禪院直哉成り変わりー禪院家が壊滅しないよう色々頑張ってみるー   作:AKHT‐47

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定期的に岩手の三人家族描きたくなってしまう。


どこまでも人間

 北上市の虎杖家。午後の日差しが、カーテンの開けられた窓越しに木の模様の床を照らし、黄色がかった四角い光の模様を描いていた。幼子の「虎杖悠仁」は今日も、祖父の「虎杖倭助」の帰りを健気に待っていた。以前は一人寂しくなる事もあったが、今では内に「宿儺」がいる為に、孤独に苛まれる事はなくなっていた。

 

 以前勝手に外出したのを怒られてからの悠仁の日課である時間潰しはテレビの鑑賞だ。いつものようにちゃぶ台の前に座り、古びたブラウン管に釘付けになっていた。画面には、歌って踊る着ぐるみの動物たちが、ひたすら数字を数えている。

 

「いち! にい! さん!」 「宿儺、これ面白いだろ?」

 

 悠仁が着ぐるみ動物たちと一緒に体操のような踊りをしながら問いかけるが、脳内に響く宿儺の声は、いつもより数段気だるげだった。

(……つまらんな、大の大人が幼子の教育を目的とした番組を愉しめるわけがないだろう。この映像とやら、退屈すぎてあくびが出そうだ)

 

 「そっか、宿儺は大人だもんな」

悠仁は同調を得られなかった事が少し残念そうだったが、すぐに体操へと戻り鬱屈とした気持などすぐに忘れていた。宿儺は子供というのはおめでたい頭をしているのだなと感じた。

 

 悠仁の顔の右頬に、宿儺の口が小さく顕現し、ハァ、と深いため息を吐く。悠仁が勝手に外出をして呪霊に襲われるというやらかしを起こしてからというもの、倭助が仕事で出かける際は、必ず悠仁を一人にさせないよう宿儺にも「見守り」を厳命している。宿儺は不承不承ながらも、その間は悠仁の中に大人しく居座っていた。

 

 しかし、恐ろしくつまらない。かつての平安時代、己の身の丈の大きさにモノを言わせて欲望のままに生きてきた呪いの王にとって、着ぐるみが数字を数える、子供達の教育目的の為に体操を組み込んだダンスを踊るという悠仁の日常は、あまりにもスケールが矮小だ。まあ常人であっても、子供向けの教育番組が面白いかといえば否、仕方のない事であるが。

 

 「だって、爺ちゃんが帰ってくるまで暇なんだもん。宿儺も早く帰ってきてほしいんだろ?」 (……フン、別に………)

 

 宿儺はぶっきらぼうに答えるが、悠仁は彼の本心を知っている。食事の時間を待ちわびるように、自分の頬から目と口を顕現させ、ボーっと窓の外側を見つめていた「呪いの王」の姿を、悠仁は一度だけ垣間見たことがあった。宿儺にとっては、食こそが数少ない快楽、人生を生きる意味と言っても過言ではない。

 

 (裏梅の奴が現代のレベルで腕を振るったら、どれほどの美食を味わえるだろうか?)

平安の世、呪術は全盛の時代だったが、他のあらゆる面では現代に遥かに劣る、それは「呪いの王」とて認める所であった。そんな中でも生前の宿儺が心を許した数少ない従者、「凍星(いてぼし)」の名を冠する料理人と術師の二つの側面を持つ「裏梅」は高次元な料理を宿儺に提供していた。しかし、今の世では彼が作った絶品の数々が、凡人達が稼ぐ日銭でも簡単に手に入るというのだから驚きである。

 

 「ねえ宿儺、裏梅って誰なの?」

受肉体は魂を同じ器に同居させているが為に、己のプライバシーやアイデンティティが繋がったもう一方にも漏れてしまうという事が多々ある。宿儺は今はなき裏梅に想いを馳せていたのが小僧に筒抜けだったことに少々憤りを感じたが、

 

 「………生前俺に尽くし、料理を作ってくれた従者だ」

「じゅうしゃ…?料理を作ってくれてたって、それって爺ちゃんみたいな家族ってこと?」

「………」

家族、生前の彼にそのような存在はいなかったが………確かに、呪術的には倭助は弟だし、悠仁は弟の孫ということになる。関係性で見ても、主導権のない悠仁の体の中、倭助に飯を食わせて貰ってるのだから家族と言っても差し支えはないのか………だったら、生前の俺と裏梅も………

 

 「なあ、それにしても………今日の爺ちゃん帰り遅くないか?いつもは空がオレンジ色の間に帰ってくるのに………」

確かに、今日の倭助の帰りはいつもより遅い。孫と二人暮らしという少々問題のある家庭環境の為に、職場にも気を遣って貰い残業は基本しないから、こんな事は普通ない。時計の針は既に7時まで差し掛かっている。何かあったのだろうかと、悠仁は泣きそうな顔をする。宿儺は子供の泣き顔にどう対応すればいいか分からずだんまりを決め込んだ。

 

 が、悠仁の心配をよそに、

「帰ったぞ」「爺ちゃん!!」

倭助はしっかりと帰って来た。虎杖は心配と寂しさが相まって何で今日は遅かったんだよと問い詰めながら抱き着いた。

 

 「爺ちゃんそれ………」

祖父の顔を見据えた悠仁は目ざとく気付いた。祖父の額に血の跡がある。

「ああ、ちょっとな………」

倭助は少々気難しい所がある為、外でケンカでもして来たのだろうかと悠仁は納得と安心をするが…

 

 「嘘だな」

「えっ」宿儺は倭助の怪我の原因は別にあると分析する。

「………」

そんな宿儺に、やはりオマエに隠し事は無理かと倭助は暗い目をしながらため息をついた。

 

 「オマエの傷から「残穢」を感じる。「呪霊」か………「呪術」を悪用する「呪詛師」にでも襲われたのか?」

「………オマエの言う通りだ。襲ってきたのは人食いのバケモノだった。前にオマエと訪れた学校で見たような」

倭助は「呪霊」に襲われ、負傷して帰って来たのだという。

 

 「なんで!?爺ちゃんはその………じゅじゅつとか言うのは使えないしバケモノも普段は見えない筈だろ?」

以前「宿儺の指」を取り込んだ呪霊を狩りに近場の学校へ向かった時はレアケース、非術師でも呪霊が闊歩する極限状態に陥れば呪霊が見えるというのは多々ある。それらは主に心霊現象として語り草にされる事が多いのだが………

 

 「いや………最近になって、ワシにもオマエ達のように、その呪霊とやらが見えるようになった」

「………」宿儺は黙ってその原因を考え込む。

「襲ってきた呪霊はどうしたの?」

「安心しろ悠仁、これでも空手などの格闘技を若い頃から嗜んで来た。必死の猛攻で倒してやったよ。そしたら霧のように離散しおったわ」

「爺ちゃんすげぇ!」

 

 (いや………非術師の呪力を込めてない拳で呪霊が死ぬなどあり得ない)

祖父の武勇伝に興奮する孫と対照的に、宿儺は寡黙に呪術的な思考を張り巡らせる。そしてある一つの結論に達した。

「宿儺、今日起きた異常は………やはりオマエが現れた事を起因としているのか?」

「十中八九、そうだろうな」

宿儺は戦跡を誇りながらも困惑する老いた弟に、自らの考察を話し始める。

 

 「理由を求めているようだからこの際教えてやる」

胎内で食い殺したなどの背景は隠したが、平安時代、オマエは双子の弟だったのだと衝撃の真実を倭助に告げた。倭助はその生まれ変わりだと。

「………どうりで、顔立ちがワシや仁、悠仁に似てる訳だ」

驚きが全くなかった訳ではないが、学校で指を回収した時に見た宿儺の生前の姿に、己の血脈を見出した理由がようやく分かった。異常事態には慣れている為、表に出す程ではなかった。

 

 「えっ、宿儺と爺ちゃんって兄弟だったの!?」

「ああ」「で、俺達がかつて双子だったのが、今回の事と何か関係があるのか?」

「大アリだとも」

呪いの何たるかを知らない二人に宿儺はレクチャーを始める。呪術において、双子………特に「一卵性双生児」は「同一人物」として扱われ、相互に作用しあう。各々の特徴がそれぞれに反映されるなどの現象が起きる。故に、双子は「呪術界」においては凶兆として扱われることが多々あるのだが………

 

 「倭助、オマエは俺という兄がこの世に顕現するまでは他の者と同じ「非術師」だったが………」

「呪いの王」である「両面宿儺」が現れたのだ。「非術師」だった祖父は「史上最強」に引っ張られ………

「術師と非術師の線引きは脳の構造にある。俺の力に引っ張られ、脳が変容し、オマエの中にあった潜在能力(ポテンシャル)が開花し、呪いを扱えるようになったのだろうな」

「爺ちゃんすげぇ、すげぇよ!」

兄弟と言う事実の開示、祖父の隠れた才能の開花、孫の興奮は鳴り止まない。

 

 「ククク、オマエの呪術の才は、間違いなく天井に近いだろうな」

なにせ宿儺と呪術的に同一人物なのだから。

「そうか………」

だが興奮している孫や興味深げに値踏みしている兄とは対照的に、力に目覚めた当の本人はあまり嬉しそうではなかった。

 

 「どうした?いつものオマエらしくもない」

「………俺は、オマエ達も含めて、家族全員人並みに生きれるようにと願っている。」

息子と義理の娘に降り掛かった呪いに、せめて残された子供にだけは、そのような目に逢って欲しくはなかった。

「超常的な力など………」楽観的な子供とは対照的に、虎杖倭助は身に余る力の獲得に戸惑い、拒否感を覚えていた。

 

 「クハッ、オマエはとことん「人間」だな!!」

1000年前の殺伐とした時代ではあまり見られなかった価値観、現代の術師の中には、人智を超えた存在でありながらも「人」であろうとし、己に枷をかける者が多い。倭助はその典型例だ。かつて己の「身の丈」を思うが儘に振るっていた彼なら「下らん」と一蹴そうしていただろうが………

 

 「しかし倭助よ。目覚めてしまった以上は、その力との向き合い方も考えねばならんだろう」

「………一体どうしろと」衣食住を提供する保護者は倭助の方だが、呪いを教えることに関しては立場が逆転する。

「以前俺に言っただろう?他人に迷惑を掛けるな、目立つ事をするなとな」

 

 「ああ………」

「オマエの呪術、万一暴発する事も考えられる。血気盛んなのは一緒に生活していれば嫌という程分かるからな」

呪いとは「負の感情」の産物だ。目覚めたばかりの人間は、思わぬ衝動で誤って呪いが溢れてしまう事もある。1000年前も、同じ理由で苦しんでいた少年を、宿儺は見た事がある。

 

 「倭助、呪いの扱い方を教えてやる、オマエが依然として、「人」でいられるようにな」

「ハッ………可愛げのない兄だな。」

幼い兄の言葉に、年老いた弟はふと笑みを零す。

「念を押しておくが、あくまでオマエが人間としての生活を送れなくなれば今の寝食を維持出来なくなるかもしれないと思った、それだけだ」

「フッ、そういうことにしといてやるよ」

そう言い残して倭助は飯を用意するとキッチンへ向かった。

 

 「なあ宿儺、俺にも呪術って奴を教えてくれよ!!」

「小僧にはまだ早い………」「ええ、なんで!」

「早い、というより無理なのだ。肉体の強度が術を扱うにはまるで足りてない。もう少し成長しなくては………」

「ああ、早く大人になって、宿儺や爺ちゃんみたいな力を使ってみてえ!そしたら、テレビの英雄(ヒーロー)みたいになれるだろ!?」

「………時が来ればな」

人として生きる、人としての生き方を示す、案外悪くないかもしれないと、かつて呪いだった男はそう独り言つ。

 

 

 




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