鬱フラグ バキバキボコボコ 転生者 作:BKBK
「WORLD Utopia of the end」というカルト的な人気を誇るゲームが存在する。
悲劇の中を突き進むRPGとして宣伝され、ゲーム内のあらゆるシナリオが悲劇的な結末を迎える露悪的な作品。
その悲劇がどれも秀逸であったことから、一部のオタクがこれに食いつき人気を博した。
ファンからの略称は「ウツエン」、タイトルの「WUten」の部分を読み替えた略称。
ある意味でこのゲームを、最も端的に表した略称とも言える。
ウツエンの舞台は、ごくごく普通のファンタジー世界。
唯一他と違うのは、ストーリーのあちこちに世界終焉の影が忍び寄っていることか。
”ディストピア現象”と呼ばれる謎の現象が発生し、各地で魔物が凶暴化。
アーツと呼ばれる特殊な力を操る人類、”魔人”が登場しそれに対抗するものの、人々はジリ貧の状態で追い込まれていた。
というのも、そもそも魔人が人類から迫害されていたからだ。
突如として隣人が、魔物と同じ力を使えるようになった。
そんな魔人を、果たしてどれほどの人間が信頼できるだろう。
そんなわけで各地に魔人という悲劇の種がばらまかれ、それを回収するかのように主人公は各地を周り。
最終的にはなんやかんやあって主人公が自己犠牲して世界が救われる、という物語。
これがまぁ、本当に悲劇の部分がよくできていた。
誰も悪くないのに少しずつ状況が悪化していったり、地獄みたいな状況で奮起した人が結局大望果たせず力尽きたり。
様々なバリエーションで、ゲームはプレイヤーを陰鬱な気持ちにさせてくれた。
俺も昔、そんな「ウツエン」をプレイしたことのあるオタクの一人。
ただ俺は基本的にハッピーエンドが好きな普通のオタク、愉悦の趣味はない。
本来ならそういうゲームはプレイしないのだけど、当時としてはグラフィックが非常によく、更にはPVの最中に主題歌が流れるというのを俺は初めて経験。
その衝撃から、思わず手を伸ばしてしまったのが、このウツエンだ。
結果、俺の脳に一生消えない恐怖と衝撃とともに、一生消えない愛と勇気が埋め込まれてしまったのである。
救いは、救いはないんですか! と何度悶えたことか。
そんなゲームの世界に、俺は転生してしまったのである。
最初はマジか……と少し途方に暮れましたね。
事故で死んだのに、転生してると喜んだのも束の間。
どこか見たことある光景が俺を刺激し、やがてある存在から決定的にこの世界がウツエンの世界だと知ってしまった。
後は、概ね知っての通りである。
まぁ、生まれ変わってしまったものは仕方ない。
そもそも一度終わった人生が、もう一度始まっただけでも幸運なのだ。
だから俺はその人生を、可能な限り生き抜こうと思った。
何もしなければもうすぐ世界が滅んでしまうとしても、それでも俺は諦めない。
とにかく生きて、生きて、生き抜く。
そのための方法が、自己犠牲ルートを引き寄せた上でのバキボコ戦法だ。
悲劇とか、運命とか、そういう言葉は確かに美しい。
でも、普通に考えて皆が笑いあって平和に過ごせる世界のほうが美しいに決まってるよな?
かくして俺は、今日も今日とて魔物をバキバキにしてボコボコにしまくる。
そう決めた。
だから俺は、この道を歩み続ける。
+
暴れていた狼は倒れた。
お、おお……思ったよりあっさり倒せてしまったぞ。
ゲームの頃は仮に戦闘が発生すると、ほぼ勝てないような相手だったのに。
魔神の欠片を飲み込んだことで、俺は想像以上にレベリングできていたようだ。
「アシェリ、父さん!」
俺ははっとして、二人の方へと駆け寄る。
ふたりとも、吹き飛ばされた狼を見て呆然としているようだった。
そして俺が寄ってくるところを見て、視線をこちらに向ける。
「お兄様……!」
「大丈夫か!?」
「え、ええ。家財はともかく、私たちは無事です。……ちょっと擦りむいてしまいましたけど」
「見せてくれ。……うん、何にしても、二人が無事で良かった」
アシェリが、比較的早く冷静に立ち直って、自分の怪我を俺に見せてくれた。
俺はアーツでそれを治癒すると、一呼吸置いて二人を見る。
二人の顔は、今も驚愕に染まっているように見えた。
――アシェリは俺が魔物を倒していることを知っている。
アーツを以前に見せたことがあるし、それを受け入れていた。
けれども、魔神という得体のしれない存在を受け入れられるのは、この世界に置いては少数だ。
そもそも魔人という存在に、人類は忌避感を覚えるものである。
なにせ、人でありながら明確に人とは違う力を使うのだから。
「お、おい……大丈夫か!?」
「みてよ、アレ……」
ぞろぞろと、魔物の気配が消えたことで村人達が戻ってきていた。
吹き飛ばされた家々に、苦々しい顔をするものもいれば、俺が魔物を吹き飛ばすところを見ていたのだろうか、俺の方に視線を向ける人もいる。
多くの人に、俺が狼型魔物を倒したことは、バレているだろう。
誰もが、顔を見合わせながらこっちによってくる。
この世界は悲劇の世界。
どれだけ正しいことをしていたとしても、どれだけカルマ値を下げたとしても、最後には運命がそれを嘲笑う。
この世界は、そういう風にできているのだ。
これは、決して変えられない事実。
どうしようもない、鬱フラグ。
魔人という、忌避すべき力を人前で振るった俺に待っている未来は、一つしかない。
そうだ、彼らは――
「にしても
口々にそんな感想をいいながら、何気ない様子で自分の家に戻っていった。
はい。
「いやぁ、相変わらずバルドはすごいなぁ」
「見ました見ました? あの大きな狼さんも一発ですよ父さん!」
「そうだねぇ」
――俺の力を眼の前でみていたアシェリと父さんも、何気ない様子で会話しながら立ち上がる。
俺もこの反応は予想できていたので、二人に歩み寄って今後のことを問いかけた。
「それにしても、家がだいぶ滅茶苦茶になっちゃったけど、この後はどうするんだ父さん」
「んー、村の人達でとりあえず眠れるところだけ確保して、後は明日からゆっくりかなぁ」
「俺も手伝えるところは手伝うよ」
「ありがとねぇ、えーと……あーつ……だっけ? あれも期待してるからね」
なんて、父さんと話をしながら壊れてしまった家の修繕へと向かう俺達。
そう、そうなのだ。
彼らは俺を畏れてはいない。
原因は幾つかある。
まず、現在この世界において、魔人と呼ばれる存在はまだ確認されていないこと。
俺がイレギュラーすぎるのだ。
そして魔人発生初期は、若干ながらも魔人を受け入れる集落というのも存在した。
アシェリはそんな原作で数少ない、魔人でありながらも周囲に受け入れられた存在である。
魔人の情報が少なく、アシェリの人柄が良かったことで、若干恐怖されながらもアシェリは村人から迫害されなかったのだ。
そんな村だからこそ、俺も村人が受け入れてくれる可能性にかけて力を振るった。
さっき村人も言っていたけれど、俺に対するイベントの発生はこれが初めてではない。
初めて起きたイベントは、今回みたいに単純なものではなく、もっと壮絶なものだった。
魔物も強く、誰がどう見てもタダの子どもでしかない俺じゃ太刀打ちできないだろう。
そう思わされるものだ。
で、それを一方的にバキボコにして倒してしまった結果、周囲は俺に対する恐怖よりもドン引きの方が勝ってしまったらしい。
なんかこう、壮絶な死闘の末にボロボロになりながらも勝利していたら、彼らは恐怖の一つも覚えたかもしれない。
でも完全なるワンサイドゲームでバキボコにした結果、これはなんかそういうものなんだという納得のほうが先にきたそうな。
結果、俺はなんか知らないけど村に受け入れられた。
最初のうちは、魔物を倒すたびに村人たちもちょっと顔を引きつらせていたけれど、慣れというのは恐ろしいもので、今では誰もそれを気にする様子はない。
人は強い、とゲームの中でメインキャラが言っていた。
……いやでも、これを人の強さというのは、ちょっと違う気もするなぁ?