禪院直哉成り変わりー禪院家が壊滅しないよう色々頑張ってみるー 作:AKHT‐47
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京都、禪院家。この古色蒼天たる屋敷の広間では今、かつてないほど「現実的」で「切実」な問題が議題に上がっていた。それは、次期当主・「禪院直哉」による、天文学的な金額の「不明金」である。
「直哉様! また今月も数千万単位の金が、あの甚爾に流れているではありませんか!」
「それだけではない、以前から『パトロン業務』と称して、高専の連中にも設備投資などの融通をより一層増してると聞きます……いくら我々の家に数百年単位の内部留保があるとは言っても、このままでは禪院家の蔵が空になりますぞ!」
並み居る老齢の術師たちが、泡を飛ばして直哉を糾弾する。だが、当の直哉はといえば、扇子で顔を隠しながら、欠伸を噛み殺していた。
「ごめんちゃい♡まあ、ええやん、金なんて使ってなんぼやろ。寧ろ、この家は今まで無駄に溜め込みすぎたんや。甚爾君が気持ちようギャンブルできんかったら、また機嫌悪うして俺の財布……あ、家の金が大変なことになるんやし」
流石に今までのツケが祟ったのか、直哉は甚爾共々禪院家に一度呼び出され、責任を追及されていた。
「それを横領と言うのだ!!」
禪院家の長老の中でも地位だけは高い部類に入る現当主の弟「禪院扇」が直哉を怒鳴りつけるが、今回ばかりは正論である。
「ハーッ…ウッぜーなァ………こっちは二度と来るつもりなんてなかったが、そこの金満坊主に義理立てして来てやったってのに」
禪院家の連中に申し訳なさなど微塵も感じていないが、一応直哉の顔も立てる為にと嫌々着いて来た甚爾は不愉快な気持ちを隠さずにあくびをし、首をコキコキと鳴らす。その動作だけで、禪院家の年を食った連中は恐怖から委縮してしまう。
「と、甚爾よ…直哉の金使いの荒さも、元を辿ればオマエが………!」
それでも威厳を失わない為か、扇を筆頭として禪院の老人達は彼を責める口を止めない。
「まあまあ落ち着いて、今まで勝手に持ち出した分、高専から貰える依頼料とかでその内返すから………」
直哉の心にもない仲裁に、どの口で言うんだと口論(といっても、キレてるのはジジイ共だけだが)は激しくなっていく。怒号が響く中、上座で独り、酒を煽っていた当主・直毘人が重い口を開いた。
「……皆、落ち着け。酒が不味くなる………」
現当主、「禪院直毘人」の圧のある一括、一瞬で広間が静まり返る。直毘人は赤い顔をしながら、不敵な笑みを浮かべた。
「直哉の散財も、甚爾の寄生も、今に始まったことではない。ならば、その金を『外』に流さず、この屋敷の中で回せば済む話よ」
「……パパ、何言うてんの?」直哉が怪訝な顔をする。直毘人は酒瓶を置き、広間の地図を指差した。
「甚爾が外の競艇や競馬でスる金、直哉が甚爾に渡す軍資金。それを丸ごと飲み込む『場』を、禪院家の中に作る。……名目は、実戦形式の練武。実態は、術師同士のステゴロ(肉弾戦)による賭場よ」
直毘人の提案は、驚くべきものだった。術式を持たない「躯倶留隊」や、血気盛んな若手術師たちを戦わせ、その勝敗に金を賭ける。胴元は当然、禪院家だ。
「これなら、躯倶留隊の連中も実戦経験が積めるし、甚爾の金も結局は禪院家の懐に戻ってくる。……どうだ、甚爾。悪くない話だろう?」
直哉の隣、影に溶け込むように立っていた甚爾が、鼻で笑いながら歩み出た。
「……ケッ。身内で八百長でもやれってか? くだらねぇ」
「八百長などさせん。貴様が『客』として座るなら、連中も本気で殺し合いを演じるだろう。……何より、外の競馬の何倍も配当を弾んでやってもいいぞ」
甚爾の瞳に、わずかな興味の色が浮かぶ。
「……配当、ねぇ。直哉の金で直哉の家の連中を賭けの対象にする……。ククッ、最高に趣味が悪ぃな、おい」
「ええやん甚爾君! だったら俺が胴元のマージン全部甚爾君に乗せたげるわ!」
「それは本末転倒だ、この馬鹿息子が」直毘人渾身のツッコミが愛息に飛ぶ。
「賭博だと!?神聖で伝統的な呪術を何だと………」
「これは当主の決定だ。そも、直哉と甚爾の金の問題、貴様らも解決したがってたであろう?」
この家という箱庭の中では最強である男にこう言われては、誰も逆らう事は出来ない。
「準備には数日程度は要するが………よし、三日後より、禪院家では賭場を開くとする!」
今日は祝杯だと、いつも飲んでる癖に直毘人はカラカラ笑いながら新しい酒を開けに行ってしまった。
「………パパ」
昔の直毘人は、あまり家の体制やあり方を変えるようなタイプではなかった。そんな彼が、息子である自分や甚爾が切っ掛けとは言え、濁り淀んだ流れに大きな波乱を起こそうとしている。
「ハッ、変わったなあのジジイも」
一体誰の影響だろうなと、甚爾は笑いながら直哉に視線をやった。
◇◇◇
数日後。禪院家の大道場は、暗幕に覆われ、煌々と灯る提灯の下、異様な熱気に包まれていた。 観客席には直哉、直毘人、そして「特別席」には足を投げ出した甚爾が座っている。
「戻ってくるな…そう言った矢先に…」
実の弟に不器用ながらも最低限、自分なりに労わる言葉をかけたつもりだったのだが…直哉が家の金を使い込んでるのは知っていたとはいえ、あわやその支出を抑える為、禪院家で賭博を開き、弟が戻ってこようなどとは…甚壱は現実を受け入れたくなかった為に、少しだけ様子を見た後トボトボと自室に帰って行った。
「さあ! 本日のメインイベント! 「躯倶留隊」一番隊構成員、剛腕の■■! 今一番注目の若手です!対するは、「躯倶留隊」隊長・禪院信郎!ここで負けたら、隊長の威厳はないぞォ!」
躯倶留隊の若手が実況までノリノリで務める中、男たちがぶつかり合った。呪力なし、呪具なし。純粋な肉体強度のぶつかり合い、殴り合い。鈍い打撃音と、飛び散る汗。甚爾だけでなく、高専の依頼などで稼ぎがある皆が、少しでも金を増やそうと胴元に金を渡していく。
「いけいけ!呪力強化なしなら■■にも勝ち目はある!■■に十万や!」
「隊長ォ!負けんといて下さいよォ!」
甚爾がニヤニヤしながら、直哉から貰ったばかりの札束を投げ出す。躯倶留隊の男たちは、一族の中でも「落ちこぼれ」として、甚爾ほどではなくとも、同じような視線を向けられてきた者たちだ。だが、その拳の重さは本物だった。
信郎の強烈なアッパーが、若手術師のアゴを撃ち抜く。
「ハッ、肉体強度では優っていても、武術は経験の差がモロに出る………」
「よっしゃ! 払い戻せよ、ジジイ共!」
甚爾の的確な分析、若きギャンブラー達の怒声に、直毘人の命令で嫌々と配当を管理していた老人たちが、顔を真っ青にしながら金を差し出す。
だが、直毘人は、それを見てほくそ笑んでいた。甚爾がどれだけ勝とうが、外の怪しいブローカーに金が流れるよりは、一族の「運営費」として計上される方が遥かにマシだ。何より、甚爾がこの屋敷に「楽しみ」を見出したことで、彼をコントロールしやすくなる。
◇◇◇
興行が終わり、熱気の引いた道場。甚爾は勝ち越した札束をポケットにねじ込みながら、出口へと向かっていた。場数を踏んでいるが為に、勝つ方を予測するのはそう難しい事ではなかった。
「……甚爾君、どうやった? 外の競艇より面白かったやろ?」胴元から金を受け取っていた所に、直哉が追いかけてくる。
「……ま、あいつらの必死なツラは悪くなかったぜ」
帰り際に甚爾は、上座でまた酒を飲み始めた直毘人を一瞥した。
「……ジジイ。支出を少しでも減らそうって小賢しい目論見だが、まぁ……これからは、たまにはこっちでも遊んでやるよ。このクソの掃き溜めが何百年も溜め込んできた金が、このカビ臭い屋敷に戻るだけだとしてもな」
「ハッ……貴様ほどの男が満足するならそれで良い」
「パパ、行く行くはカジノでも用意したらどうです?ルーレットやトランプ用意するだけならそこまで費用も掛からんやろうし………」
「好きにせい。家の中でやる分には、外の法は通用せんよ」
今日の余興も含めて、禪院家の催しはモロに賭博罪に抵触するが、直毘人は「口外を禁ずる縛り」を全員に結ばせるなど、その点は抜かりなかった。
甚爾は、直哉と直毘人親子の軽口を遠くから聞き流しながら、一人屋敷の門を出た。手の中には、さっき勝ち取った金。
(……この金で、帰りに恵と津美紀に美味いもんでも買って帰るか)
禪院家の冷たい血筋が、直哉のパトロン精神と直毘人の狡猾さによって、奇妙な形で「家族への愛」へと変換されていく。
その夜、マンションに帰った甚爾は、土産の高級寿司をテーブルに広げた。
「パパ、今日はお金持ちなの?」恵が不思議そうに聞く。つい先日は、すっからかんで帰って来た矢先………というより、父親がギャンブルで勝ったところなどついぞ見た事がないからだ。
「……ああ。親戚の爺さんたちから、ちょっとむしり取ってきてやったんだ」
津美紀が笑い、恵が寿司にかぶりつく。直哉が札束で繋ぎ止め、直毘人が智略で囲い込んだこの平穏は、原作の残酷な運命をどこまでも遠ざけていく。
その日の夜、直哉は「禪院家公式・地下格闘技場」の収支報告書(という名のパトロン日記)をつけながら、満足げに微笑んだ。
「よし。これで甚爾君も禪院家もハッピーや。俺のパパ、天才ちゃうかな?」