禪院直哉成り変わりー禪院家が壊滅しないよう色々頑張ってみるー 作:AKHT‐47
一言評価欄をなしのままにしていたのに今更気付いて0に、タグ付けもしてなかったので追加しました。すみません。
岩手県北上市…約1300年前から伝わる、怒りの形相の仮面(仏の化身)をつけ、刀や扇を持って激しく踊る勇壮な念仏剣舞
そんな北上市では呪術廻戦の主人公「虎杖悠仁」現四歳が、一見攻撃的で人付き合いは苦手だが愛情深い祖父「虎杖倭助」と一緒に暮らしていた。両親は色々あって両方失踪していたが、祖父がいるから悠仁は侘しさを覚える事もなく何も起こらない平凡な毎日を過ごしていた。今日までは…
「おい、これはどういうことだ!?羂索は一体何を考えている…」
2006年某日の夕暮れ時、「史上最強の術師」呪術全盛、1000年前の平安の世で術師が総力を挙げても返り討ちにされたという「呪いの王」「両面宿儺」が虎杖悠仁に受肉した。
きっかけは「禪院直哉」と「伏黒甚爾」が宿儺と契約、「縛り」を結んだ「羂索」を討伐した事にある。
平安時代、宿儺と羂索は呪物化で二度目の生を与える代わりに羂索の目的に協力するという縛りの元協力関係にあった。
虎杖悠仁とはその縛りを遂行する為に造られた「宿儺の器」であり、器としての強度を高める為に彼は産まれながらにして20に分けられた宿儺の魂を呪物化した産物「宿儺の指」が1本だけ込められていた。
呪物を解放する権限は羂索の手にあった。羂索は今際の際、最後の悪足掻きとして虎杖悠仁の内にあった呪物を世に放った………悔し紛れに少しでも混沌を齎そうなどという思惑があったのだろうか?だが、当の呪いの王は………
「クソッ、このような幼子の肉体では呪力も術式もまともに扱えぬではないか」
宿儺が受肉したのは齢四歳の子供、他の同年代の子らよりは頑強だが呪術を扱うには肉体の強度がまるで足りていない。羂索は用意周到な性格だ。そんな彼、若しくは彼女がこんな手違いを起こすなど………何かあったのだろうとは薄々察せられるが。
今の宿儺には「最強」の影も形もない、完全に弱者側だ。つつけばたちまち崩れてしまうような脆い命…弱き者の気分を味わうのは生前の幼少期、異形を忌み嫌われ、「呪い」として迫害された忌々しい記憶が甦ってくる。
「うおっ、俺の中にもう一人の俺がいる!?」「………オマエがこの器の主か小僧」
怒り心頭だった呪いの王に、内から話し掛ける者がいた。肉体の主導権を持つ「虎杖悠仁」、幼い彼は突如として現れた己の中の何者かに興味関心を抱いた。子供は知的好奇心が旺盛だから今までにない経験に心を躍らせるのは仕方ない事だろう。
「俺は虎杖悠仁!お前は?」「話し掛けるな小僧、今は心底気分が悪いのだ」
「お前も子供じゃん!」「………確かに今はそうだが。話の腰を折るな、黙れ」
「話に腰?どういうこと?」「…話を分かり辛くするなという意味だ!子供というのは本当に、」
子供の純粋無垢な知的好奇心にどことなく居心地の悪さを覚えながら宿儺はボイコットを遂行するに決めた。相変わらず悠仁の質問攻めは止まらないが。
(肉体の主導権までこの小僧にあるとは…これでは器というより檻だな。千年振りの俗世だというのに興ざめも良いところだ)
とにかく今出来る事は何もないと、器の成長を待って肉体を乗っ取る「縛り」でも結ぶか、それか小僧の中で別の器適性がある者を探すか、今は静観する事にした。宿儺は暇つぶしの達人なので待つのが得意である。
「悠仁ー帰ったぞ」「爺ちゃんおかえり!」
愛するただ一人の家族の帰還に悠仁はトコトコと近付いていく。そしてつい先ほどあった事をベラベラと話し出す。
「悠仁、お前その目の下の痕は…」
倭助はすぐに孫の異変に気付いた。何せ羂索という呪いが自分の愛息の嫁の死体を乗っ取るという常軌を逸した経験があるので、察知力は鋭敏になっていた。
「ああ、俺の中にもう一人の俺?が急に出てきたんだ。ちょっとひねくれてるけど」
倭助は十中八九香織の中にいた奴の仕業だろうと察した。孫の中によく分からん者を混ぜ込んだ?今すぐに出奔して行方をくらました奴諸共悠仁の中にいる正体不明な相手も一緒に怒鳴りつけたい気分だったが、孫の前の為なんとか深呼吸して動揺を抑えた。そして愛する孫と、その中にいる何者かに、次に掛ける言葉をどうすべきか迷っていた。現状、悠仁に何か危害を加えたような様子もない。いきなり拒絶するのは流石に憚られる、まずは質問でもして探ってみるか?
(この翁の魂の形は………俺と同じ、)
本日二度目の呪いの王の慟哭、動揺していたのは倭助だけではなかった。千年前でもこんな感情を抱く事は早々なかったというのに。魂を観測出来る宿儺はすぐに気付いた。「虎杖倭助」は宿儺が母の胎内で飢えを凌ぐ為に食い殺した双子の弟、「魂の片割れ」だった。
(そうか、羂索の奴。俺と言う呪物に耐える器を用意する為、俺と呪術的な血の繋がりがある者の子孫を選んだのか!)
気色の悪い事をすると、宿儺は内心吐き捨てたが、かつて己が生きる為に犠牲にした弟の生まれ変わりを見て、宿儺は言葉にし難い感情に支配された。そんな相手に、どのようなツラを向ければいい?
「………おい、悠仁の中にいる奴。聞こえてるか?」
「………なんだ」ボイコットを決めた矢先、宿儺は弟の質問に返答した自分に驚いていた。「傲岸不遜」、「天上天下唯我独尊」、「己の快不快が生きる指針」だという「圧倒的な自己」を持つ己が何故苦虫を嚙み潰したような気持になりながら会話に応じたのか…
「お前も、香織の………俺の息子の嫁で悠仁の母親………その中にいた得体の知れないアイツの被害者なのか?」
「爺ちゃん、いつもはかあちゃんの話したくないって………」悠仁が言葉を遮ろうとしたが爺ちゃんは黙って聞きなさいと諭した。
(羂索の奴、まさか器を作る為にこの小僧の母親の肉体を乗っ取ったのか………)
吐き気を催すほど悍ましい所業、だが、その衝撃的な情報より宿儺の心を支配しているのは………
「ああ、俺もこのような形で俗世に舞い戻ったのは心底不愉快だ。ある意味、貴様の言う被害者という認識も間違ってない…」
(この翁、俺の片割れは………俺を憐れんでいるのか?よりにもよって、オマエが………)
抱かれる感情は畏怖、嫌悪、利用し合うだけの損得勘定、フンと嘆息を漏らしたくなるようなものばかり向けられていた彼に、今までにない思いやりが与えられる。しかも憐憫を抱いているのはかつて自分が食い殺した………勿論、転生する前の記憶はないであろう。とはいえ、愛する孫の中に突如として現れた敵とも味方とも知れないこの俺を………それは「呪い」として生きて来た俺とは真逆、あまりにも出来過ぎた「人間」のようで………
「そうか………」倭助はそれ以上は何も言わず、ポンポンと孫の頭を叩いて立ち上がった。
「辛気臭い話はこれで終わりだ。悠仁、今日はお前の好物の肉丼とホットミルク作ってやる。地元特産岩手牛だ」
「やったー!もう一人の俺も………」「………宿儺だ。もう一人の俺ではややこしい」
「じゃあ宿儺、夕飯一緒に食べる?あっでも同じ体でどうやって食べるんだろ………」
「………」宿儺は虎杖の疑問には答えなかったが、その理由は先程のような不快感や苛立ちからくる無視ではなく、言葉にし難い感情を噛み砕くのに困った故の無言であった。
◇◇◇
「現代の食はこんなにも洗練、向上されているのか」
「あっ宿儺ズルいぞ!入れ替わってる間は俺味分かんないからさ、半分は残せよ!」
「やかましいわ!お前達、食事中に喧嘩はやめろ」
結局、宿儺は現代食の味がどれほどのものなのかが気になり、悠仁と入れ替わった。凄い勢いで平らげていく様に、悠仁は焦燥に駆られていた。