禪院直哉成り変わりー禪院家が壊滅しないよう色々頑張ってみるー   作:AKHT‐47

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星漿体護衛任務

 その日は、あまりに出来過ぎた青空だった。東京高専の境内は、セミの声と、肺に刺さるような夏の熱気に包まれている。

 

 高専に入学してから数ヶ月、初めての夏。俺がこの日のために積んできた全ての準備が、ついに火を吹く時が来た。

 

「天内理子、および星漿体の護衛、ならびに抹消……。要は、天元様との同化まで守り抜けってことだね」

 

 教室の教壇で、五条悟が面倒そうに任務書をひらつかせている。隣には、いつも通り涼しい顔の夏油傑。そして、一学年下の俺たち一年生も、予備戦力としてその場に同席していた。

 

「……直哉君、君も一緒に行くかい?」

「……喜んで。俺も野暮用があるんでね。パパ――直毘人からも、禪院の嫡男としてしっかり見とけと言われとるし」

 

 俺はアタッシュケースを抱え直す。この中には呪術界を揺るがすXデーに備えて呪霊をぎょうさん倒祓したりパパにたかったり勝手に禪院家から持ち出したり(あとで許可得るからええやろ?)して俺が個人的に溜め込んだ金、総額十億程が詰まっている。

 

(甚爾君……。あんたは必ず、盤星教からの依頼を受ける。そして、最強の二人の『隙』を突くために、数日かけて彼らを疲弊させるはずや)

 

 俺は原作の知識を総動員して、甚爾の動きを予測する。彼は正面から戦う無鉄砲な男ではない。徹底的に観察し、相手の術式を封じ、一番脆い瞬間を狙い打つ「術師殺し」だ。

 

 

◇◇◇

 

 

 任務が始まってからの数日間は、原作通りの「焦らし」が続いた。五条は六眼をフル稼働させて天内理子を守り続け、夏油も一睡もせずに神経を研ぎ澄ませている。だが、俺だけは知っている。この何も起きない時間こそが、甚爾による毒なのだ。

 

「見て見て! クラゲ! 直哉、クラゲって食べられるの?」

「……食べられんこともないけど、今はやめとき。理子ちゃん、はしゃぎすぎや」

 

 沖縄の美ら海水族館。巨大なアクリルパネル越しに降り注ぐ青い光の中で、天内理子は子供のように瞳を輝かせていた。  原作では、ここは彼女にとって「最後」を意識した切ないバカンスの地だ。だが、俺が隣にいるこの世界では、少しだけ色合いが違う。

 

(……この笑顔を、盤星教の連中に消させてたまるか)

 

 俺は視線を背後の五条悟と夏油傑に向ける。二人は表向きは護衛として振る舞っているが、数日間不眠不休で術式を維持し、精神を削り続けていた。  

 

「悟、少し休んだらどうだい? 直哉君子飼いの『窓』からの情報によれば、このエリアの呪詛師はすでに一掃されているはずだ」

「あー……大丈夫だって。六眼が疲れるのはいつものこと……。お前や硝子と桃鉄99年やった時の方がきつかったわ」

 

 悟君や傑君の言葉は明らかに強がりだ。パパの後押しや二人の推薦で同級生の七海君や灰原君に先んじて折角同行させて貰ったんや。俺も役に立たな…

 

「直哉、さっきからパソコンの画面ばっか睨んで何してんだよ」

呪力感知は怠っていないだろうが、興味本位で悟君が俺に関心を向けてくる。

「あーこれか。理子ちゃんが呪詛師御用達の裏サイトで懸賞金かけられてな…その額3000万なんやけど」

 

 人の命を金に変える、その下衆の所業に二人の、特に傑君の顔が曇るのを俺は見逃さなかった。ここ数日で理子ちゃんの人となりを知っている彼らからしたらそりゃあ喜ばしいことではないだろう。俺だって気分悪いのは同じだわ。

 

「御三家のボンボンの癖になんでそんなサイト知ってんだよ」

「ボンボンなのはお互いさまやろ…俺が背中追ってる人がちょうアングラな人なんや」

 この手のサイトは甚爾君の足取りを追う為に知った。まあ結局呪力ゼロの彼の足取りは掴めんかったけど…

 

「理子ちゃんの暗殺依頼に対抗して俺がより高額な護衛任務募集してんねん」

 俺の言葉に相変わらず金でなんとかしようとする奴だと呆れ反面、二人の疲れが見える顔は綻んだ。

「もしかしたら、そろそろ依頼に釣られた呪詛師が現れるやも…」

 俺がそう言い掛けた時、

 

「悟、護衛用の呪霊が祓われた」

 傑君が水族館の周囲に張った包囲網が突破されたらしい。暗殺狙いの呪詛師か、それとも…傑君は理子ちゃんと黒井さんに奥へ避難していろと、呪霊の護衛を付けながら後ろに下がった。

 

「お前等が星漿体護衛の任についてる高専の連中か」

 現れたのは紙袋で顔を隠した筋骨隆々の大男…190近くある悟君を優に超える巨体と札で式神を召喚する得物を持った小柄な爺さん呪詛師。原作でも見覚えのある顔ぶれだ…

 

「敵…って事で良いんだな?」

「呪詛師同士が仲良しこよしなんて、珍しい事もあるじゃねぇか」

「フン、今回の依頼は早い者勝ちではないのでの…」

 傑君は呪霊を、悟君は無下限の収束する力を行使しようとしたその時、

 

「待て待てガキ共。今回は珍しく善行しようってんだよ…鬼の眼にも涙、呪詛師にも良心が芽生える事だってあるだろ?」

 不遜な態度を取りながらも大柄な呪詛師は両手を上げて敵対意識がない事を示した。

「ということは…」

 直哉が依頼した護衛の依頼に釣られた連中だと皆把握した。呪詛師達からしても無駄な戦闘は避けたいだろう。金目当てで何が良心が芽生えただよと思わん事もないが…

 

「ガキの周囲をあと二日うろちょろしてるだけで5000万、しかも依頼に乗った全員が貰えるなんてウマすぎる。任務明けはウナギだな」

 大男の方はもう依頼を終えた後の贅沢を考えている。おめでたい頭だ…傑君の方は、そんな呪詛師達をイマイチ信用しきれてないようだが、俺は呪詛師も使いようやでと耳打ちする。

 

「なあお二人さん」

 俺は依頼に馳せ参じてくれた二人に俺が募集主やでと挨拶する。御三家のいいとこの坊が、闇サイトなんて使ってと皮肉を言われたが、

 

「この際呪詛師家業からは脚洗って、高専で働いてみんか?依頼料は御三家の俺が出したる」

「「!」」呪詛師達、特に爺さんの方は目を見張るように驚いていた。こんな勧誘を受ける機会は初めての事だったのだろうか。

「直哉君!」

「確かに、術師は年中人手不足だしなあ」

「悟まで!」俺の提案に懐疑的な反応をする傑君に対して、最強の片割れは意外にも寛容な反応を見せた。俺個人としては、特に強術式である分身を持ってる紙袋の大男を高専側に引き込みたいという打算ありきの提案だったのだが…

 

「…正気で言ってんのかよ」

「ああ、おたくらとしても悪い提案じゃないと思うで?体制側の術師に狙われる事はなくなるんやから…」

 紙袋の方は訝しみと迷いの見える態度なのだが、さっきから爺さん術師は黙りこくってこちらを見つめるだけだ。

 

(初めての経験だ…)

 いや、正確には初めてではない。呪詛師の爺さんは直哉の言葉を切っ掛けに走馬灯のように今までの人生を思い出していた。

(そうだ、太助だ。見えないものが見えるワシを、両親や周囲の人間は忌み嫌ったが、そんなワシに唯一優しく接してくれたワシにしか見えなかった友人…)

 直哉の勧誘に、呪詛師の爺さんは幼少の頃の唯一の友、死んだ犬の怨霊を思い出し、目が潤んでいた。

 

「ゲッ、爺さん、なにウルウルしてんだよ…」

 その様子に悟君はオッエーと吐き気を催したと煽るようなポーズを取るが、爺さんには聞こえていない。

 

「まあまだ任務終了まで二日あるから…ゆっくり考えてくれや」

「若造………もうワシも年だが、それでもやり直せるのか………?」

 傑君に二人を呼び戻すよう言っていた俺に爺さんが問いかけて来た。

「それはアンタ次第やろ。まあ、かの有名なフライドチキンのチェーン店のオーナーも60超えてから成功したって話もあるし?」

 俺の言葉に、爺さんの涙のダムは決壊した。確かに、悟君が言うように気持ち悪いかもと、内心思った。

 

 

◇◇◇

 

「おい禪、いや、今は伏黒だったか」

 さびれて生気のない連中が集まるボートレース場、焦燥に駆られるような顔をした裏社会の仲介人を生業とする孔時雨が、ギャンブルに勤しんでいる伏黒甚爾に話し掛けていた。

 

 

「今は金を増やしてる最中だ邪魔すんな。昨日馬鹿共を使って削りを入れるって伝えただろうが」

 孔時雨には目もやらずボートの順位に夢中になり、外れたと分かって落胆する甚爾はそう吐き捨てるが。

 

「昨日のそれにもろに関わる案件なんだよ」

 仲介人は焦りながらで起きた妙な話をする。

「高専の連中、俺達が提示した依頼料の3000万を優に超える5000万で星漿体護衛の依頼を出しやがったんだ。そのせいで削りを入れる筈だった呪詛師共がそっちに流れてる…」

 流石の甚爾もその話を聞いて反応せずにはいられなかった。

 

「…で、そんな策を弄した馬鹿は誰なんだ」

「高専で5000万なんて金をポンと出せる奴なんて御三家の…五条悟か禪院直哉くらいだろう」

「直哉………」

 全てを削ぎ落した男は二つ目の名前に意味深な反応を見せる。その奥に隠された思惑は誰にも分からないが…

 

「お前…まさか今更盤星教の依頼捨てて高専側に寝返るなんて事は………」

 仲介人はキャリアや信用問題に関わると仕事仲間でもあり友人でもある彼の寝返りを危惧するが…

「さあ、どうかな」

 フィジカルギフテッドは不敵に笑う。呪力を持たぬ因果の外側にいる男の思惑は、やはり誰にも分らない。

 

 

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