禪院直哉成り変わりー禪院家が壊滅しないよう色々頑張ってみるー   作:AKHT‐47

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今回は箸休め回です。更新頻度は落ちましたが、一応、8話くらいストックはあります………


遊園地に行こう

 九月の残暑が残る東京。日曜日ということもあり、都内某所の遊園地には家族連れやカップルで溢れかえっていた。その人混みの中に、場違いなほど「顔のいい」一団がいた。

 

「ええか、今日は無礼講や。財布は俺が持っとる。食いたいもんも乗りたいもんも、全部俺に言え」

 

 「禪院直哉」は、日差しを遮る為に高価なサングラスをずらしながら胸を張った。その背後には、謹慎期間中の「特級術師」「夏油傑」と、その裾を握る美々子・菜々子。禪院家から直哉が半ば強引に連れ出した「真希」と「真依」。そして、気だるげそうに首を鳴らす「伏黒甚爾」と、愛息「恵」と父親にくっついて離れないしっかり者の姉「津美紀」の姿がある。

 

 「……直哉君、全額奢りは流石に悪いよ。私も術師として稼ぎはあるんだから、私達の分は全部………」  

「何言うてんの?今回の余興を提案したのは俺なんやから、責任は俺にある…傑君、前に甚爾君と親睦深めたい言うてたやん?今は謹慎中で任務も止まっとるからええ機会やん。俺の方はこの前甚爾君と野暮用で禪院家に戻った時な、従兄妹のこの二人が遊び行きたいせがむから、折角の機会だし連れて来たんや。お互い目的果たせて一石二鳥、いや三鳥やろ?」

「フン…」

直哉にチラリと視線を向けられた甚爾はプイッと横を向く。

 

 直哉が夏油にした耳打ちは「フィジカルギフテッド」の底上げされた聴覚には筒抜けだが、直哉も態とやっているのだろう。全く、いい性格をしている。

「伏黒さん…」「無理に気ィ遣うなよ。俺は直哉が奢ってくれるってんで来ただけだ。オマエなんてどうでもいい…」

甚爾のぶっきらぼうな態度に、夏油は思わずハハッと笑ってしまった。

 

◇◇◇

 

 直哉が今日この日の為に買った年間パスチケットにより、高専御一行は並び時間を大幅に短縮してリゾートを満喫できた。子供達は皆幼い為に、ジェットコースターなどは身長が足りずに使えなかったが、それでもコーヒーカップやメリーゴーランドなどを心から愉しんでいた。

 

 「チィッ、また外れた!直哉くん、もう一回!」「ええよ?何度でも」

射的や輪投げで景品を取る遊びに熱狂する子供達。商品を網羅するまで金を出す保護者に甚爾や夏油、ひいては店員や他の客も引いていた。恵や津美紀も最初こそ気を遣っていたが、遠慮のない他の子に釣られていつの間にか二人も夢中になっていた。

 

 次に向かったのは、香ばしい匂いが漂うフードコートだった。家柄上、精進料理や伝統的な日本食しか口にしてこなかった真希と真依にとって、そこは「未知の刺激」の宝庫だった。

 

「……ねぇ直哉くん。このチーズバーガーってやつ、本当に頼んでいいの?」

真希がメニューを指差す。その瞳は、いつになく熱い。

「当たり前や。ポテトもドリンクも特大サイズにしたるわ。……真依ちゃんも、遠慮せんでええぞ」

「……じゃあ、私もお姉ちゃんと同じのを。あと、このお肉が挟まったパイも……」

 

 届いたハンバーガーに勢いよくかぶりついた真希は、一瞬、目を見開いて硬直した。

「……ッ、なんだこれ。家の料理と違ってメッチャしょっぱい!……でも、メッチャウマイ」

「真希ちゃん、あんまがっつかんで、落ち着いて食べるんや」

直哉は落ち着きながらハンバーガーを口に持って行く。禪院家は名家なので、意外と作法などは叩き込まれているのだ。

「お姉ちゃん、これ美味しい……! お家の煮物より、ずっと『生きてる』?みたいな味がする」  

真依も熱々のポテトを頬張りながら、初めて見るような笑顔を浮かべた。

 

 一方、夏油の隣では美々子と菜々子が、隣のテーブルの客が持っていた色鮮やかな物体に釘付けになっていた。

「夏油様、あっちの……イチゴが乗ってるやつ……」

「クレープ。……食べたいのかい?」  

夏油が優しく問いかけると、二人は同時にコクコクと頷いた。

「生クリームがいっぱい乗ってるやつ。……菜々子、イチゴのがいい」

「美々子は、チョコバナナ……」

「傑君、金は俺が………」「子供達の分くらいは私が出すから!

直哉の提案をかなり強めに突っぱねながら、夏油ファミリー達はクレープ屋に向かって行った。

 

 「直哉、子供達がラーメン食いたがってんだ」

「………甚爾君はちっとは傑君見習ってや。まあ払うけど」

逆に「天与の暴君」は、遠慮というものを知らないらしい。

「ありがとう直哉さん!ほら恵も………」

「ありがとう………直哉さんが父さんだったら………」

「………直哉、やっぱり俺が出すわ」

恵の言葉に数瞬悲哀を滲ませた顔で無言の間を作った甚爾は、直哉を置いて二人を連れて行った。

(甚爾君のあんな顔、滅多に見られへんわ。やっぱりどんなに強い男も、子供には敵わんのやなあ………)

 

◇◇◇

 

 休みとはいえ、急遽任務の斡旋などが来るなどの事態に備えて、念の為にと着いて来た「補助監督」が子供達を引率し、観覧車に並びに行った隙に、大人たちはベンチに腰を下ろした。呪霊を祓う日々、鍛錬や実戦を欠かさない彼らも、家族サービスというのは別の疲れがくるものだ。夏油は、少し離れたところで恵にナゲットを放り込んでいる甚爾を見つめていた。  

(……この男を、私はずっと、金の為なら平気で命を踏み躙る敵だと思っていた)    

かつて死線を潜り抜けた暴力の化身。だが今、目の前にいる甚爾は、津美紀がこぼしたジュースを面倒そうに拭き取っている。至って普通の、不器用な父親だ。

 

「……伏黒さん」  

夏油の呼びかけに、甚爾は「なんだ?」と短く返した。

「以前、直哉君から、あなたの生い立ちを聞いた。……禪院家での扱い、そしてあなたが歩んできた道について」

「……ああ、前に直哉と話してた事、聞いてたのか」

なんの目的か知らないが、金を握らせて禪院家や上層部の腐敗振りを一緒に話したいと言う彼の提案に、その日の寿司代の為に乗ったことはあるが、「呪霊操術」が使えるこのガキとの距離でも縮めたかったのかと、そういう感じねと甚爾は理解した。

 

「誤解しないでほしい……あなたのこれまでの行いを肯定するわけではない。けれど、あなたがなぜあのような在り方を選んだのか、その一端を理解したつもりです」

人の在り方とは環境でいくらでも変容する。それは夏油自身、旧■■村で思わず道を踏み外してしまおうかと一瞬頭をよぎった経験から、痛い程理解していた。

 

 夏油は、ポケットから一軒の蕎麦屋のショップカードを取り出した。直哉が「甚爾君はモツが好きやで」と教えてくれたので、モツメニューがある自分の常連の店を紹介しようと思った。

「今度、高専の外で……蕎麦でも一緒にどうですか?あなたの好きな………直哉君が教えてくれたのですが、旨いモツのある店を知っています……私なりに、あなたという人間と向き合ってみたいのです」

 

 甚爾はカードを手に取り、無造作にポケットへねじ込んだ。

「……誘って来たのはオマエの方だからな、直哉みたいに奢ってくれんのか?」

「私もそれなりに稼ぎはありますから、勿論払いますよ」

「……フン。時雨………俺の仕事仲間なんだが、連れてっていいか?もし払えないなら、直哉のカード持ってくから安心しろ。俺は結構大喰らいだからな。この肉体は結構栄養を消耗する………」

「………直哉君は安心できなそうですけどね」

「気にすんな、アイツと俺の仲だ。多少は文句垂れるだろうが、いつも許してくれる」

直哉の人となりを知っている二人は、ハハッと笑い合った。

 

 二人のやり取りを遠くから聞いていた直哉は、「なんで俺の財布が前提なんや!」と叫びながらも、どこか誇らしげに鼻を鳴らした。先輩にはもう、闇堕ちの片鱗は見えない。

 

◇◇◇

 

 日が沈み、園内の灯りが灯り始める頃。  遊び疲れた子供たちは、それぞれ戦利品のぬいぐるみを抱えたり、クレープの甘い余韻に浸ったりしていた。

 

「夏油様……また、来れる?」美々子が不安げに問いかける。菜々子は黙って見つめるだけだが、その態度は姉と同じ事を想っているのだろうと誰でも理解出来る。

「ああ。今度は直哉君の財布に頼らず、三人で来ようか」

夏油は如来のような塩顔・アルカイック・スマイルを子供達に向けた。

 「あーあ、甚爾君も見習ってくれれば良いんやけどな」

「うっせー………」直哉の飛ばした冗談に呼応して、恵は睨むような目を父親に向け、姉の津美紀は二人を取り持ちたいのかあたふたと交互に二人の顔を見ている。

「あー…恵、津美紀」

今度三人だけで映画館にでも行かないか?と、暴君は子供の機嫌でも取るように零した。

 「また直哉さんが金を出すの?」

「うっ………今度は父さんがしっかり出す………ラーメンだって今日は俺が出したろ!?」

「………俺は動物園か水族館がいい。動物や魚が見たい………」

「いいね恵!私も生き物が見たいなあ!」

 

 「フッ、頑張ってや甚爾君!」

子供には強く出れないという憧れの男の致命的な弱点でもあり、尊き弱さでもある微笑ましい光景を見ながら、直哉は禪院の双子を連れて別れを告げる。

 

 禪院家で雇っているドライバーの待つ駐車場へ向かう道すがら、真希が直哉の横を歩きながらボソリと呟いた。

「……直哉くん。今日は、その……楽しかった。あんなウマイなもん、生まれて初めて食ったよ」

禪院家は体は資本だと、健康にいいものしか食べてはいけない、ファストフードや菓子類は絶対に食べさせないという方針である。まあ術師は肉体が資本なのは間違いないのだが、体に悪い食べ物ほど美味しいという傾向もあるので、中々ストレスのたまる食事環境なのは確かだ。

「そうか。なら、次はもっといいもん食わせてやるわ。平日は忙しいからなあ………次の土日にでも、」

「「やったー!」」

向かい合い手を繋ぎながら飛び跳ねる姉妹を見て、直哉は今日何度目かの笑みを零した。

 

 「あっ、甚壱君や蘭太への土産買ってないわ………」

 

 

 

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