禪院直哉成り変わりー禪院家が壊滅しないよう色々頑張ってみるー 作:AKHT‐47
それは2017年、ある冬の寒い日の事だった。
昨今の呪術界は、「現代最強の術師」「五条悟」に次ぐ「現代の異能」、「特級術師」の「乙骨憂太」と契りを結んだ「巨大式神使い」の「折本里香」の織り成す「莫大な量の分身」、「五条悟」の親友である「夏油傑」の500万を超える「異形の軍隊」により慢性的な人手不足を解消しつつある状態にあった。それに付随して、「分身術式」を持つ呪詛師を「呪術高専」に引き抜いた金使いの荒い「パトロン」、「スポンサー」こと「禪院直哉」の評価も上がったとか上がらないとか。
しかし、一部の「上層部」などは呪術界の問題を解消できるのは今の世代が生きている間だけではないのか?という懸念もしていたが………
「術師が長年使い続けた道具には術式が刻まれる事もある………乙骨君と里香ちゃんを繋ぐ「結婚指輪」にありったけの呪力と模倣した術式を刻んで次世代に繋いでいけばいいんちゃう?」
パトロンの提案により、将来への不安は指輪を呪具化しよう計画で方針が固まっていた。直哉は強さこそ上澄みには一歩及ばないが、相変わらず謎に呪術への造詣が深いと、高専の面々は感心していた。
勿論現場はともかく解決しきれていない問題もあるにはあるが、乙骨や夏油が埋めた人手不足を良い事に、昨今は牧歌的な平和を噛み締めていた直哉。そんな彼の元に、今日もまた尋ね人が………パトロンの持つ携帯を鳴らす。
「これは………虎杖君、いや呪いの王直々の御呼出しか」
連絡先の表示名は「虎杖悠仁」だが、体育会系の敬語を使う彼と違い、どことなく不遜で硬い文章なことから、彼が内に宿している「史上最強の呪いの王」「両面宿儺」からの便りであることはすぐに分かった。かなりの頻度で食事に連れていけと催促されるので、珍しいことではない。
「天上天下唯我独尊」、「己の快不快のみが生きる指針」だという彼も、「片割れ」である「虎杖倭助」の影響や度重なる「餌付け」により、すっかり牙を抜かれた猛獣と化していたが………それでも、王に失礼があってはいけないとピシッと気を引き締めさせる気迫がある。「非術師や、体制側の術師を絶対に傷付けない縛り」があるとしてもだ。
「虎杖君達は何年か前に仙台に越したんやっけ………最高速度で走れば30分くらいか」
空気を固定し足場にする「拡張術式」と24fpsで設定する「音速移動」………直哉は呪いの王の元へ駆ける。
◇◇◇
「うっす、直哉さん!」
「悪いな直哉さん、また宿儺の我儘を聞いて貰って………」
虎杖悠仁は相変わらず底抜けの明るさ、倭助は色々工面して貰ってる直哉に申し訳なさそうにしている。原作の倭助はこの時期には既にがんを患っていた筈だが、呪力で罹患部位を破壊し「反転術式」で治癒するクラッシュ・アンド・ビルドと兄の反転術式の「アウトプット」で至って健康だそうだ。無論、呪力で内臓を破壊するのは一歩間違えなくとも死の危険があるので、呪いの王の補助と倭助の天性の才が成せる荒療治であるが。
「気にせんでええですよ。かの呪いの王がこうして体制側と仲良しこよしなのが俺達呪術師にとってのこれ以上ないメリットですから。大きくなったね、虎杖君」
「フッ、小僧も今年で中学は卒業、来年からはお前達の組織に属する事になるのだからな」
原作ではあれだけ悠仁を嫌っていた宿儺も今ではすっかり後方保護者面しているのは直哉の笑いを誘う。恥ずかしかったのか、宿儺は誤魔化すように直哉を呼び出した本題に入る。
「俺はゴタゴタした前置きは好かん。俺が此度オマエを呼び寄せたのはな………ある人間を探していてな」
「………誰です?」
「裏梅と言ってな、生前、俺の為によく尽くしてくれた従者なのだが」
なんとなく、いつかこの問題に切り込まれる時が来るのではと、直哉は内心思っていた。宿儺は、千年前に自分の従者兼料理人だった彼も、生前に羂索と契約し呪物となっているのを知っている。そして、今でも呪物としてどこかに置かれているであろう彼の居場所に、心当たりがないかと宿儺は問う。
「………なんで俺に聞くんです?」
「………ハッ、オマエはやけに情報通なところがあるからな」
何より、今の宿儺が有する呪術界のパイプは偶然邂逅した直哉のみ、そうでなくとも、頼りの先がパトロンになるのは当然と言えば当然だった。
「あーーー羂索と契約した術師の成れ果てですか………あるにはありますよ」
「本当か」
「やけんど、呪物を受肉させる器はどないするんです?」
「他者を傷付けぬ縛り、倭助との約束もあるからな。ちゃんと考えてある………一旦は小僧の中で受肉させ、俺達と共存という形にする」
「また俺の中に人が増えるんだなあ………宿儺の大事な人って、ちょっと楽しみだな」
「………そうですか」
呪いの王にしては珍しい食い気味な態度、虎杖悠仁のお気楽な発言は少し面白いが、直哉にはこれ以上の事情を言い出し辛い理由があった。
(この際………全部正直に話すべきか?)
もう10年以上も前の事になるが………何を隠そう、「天与の暴君」「伏黒甚爾」と共に、裏梅の呪物を所持していたであろう「羂索」を殺したのは直哉なのだから。契約相手の呪物のような大事な物………彼、もしくは彼女がかつて身を置いていた場所に隠しているかもしれないと考えるのは普遍的な推理だ。
(宿儺は俺が羂索の失踪、それに起因して遠隔受肉が早められたのを何となく察している………?)
宿儺の思惑を考え込む直哉、しかし、真実を伝えるのが憚られる一番の理由は………
(虎杖君の母親………俺が殺したんよなあ………こんなんどう説明すればええねん)
直哉はふと、原作で「伏黒恵」に、「君のお父さん僕が殺したの」と伝えるのに思い悩んでいた五条悟の気持ちがなんとなく理解出来た。羂索は極悪人だが、それでも親を殺したというのは………
(ええい、ままよって奴やな………)
しかし、呪いの王の要望の前、失望させるのはそれこそ憚られるというものだ。
「あーっ、宿儺さん、虎杖君、そして倭助さん。今から話すのは、皆さんに関わる事ですから………」
直哉は腹を括り、羂索こと、「虎杖香織」を殺したのは、この俺であると正直に話した。その告白により、どんな返答が来るかも覚悟して………だが、
「そうか」「うーん………」
倭助はただ一言事実を淡々と確認するだけ、悠仁の方はと言うとよく分からないと言った印象だった。寧ろ直哉の方が面食らってしまうレベルの乾いた反応である。
「本当の香織は悠仁が出来る前に死んだ………その後、帰って来た香織にその中に禄でもない「呪い」が潜んでいたのは分かっていたからな………初孫が出来て間もなく、俺の息子も失踪した。責めることはあるまいよ直哉さん」
「俺、母親の記憶あんまないし………直哉さんが殺すって事は、母さんは呪詛師だったんだろ?」
答える時に苦悶の表情を浮かべていた直哉を、二人は寧ろ慰める始末である。そして呪いの王は、
「クハッ、あの羂索を殺したか!!オマエ、中々やるな」
「そんな大した事ありませんよ………俺の憧れの人のお陰ですわ………」
宿儺は羂索が殺された事に特に感慨は見受けられず、羂索の死に直哉が関与しているのなら、裏梅の呪物の行方にある程度心当たりがあるのも当然だと言った様子で話を進めた。
「羂索が死ぬ直前に使っていた生活拠点を洗えば………結界術の要領で隠しているかもしれませんね」
早速、10年前の決戦の地へ赴こうと、虎杖一家と直哉の方針は固まる。
「でも、今から行くと帰ってくるのは相当夜遅くになりそうじゃない………?」
「安心せい虎杖君、便利な道具があるから………」
直哉は懐を漁ると一つの筒状の呪具を取り出す。
「今年京都校に入って来た生徒にな………優秀な子がおんねん。使い切りって縛りはあるけど、この筒に刻み込んだ「術式」は、誰にでも使える………」
その生徒とは「傀儡操術」の使い手である「与幸吉」、通称「メカ丸」。月の光にも焼けて激痛が走る肌、先天的な右腕・膝下の欠損、腰下の感覚欠如、全身の激痛などなど………その余りにも悲惨な天から与えられ四肢呪縛の代価として身に余る呪力出力や日本全土に及ぶ呪力操作範囲を持つ。
彼もまた、異形の軍隊の大量製造により人手不足解消に役立つと見込まれた術師だったが、直哉が目を付けたのは、彼の技術力であった。同級生である「三輪霞」の使う「簡易領域」を成立させる為に、容量の空いた「小型呪骸」のパーツに術式を流し込む………これは色々応用が利くと、直哉は与への金銭的支援を代価に、この術の融通を効かせて貰う契約を結んでいた。
「この筒には長距離ワープ用の術が組み込まれとります。羂索の生活拠点に一番近いマーキングに飛びますから………」
「すげぇ、呪術ってこんなものもあるんだ!」
「今の呪術のレベルは平安より下がっていると思ったが………より洗練されたものもあるのだな」
現代最強に依頼し「空間と座標の圧縮」の術を流し込んで貰ったのが直哉の取り出した筒である。直哉は呪術的な工程として、4人を囲むように陣を書いて、筒を中心に配置する。辿るマーキングは11年前に全国的に行われた大討祓を辿れば良い。
「それじゃ、いきますよっ」
最後の工程、掌印を結び、五条悟が刻んだ術式を発動させる。呪いの王は向かう、かつてのきっかけを拾いに。