禪院直哉成り変わりー禪院家が壊滅しないよう色々頑張ってみるー 作:AKHT‐47
仙台市青葉区と太白区の境にある「八木山橋」の下、「呪いの王」とその「片割れ」、対するは「パトロン」「スポンサー」と呼ばれる禪院直哉が困惑の混じった眼差しを向け合っていた。お互い牽制の意もあり、両者動けずにいる。
「アンタら何者や?ご丁寧に帳まで張って、説明してくれると助かるんやけど」
前世の知識がある為、本当は知っているが、色々ややこしくなる為に、直哉は彼らとは初対面、状況が呑み込めていないという体で話を進めようとする。まあ、実際混乱しているので、全てが嘘と言う訳ではない。
「それはこっちが聞きたいのだが。オマエは何者だ?」
「………禪院直哉。「呪術師」って言ってな、呪霊や呪詛師………人々に仇を成す呪いを祓う仕事をしてるんや」
「へぇ………爺ちゃんとす、」(今は黙っておけ小僧!!)
「わ、分かったよ………」(声に出すな!!全く………)
余計な事を言うと碌でもない事が起きるかもしれないという忠告から、宿儺は虎杖に今は黙るよう心の中から進言した。
(なんで虎杖の爺ちゃんが呪術使ってんねん!?原作だと非術師だった筈やろ………バタフライエフェクトってやつか?俺が色々原作の歴史を変えたせい………?)
直哉は焦燥していた。疑問に次ぐ疑問、倭助が他の人間の侵入を阻害する帳を張った所を見て、警戒や猜疑心から外で待機し、接触を図ろうとずっと待機していた。倭助のWhoという問いには、話を聞き出そうと相手の警戒を緩める為に正直に答える。
(しくったな………非術師の眼は帳で防げるが………術師には見えてしまう。まだ確定した訳ではないが、体制側の術師であることは不幸中の幸い………いや、平安の世で「呪いの王」と呼ばれた俺は、抹殺対象になるやも………)
宿儺も同様に、焦りに焦っていた。場合によっては今ここで奴を始末し隠蔽を………いや、露見してしまったら不味いか………倭助もその案は駄目だと言うだろう。宿儺は頭の中で色々考えをよぎらせる。
「俺は近頃ここ仙台で、呪霊の動きが活発になった原因解明とその排除を目的としてやってきたんや………さっきの高校でもなんやコソコソしとったよな?あそこも、「窓」っていう呪霊が見える一般人からの通報で来たんやけど。俺が来た時には綺麗さっぱり、呪霊の呪の字も見当たらんかった………そこの爺さんが纏ってる呪力と似ている残穢だけを残してな」
「なんだ、奇しくも同じ目的だったようだな若造。俺達は呪霊を倒す片手間に「宿儺の魂の欠片」を集めていて………」
「宿儺!?」「倭助!?」
老人の爆弾発言で動揺する直哉と宿儺。直哉は驚愕から、宿儺はまだ相手の素性も碌に分かっていないのに正直に喋り過ぎる呆れから………倭助は呪術に疎く、体制側の人間だと聞いた安堵からペラペラと話してしまったのだが、
(そうか………!!羂索の奴、死に際にとんでもない爆弾を………!!先々月の呪霊の大量発生といい、どこまで迷惑掛ければ気が済むんや)
虎杖悠仁から発せられる宿儺の声を聴いて、薄々事情が呑み込めてきた。宿儺という呪物が遠隔で解き放たれた、虎杖倭助が呪術を行使できるのは、呪術的な同一人物である為に宿儺から影響を受けた弊害だろうと。倭助や悠仁が善人なのは原作知識から把握している。だが、今の彼らは宿儺に利用されている可能性も否めない。縛りなどの知識も碌にないのだから、何か宿儺に有利な契約でも………
「………そこの子供に、宿儺が受肉したんか?」
呪術規定によれば、呪物が宿った人間は処刑対象やと、淡々と説明しながら険しい顔をする直哉。
「処刑だと!?悠仁と宿儺を殺そうと!?」
怒りという呪力をたぎらせながら、倭助は直哉を睨み返す。
(なんちゅう呪力量や………虎杖の爺さん、術師に目覚めてたらこんなに才能あったんやな………縛りで無理矢理いう事聞かされてる感じもない、宿儺を守る対象とみている?)
倭助の反応から、直哉は色々と事態を分析する。
「そういうルールなんや。受肉した呪物は、何か悪させんとも限らんからな………特に呪いの王宿儺は、その強さや残虐性が資料にも残っとる。呪術師の学校や名門の家なら必ず習うくらい有名やで?」
「そうなのか宿儺?」「フン………若気の至りというやつだ」
倭助の疑問を宿儺は誤魔化す。片割れとの約束通りに生きると決めた今世、前世の事はあまり知られたくはない。
「若造、その処刑という話、これからオマエ達のような一般人を呪いから守る連中に狙われるということだろうが………何とかならんのか?前世の事は知らんが、俺が知る限りでは、宿儺は今まで、一度として人様に迷惑を掛けた事はない………寧ろ孫の悠仁より手が掛からんくらいだ」
「爺ちゃん!それは酷くない?」
我慢できずツッコミを入れた孫を、倭助は軽くごついた。
(そうは言うても、俺も疑問が頭を駆け巡ってるし、どうすればええんか分からん………)
どう返答すべきか、どう対処すべきか答えが出せない直哉は思い耽る。束の間の無言、口を開いたのはかつて呪いの王だった男、
「禪院直哉………とか言ったな?俺という
呪術規定を妄信する術師なら、敵うかどうかはともかく既に襲ってきてもおかしくはない。ならば付け入る隙はある………
「平安の俺を多少は知っているようだ。警戒するのは分かる………が、今世の俺は人として大人しく生きると決めたのだ。非術師に一切の危害を加えないという縛りを結んでもいい………だから俺達の事は見逃せ」
「………体制側の術師も付け加えろや。呪霊や呪詛師を狩るなら一向に構わんけど………呪物を飲ませるとかもなしやで?」
「ハッ、俺が小僧の………悠仁の中から抜け出る事を懸念しているな。慧眼だな………良いだろう。オマエの条件、飲んでやる。今の生活にも、存外満足してるのでな」
「………言質は取ったで?」
直哉は、呪いの王が余りにも大人しすぎる事、「人として生きる」などと言った事に、正に「青天の霹靂」という感覚を味わっていた。術師としての知識は勿論の事、転生者としての原作知識から、彼の凶暴性は知っていたからだ。
「ほな、今回の事は縛りとして見逃す。俺達は今日、会わなかった………」
てくてくと帰ろうとした直哉だったが、やはりどうしても気になる事、話したい事が出来たので、三人の方へ振り返った。
「宿儺、一つ聞きたい事があるんやけど」
「なんだ?」「呪いの王とまで呼ばれたアンタが、一体どういう風の吹き回しで、そない大人しくなったんや」
「ハッ、そのような生き方に飽きただけだ………」
きっかけは食い殺した弟に報いる為だが、正直に答えるのは気恥ずかしいのではぐらかした。
「爺ちゃんの為だよ!!宿儺はチョー昔、爺ちゃんに恩があって、」
「黙れ小僧」
本音を暴かれた宿儺はキレ気味になるが、思わず直哉はフッと笑ってしまった。余りにその光景が微笑ましかったからだ。
「あー、おもろいわ。本当に人として生きることにしたんやねw」
「おい、貴様もさっさと去らんと縛りを破ってでも………」
「ひぇーっ怖い怖い………あっ、宿儺の保護者さん、」
直哉は高専で自作した名刺を渡して、もしその気があったら、お孫さんが高校生になる年に、呪術高専に是非入学してくださいと伝えた。呪術の学び舎、人を助ける事が出来る仕事をする場だと説明する。勿論、宿儺の受肉などは、理解のある人間を除いたら隠す事は前提だが。まあ、術師は呪霊や呪詛師の被害に対して、あまりにも人手不足な為に、少しでも人員の補充が叶ったらありがたいという目論見もあったが。
「いいじゃん!俺、爺ちゃんや宿儺みたいに呪霊祓ってみたい!」
「うーむ………」
倭助は、孫にあまり血生臭い仕事はさせたくないなと怪訝な顔をするが………
「小僧が望むのなら、やらせてやれば良いのではないか?まだ随分先の話だ、ゆっくり決めればいい………」
宿儺のさながら保護者面のような言動にまた笑いがこみ上げて来た直哉はキッと睨まれ、今度こそ去る事にした。
「ほな、機会があったらまた会いましょ………」
直哉は三人に再度背を向けて、高専に帰る道すがら考える。俺という存在が宿儺の生き方を変える「きっかけ」となったのならば、それも悪い話ではないと。