異世界監獄ゴッドタレント   作:愛XPress

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第1話 世紀末異世界ステージ

「う…、ここは一体……」

数多の戦いを経て、ようやく安息の地でユリアと共に静かな余生を送っていたケンシロウにも、かつての強敵(とも)と同じ地へ足を踏み入れる時がやってきた。

だが、天はまたもや彼らを戦いの地へと送り込む。

ケンシロウが眩しい光に顔を歪めながらゆっくりと目を開くと、自分の置かれた状況に驚きを隠せなかった。

そこは暗く狭い閉鎖的な空間に浮きたつステージのような広間。

そしてケンシロウを浮かび上がらせる何本もの光。

明るく照らされた広間には細長いテーブル、四つのイス、それぞれには懐かしい顔ぶれの強敵たちが腰を下ろしていた。

ケンシロウは、いつの間にか自分もその列に加わっていることに気づいた。

「むう、ようやく目覚めたかケンシロウ」

地獄にも響き渡るような、それでいて忘れようもない懐かしい声が彼の名を呼んだ。

「ラオウ…」

彼の隣には、かつて戦った時のままの姿で長兄が、拳王の名にふさわしい巨大な椅子に 覇気をまとって身を沈めていた。

ただそこに存在するだけで、空気が重力を増したかのように圧し掛かり、強化コンクリート製のスタジオが揺らぐほどの威圧感――まさに“拳王の覇気”であった。

その隣には、静かな微笑みを浮かべてケンシロウを見つめる兄の姿がある。

トキは没する直前のままの姿で、しかしその微笑みは 仏の慈悲。

ケンシロウの混乱を包み込むように柔らかく輝いていた。

「ト、トキ…生きていたのか、なぜ…」

トキは、すうーっと慈愛に満ちた手をかざし、ケンシロウの言葉をそっと止めた。

「すぐにわかる事。まずお前がすべきことは、北斗究極奥義『腹式呼吸法』を使って落ち着くことだ」

その神聖な空気を、下卑た笑いが破壊する。

「うはーははは!…俺の名を言ってみろおー!」

最も端の椅子に座っていたのは、肉食獣の牙を思わせるヘルメット姿の男――ジャギ。

彼は懐からフォークを取り出し、牙の隙間から ベロリと異様に長い舌を伸ばしてフォークの背を舐め回す。

「む、ジャギ、貴様もいたのか」

ジャギはクククと笑い、下卑た声で言い放つ。

「偽物は黙っていろってんだ。この世にケンシロウは俺一人で十分だぜ」

そのとき、照らし出された広間の脇に何本もの強烈な光が集中する。

そこに照らし出されたのは、タキシード姿のバットとドレスに身を包んだリンだ。

バットがマイクに向かって叫ぶ。

「レディース…は、いねえか、しょうがねえ、野郎どもお、用意はいいかあー」

「うおおおおーーー」

闇に包まれた空間から、一斉に鬨の声が上がる。 野郎どもが足踏みを始め、部屋全体が地響きのように揺れた。

バットはその騒ぎを十分に堪能すると、大きく手を掲げて観衆を制した。

「今夜此処で行われるのは、天界の美食神がスポンサーとなって行われる一大食レポイベントだー」

「なに!」

ケンシロウは驚きの声を漏らす。

「司会進行は、俺様、バットが勤めるぜ」

「アシスタントのリンでーす。皆さん宜しくねー」

静まっていた暗い空間が再び歓声に包まれた。

「おおー純白のドレスが似合っているぜぇー」

「俺のヨメになってくれぇー」

「そりゃーぁ、これを受け取ってくれー」

闇の中からリンに向かって無数の投げ銭が飛んでくる。

「落ち着け野郎どもー!今日の審査員を紹介するぜ」

パッとスタジオ全体が明るくなり、ステージ正面に四つの審査員席が浮かび上がる。

「そこの並んでいるのは、南斗聖拳の使い手の3人、殉星のシン、妖星のユダ、聖帝サウザー、そして最後は特別ゲストとして、自称世界の食を極めた男、ハート様だあ」

サウザーは黄金の椅子に浅く腰かけ、ひじ掛けに体を預け、拳を頬に当て不敵に笑う。

「何の因果かは知らんが、この聖帝サウザーが勤める限り、甘い審査などはせん」

その隣でハートがごくりと喉を鳴らした。

「どんな料理が出てくるか楽しみよおー」

さらにその隣には、数人の美女に囲まれ、白羽の扇で仰がれているユダが座っていた。

「ふん、審査員の器があるのは、この俺だけだ…何故なら…ズバリ美しいからだ‼」

残る審査員席には純白の武闘服に身を包んだシンが座っていた。

「ケンシロウ、貴様の食い様、しっかりと目に焼きつけさせてもらおう」

彼らの後ろの雛壇には、ケンシロウが見知った顔ぶれや、彼に倒された名もなき雑魚キャラたちが席を埋めていた。

狭い密閉空間に押し込められたザコたちは口々に叫んでいた。

「ヒャッハー! こんな密閉スタジオ、保健所に通報してやるー!ビル管法違反だあ」

「おい、野郎の匂いが充満しているじゃねえか! 換気しろ換気ぃ!」

「インフルにコロナ、ダブルパンデミックで医療崩壊しかねねえぞ! マスクと消毒液持ってこいー!」

世紀末の格好をした男たちが怒声を上げ、その声が密閉空間で反響し、スタジオ内の熱気をさらに押し上げていく。

罵声がバックコーラスのように響く中、バットの声が会場全体に響き渡った。

「黙れ野郎ども!今日の参加者全員にお土産を用意しているから静かに座ってろぉ!」

「今日のイベントに因んで特別注文した、とっても素晴らしいお土産を沢山用意してるわ」

「おおー」

まだ騒然としていたスタジオだったが、リンが巧みに場を取り持ち、ようやく静けさが戻り始めた。

「面倒だけど、まだ状況が飲み込めていないケンのために説明してやるぜ」

アシスタントのリンが話を引き継ぐ。

「天界の美食神が、自分が食べる勇気を持てない食材や料理について食レポをしてもらおうという企画です。」

「手っ取り早く言えば、地上最強の男達に毒見をやってもらおうってことだ」

「ルールは簡単です。審査員席には〇と×のランプが点灯するようになっています。審査員は選手の食レポを聞いて、自分も食べてみたいと思うものがあれば〇を押し、絶対食べたくないと思うものがあれば×を押してもらいます」

「〇一つ毎に食レポをした選手に1点が与えられるぜ。ただし誰かが×を押した時点で、今まで得た得点は全て0点になってしまうという鬼畜仕様だ」

「そして優勝者には、望む世界にチート能力付きで転生させるという豪華景品が用意されています」

説明が終わると、選手たちはそれぞれ自分の夢を語り始めた。

「うわははは、俺様が最強だと!美食神は、わかっているじゃねえか。遂に俺の時代がやってくるぜぇ。そうなったら、ムカつくケンシロウの名前など、名乗る必要はねえ。このジャギ様が世界の王となってやるぜ」

「フフ…これで病気やケガのない世界を築くことができる」

「俺にはユリアさえいればいい、だがハワイの高級リゾートで二人で暮らすというのも悪くはない」

「ふん、何を食うのかわからぬのに無邪気なものよ。俺にそのようなものは要らぬ。何処に行ってもこの拳で世界を制するのみ。だが勝負とあらば、このラオウ、逃げも隠れもせんわ」

ラオウの溢れる闘気に静まり返った会場の中、一人の男が勢いよく立ち上がった。

「おお、流石は拳王様。このヒルカ、例え地獄の底でも御一緒致しますぞ」

「黙れ負け犬!お前の顔など二度と見たくはないわ。犬の餌でも漁っておれ!」

ラオウの怒声が会場に轟き、その余韻を断ち切るようにバットの声がスピーカーから流れた。

「さあ、ウエイトレスは世紀末のアイドル、マミヤさんだ」

「おおー」

いやが上にも盛り上がり、スタジオの空気はさらに熱を帯びていく。

だがステージ横の暗がりからスモークと共に現れたのは、全身を化学防護服で覆い、重厚なガスマスクで美貌を完全に隠した彼女だった。

コーホー…コーホー。 不気味な機械的呼吸音が、彼女の姿を見て静まり返ったスタジオ全体に不穏な空気を漂わせる。

彼女が押しているのは、銀のクロッシュで覆われた四つの皿を載せたトレーカート。

スタジオを包む沈黙はさらに深まり、観客たちの顔に緊張が走った。

「さあー今日の一品目だ」

「何が出てくるか楽しみですね」

気づけばバットとリンも、いつの間にかガスマスクを装着している。

完全防備のマミヤが、トレーから一皿ずつ北斗4兄弟の前に置いてゆき、舞台袖に姿を消した。

何時もは沈着冷静なケンシロウであったが、背中を伝う嫌な予感にゴクリと喉を鳴らす。

拳士としての本能が、確かな危険を告げていた。




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