禪院直哉成り変わりー禪院家が壊滅しないよう色々頑張ってみるー 作:AKHT‐47
護衛3日目(同化当日)都立呪術高専
15:00 理子ちゃんの懸賞金が取り下げられてから4時間経過
かの有名な物理学者が言うように愉しい時間はあっという間に終わってしまうもので、遂に呪術界の根幹に関わるXデーが来てしまった。俺は甚爾君との再会に備えて、周囲の警戒は怠らない。だが悟君と傑君は連日の疲労と任務終了間際の気の緩みから、注意を些か怠って見えるがそれは仕方のないことだろう。
「皆、お疲れ様。高専の結界内までくればもう安心さ」
人一倍気遣いの出来る傑君が皆を労っている。黒井さんや理子ちゃんはその言葉に笑顔で返し、俺が雇った元呪詛師共は5000万5000万と夢見心地だ。
「うむ、皆ご苦労じゃった!感謝する」
天元様と同化する立場だからとは言え相変わらず無理のあるキャラ作りをしているが遂笑いがこぼれてしまう程微笑ましい。
「………」「悟も、本当にお疲れ」
反転術式を覚えていない無下限呪術使いがマニュアル操作を3日3晩ぶん回すのは想像を絶する負担なのだろう。悟君は傑君や理子ちゃんの労わる言葉に何も返せずにいる。
「へっ、二度とごめんだ。ガキのお守りは」「お゛?」
任務の疲れもあるから多少は本音も混じっているだろうが、俺から見ればただのツンデレ仕草に見える。
「安心してや理子ちゃん。悟君は素直になれないだけや」「あ゛?」
理子ちゃんの次は悟君がキレて俺を威嚇してくる。傑君はそんな俺達の様子を楽しそうに眺めている。
ドスッ………
油断、静寂を切り裂くように、一人の男が五条の背後に現れ、呪具ではない普通の刀を突き刺した。
「悟!!」(馬鹿な…ここは高専結界の内側だぞ!?)
傑君は本来現れる筈のない招かれざる客の登場に動揺している。
(あかんあかん………疲れてる二人に代わって俺が甚爾君を警戒せなって思った矢先に!!)
俺は理子ちゃんや先輩二人とのやり取りをつい楽しんでしまった事を後悔する。
「アンタ、どっかで会った事あるか?」
悟君は甚爾君に見覚えがあるかのような発言をする。幼少期に一度会っている記憶が心のどこかにあるのだろうか?
「気にすんな。俺も苦手だ、男の名前覚えんの………」
「甚爾君!!」
俺は尊敬する人の言葉を遮り声を張ってしまう。甚爾は俺の方を見ると何とも言えない表情を浮かべる。
「えっ」
呪術を暗殺に使う呪詛師と目される人物が直哉の知り合いという事に皆の動揺は更に広がるが、
「コイツと直哉の関係は今はどうでもいい!天内優先!」
呪力で強化する事で得物は左右に動かせないよう固定した悟君は傑君達に薨星宮へ向かえと手引きした。皆逃げるようにゾロゾロと走っていく。俺と悟君を除いて………
「直毘人んとこのガキか」
殺されたくなかったら去った方がいいと、僅かばかりの慈悲と威圧を発してくる。だが俺は屈しない。
「直哉の知り合いって事は元禪院家の人間か?どことなく顔も似てるしな。呪詛師に堕ちるなんて一族の恥だな」
直哉が掲載した護衛任務に着いた方が良かったのになマヌケと更に悟君は煽るが、一族の恥という言葉は甚爾君の逆鱗に触れそうで肝が冷えるからやめてほしいわ…
「確かに5000万は魅力的だが…先に依頼してきたのは盤星教の馬鹿共だ。プロとして筋は通す方でね、鞍替えは今後の信用問題にも関わる」
甚爾君の言葉はどこまで本音かは分からない。原作を読む限り彼には呪術へのコンプレックス、自分を否定した禪院家、ひいては呪術界に根付いた呪力、術式至上主義を術師を殺す事で否定していたと俺は勝手に解釈している。単に金だけでは靡いてくれないかもしれないが、駄目で元々。
「待って甚爾君!」
俺は両手を上げて戦闘の意思がない事を伝える。戦いの前に悟君と話に興じてくれて良かった…まだチャンスはある。
「盤星教が提示してくれた報酬はあの闇サイトに載ってた通り3000万やろ?俺は甚爾君を引き戻したいが為に今日まで金貯めて来たんや!」
俺が甚爾君に渡すよう用意した額は十億、依頼の掲載料と呪詛師を雇って減額しているがそれでも八億は残る計算だ。
「俺が盤星教の何倍も金を用意したる!今手元に八億ある!だからこんな事もうやめてや」
俺は矜持すらかなぐり捨てて地に伏せて土下座する。二人の顔は見えないがどんな反応してるんやろ…
(違和感………)
伏黒甚爾は心のどこかに引っ掛かりを覚えていた。いつもの俺ならより旨味のある仕事があればそっちに流れていた。だというのに、信用問題だのクライアントに気を遣ってだの言い訳して星漿体暗殺の仕事を続けた理由は…そして今抱いている迷いの正体は…
「油断大敵!!」「なっ」
直哉が気を引いた事で思わず考え事に耽ってしまっていた甚爾に最強は容赦なく収束する力で彼を引き寄せる。そして収束と呪力を乗せた打撃を浴びせる。
(ちっ、ただのラッシュがカウンター喰らってるみたいな感覚だな。だがノーダメとはいかなくとも有効打には…)
脚を使って収束から逃れようとする甚爾だったが、
「もうあの夜みたいに逃がさへん。後悔したくないんや」
先程まで地に伏せていた直哉が好機とみて加速しながら接近し徒手空拳でフリーズを試みる。前方からは収束の打撃、後方からはフリーズの打撃、見事な連携を見せる。二人で共同戦線を張る鍛錬でも積んでいたのだろうか?
「ぐっ、」(五条家の坊の打撃を喰らいながら24fpsの動きを作るのは………)
甚爾は禪院家の人間だ、当然実家の相伝術式の事は知っている。そして天与呪縛により人並外れた五感を有する彼なら投射呪法を相手に1秒を24分割した動きを強制する応用への対応は容易な筈だった。しかし、動きを作ろうとする傍から五条悟の収束で態勢を崩されてフリーズされる。絶え間なく攻撃を行ってくる二人の猛攻を抜け出すのは不可能だった。
「直哉!」「分かっとるっ」
悟君はたった一言名前を叫んだだけだが、それはこの男を削り切るまでこのまま殴るのをやめないぞという意思表示だ。当然俺もそのつもりだ。
「甚爾君、俺達が勝ったら………」
ダメージが蓄積し、意識が朦朧としてきた甚爾に直哉の言葉は最後まで届かない。
(俺も鈍ったかな………)
甚爾の鈍りとは二つの意味だ。一つは肉体的な鈍り、もう一つは精神的な………禪院家にいた時に自分を慕ってくれた唯一の子供、冷酷な暗殺者の筈が情を捨てきれずつい気が抜けてしまった。甚爾の意識が落ちる………
「はあっはあっ………疲れたぁ………コイツ頑丈すぎだろ!直哉、後は頼んだわ…」
連日の無理に加えてタフな甚爾君の意識が落ちるまで殴り続けたのだ。悟君も限界が来て俺に任せて眠りに付いてしまった。
◇◇◇
「………」
「あっ、目覚めた!良かった…」
意識を失った甚爾が最初に目にしたのは自分の顔を覗き込む直哉の顔だった。男の寝顔をマジマジ見つめていたなんて趣味が悪いなとは思ったが、
「寝てる俺の首を撥ねるなりして殺さなかったのか?甘いな」
「それはお互い様やろ。戦闘中に考え事して俺と悟君の術中に嵌まるなんて、本来の甚爾君だったら絶対あり得んわ」
直哉の言葉を聞いて、確かにと甚爾は自嘲した。直哉の金に靡かずに五条家のガキと闘おうとした、かと思えば直哉を目の前にしてつい冷徹さが緩んでしまった。自分でもブレブレすぎて何がしたかったのやらよく分からない。
「今から俺が星漿体暗殺に向かったら、」
甚爾は自分の隣でぶっ倒れている最強を目にして物騒な事を言う。
「ちょっ、悪い冗談やで絶対やめてや!」
直哉一人では今の甚爾を止める事は出来ない。必死に言葉をまくし立てて堪忍してくれとせがむ。
「フッ、お前が用意できる金は八億だったか?いいぜ、その話乗ってやる」
「本当か!?」
遂に念願が叶った俺はうっひょーと天にも上がらん気分で舞い上がる。そんな様子を男の好意なんて気持ち悪ぃと辛辣に吐き捨てられてちょっとへこんだが。
「あー、盤星教や時雨の奴にはどう説明するかな」
依頼人やブローカーが困っても甚爾君はその限りではないはずだが、一応気にしているようなそぶりを見せる。
「星漿体と天元の同化のことか。それなら盤星教も納得する落とし所を迎えられると思うで」
どういうことだと訝しむ甚爾君に俺はニヤリと笑みを浮かべた。
◇◇◇
高専最下層 薨星宮参道
1000年単位で育って来たのであろう巨木を瓦屋根の和風な建築が囲む巨大な礼堂。この建物の最奥まで行けば、天内理子は天元と同化することになる。
元呪詛師達は念の為薨星宮に繋がる扉、隠す結界の前に配置して盾の役割を任せている。最後まで全てを見届ける責務を全うするのは天元様直々に護衛任務の指名を受けた夏油だ。
「私はここまでです。」
これ以上進むことを許されていない世話係の黒井が頭を下げる。
「理子様…どうか…」
10年以上親子のように過ごして来た重みから涙を抑えられない黒井。そんな彼女に呼応して理子は別れの抱擁で返す。
「黒井、大好きだよ!ずっと…何百年経っても…ずっと!」
「私も……」
夏油は二人の様子を複雑な気持ちで見つめていた。生まれついての運命とはいえ、この二人の仲を切り裂かなければならないなんてあまりに残酷ではないかと。10分ほど黙って抱きしめ合った後、俯きながら理子は戻ってきた。
「行こう前髪…」「ああ…」
微妙な雰囲気のまま二人は奥へと歩いていく。
「今歩いている階段を降り切ったら門をくぐってあの大樹の根元まで行くんだ。そこは高専を囲う結界とは別の特別な結界の内側、招かれた者しか入る事は出来ない。同化までは天元様が守ってくれる」
理子は夏油の説明を上の空な様子で聞き流している。
「それか、引き返して黒井さんと一緒に帰ろう」
「えっ?」驚嘆と感嘆、夏油の意外な提案を聞いて理子の目に生気が戻っていく。
「担任はこの任務を私たちに伝えた時、同化のことを抹消と言ったんだ。あれはそれだけ罪の意識を持てということ。うちの担任は脳筋に見えて結構まわりくどい事をする…」
「でも…」「君と会う前に、悟や直哉君とは既に話をつけている」
『星漿体のガキがもし同化を拒んだらァ?……そん時はナシで!!』
『俺もその方が人道的やと思うで』
『クックッ、良いのかい?進化して人類の敵となった天元様と戦う事になるかもしれないよ』
『なにビビってんだよ。俺達ならなんとかなるって!直哉はまだまだ俺達に並ぶ程じゃないけど』
『傷付くからハッキリ言わんといて』
「大丈夫、私達は最強なんだ。どんな選択をしても、理子ちゃんの未来は私達が保証する」
「………私は、」本来なら世俗を捨てる間際、天内理子の本音が溢れる。
「生まれた時から特別で、皆とは違うと言われ続けて、私にとっては特別なことが普通だった。今日この日のために、なるべく危険な事を避けて生きてきた…」
「お父さんとお母さんが事故でいなくなった時のことは昔すぎてもう覚えてないの。もう寂しくも悲しくもない、だからみんなと離れ離れになっても、時間が経てば寂しさも悲しさもなくなると思ってた…でも」
「でもやっぱり…もっと皆と一緒にいたい!もっと皆と色んなところに行って、色んなものを見て…もっと…」
自分は特別なのだからと言い聞かせていた女の子は普通の人間になる事を選んだ。
「帰ろう理子ちゃん」「………うん!」
普通となった女の子は差し出された手を掴む。この先どんな事が起きようと、最強達が彼女を守るだろう。
ブーッブーッ
「前髪、着信が…」「直哉からだ。ということは、」
あの正体不明の呪詛師を無力化したのだろうと夏油は安堵した。
『もしもし傑君。理子ちゃんはどうなったん?』
夏油は一人の少女の選択を直哉に伝える。
『そうか、良かったわ。俺はこの後盤星教のお偉いさんと会いにいかなならんから…悟君がさっきの地点でぶっ倒れてるから回収しといて。ほな』
「ちょ!」直哉は簡潔に説明した後に電話を一方的に切った。盤星教に会いに行くなんて、今回の騒動の腹いせにお礼参りでもするつもりか?と一抹の不安を覚える夏油だった。
◇◇◇
「………高専の術師が何の用ですかな?我々はあくまで非術師の団体…体制側の術師が干渉してくるのはタブーのはずですが」
甚爾君と彼のブローカー孔時雨と共に信者の寄付金で建てたのだろう純白で清潔に保たれた立派な建物に俺は馳せ参じた。本来敵同士の彼が何故星漿体暗殺を依頼した術師殺しと共に訪れたのかと、盤星教代表役員である園田茂は猜疑心を隠せてない。
「別に、アンタ達にとっても朗報を伝えにきただけなんやけどな」
直哉は説明した。暗殺こそ成されなかったが、星漿体は自らの意思で同化を拒み、天元様に異物が交わる事はなかったと。
「それは本当か!?」「大マジ、ここで嘘付く意味ないやろ」
狂信者である園田の醜悪な顔には喜びが浮かんでいる。思わず一発喰らわせたくなるような嫌な顔だ。
「そんで、アンタ達の望みは叶ったわけやけど。星漿体天内理子は普通の女の子になる選択をしたんや」
俺は二度と彼女に手を出すなと園田を威圧する。非術師とは一線を画す存在の怒気に、園田は思わず気圧されてるように見える。
「ああ、勿論だ…天元様の同化が成されなかったのなら我々はこれ以上何もしない…」
「で、アンタ達の本願は叶ったわけだが、」
甚爾君は貪欲にも暗殺依頼の報酬の一部でもせしめんと園田に迫る。俺から八億貰う約束にこぎつけといて両取りするつもりかとちょっと引いてしまう。
「ああ構わない…なんなら色も付けよう…」
これ以上俺達と関わりたくないと思ったのか、園田は甚爾君の要求を飲んだ。
「よしっ、今日は祝杯だ。三人で飯でも食い行こう」
甚爾君は大量の収入に昂っている。
「やだよ、お前男に奢んねぇじゃん」時雨は誘いを拒否しようとするが、
「安心しろ、今日は直哉の奢りだ。お前も好きなだけ食えよ」
「ちょっ」「なあ?」甚爾君のなあ?に、俺ははいと答えるしかなかった。八億とは別に用意したクレジットカード、今日だけで限度額いっぱいになり止まるかもしれん…