禪院直哉成り変わりー禪院家が壊滅しないよう色々頑張ってみるー   作:AKHT‐47

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今まで考えてませんでしたが、オリ主直哉君は髪染めたりピアスしたりしてません。


長兄と末弟

 明治の初め、「呪霊」の子を孕む「特異体質」の娘がいた。呪霊と人間の混血、異形の子…身に覚えのない懐妊に始まり、時代背景もあり親類縁者からの風当たりは常軌を逸し、彼女は子の亡骸を抱えながら山向こうの寺へと駆け込んだ。その寺は呪術師が開いたものだったが…彼女の天運はそこで尽きてしまう。

 

 「加茂憲倫」…好奇心を唯一の理由とし1000年間「呪術界」を引っ掻き回した「羂索」がかつて操っていた死体…元来の人格は定かではないが、羂索の実験の産物。多くの「呪術文化財」と共に、「史上最悪の術師」「御三家の汚点」として歴史に名を刻む事となる。

 

 羂索の知的好奇心は、一時的に呪霊と人間の間に産まれるハーフの虜となる。呪霊の呪力と己の血を混ぜた九度の懐妊、九度の堕胎…それらがどのように行われたのか、母親の末路、一切の記録は禁書され、今は知る由もない。

 

 結果として、己の予想の範疇を出ない呪物をいくつか創り出すに留まり、ガッカリした羂索は呪物を捨て置いた。残された呪物は今の「呪術高専」の祖である当時の体制側の呪術界が保管、封印措置をし、現在は日本全土に結界を張る「天元」の隠す結界の内側、高専の「忌庫」に150年放置されている。

 

 「呪胎九相図」…羂索がこの常軌を逸した人体実験で作った呪物の総称。4番以降は母体の衰弱と共に産まれた時点で意識を保てぬほどに弱り、亡骸となったが、上から数えて3つの呪物は「特級」に分類される程の強力な呪力を所有し、今も尚意識を保っている。その呪力の起源は、母の恨みか、それとも………

 

◇◇◇

 

 「………あの禪院家次期当主とも噂される若造、あれは常軌を逸しているな」

「元々過激な手段の目立つ子供ではあったが………天元様のお膝元にある呪物などに高い金を払って何がしたいのやら」

「もしや………器を見繕い、呪物を受肉させる気ではないのか!?」

「流石にそれは………彼にも立場というものがある。それを捨て置いてまで、呪術規定を犯すような事は………呪物を受肉させるということは、器となる人間を殺すと同義だ」

 

 高専のかび臭い建物の中、「呪術界上層部」は若い世代からは「パトロン」だの「スポンサー」だの揶揄される「禪院直哉」の事を噂していた。羂索に与していた連中は直哉と甚爾が既に始末している為、保守派と言えど、今はまだマシな部類に入る連中ではある。

 

 そんな上層部が直哉の話をしていたのは、どんな目論見があるかは定かではないが、高専に保管されている特級呪物、呪胎九相図を金で買い取りたいなど風変わりな要求をしてきたからだ。呪物など買って何がしたいのかと、ある者は嘲笑し、またある者は警戒していた。

 

 「受肉の問題については心配ない………購入に際して、『呪胎九相図を使って非術師や体制側の術師に危害を加えない』という縛りを結んだ。」

「ハッ、尚更意味が分からぬ。それでは何も………」

他者間の縛りは自身にかけるものと異なり破った時のペナルティは重く、どんな災厄が降りかかるか分からない。自身一人で結ぶ縛りなら向上した能力を失う程度で済むが、他者との契りを反故にした時に降り掛かる災いは、良くて呪術を失う、場合によっては命を失う事もあり得る。上層部は、そんな契約を結んでまで、何故直哉が呪物を買いとったのかの考察を大いに話し合った。今日の議題は、これで終わりだろう。

 

◇◇◇

 

 「兄さん、いる?」「ああ、いるよ壊相」

「兄者………寒いよ」「大丈夫、話そう。話していれば、寒さなんて気にならない」

九相図兄弟の上から三人、「脹相」「壊相」「血塗」は、今日も血と呪力を分けたお互いの存在だけを拠り所に、高専忌庫の寒さをしのぎながら、150年と続けた会話で暇を潰す………いや、忘れようとしていた。兄弟愛、加茂憲紀こと羂索への恨み。それだけが、彼らが意識を保つ為の支えだった。そんな彼らに、今日は思わぬ客が来ることとなる。

 

ガラガラガラガラ………

 

 「誰か来たな…」「術師が呪具の調達にでも来たんじゃないか?」

忌庫のシャッターを開ける音…150年の間に、彼らの元へ来訪者が全く来なかったわけではない。しかし、次男坊の壊相の言うように、今まで訪れた者は皆が呪具目当てで、自分達兄弟には見向きもしなかった。それどころか、忌むべき存在だと目を逸らすような雰囲気を漂わせていたと言ってもいい。まあ、彼ら自身生まれが生まれなので、外の世界の人間から己達の存在を望まれていないのは仕方ないと受け入れているし、兄弟との絆さえあれば気にする事でもないと思っていた………が、

 

 「お~あったあった…ホンマに150年間、この瓶に詰められ、放置されてたんやなあ…可哀想に」

「兄さん!?」「兄者!!」「………!!」

しかし、今日の客は今までとは様子が違った。目の前にいる丸く収まった黒髪の男の目的は、自分達兄弟だった。何が目的か、まさか仇敵である加茂憲倫のように、自分達を利用するつもりなのか?憶測が憶測を呼び、これからこの世に産まれ堕ちて初めて外の世界に連れていかれるであろうと言う事を素直には喜べない。

 

 「~♪」

そんな兄弟達の気持ちなど露知らず…まあ彼らの声は彼ら自身にしか届かないので仕方ないのだが、関西弁を独り言つその男は鼻歌を歌いながら持参したアタッシュケースの中に、9つの瓶を詰めていく。瓶が割れぬようにクッション材も入っているなど抜け目がない。

 

 「聞こえてるかは知らんけど…九相図兄弟、今から君らに外の世界を見せたるわ」

疑問は尽きないが、自らでは動けぬ呪物たちは、男が自分達を外界へと連れて行くのを黙って見ているしかなかった。

 

◇◇◇

 

 都会の喧騒を遠く離れたその公園は、まるで時間の流れがそこだけ淀んでいるかのように静まり返っていた。

 

 頭上を覆うクヌギやブナの若葉が、春の名残と初夏の気配を混ぜ合わせた風に揺れ、さらさらと細波のような音を立てている。幾重にも重なった葉の間からは、粉雪のように柔らかな木漏れ日がこぼれ落ち、手入れの行き届いた芝生の上に、絶えず形を変える光の刺繍を編み上げていた。

 

 視界の端には、小さな池が鏡のように静かな水面を湛えている。時折、水面を渡る風がかすかにさざなみを立てるたびに、周囲の濃い緑が溶け合うように揺らめき、どこか遠くで名前も知らぬ鳥が、高く澄んだ声で一度だけ鳴いた。

 

 辺りには、湿った土の匂いと、陽光に温められた草の芳しさが淡く漂っている。 人工的な音といえば、遠くの林道を通る車の走行音が、まるで貝殻の鳴るような微かな残響として届く程度。

 

 ピクニックシートの上に置かれた、直哉が自ら作ったサンドイッチの包みが、風に吹かれてカサリと小さく音を立てる。直哉が瞳を閉じれば、瞼の裏側に残る光の残像と、肌を撫でる涼やかな風だけが世界のすべてになるような、深く、透明な安らぎに満ちた午後だった。

 

 しかし、一見すると自然を満喫するように見えるその男に、一つだけ妙な点があった。

「どや兄弟(ブラザー)、外の世界は美しいやろ?ここは滅多に人が来んから落ち着くんや」

実験管か何なのか、男は9つの肉塊が詰められた瓶を、自身が敷いたシートに綺麗に並べ、悦に浸っていた。

 

 「兄者………」

九相図兄弟の三男坊、血塗は産まれて初めて見る外の世界の光景に、感嘆を漏らしていた。

「兄さん、この男は………」

それは壊相も同じ気持ちだった。もしかしてこの術師は、純粋な善意から自分達を連れ出してくれたのでは?と長兄に進言する。

 

 「………」

しかし、そこは全ての弟達に責任を持たなければならないという信念を持つ脹相、そう簡単に自分達を外の世界に放り出した男を信用する事はしない。

(せめてこの男と会話する術があれば………)

信用するのはお互いに話し合い人となりを知ってからだと脹相は思った。まあ、人のコミュニケーションにおいては当たり前の事かもしれないが。

 

 「うーん、君達と会話が出来ればなあ………」

会話をしたいと考えていたのは直哉も同じだった。特に任務も入っていない余暇を、気まぐれな善意で潰そうと考えた此度のピクニック。どうにか彼らの想いを知れないものか………その時、禪院家の末弟と加茂家の血を継ぐ長兄の気持ちが通じ合ったのか、同調(シンクロ)したのか、奇跡のような奇妙な出来事が起こる。

 

 「は?」

直哉は先程までいた自然公園と似ているが、どこか細部が異なり、違和感が拭えない空間に迷い込んだ。

「兄者!」「兄さん、私達の心象世界に他の人間が入ってくるなんて、初めてだね」

「………」「君らは………」

原作でも見覚えがある、九相図三兄弟が、今目の前にいる。受肉した訳でもないのに、何故このような事が起きたのかと、直哉は一人考え込む。

 

 (原作終盤で虎杖悠仁が展開した領域みたいなもんか?宿儺も「呪力」は感情由来のエネルギーだがら、ごく偶に他者と繋がる事があるとか言ってたような………)

突拍子もない現象だが、あり得ない事ではないと直哉は結論付けた。そして、

 

 「あー、初めましてよな?俺の名前は禪院直哉」

「………何が目的だ」(他の二人は好意的な気配を感じるけど、長兄の脹相からは警戒されとるな……)

「別に?ただ、ずーっと寒い暗い倉庫に置かれてるなんて可哀想やから、俺が買い取って外の世界を見せようかと思っただけや」

 

 「兄者、この直哉とかいうの悪い人ではなさそうだよ!」

「私も血塗と同意見です………」「………オマエ達がそういうなら、そうかもしれんな」

取り敢えず、警戒心はほぐす事が出来たようだ。

 

 「弟達に危害を加えるつもりがないなら、俺は何も言わん………」

「フッ、君達兄弟の心が形作ってるこの空間、俺が見せた自然公園にそっくりやけど、案外気に入ってくれたんとちゃう?」

「フン………」

心の中、心象風景とは、その人間に多大な影響を与えたものが形作った空間となる。それ程新しく見る外の世界が衝撃的だったのだろう。脹相はムスッとした様子で腕を組むが、直哉はその様子を微笑ましく思った。

 

 「なあ直哉、これからも色々見せてくれるのか?」

「勿論や。今日は森やけど、今度は海に行ってもええかもなあ…都会の夜景も悪くないかも………見せるしか出来んのは心苦しいが」

「………」

何となく分かっていた事だが、直哉の言葉に、隠しようもない落胆を、特に三男は顕著だった。

 

 「あー…あんまり期待させるようなこと言うのもどうかと思うんやけど…三人が外の世界で生きていける当てがないこともない………主に二つやけど………」

「本当か!?」

一番食い付いたのは長兄だった。彼は弟達の幸福を誰よりも望んでいる………

 

 「待って、落ち着いて。すぐには無理や………」

「………構わない。取り乱して悪かった」

直哉はその当ての内容を具体的に話す事はしなかったが、三人もこれ以上詮索する事は、外に連れ出してくれた恩人である彼に負担を掛けると遠慮した。

 

 「直哉さん、一つ聞きたい事があるのですが………」

「なんや?」「……… 加茂憲倫について、」

「「「!」」」

踏み込んだ質問をする次男に、他の三人は面食らったが、彼ら三人が唯一憎む仇敵、母を弄んだ父親が、自分達が封印されている間にどうなったのかは確かに気になるだろう。

 

 「あー、史上最悪の術師のことか………死んだで、とっくの昔に」

「そうですか………ありがとうございます」

「俺達が封印されてから150年だしなあ………そりゃ死んでもおかしくないよ兄者」

(ま、本当は俺と甚爾君が殺したんやけど…別に言わんでもええやろ?)

あまり恩を売り過ぎるのは対等な関係を築くのに支障が出るような気もしたので(直哉自身は彼らとそういう関係を結びたい)言わないことにした。

 

 「直哉よ………」「今度はなんや?遠慮なく、何でも聞いてええよ。俺が知ってる、話せる範囲のことなら何でも話すで」

「いや、質問ではないのだがな………さっきお前自身も血塗に言っていたが、これからも、弟達に色んな世界を見せてくれ」

「勿論や!当然君にも見せたるで脹相。弟ばかりじゃなく、自分が愉しむ事も考えなあかんよ」

「そうですよ兄さん、私達のことばかり優先するのは良くないです」

「ハハッ、オマエ達の気遣いだけで、お兄ちゃんは感涙だ!」

「………」

兄弟水入らず、美しい家族愛を見届けた直哉は、ここから去る時間だと思った。

 

◇◇◇

 

 「ハッ………」

気付いた時には、直哉は元いた公園に戻って来ていた。サンドイッチは直哉の胃袋に消えて空になったバスケット、アタッシュケース、そして9つの瓶………少し話し込んでしまった為か、意識が飛ぶ前よりより日が西傾いている。

「………不思議な経験やったなあ………」

話せる事ならまた話してみたい、そしていつかは、この現実でも………直哉はつい先刻への憧憬と未来への希望を胸に、二つの鞄を持って、自らの住処である高専へと戻って行った。




オリ主直哉君の心象風景が子宮な理由は………甚爾君に脳を焼かれた、憧れって事にしときます(あくまでこの小説のみの解釈です、原作もそうだと断定する意図はないです)
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