巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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帰ってください

 

 

探索者はペロロジラの元へ急ぐ。途中でナースに止められかけたが、「世界が逝くぞ!! 良いのか!!」と暴論を放ち、静止を力ずくで振り切って広場へと飛び出した。

 

「『銀鍵は世界を渡る道標、門は世界を知る灯籠。魔力の導きに従い、我が夢見し地へと旅立つ"門の創造"』」

 

探索者が呪文を滑らかに紡ぎ上げると、広場の中央に空間を歪める黒い鉄——『門』が静かに展開された。

 

"…それは?"

 

先生が目を丸くして尋ねる。

 

「門の正式詠唱です。ここまで荒れてると座標とか覚えてても危ないので」

 

"さっき逃げようとしてたけどあれは?"

 

「短距離なら問題無いですから」

 

「おいおい……! 逃げる気満々だったくせに、結局一番最初に飛び出す準備してんじゃねぇか!」

 

エドワードがニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべ、機械鎧の肘をカンカンと鳴らす。

 

「出禁です来ないでください。さっさと行きますよ先生」

 

「なっ…!!ふざけんな!」

 

エドワードが腕をぶんぶんと振り回し、顔を真っ赤にして怒号を上げる。

 

「ふざけんなはこっちのセリフですよ!! 起きた瞬間に労働させられるなんて溜まったもんじゃない!! 労基法はどこ行った!!」

 

「ってか貴方たちならどーせ走ってこれるでしょう!! ほら!! ホシノさん急いで!!」

 

「うわっとっと!? ちょっと探索者ちゃん、おじさんをそんな雑に押し込まないで〜!?」

 

ホシノが慌てて盾を抱え直して門へと滑り込み、先生も引きつった顔のまま空間の歪みの中へと吸い込まれていく。

 

「姉!妹!! さっさと来い!! カヨコさんも!!」

 

「きゃあぁぁ!? ちょっと探索者、引っ張らないでよー!」

 

「わ、わわっ! 自重で転びますぅぅ!」

 

モモイやミドリも悲鳴を上げながらその中に押し込まれ、カヨコも「え、ちょっと……!?」と呆気にとられた顔のまま、探索者の強引な勢いに引きずられて門の向こうへと消えていく。

 

「んじゃ!! くれぐれも変な真似はしないこと!! 待機ですからね!!」

 

後方の師匠組に向かってビシッと指を突きつけ、大声で念押しする探索者は間一髪のタイミングで『門』を完全に閉じ切った。

 

 

 

 

瞬間、空間が切り替わり、目の前に広がったのは第六サンクトゥムの決戦場。

全高数十メートルを超える巨大怪獣ペロロジラが咆哮を上げ、その周囲を音速の残影を描きながら白と黒の機動兵器(AC)が縦横無尽に飛翔している。

 

 

「ひ、ひぇぇぇ……! なにこれ、特撮映画の撮影現場か何か……!?」

 

「んなもんだったらよっぽど良かったですけどね!!」

 

探索者は喉が引き裂かれんばかりの声を張り上げると、急いで芯火へと手を伸ばし、ある銃を取り出す。

 

「オラ!!」

 

探索者は迷いなく上空に向けて一発の射撃を見舞った。すると緑色の光線が描かれる。

 

「な…なに?」

 

「信号弾です!白は『停戦』!!」

 

モモイが素頓狂な声を上げ、ミドリも呆然と上空の白色の光線を見上げた。

 

「こんな地獄絵図のド真ん中で信号弾一発打ち上げて、相手が『はいそうですか』って止まるわけ——」

 

モモイの言葉が終わるより早く、空を跳び回っていた白と黒の巨大な鉄の機体が、ピタリと空中でホバリング運動を停止させた。 

 

「はぁぁぁ……よかった……おーい!! 621! エア! すまんが撤収だ!! 俺から報酬は払う!! だから撤退してくれ!!」

 

探索者は大声で上空のホワイトグリントに向けて手を振り、なりふり構わず必死の交渉を試みた。

 

「…はぁ!? いやいやいや!! こっちにも事情があるんだわ!!」

 

「何喋ってるの…?」

 

モモイが横で目を丸くし、完全に引いた目で探索者をまじまじと見つめる。ミドリも「誰と交信してるんですか……?」とドン引きだ。

 

「いや、ちがっ……そうじゃなくて!! お願い!!」

 

頭を抱えて必死に説明しようとする探索者に、上空の白いACから無慈悲なシステム音が響き渡るわけでもなく、ただ圧倒的な威圧感だけが漂う。

 

「ちょっ…待て!ウォルターが悲しむぞ!!教育受けてないのか!!」

 

 

探索者が声を荒げても黒い機体は動きを止めず、まるで猟犬のように、そして獲物を追い詰める時間を楽しむかのように、漆黒のブースター火花を散らしてじりじりと旋回を続けていた。

 

「……止める気あるかぁ!!」

 

 

「あぁそうかい!!!もうやれや!!その代わりその後はこっちに従ってもらうからな!!いいな!!!」

 

 

ブチ切れた探索者がやけくそ気味に叫んだ瞬間、待ってましたと言わんばかりに二機は飛び立ちミサイルとショットガンの雨をペロロジラに向ける。

 

「離れますよ。流石に巻き添え食らいます」

 

 

探索者は『門』を出し、その場から離れ、少し離れたよく見える高層ビルへと移動する。

 

 

ビルの屋上からは、第六サンクトゥムの全景が一望できた。眼下では二機のロボットが放つ密度の高すぎる弾幕とミサイルの光条が渦を巻いている

 

「…てか何であれで会話が成立してたの?」

 

カヨコが呆れたように溜め息を吐きながら、隣に立つ探索者に問いかける。

 

「色々です」

 

探索者は疲れ切った顔で短く答え、手すりに背をもたれかけた。

 

「……まぁ簡単に言えば白の機体は特殊な電波を飛ばしてるんですよ。こっちの声はどーせ聞こえてますから、それで会話が成立してます」

 

探索者は考えるのを放棄したように深く息を吐き、煙草を吸うような仕草で遠くの爆炎を見つめた。

 

「で? あの黒い方の機体は何なの? あれもその『波』だか何だかで意思疎通できてるわけ?」

 

「あれはただ狂暴なだけです。話聞いてないし、暴れたいから暴れてるだけ。猟犬を野に放つとあーなるんですよ」

 

探索者が死んだ目をして答えると同時に、眼下で大爆発が巻き起こった。二機の圧倒的な火力によってペロロジラの巨大な巨体が完全に傾き、体勢を崩した。

 

「あーあぁ…御愁傷様だなぁ……本当に…」

 

探索者は哀れむような、諦めきったような目で眼下の巨大怪獣を見下ろした。

 

「多分普通にやってればかなりの強敵なはずなのになぁ……イレギュラーのせいでぶち壊されてらぁ……」

 

「……ま、本来なら私達と先生が一致団結して挑む決戦だったはずなんだけどね」

 

カヨコが呆れ混じりに隣で小さく息を吐く。

 

眼下では、過剰火力を叩き込み終えた二機のACが漆黒と白の機体をブースターの残光とともにゆっくりと旋回させていた。

 

 

「…はぁ…ま、変わんねぇからもう良いけどさ…」

 

"それってどういう──"

 

先生が言いかけた瞬間、二機はブースターを逆噴射させて一定の高度を保ち、静かに探索者の立つビル屋上へとアームを向けた。

 

「よう、久しぶりだな621、エア。ウォルターは元気か?すまんがとっとと帰ってもらう。楽しかった?そりゃ何よりだよ」

 

探索者が死んだ目をしたまま、まるで親しい飲み友達にでも声をかけるかのように気安く手を出して応答する。

 

「んじゃ、さよならだ。我が友人よ」

 

そのまま探索者は手をパチンと叩き、地面へとつける。すると錬成陣が浮かび上がる。

 

「『銀鍵は世界を渡る道標、門は世界を知る灯籠。魔力の導きに従い、我が夢見し地へと旅立つ。時空を支配し時を司る掟を守る事を此処に』」

 

「『門の創造』」

 

青白い錬成の光と怪異なる魔力の導きが交差し、ビル屋上の上空に途方もなく巨大な『門』が展開される。

 

二機のAC——ホワイトグリントとブラックグリントは、短い通信の余韻を残し、吸い込まれるようにその境界へと消えていった。

 

「…ふぅ、これでよし…後は……」

 

探索者は振り返り、恐らく来ているであろう人たちに向けて準備を始める

 

 

「……おい、まさかとは思うが、俺等達まであの怪しい門の中に放り込む準備をしてるんじゃねぇだろうな?」

 

屋上の縁に手をかけ、腕組みをしたエドワードがじと目で睨みつけてくる。その両隣には、至極楽しそうに指骨を鳴らすヴァイスアッシュと、不敵な笑みを崩さないマスタング、そして静かに大剣の柄に手を置くカーリーが並んでいた。

 

「えぇ、そうですよ。個人的には私の代わりに全部やってほしい所ではあるんですけどね。そうもいかないらしいので」

 

「お前の性根を叩き直すまでは帰らんぞ」

 

「んなこと言われたって無理なもんは無理ですよ。はい並んで」

 

探索者が錬成陣を描き終えるとそこに立つよう手で促す。

 

「おいおいおい!! 『はい並んで』で帰らされるヤツがどこにいる!!」

 

「鋼のチビならここに」

 

「誰がドチビで豆粒で上から目線で並ばされるヤツだコラァァァッッ!!」

 

「そこまで言ってねぇよ。ほら立って」

 

エドワードが血管を激しく浮き上がらせ、顔を真っ赤にして跳び上がるが探索者は意にもかえさない。

 

「…オメェさん」

 

「ほら旦那も、グズグズしてるとボイドに落ちますよ」

 

「ケッ! 人を次元のゴミ箱に放り込むみたいな言い方すんじゃねぇよ!」

 

 

 

ヴァイスアッシュは鼻で笑うと、乱暴に頭を掻きながら錬成陣の中へと脚を踏み入れた。

 

「…それじゃあ。さよなら、元気でいてくださいよ?どーせ貴方達はそう簡単にはくたばりゃしないでしょうが」

 

探索者は倒れ込みそうな体をなんとか支えながら、手を地面へ叩く。すると、それぞれの足元に展開された錬成陣から、異次元への境目を告げる『門』が重厚な音を立てて出現した。

 

「…あぁ、またな」

 

エドワードがどこか寂しそうな視線を一瞬だけ向け、悪態をつくことも忘れて静かに門をくぐり抜けていく。

 

「……言われずとも死ぬつもりはない。貴様もせいぜい無様晒して生き延びろ」

 

カーリーが大剣を背負い直して静かに門をくぐり、その巨躯が光の歪みの向こうへと消えていく。

 

「……あぁ、さよならだ」

 

マスタングが軽く発火布の手袋に手を当て、不敵ながらもどこか温もりのある笑みを残して門の奥へと足を踏み入れた。

 

「……オメェさん、ヴォーパル魂は忘れてねぇだろうな」

 

「えぇ、勿論。片時も忘れたことはありませんよ」

 

「…そうか……んならまた地獄で一杯やろうや」

 

「えぇ、『師匠』と一緒に」

 

「…そうだな」

 

最後に残っていたヴァイスアッシュもその言葉と共に、ニッと凶悪でどこか晴れやかな笑みを浮かべ、牙を覗かせながら大股で門の光の中へと消えていく。

 

 

ゴギギ……と重厚な鳴動を残してすべての『門』が閉じ、青白く輝いていた錬成光が静かに収まっていく。

 

 

 

同時に、第六サンクトゥム周辺を圧倒的な存在感で支配していた異世界の規格外な圧迫感は、まるで夢だったかのように綺麗サッパリと拭い去られた。

 

 

 

 

空に目を向けると、不気味な程に赤く染まっていた空が元の清らかな水色へと戻っていた。まだ崩壊した自治区の修復等の問題もあるが、これでキヴォトスの平和は守られ——

 

 

「——ッ!?」

 

 

今まで聞いた事の無い、奇妙な音が辺りに轟く。何事かと音のした方向へと振り返ると、衝撃的な光景がそこには広がっていた。

 

"あれは……シロコ?"

 

先生が呟く。だが、目の前に立つ姿は普段の彼女とはあまりに違っていた。髪は床に届かんばかりに伸び、黒いドレスを身に纏っている。そして何より、頭上に浮かぶヘイローが異質だった。一部が欠け、黒く重たく歪んでいる。そもそも、目の前に居るのは本当にあのシロコなのか。

 

「……先生、ここまで来たんだ。流石だね」

 

少女は静かに口を開いた。その声には感情の起伏が掠れもしていない。

 

「でも、未来を変える事は出来ない。キヴォトスが終焉を迎える事は、決まっている」

 

"待って……! シロコ、本当は——"

 

「——違う」

 

先生の言葉を遮り、彼女は淡々と首を振った。

 

「私は、色彩に操られてなんかない……違うよ、先生」

「これは私自身の『本質』」

「この世界を、定められた未来へと導く——その役割を私が担当しただけ。色彩はその手段の一つに過ぎない……むしろ、私の方が色彩を利用しているかも」

 

己の破滅すら当然の役割として淡々と語るその姿に、どこまでも救いのない冷たさが宿っていた。

 

「いつ、その時が来たとしても……私は迷わないよ」

 

そう言って『シロコ』は、先程の奇妙な音と共に空間へ歪みを作り出し、そこに溶け込むように姿を消そうとする。

 

「……なるほどなぁ……胸糞悪いシナリオよー考えるもんだ」

 

疲れ切った溜息と共に、死んだ魚のような目をした男が呆れたように鼻を鳴らした。

 

「……あなたは誰?」

 

消えゆく間際、少女の視線が男へと向けられる。

 

「カッコつけるなら世界を渡る旅人。ゴミみたいな言い方すれば世界に存在しない存在。その名も探索者だ。知らねぇのか?」

 

「……あなたは私の『世界』には居なかった。それだけ」

 

残響のような言葉を残し、少女の姿が空間の歪みへと完全に呑み込まれていく。

 

"待って、シロコ!"

 

唐突に頭の中に浮かび上がったある仮説に思い悩む暇もなく、先生が迷わずその歪んだ空間へと飛び込んだ。

 

「チッ……放っておけるかよ」

 

探索者は舌打ちを一つ噛み潰すと、先生の後を追うように歪みの中心へ飛び込んだ。

 

不連続な次元の奔流を突き抜け、視界が弾けた次の瞬間。

 

「これ、は……」

 

足を踏み入れた瞬間に、処理しきれない膨大な情報と情景が頭へと直接流れ込んできた。

 

空間にぽっかりと開いた虚無の穴。上空に不気味に滞留する黒い球体。その傍らに佇む白いローブを纏った謎の存在。そして——

 

(人……いや、抜け殻だな)

 

開けた空間の中心に鎮座する、人らしき『何か』。遥かに巨大な体躯に、顔には異様な仮面を付けている。生きている感覚がない。ただの概念の残骸のような異形。それなのに——何故か、隣に立つ先生と同じ雰囲気が不気味に漂っていた。

 

"うっ……!"

 

脳裏を直接焼き焦がすような高圧の拒絶反応に、先生が思わず頭を押さえて膝をつく。

 

 

 

意識が明瞭としてきた頃には、探索者達は既にシャーレに戻っていた。さっきまでの出来事は果たして現実なのか、分からないままに

 

 

「…すぐに医者呼びます。先生、耐えてて。俺は残りの後始末してきます」

 

 

そう語ると探索者はシャーレの窓から飛び出し、サンサンと照りつける水色の闇へと消えていった。

 

 

 

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