鬱フラグ バキバキボコボコ 転生者 作:BKBK
俺は決意した。
必ずや邪智暴虐の鬱フラグをバキバキボコボコにしなければならぬ。
俺には前世の記憶があるが、肝心のこの世界の原作知識は結構曖昧である。
しかし鬱フラグに対する当時の憤りは人一倍であった。
というわけで鬱フラグ満載RPG「WORLD Utopia of the end」、通称ウツエンの世界に転生したと気づいた俺は、あやふやな原作知識を頼りに行動を開始した。
まず俺の故郷は原作のとあるサブイベで訪れる村だ(った気がする)。
次に俺の村の外れには、収集アイテムである魔神の欠片ってアイテムが堕ちてる(はず)。
このアイテムは原作では一定数集めると報酬を得られて、最終的に裏ボスの魔神と戦える邪悪な小さなメダル(のはず)なんだが、名前の通りこいつは魔神の欠片である。
この最終的に戦える裏ボスは、言ってしまえばこの世界に存在するあらゆる超常的な力の根源。
人間の使うアーツも、魔物の存在そのものも裏ボス由来だ。
……という知識が公式設定だったかファンの二次設定だか思い出しつつ、俺は記憶の中にあった魔神の欠片を掘り起こすことに成功した。
じゃあこれをどうするのかって話。
思ったんだよ、こいつがこの世界のスーパーパワーの根源なら、
現在の俺はただの村人モブ。
名前すらなく死んでいく雑魚のまま終わるくらいなら、ワンチャンかけてこれを食べよう。
幸い欠片の大きさは金平糖くらいだったから、一息に飲み込むことができた。
結果、襲い掛かる猛烈な絶望感と恐怖。
体中を襲う寒気のような何か。
今すぐ首を垂れて慈悲を乞いたくなる感覚。
死にたい、死んでしまいたい。
今すぐこの場で自分の喉を掻きむしって死にたい。
そんな思いが駆け巡り、
あれ、でもこれ実際に死ぬより怖くないな、と転生者の俺は気づいてしまった。
前世の事故の痛みと急速に意識が薄れていく恐怖に比べれば、この邪悪なわたぱちのなんと美味なことか。
うん、割と悪くないな。
というわけでその日、俺は魔神の欠片を取り込んで爆裂レベル上げに成功した。
人生で初めてバキバキボコボコにした鬱フラグである。
それが、俺の全ての始まりだった。
+
俺の名前はバルド、ただの村人モブにしては厳つい名前だ。
そんな俺は現在、自分の生まれ故郷でのんびり暮らしていた。
ざっくりとした概要と、自分がプレイして印象に残った部分以外は若干曖昧な知識によれば、現在は原作開始までまだしばらくの猶予がある時期。
各地で世界が終焉へと向かう予兆、ディストピア現象が確認され始めている頃。
だけどまあ、そんな世界の事情なんて俺の村には関係ない。
せいぜい最近は魔物が増えたねえ、と話題になっているくらいだ。
まあその魔物も、俺が全部まとめてバキボコにしてるんだが。
「オラ! 村の畑を荒らそうとはふてえ野郎だな!」
バキバキ。
「もう二度と日の目は観れると思うなよ!」
ボコボコ。
しゅわあああ(魔物が消滅ずる音)。
よし。
「ふう、終わった」
俺は村の外れにある森の奥から、そそっと村の中へと戻る。
俺が前世の記憶を取り戻したのは、ちょうど物心がついた頃。
そしてここがウツエンの世界だと気づいた俺は、すぐに行動を起こして魔神の欠片を回収。
飲み込んだ。
結果として、一部の人間……言い換えればゲームの重要人物しか使えないアーツを習得。
魔人と呼ばれる存在になった。
それを用いて、村の周囲にいる魔物を狩り尽くすべく奮闘しているのだ。
「お兄様!」
そんな時、後ろから声をかけられる。
見ればそこには、長閑な感じの田舎娘と言った雰囲気の幼い少女が立っていた。
俺と同じ黒髪は少し癖があり、腰のあたりまで伸びている。
あどけない顔つきの、八歳の少女。
「アシェリ、どうしたんだ?」
「もう、また無茶をして。魔物は危険なのですから、お兄様は無茶をしてはいけません!」
アシェリ、俺の妹であり原作キャラだ。
と言っても、メインキャラではなくサブイベの主役って感じの立ち位置のキャラである。
ただし若干記憶の怪しい俺が、ばっちり覚えているくらいには印象的なサブイベだったりするが。
そんなアシェリは、村に姿の見えなかった俺が、今日も魔物を倒して回っているものと考えて様子を見に来たらしい。
実際、それは正解だ。
「まあでも、俺には戦う力があるんだから、それを使ってみんなを守るのは当然だろ? アシェリだって自分がその立場に立ったら同じことをするはずだ」
「そ、それは……」
というかします。
なんだったら、アシェリが戦う理由は「自分が物語の主役になりたいから」です。
俺をお兄様と呼んでるのも一種のキャラ付けで、別に特別な理由があるわけではない。
「とにかく、魔物の退治はこれで終わった。今後は畑仕事を終えてゆっくり休もう」
「うう……お兄様はどうしてそうやって皆を守ろうとするんですか? 昔はあんなに怖がられたのに」
ふむ、とアシェリの言葉を聞いて少し考える。
魔物は、このゲームにおいては単なる雑魚敵であると同時に、世界観に関わる存在だ。
細かい要点を抜きに話すと、魔物は今はただのファンタジー系ゲームの敵っていう立ち位置だが、今後少しずつ数が増えてくる。
それに対して、俺がどう行動するかは俺の運命に関わってくるのだ。
カルマ値、というシステムがある。
ゲーム内では時折選択肢が出てくるのだが、この時よくない選択をするとカルマ値が貯まる。
よくない選択肢ってのは、今の場合だと村の周囲に出てくる魔物を放置する、とかな。
カルマ値が溜まりすぎると、シナリオが悪い方向に分岐してしまうのがウツエンにおける最大の特徴だ。
なので俺は、普段からカルマ値を下げるべく行動することを旨としていた。
誰かのために自分の力を、自分が傷つくことを厭わず振るえるのが、カルマ値を下げるコツだ。
ゲーム的には、詰み防止に魔物を倒すことでも減らすことが出来る。
まあこれをバカ正直に話すわけにはいかないから、一言でまとめると――
「必要だから……かな」
「……っ!」
その時、アシェリの顔が驚愕に染まった。
まるで俺の真意を見抜いたかのように。
「そうですか……お兄様らしいですね」
「あー……と、アシェリ?」
「……わかりました! アシェリはもう何も言いません! 全てはお兄様の御心のままに!」
「アシェリ待ってくれ!? 今度は俺のことを何と勘違いしたんだ!?」
が、全くそんなことはないので安心してほしい。
アシェリは思い込みが激しいタイプなのだ。
原作ではその御蔭で魔人になりながらも、それなりに幸福な生活を送れた変わりに、最後は思い込みが原因で悲劇を引き起こしてしまったくらいには。
今はまだアーツに目覚めていないし、俺もいるからいいんだけど。
「アシェリは今日も元気だな……」
アシェリは、何かを察して家の方に戻っていってしまった。
俺も後を追って家に戻りながら考えを巡らせていく。
この世界は運命というものが実在する。
ゲームシステム的にはカルマ値として表現され、設定面でご都合悪い主義を正当化しているのだ。
そう、この世界に存在する運命はすべて、悲劇へと繋がっている。
もし仮に、シナリオ中でカルマ値を減らして正規ルートに入れたとしよう。
これがこのゲームの厭らしいところで、別にカルマ値を上げてバッドルートを回避したところで、待っているのはサッドなルートだ。
アホか?
具体的に言うと、カルマ値の対象となっているイベントの主役――原作におけるアシェリ――の一番大切な人が死ぬ。
原作でのアシェリは、父親だった。
俺の場合は、父親とアシェリが両方死ぬだろう。
だからこの世界はウツエンなのだ。
無論、そうやって悲劇を乗り越えて前に進む人間は美しい。
ウツエンのシナリオは面白かったし、端から見ている文には愉悦を楽しむこともできた。
でも自分がその立場に立った時、それはないだろ、と思うのは当然のこと。
というか、最悪悲劇が防げないのはいいんだよ。
そういうコンセプトのゲームだって解ってるし。
でもさぁ、
カルマ値ゼロで到達できるルートが、
なんてことを考えている、そんな時だった。
「大変だ、村に魔物が出た!」
――来てしまったか。
村に魔物が出る。
それは本来ならあり得ない現象だ。
村には結界みたいなものが張られていて、その中に魔物が入ってくることはできない。
俺が魔物をバキボコにしていたのは、村の外れにある畑の更に外。
ギリギリ結界の外部だ。
地味に結界の直ぐ近くまで魔物が来てるってことでもあるんだが、中に入り込むのはそれ以上にやばい。
そしてこの世界は今後、そういうことがどんどん増えてくるだろう。
そんな状況を前にして、俺はついにその時が来てしまったか、と感じていた。
これはきっと、始まりに過ぎないだろう。
俺という運命に反逆しようとする存在への、世界の宣告。
――さっさとここで、死んでくれ。
「……アシェリ、父さん!」
俺は叫んで、飛び出した。
声のする方へ、一目散に。
逃げ出す村人達の間を縫って、一気に現場へと到着する。
そこには――先程俺がバキボコにしていた狼型魔物の大きい奴が立っている。
村の家々が幾つか破壊され、中は悲惨な有り様だ。
だが、幸いにもその中に血痕は含まれていない。
そりゃそうだ、カルマ値を貯めずに進んだ通常ルートでは、大事な人だけが死ぬ。
つまり、
しかしこれでも、まだ問題は創造する。
大事な人が死ぬ、というのは通常ルートの確定事項だ。
この時、眼の前で殺されていればまだいい方で、実はずっと昔に死んでいるパターンも存在する。
つまり、今回の場合は――アシェリと父さんが危ない。
「アシェリ! 父さん!」
俺は祈った。
頼むから、どうかアシェリと父さんは無事で居てくれ。
こんなクソッタレの悲劇まみれな世界で、その犠牲に一生を費やすなんてふざけた人生を、歩まないでくれ。
そして何より、俺のこれまでの人生が――俺がやってきたことが、間違っていないと証明させてくれ。
「お兄様!」
アシェリが、俺の言葉に返事を返す。
それをかばうように、父さんがアシェリを抱きかかえていた。
狼型魔物の鉤爪が、今まさにアシェリと父さんへ振り下ろされようとしている。
――間に合った。
そして、
この位置、この距離、この状況。
ギリギリで俺はアシェリと狼型魔物のあいだに割って入れる。
ウツエンはカルマ値でルートが分岐する。
バッドルート、通常ルート、そして自己犠牲ルート。
カルマ値がゼロになっている時、選択肢を選ぶことで突入できるそのルートは、一言で言えば、こうだ。
そしてこれが、ゲーム的にはゼロにするのが難しいカルマ値をゼロにして、ようやくたどり着ける特殊
それでも、俺はこのルートを目指して頑張ってきた。
ゲームでは下げることの難しいカルマ値も、現実になったこの世界なら日常的に魔物を倒すことで下げることが可能。
そして何より――
「
俺の拳が、狼がアシェリを喰らう既のところで突き刺さり、
「――俺は、ハッピーエンドが一番好きなんだよ!」
――何より、この世界が現実なら、
そう、理論上この世界のあらゆる悲劇は、自己犠牲ルートを踏んだうえで犠牲を出さなければボコボコにできる。
「かかってこいよ、くそったれ! どんな悲劇だろうが、俺がバキボコにしてやるってんだ!」
ただ、一つ誤算があったとすれば、それは――
魔物が、さっきの一撃だけで普通に死んでしまったことだろう。
まぁ、うん、はい。
俺は――強くなりすぎてしまったのだ。
これは、そんな転生者である俺、バルドが無数に眠るこの世界の鬱フラグをすべてバキバキボココにしていく物語――
鬱フラグくんを理不尽なパワハラと暴力によって屈服させる物語です、通してください!