達が心配なら付いてくることだ。保護者なのだろう?」
宿儺は悠仁の顔でニヤニヤと笑いながら弟をおちょくる。
「ええい………」
倭助は老体に鞭を打って、えっちらおっちらと屏を無理矢理乗り越えた。
◇◇◇
夜の学校、呪霊共の狩場に侵入した三人。まあ「呪いの王」がいる為に今からは呪霊が狩られる側になるのだが…外で感じた異様な妖気の反面、建物の内側は一見するとなんの変哲もない、ちょっと不気味なだけの普通な様に倭助と悠仁はあっけにとられた。
「さて、どうやってゴミ共を始末するか…」
「汚い言葉使いをするな…」「こんな時まで説教か…まあ気を付けよう」
呪力を放出して潜伏してる呪霊を引き寄せるか…いやそれでは面倒だと考えた宿儺は一つの案を思い付いた。
「小僧、以前呪霊を倒した時のように、俺と入れ替わる許可をしろ」
肉体の主導権は基本的に虎杖悠仁にある為に、これは呪術的に必要なプロセスである。
「待ってました!またヒーローみたいな活躍見せてくれよ!」
悠仁は内に潜み、顔に宿儺の紋様が浮かんでいく。宿儺は以前のように服を脱ぎ捨て、今回は事前に用意しといたバスタオルを身に纏った。そして…
シューッ
「!!」我の強い倭助でも一瞬面食らってしまった。両面宿儺、その「真の御形」に。
(確かに…これでは呪霊というバケモノにも負ける筈がないか…)
呪いを知らぬ老人でも即座に理解させられる、その圧倒的な強さ。布切れで下半身を隠す様はさながら仁王像やギリシャの神々を想起させる。
「………この姿、やはりお前から見ても醜いか?」
宿儺は一瞬ギョッとしていた弟に冷ややかな目を向ける。
「フン、オマエが生きてたという1000年前と違って、昨今ではやれジェンダーやら多様性やらを訴える社会だ!今更見た目如き気にするか………」
顔立ちはどことなく俺や仁に似て精巧だなと、ちょっとした冗談を放った倭助を、宿儺は笑い飛ばしながら己惚れるなと返した。
「さて、この姿でいられるのも長くない…この学び舎にどれだけの呪霊がいるかも分らんからな………」
宿儺は一瞬で事を片付ける為に、ある策に打って出る。上の手と下の手、二対でそれぞれ特殊な「掌印」を結び………
「「領域展開 伏魔御厨子」」
宿儺が二つの「閻魔天印」を結び二つの口で「詠唱」を行った刹那、口膣のついた神社のようなお堂が彼の後ろに顕現する。彼の数少ない趣味である「食」への執着を表した心象風景なのだが、
『グギャアアア!!』領域が構築されて間もなく、学校中の潜伏していた呪霊が悲鳴を上げ、消失していった。
短い制限時間の中、「領域展開」を使うのは中々骨の折れる手段だった。そこで宿儺は「建造物をそのまま結界に転用する」ことで術の負担を減らす、「本来無機物すら対象とする領域の必中効果を呪力のあるものに絞る(倭助は高度な結界術の運用により必中効果の対象外としている。呪力のないものを対象外にしたのは他者に迷惑を掛けない、目立たないという約束の為でもある。結界の足し引きも同時に出来て一石二鳥)」、「二対の手と口で絶え間なく掌印と詠唱を続ける」などの即席の「縛り」で領域を成立させた。縛りを結ぶのが上手いのは流石呪いの王と言ったところか。
「呪霊共の呪力の反応はない、これでこの建造物内の呪霊は全て狩り終えた。あとは指の呪力を辿って俺の魂の一部を取り戻すだけだ」
役割を終えた宿儺は悠仁の姿へと戻っていく。
「カッケー!領域展開ってなになに!?必殺技みたいなもん!?」
「まあ、呪術戦の極致とも呼ばれるからその認識で間違ってないが」
「俺も使えるようになるかな!?」「それは今後のオマエ次第だな」
宿儺は興奮さめやらぬ悠仁を適当に受け流し、指を探してさっさと帰るよう促した。
「………」
倭助はただ無言で呪いを宿す孫を見つめていた。
(香織に宿っていた羂索とかいうやつ………こんな危険な術を扱える人間を悠仁に宿したのか!?)
宿儺も羂索の被害者なのだろうと勝手に解釈し育てると決めた彼も、流石に今回の事態を目の当たりにして動揺を隠せなかった。
「倭助よ」そんな弟の様子を薄々察した、宿儺は声を掛ける。
「俺が恐ろしいか?」倭助はどことなく感じた。返答を間違えれば、お互いの何かが壊れてしまいそうだと。
「フン………オマエと悠仁………呪いとやらを背負ったオマエ達を………普通に、人並みの幸福を噛み締めて生きられるように育てていこうと思っただけだ」
「………ケヒッ、それでこそ………だな」(俺の片割れよ)
宿儺は、弟の答えに心底満足した。勿論、忌避感や恐怖は当然あるのだろうということは分かっている。だからこそ気に入った。それでも尚、俺達を「人」として育てると言うのだから。
「宿儺、前から思っていたが、その下卑た笑い方はやめろ」
「ククク、先程の
「面白いではない、それから、老人を敬え」
「どういうことや………」
岩手県北上市で起きた不審失踪事件、「窓」により呪霊の「残穢」も確認された事から「呪術高専」の術師も当然派遣されたのだが………
「呪霊が綺麗さっぱりいない。それから正体不明の残穢…高専が把握してない在野の術師が闘ったんか?」
だとしたら相当なお人好し、慈善家だと「一級術師」の「禪院直哉」は独りつぶやいた。
不味い、悠仁と宿儺と爺ちゃん書きたい病が…誤魔化す為に主人公を添える。
話は逸れますが、双子は呪術的に同一人物判定で相互に作用、引っ張り合う…
もしかして宿儺は弟の爺ちゃんの善性に引っ張られてるのも良面宿儺化した原因の一つでは?と今更腑に落ちる解釈をしました。