「……バカなんですかねぇ……」
探索者が呆れたように吐き捨てたその視線の先には、ヴァルキューレ警察学校の留置所があった。
到着早々、RABBIT小隊の四人はそのまま別々の取調室へと収監された。それから数十分後、担当の警察生徒たちによる順次の取り調べが始まったのだが——
「……で、取調室からの報告は?」
探索者の問いかけに、担当したフブキとキリノはやれやれといった風に肩をすくめて見せた。
「まあ、貴方の予想通りだったよ。要するに『ヴァルキューレが嫌だから断ったんじゃない、SRTを去るのが嫌なんだ』って話」
「SRTを去るのが嫌ねぇ……」
「ええ。小隊長のミヤコさんは正義論を熱弁していたそうですよ。『各所の治安組織は利害関係で正義を歪曲しているが、SRTだけは時と場所を選ばず一つの正義を貫いている。私はそんな屈強な正義に憧れたんだ』……と」
探索者が呆れたように鼻で笑うと、フブキは言葉を続ける。
「で、他の子も似たようなもんだね。『放課後も厳格な規則で過ごす常在戦場の心構えこそがSRTだ。のうのうと自由を与えられたヴァルキューレになるくらいなら、厳しい環境下でも狼として誇り高く生きてやる』……らしいよ」
「アホじゃん」
「まあ……全員がそういうわけではないですが……大方そんなところですね」
キリノが困惑気味にフォローを入れると、探索者は短く答えた。
「テンキュ」
会話を一通り聞いていた先生が、顎に手を当てながら思案顔で呟く。
"SRT特殊学園の復活って、やっぱりあり得ないのかな?"
「……そもそも私としては、彼女達の要求を飲む事自体が気に入らないのですが」
カンナが冷ややかに言い放つと、探索者は同意と言わんばかりに軽く肩をすくめた。
「今は6割無理でしたが、今回のテロで120%無理に代わりましたね。私個人としてはSRTの存続自体には賛成だったんですが……まぁいかんせんダイナマイトみたいな存在なので」
「チラッと言ってましたけど、SRTってのは自治区の垣根に関係無く動ける……言っちゃえばシャーレみたいな権限を持った学校ですね」
探索者の言葉に、先生は頷く。
"学園間の関係や利害の問題に左右されず、自らが信じる正義を実行していた……そう言ってたね"
「じゃあなんでそんな事出来てたかって言うと、簡単な話。SRT特殊学園は連邦生徒会長の直属の組織だからですよ」
探索者の回答に、先生は「連邦生徒会長の?」と問い返す。
「連邦生徒会長の権限でキヴォトス最高峰の兵器を装備して、連邦生徒会長の権限で自治区間に関係無しに動く学校。それがSRT特殊学園。しかし今は……その責任者がおらず、今の連邦生徒会では手に負えない。ならば解体の選択肢を選ぶのは合理的ですね」
淡々と事実を突きつける探索者の言葉に、先生は静かに息を吐き出し、留置所の奥へと視線を向けた。
「……ノーベルと似たような話です。力は使い方次第。要は道具に罪はないってだけです」
探索者の言葉には冷徹な現実主義と、同時にどこか冷めきった納得感が混ざり合っていた。あまりにも強大すぎる力は、それを制御する絶対的な主を失った瞬間、ただの危険物へと成り果てる。
"……だからこそ、あの子たちも使い道を失って戸惑っているのかもしれないね"
先生が思案気に呟くと、探索者は呆れたような溜息をひとつ吐き出し、軽く首を振った。
「だから私が首輪をつけようとしたんですよ。ちゃんと生徒会にも許可取ってね」
あっけらかんと言い放つその言葉に、周りにいたフブキたちも苦笑いを浮かべるしかない。
「野良犬として野放しにしておけば、いつか誰かを噛み殺すか、自分が野犬狩りに遭うだけです。手綱を引き直して実用的な場所に置いてやることこそが……今のあの子たちにとって一番の救いだったはずなんですけどね」
あきれ返ったように吐き捨てる探索者に対し、先生は困惑を隠せない様子で眉をひそめた。
"首輪って……"
「では『責任の所在を明確にした合法的な再編案』とでも言います?」
即座に返ってきた淡々とした正論に、先生は「……」と口をつぐむことしかできない。
「長いので首輪でいいでしょう」
身も蓋もない言い方で片付けると、探索者は肩をすくめて見せた。
ポケットに手を突っ込み、どこか遠くを見るような冷めた眼差しのまま、探索者は淡々と言葉を重ねる。
「……そもそも、あの子たちのやっている覚悟とやらは履き違えてるんですよ。"死んで勝つ"と"死んでも勝つ"は大きく違います。前者は目的の達成に死がどうしても含まれている。後者は『死ぬことすら覚悟している』という精神論、覚悟の話」
自暴自棄に近い抗戦を続けるRABBIT小隊の危うさを切り捨てるように、探索者は静かに告げた。
「今のあの子たちは、死ななくてもいいのに『死んで勝つ』に突っ込もうとしている。自分の命すら使い捨ての駒にして満足するなら、それは誇りでも何でもなく、ただの自己満足です」
留置所の冷たい廊下に、探索者の静かな声が鼓膜を震わせる。
「死とは美しいものではなく、ただ死んだだけです。記憶にすら残らない」
一風の感情すら挟まないその言葉は、過酷な現実にあまりにも淡々と根ざしていた。
先生は何も言えず、ただ深く静まり返る通路を見つめていた。
「無駄に死ぬくらいなら、首輪を着けられてでも生きて泥を啜りなさいって話ですよ。命さえ残っていれば、いつか本当の『勝ち』を拾う機会だって来るんですから」
「ま、それが彼女たちとって、『命よりも高いプライド』なら話は別ですが…そこは私には判断できないのでね」
"君にも…あるのかい?"
問いかけを受けた探索者は足を止め、チラリと横目で先生を振り返った。
「私には私の、命より重いものがありますよ」
その声音には、先ほどまでの毒も皮肉もなかった。
「まあ、誇りが命より重いなら、その誇りを守るためにこそ生き残れと思ってますけどね」
探索者は溜息まじりにそう吐き捨てると、くるりと踵を返して歩き出した。靴音が冷たい廊下に一つ、また一つと響き渡り、やがてその背中は静寂の闇の中へと消えていった。
──────────────────────────
それから数日後。
探索者は突然、5日間の有給休暇を申請した。
提出された書類に書かれていた理由は、ただ一言「私的な理由」とだけ。
当然ながら、先生と連邦生徒会の面々はその意図を図りかねて大いに頭を悩ませた。しかし、下手に追求して探索者がへそを曲げ、最悪の形で暴れ出したりすれば、今の生徒会では到底手に負えないことは目に見えている。結局、腫れ物に触るような扱いのまま、申請はしぶしぶ受諾されることとなった。
——そして、探索者が表舞台からふらりと姿を消したその頃。
先生は一人、静まり返った子ウサギ公園へと足を踏み入れていた。
かつては市民の憩いの場だったはずのその場所は、すっかり荒れ果て、冷たい風が吹き抜けている。RABBIT小隊の少女たちが生活の拠点とし、そして連行される直前まで守り抜こうとしていた『野営地』残されていた。
そうしてRABBIT小隊がキャンプをしているエリアの付近まで近づいた、その時だった。
"うわっ!?"
派手な音を立てて、先生は前気味に盛大に転倒した。見ると、足元には巧妙に設置されたブービートラップのワイヤーが固く絡みついている。
「……なんだ、先生か。何か変な動きをしてるから不審者か野良犬かと思った」
先生の足に絡まったワイヤーを取っているとサキが来た
“公園に罠とか危ないでしょ!?”
「そうは言っても仕方ないだろ。侵入者を防ぐためにはこれくらいやらないと」
「あ、先生じゃん。そこの足元気を付けた方が良いよ、地雷埋まってるから」
"えっ!?ど…どこにあるの!?"
「どの辺だったかな……具体的な場所は忘れちゃった……まあ爆発したらそこにあるよ」
"危なすぎるでしょ……どうしてこうも危険なものを次々と……!?"
「危険も何も最小限の自衛手段だ」
「そうそう! むしろ足りないぐらいだよ!!」
"明らかにやり過ぎなのでは……"
恐怖で固まる先生と平然と言い返す二人が押し問答を繰り広げていると、騒がしさを聞きつけたミヤコとミユが様子を見にやってきた。
「……先生……何か用ですか?」
"大丈夫かなって心配で……困ってることある?"
「見ての通り……余裕です」
「これぐらい、SRTなら朝飯前……」
強がる二人だったが、その言葉を遮るように呆れ含みの声が差し込まれた。
「何言ってんすか。私の飯の匂いを嗅いでおいて」
ふと声のした方へと目線を向けると、そこには数日間の有休を取っていたはずの探索者の姿があった。手際よく炭を起こしていたらしく、香ばしい匂いが周囲に漂っている。
「ども、先生」
"どうしてここに?"
「どうしても何も、ただのキャンプです。あぁ、どこぞのバカどもとは違って、ちゃんと許可取ってね」
「いや、ここは私たちの野営地なんですが!?」
サキが食ってかかるように声を荒らげると、探索者は網を乗せ、炭をひっくり返しながら、心底呆れたように目を細めた。
「はぁ? 何言ってんですか? ここ公園ですよ。市の所有物です。あんたらだけの野営地でも何でもない。もっと言うなら、あんたら占有許可すら取ってないでしょ」
「うぐっ……」
正論の直球を食らい、サキはぐうの音も出ずに言葉を詰まらせた。
「私はね、ちゃんとしかるべき部署に申請を出して、利用料まで払ってここでキャンプしてる『正当な利用者』なんです。無許可で不法占拠してる野良ウサギさんに文句を言われる筋合いはありませんねぇ」
「よし、そろそろ焼き始めるかな」
そう言いながら、探索者は手際よくクーラーボックスから立派な鮎を5尾取り出し、串に刺して炭火の周りに立てて焼き始めた。
じわじわと熱が通り、鮎のさらっとした上質な脂が炭に落ちてパチッと弾ける。途端に香ばしく甘い煙が立ち昇り、探索者はそこに軽く塩を一振りした。
「肝は処理したほうが食べやすいって人もいますけど、私はこの独特の苦味も大好きでしてねぇ……七輪やグリルで手軽にって手もありますが、やっぱり遠火の強火でじっくり焼ける炭のほうが圧倒的に好きなんですよね」
頼んでもいないウンチクを朗々と垂らしながら、探索者は絶妙な手つきで鮎の焼き加減を確かめていく。
立ち込める香ばしい匂いと、パラパラと弾ける塩と脂の音。
「ぐぅぅぅ……」
直撃を受けたRABBIT小隊の胃袋が一斉に悲鳴を上げ、サキもミヤコも悔しそうに顔を歪めながら、必死で視線を逸らそうとする。
「うし、良いかな。先生もどうです?」
探索者は絶妙な焼き色のついた鮎の塩焼きを差し出しながら、軽く顎をしゃくってみせた。
"えっ?いいの?"
「どこぞのアホたちはプライドが邪魔して食えないでしょうしね。残しても勿体ないですし」
あからさまに聞こえるような大声で言い放つ探索者に、サキの額に青筋が浮かぶ。
「だ、誰が食うか! そんな挑発に乗ると思ってんのか!」
「誰もあげるなんて言ってませんけど? 自意識過剰ですねぇ」
「なっ……!」
探索者は意地悪く口角を上げると、熱々の鮎を一口かぶりついた。パリッと香ばしく焼き上がった皮が弾け、ホクホクとした白い身から旨味が溢れ出す。
「んー、美味い。皮の香ばしさと塩加減が完璧ですね。やっぱり炭火に限る」
「うぐぐぐぐ……!」
視線を逸らそうとしながらも、鼻腔をくすぐる上質な脂の香りと、咀嚼する音に耐えきれず、ミユに至っては目をウルウルさせながら今にも泣き出しそうな顔で探索者の手元を凝視していた。
「やっぱり鮎ぐらいならぺろっと行けちゃいますね。さて……2品目は……鰻いきますか」
そう言うと、探索者は保冷バッグから氷詰めにされた立派な鰻の身を取り出した。炭火の熱でじんわりと脂が浮き出し、網にのせた瞬間に「ジューッ!」と暴力的なまでの音が響き渡る。
「う、鰻……!?」
他に存在する雑音の一切が耳に入らない。
まるで何か信じられないものを見たような表情で彼女等が見入るのは、目の前で贅沢に油を蓄えキラキラと太陽が反射し、黄金の秘伝のタレが繰り返し塗りこまれ、七輪に光る液体が堕ちる度にジュッ…と心地よい音とともに、空いた腹を直に刺激する誘惑と背徳の匂いを発する鰻である。
ジュッ…ジュッ…パタパタ…
ひっくり返され塗られ焼かれ音を奏でる。
聞くだけ嗅ぐだけ見るだけで、それがオカズに成る程の芳醇な油の香りと口のダムが決壊する程の美しくも朗らかな透き通る垂れた油…
成長期の身体には油の匂いは劇物も同然である。
目を離せず魅入っていると突然、鰻は網から取られ、何時の間にか用意されていた艶々とした五つの重箱の上にそれぞれ乗せられる。
「うーん…2人で食べるには少し多いですかね」
"そ…そうだね"
その言葉に立ち上がり口を開きかk__
「でも久しぶりの鰻だからペロリとイケちゃうね!!油が乗ってて美味しい!やっぱり鰻は格別!!」
「んーーーー!! タレが染み込んだ白飯との相性が最高すぎる! 炭の香ばしさが重なって、箸が止まりませんねぇ!」
あからさまに歓声を上げながら、探索者は重箱から鰻重を大胆に口へと運ぶ。隣で先生もどこか申し訳なさそうに、けれど抗いがたい香気に負けて一口頬張り、思わず破顔していた。
「な……っ!?」
「ご、ご重箱が……五つ……!?」
立ち上がりかけたサキとモエの言葉が、空中で虚しく凍りつく。明らかに「自分たちの分」としてカウントされていたはずの重箱は、ただの探索者の底なしの胃袋によって、あっけなく討伐されようとしていた。
「ふえぇ……うな重……うな重が消えていくよぉ……」
ミユに至っては膝から崩れ落ち、涙目で空腹の腹を押さえながら、あまりにも残酷な目の前の光景に絶望の悲鳴を漏らしていた。
限界を迎えたミヤコが、プルプルと震える拳を握り締め、真っ赤な顔で探索者を指さした。
「私はっ……! 貴方のような大人が大ッ嫌いです!!!」
「酷いですねぇ、ただ飯を食らってるだけなのに」
探索者は鰻重の米粒ひとつ残さず綺麗に平らげると、心底心外だと言わんばかりに大袈裟に肩をすくめて見せた。
「自分の意思で野営して、自分のプライドで飢えてるんでしょう? こっちは有給取って正当な許可を得て、自分の金で極上の鰻を味わってるだけです。それを逆恨みされても困りますねぇ」
「うぐぐぐ……っ!!」
「まあ、食うこともできないプライドを抱えて飢え死にするのも、ひとつの『誇り』なんじゃないですか? 私には到底理解できませんけど」
そんな中、公園の入口の方からパトロール着姿の少女が歩いてきた。
「あれっ?先生?探索者さんも…こんなところでどうしたんです?」
「あぁ、キリノさん、ちょうどいい所に。今お昼に鰻を焼いていてね。良かったら食べますか?」
「いいんですか!?あっ、でも目の前の方々がすごい形相で先生を見てますけどだいじょぶですか?」
キリノは、いまにも襲いかかってきそうな殺気を放つRABBIT小隊の視線に気づき、おずおずと問いかけた。
「あぁ、それなら問題ないですよ。彼女達は気高いSRTの生徒ですからね。自ら望んでこの油の乗った美味しい鰻を食べないことを選んでいるらしいので」
探索者は重箱を一つ手に取り、爽やかな笑みでキリノへと手渡す。
「そっ、そうなんですか……?そういうことなら遠慮なくいただきまぁす! んー!!!おいひいでふ!!」
キリノが口いっぱいに鰻を頬張り、幸せそうに頬を緩ませるその横で、探索者はこれみよがしに大袈裟な溜息をついてみせた。
「……なんです、その顔。『自分たちにも寄越せ』なんて言いませんよね?あぁ、申し訳ない。誇り高きSRTの皆様にそんな考えが微塵もあるはずがないですね。変な勘ぐりをしてしまい申し訳ありません」
白々しく頭を下げて見せる探索者の煽りに、サキの堪忍袋の緒がぶちりと切れた。
「テメェ……ッ! どこまでバカにすれば気が済むんだ!!」
「バカになどしていませんよ。私はただ、あなた方の『気高い信念』を尊重しているだけです。施しを受けず、過酷な状況にも屈しない……結構なことじゃないですか」
探索者は冷ややかな笑みを浮かべたまま、キリノに「お茶のお代わりはどうです?」と穏やかに声をかける。
「ふあー、ごちそうさまでした! 本当に美味しかったです!……でも、なんだかみなさん、思ってた以上に怖いです……」
キリノが空になった重箱を大事そうに持ちながらおどおどと周囲を見回すと、そこには限界を超えた憎悪と空腹で目つきの変わったRABBIT小隊の面々がいた。
「大丈夫ですよ。彼女たちは誇り高きSRT。一般人に手を出したなんて噂が広まればそれこそ看板に泥を塗ることになりますからね……ねえ、隊長さん?」
探索者は冷めた眼差しでミヤコを捉え、わざとらしく小首をかしげた。
「……くっ……!」
ミヤコは鋭い視線を跳ね返そうとするが、ギリと噛み締めた奥歯の隙間から漏れるのは悔し涙混じりの息だけだ。
"ちょっと……流石にやり過ぎだよ"
見かねた先生から咎めるような抗議の声が上がる。だが、探索者は悪びれる様子もなく平然とした顔で肩をすくめた。
「やり過ぎ? 私はただ飯を正当な理由で正当な手順で食べているだけです。法も公園の利用規約も何一つ破っていませんよ?」
"それはそうだけど……"
「彼女たちが勝手に自虐的なプライドを振りかざして、勝手に空腹に苦しんでいるだけだ。飢え死にしそうなら頭を下げて『ご飯をください』と言えば済む話でしょう。それをしないのは彼女たちの選択です」
「私は何も要求してませんよ?SRTを捨てろとも言ってません。私の部下になれとも言ってません。飯を食ったら誇りを捨てたことになる、とも言ってません。ただ、食べたいなら言ってくださいと言っているだけです」
探索者は冷めた手つきで片付けを進めながら、一切の情を交えずに言い放つ。
「現実の冷たさも知らずに『誇り』なんて玩具を抱え込んでいるから、こんなくだらない事で追い詰められる」
「あなた達だって被害者であるのは認めますよ。でも、その後の選択を選んだのはあなた達だ」
パタン、とクーラーボックスの蓋が閉まる重い音が響いた。
「……つまり私が言いたいのは、SRTだって、私と同じじゃないですか。生徒会長か私かの違いだけ。何をそこまで拘る必要があるんですか」
探索者は冷ややかな眼差しで、地面に膝をつくRABBIT小隊を視線で射抜いた。
「自分たちは『連邦生徒会長の直属』だから特別だ、正義だと思い込んでいる。ですがね、外から見れば『権力者の都合のいい犬』だったという事実に変わりはないんですよ。飼い主が連邦生徒会長から私に、あるいは他の誰かに代わるだけの話です」
「なっ……ッ! 私たちの『正義』を……会長の威光を借りただけの偽物だとでも言いたいのか!?」
膝を震わせながら、サキが殺気立つ瞳で叫ぶ。だが探索者は、鼻で笑ってその怒りを軽々と受け流した。
「偽物とは言っていませんよ。ただ『依存』していると言っているんです。組織という後ろ盾、会長という絶対の命令者、与えられた潤沢な装備……それらがあって初めて成り立っていた『正義』でしょう? それを奪われた途端に公園で野宿し、罠を張り巡らせてコソコソ生き延びるのが、あなた方の誇り高き姿ですか?」
「そんな物は正義とは言えません!!」
ミヤコが搾り出すような声で叫んだ。怒りと悔しさ、そして空腹による疲弊でその肩は大きく揺れている。
「……じゃああんたらが思う正義を教えてくださいよ」
探索者は立ち止まり、振り返りもせずに冷淡な声を背後へと投げかけた。
「正義とは、与えられる立場や許可によって決まるものではありません! たとえ身を置く場所を失おうとも、正しくあろうとする意志……それ自体が、私たちの掲げる正義です!」
「へえ」
探索者はゆっくりと向き直ると、心底くだらないものを見るような目でミヤコを見下ろした。
「じゃあ覚えておけ、正義の逆は正義だ」
探索者の低く冷ややかな声が、重く張り詰めた空気を切り裂くように響いた。ミヤコは弾かれたように顔を上げ、その言葉の意味を追うように目を見開く。
「あなた方が信じる『正義』があるように、他の誰かにも譲れない『正義』や『都合』がある。法と手続きに則ってこの公園を利用する、私のような市民の正義みたいにね」
探索者は静かに歩み寄ると、身構えるミヤコとの距離をあえて潰し、見下ろすように視線を固定した。
「自分たちの正義だけが絶対で、それを拒む世界が歪んでいるとでも思っているなら、それはただの傲慢だ」
「正義と正義がぶつかり合った時、最後に残るのは信念の美しさじゃない。生き残るための『現実的な力』だ。そして『勝った者だけが正義』だ。お前たちが正しいと思っていることを、世界が正しいと認めてくれる保証なんてどこにだってないし、勝たなければ、自分たちの正義を正義として残すことすらできない」
ミヤコは唇を噛み締め、真っ直ぐに探索者を睨み返す。だが、その瞳の奥には揺らぎと、拭いきれない敗北感が確実に生じていた。
「意志があると言うなら結構。明日も私はここで、正当な権利のもとで最高のメシを食います。あなた方の『正義』が、ただの空腹に負ける程度の代物なのかどうか……明日また見せてください」
それだけ言い捨てると、探索者は今度こそ一度も振り返ることなく、先生を引き連れて公園を後にした。