巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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今、問いかけるその覚悟を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……懐かしいこと、思い出してたな)

 

 

 

 

ふと、意識を現実へと引き戻す。

無機質な光と静寂が支配する空間の中で、俺は小さく息を吐き出した。現実逃避なんて柄じゃないと思いながらも、束の間の記憶に浸ってしまっていたらしい。

 

 

 

過去を振り返ったところで、あの理不尽な神に勝てるわけじゃない。2,500億年の狂気も、500回のループも、1億年を共にしたあの怪異との対話も……すべては今、この土壇場を迎える時間だった。

 

 

 

それでも、なぜか思い出してしまった。

 

 

 

消えていった仲間たちの残した重みと、最後に笑って消えたアイツの言葉。

 

 

ただの「バグ」として処理されることを拒み、最後まで己の意志を貫き通したあいつらの生き様を。

 

 

 

(……使おう。芯火を)

 

 

 

俺はポケットからゆっくりと両手を引き抜いた。

 

 

 

白い手袋をはめた指先が、かすかに熱を帯び始めていく。

 

 

 

 

『…使うんだね。それを』

 

 

 

 

「腹が据わったもんでな。何者でもなくなっても。やり遂げたいことを再確認しちまった」

 

 

 

 

……こいつにゃ勝てねぇ。だから……やっぱり縛りも必要だな。

 

 

 

そうだな……『使い捨て』にする代わりに俺の持ってる全てのアーティファクト、異世界由来の道具の出力を戻す……これじゃ足りない。じゃあ味覚だ。全部持ってけ。

 

 

 

それに肉体も欲しいな。

 

 

 

……骨が折れる程度ならまだいい。内臓まで潰されるのは困るな。少なくとも、今までなら即死してた攻撃を一発くらいは受けても動ける程度には欲しい。

 

 

 

『今後一切の睡眠を取らない』代わりに今の肉体強度を向上…そうだなシノビレベルに変化……もう一つかぁ……じゃあ、嗅覚だ。持ってけ

 

 

「これで……どうだ?」

 

 

 

言葉を発した瞬間、口内を満たしていたはずの血の粘り気や鉄の匂いが、潮が引くように虚無へと消え去った。

 

 

 

味も、匂いも、脳が認知することすら叶わない完全な無。さらには、生涯二度と訪れることのない「眠り」という休息の権利が、冷酷なシステムの対価として脳髄から物理的に剥ぎ取られていく

 

 

代償と引き換えに、体内で爆発的な変化が起きた

 

 

メキメキと骨格が軋み、筋肉と神経系が人間離れした高密度な構造へと作り変えられていく。超人的な耐久力と反応速度——まさに「シノビ」と呼ぶにふさわしい、死線を潜り抜けるためだけに特化した異形なる肉体

 

 

 

 

「さぁ、超えていく(Go Beyond)って奴だ。俺の居場所は何処にだってないからな。条理は超えられる」

 

 

 

『…そこまで己を削り取って、何が残るというのだ』

 

 

 

 

 

何が残るのか?そりゃ決まってんだろ

 

 

 

 

「それを見つけるために生きるんだろうが」

 

 

 

「…じゃあな」

 

 

カチリ

 

 

芯火を通常とは逆方向へ。

 

ダイヤルが静かに回された。

 

 

 

次の瞬間、探索者の指先から焔が轟々と噴き上がる。

 

 

 

 

赤く。 激しく。 まるで何かを焼き尽くすように

 

 

そして

 

 

 

その焔が止んだ時、俺の手には、札が握られていた。

 

 

「さぁ、泣く子も黙る、博麗神社から力をもらったんだ。頑張らないとなぁ!!」

 

 

両手を大きく広げ、俺は神に向かって叫んだ。

 

 

 

さぁ!飛ぼうぜ!程度の能力はイメージだ!信じてやまない想像力が必要!

 

 

 

味覚も嗅覚も失い、睡眠すら捨て去った異形の肉体に、解き放たれた異界のアーティファクトの莫大な出力が雪崩のように流れ込んでくる。神経が灼けつくような感覚の中、頭の隅で描いたのは、あの「宙を浮く」常識外れのイメージだ。

 

 

 

自分自身が「そこに浮いている」と固く信じ込む狂気的なまでの想像力。それが、この理不尽な空間のルールを力任せに上書きしていく。

 

 

 

 

足元を縛り付けていた暗闇の重力がふっと消え去り、俺の身体が空中へと浮き上がった。

 

 

 

 

「第2ラウンドだ。ちぃとばかしチゲぇぜ?」

 

『…そのようだな。さぁ互いに削ろうか』

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

俺は空を飛びながら神に肉薄し、削る。相変わらず防がれてばかりだが、こちらも削れることが増えた。

 

 

 

「『神槍「スピア・ザ・グングニル」』!!」

 

 

 

 

スペルカードを使い捨て、縁を削り神相手に殴り続ける。

 

 

 

 

 

使い捨ての代償を支払った神器が絶大な威力を発揮し、神の展開する多重障壁を強引に穿つ。必中の概念を孕んだ赤き光の軌跡が、絶対不可侵のはずの領域を強烈に引き裂いていく。

 

 

 

 

「『獄符:千本の針の山』!」

 

足りないのは分かっている。だが俺にはそれを迎え撃てるだけの縁がある!

 

 

 

「『恋符「ノンディレクショナルレーザー」』!!」

 

「『禁忌「カゴメカゴメ」』!!」

 

「『メイド秘技「殺人ドール」』!!」

 

「『蒼符「博愛のオルレアン人形」』!!」

 

「『幻想「花鳥風月、嘯風弄月」』!!!」

 

 

 

 

 

次々とカードを吐き出し、文字通り使い捨てていく。

 

 

 

紅き貫通の槍、全方位を焼き尽くす七色の光線、逃げ場を塞ぐ鉄格子と竹の檻、虚空から放たれる無数の刃、そして自爆を覚悟で突撃する絢爛な人形たち。

 

 

本来なら一枚一枚が戦況を覆す決定打であり、幾重もの絆と記憶の結晶であるはずのスペルカード。それを俺は、破滅的な出力を引き出すための「薪」として容赦なく燃やし尽くす。

 

 

 

それだけではない

 

 

 

 

 

「『火事場の馬鹿力(アドレナリンコントロール)』!!」

 

「『力場(エナジーフィールド)』!!」

 

「『予知能力(プレコグニション)』!!」

 

「『水遁・水龍弾の術』!!」

 

「『火遁・豪火球の術』!!」

 

「『我、世界を巡る者(クリティカルヒット)』!!」

 

「『痛打・対空千手砲』!!」

 

「『クルーシオ』!!」

 

「『ギャリック砲』!!」

 

 

 

 

東方だけじゃない。忍術、魔術、異世界の武技、果てはスタンドから必殺のエネルギー波に至るまで——ありとあらゆる世界を渡り歩き、泥を啜りながら掻き集めてきた「俺の知識」と「異世界の道具(アーティファクト)」の全てを、出力を解き放った『使い捨て』の薪として燃やし尽くす!

 

 

 

 

「『才能開花!串刺し公』!」

 

「『才能開花!重力の実』!」

 

「『才能開花!猫は選択者』!」

 

「『ヨグ・ソトースの拳』!」

 

「『幽体の剃刀』!!」

 

「『グラニテ・ブラスト』!!」

 

「『解』!!」

 

「『捌』!!」

 

 

 

 

世界への影響とか関係ねぇ!! ただ俺の思った能力を取り出し使う!!

 

 

 

次から次へと虚空から引きずり出し、吐き出される破壊の権能。

 

 

 

 

本来なら、これほどの異界の権能を無差別に乱用すれば、世界そのものが過負荷で崩壊を起こす。

 

 

 

 

だが、今の俺は世界に居座る最大の異物——「バグ」だ。

 

 

 

 

システムが築き上げた秩序のルールなど、イメージの力で力任せに踏みにじる。俺が「出す」と思えば、あらゆる物語の、あらゆる神話の、あらゆる概念の暴力がそこに具現化する。

 

 

 

 

 

 

「『かえんほうしゃ』!!」

 

「『だいもんじ』!!」

 

「『プンポロドイハ』!!」  

 

「『水創成魔法・海竜の咆哮』!!」  

 

「『ギガデイン』!!」

 

 

 

 

 

怒りを込めろ。あのクソったれの神たちの思い通りになってたまるか!!

 

 

 

 

「『ファイナルカッター』!!」

 

「『ハウンド』!!」

 

「『アステロイド』!!」

 

「『メテオラ』!!」

 

「『エル・ミーニャ』!!」

 

「『ウル・ドーナ』!!」

 

 

 

 

忍術、魔術、特撮、アニメ、ゲーム——俺が巡り歩き、脳裏に焼き付けてきたありとあらゆる創作と神話の暴力が、怒涛の濁流となって神へと雪崩れ込んでいく。

 

 

 

 

「『マヒャド』!!」

 

「『バギクロス』!!」

 

「『イオナズン』!!」

 

「『霊丸』!!」

 

「『邪王炎殺黒龍波』!!」

 

「『滅びの爆裂疾風弾』!!」

 

「『閃刀術式:アフターバーナー』!!」

 

「『閃刀術式:シザーズクロス』!!」

 

「『閃刀術式:ベクタードブラスト』!!」

 

「『閃刀術式:ジャミングウェーブ』!!」

 

「『ブラック・マジック』!!」

 

「『ゴッド・ブレイズ・キャノン』!!」

 

 

 

 

 

 

それでも

 

 

 

 

「…擦り傷と土煙だけかよ…」

 

 

 

バケモンが…

 

 

 

『…凄いね。君がなぜ強いのかがよく分かる』

 

 

 

煙の向こうから響く声には、恐れも怒りもなく、ただ静かな感嘆だけが混ざっていた。

 

 

 

あらゆる神話を、あらゆる創作の暴力を薪とし、存在のすべてを前払いで投げ打った一撃。それだけの理不尽を叩き込んでなお、神の巨躯に刻まれたのは僅かな擦り傷と、虚空に舞う土煙のみ。

 

勝負にすらなっていないという、絶望的なまでの地力(出力)の差。

 

 

 

「でも…避けたんだな」

 

 

 

『うん。まともに当たると流石に僕でもしんどいからね』

 

 

 

 

『サンドバッグになる気もないからさ』

 

 

 

 

神の言葉と同時に、空間の密度が跳ね上がった。

目に見える予備動作すらない。ただ神がそう「意図」しただけで、世界の位相そのものを押し潰す絶望的な不可視の圧力が、津波のように押し寄せてくる。

 

 

 

「っ…!『ハイドラグーン』!!」

 

 

 

 

あっぶね! 衝撃波か!?

 

 

 

咄嗟に呼び出したハイドラグーンが、俺と不可視の衝撃波の間に割り込み、俺を回収する。

 

 

 

後ろのビルにはとんでもない亀裂が走っている…こりゃ飛んで逃げるだけじゃ死んでたな…

 

 

 

「流石伝説のマシン。頼りにしてるぜ」

 

 

 

ハイドラグーンの硬質な背甲の上で、俺は壊れかけた体を強引に固定しながら狂気的に笑った。

 

 

 

「『メイド秘技「操りドール」』!!」

 

「『虹符「彩虹の風鈴」』!!」

 

「『幻符「華想夢葛」』!!」

 

「『火符「アグニシャイン」』!!」

 

「『水符「プリンセスウンディネ」』!!」

 

「『木符「シルフィホルン」』!!」

 

「『幻在「クロックコープス」』!!」

 

「『幻幽「ジャック・ザ・ルドビレ」』!!」

 

「『月符「サイレントセレナ」』!!」

 

「『金符「メタルファティーグ」』!!」

 

 

 

ハイドラグーンの背の上から、ありったけの札を虚空へ撒き散らす。

 

 

 

空間を埋め尽くす七色の光弾、ナイフの檻、精霊たちの元素の濁流、静寂を破る月光の放射。視界の全てを塗りつぶす、とてつもない量の弾幕が神へと押し寄せていく。

 

 

 

 

……だが、分かっている。

 

 

一つひとつの威力、練度、そして輝き。どれを取っても、かつて俺が憧れ、横で見てきた「彼女たち」の本物には遠く及ばない。量で誤魔化そうと、いくら真似事(コピー)を重ねようと、そこには決定的な「才」の壁が存在していた。

 

 

 

何度も、何度も見せつけられてきた現実。俺は天才じゃない。

 

 

 

 

…何回見せつけてくるんだよ。神様

 

 

 

 

 

本当に嫌になる。自分のこの手の小ささに、抱え込める量に、守れる人数に、手を伸ばせる距離に

 

 

 

 

どんなに時間を重ねても

 

 

 

 

どれほど理不尽な代償を支払っても

 

 

 

 

結局僕は「本物」になんてなれやしない。

 

 

 

 

あの眩しい天才たちが放っていた一瞬の閃きにすら、俺の泥臭い2,500億年は届かないんだ

 

 

 

 

 

伸ばした手からこぼれ落ちていった仲間たち。

 

 

 

 

 

護りきれずに消えていった世界。

 

 

 

 

 

守りたいものすら満足に抱えきれない、小さくて不恰好なこの手。

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

それでも

 

 

 

 

 

 

ここで、諦めたら

 

 

 

 

 

 

旦那に

 

 

 

 

姉御に

 

 

 

弟に

 

 

 

師匠に

 

 

 

大佐に

 

 

 

 

先生に

 

 

 

 

犠牲となった仲間たちに

 

 

 

 

見捨てる判断をしたアイツらに

 

 

 

僕なんかを主と慕ってくれるあの子達に

 

 

 

 

胡散臭い大人と言いながら頼ってくれたあの子達に

 

 

 

 

僕のことをここにいて良いと言ってくれた主に

 

 

 

 

兄と慕ってくれたあの子に

 

 

 

 

申し訳が立たない。

 

 

 

 

「……背負わされたんじゃねぇ。俺が勝手に……背負ってんだよ!!」

 

 

 

 

吐き捨てた声は、もはや人間のそれではなく、壊れた機関のような濁った咆哮だった。

 

 

 

 

可哀想?好きなだけ思え!哀れ?そうだな!僕も客観視そう思うよ!

 

 

 

 

でも…僕が巡ってきた世界はどれも本物だ!!!

 

 

 

それを憐れまれる筋合いはどこにだってねぇ!!!

 

 

天才じゃなくたって、神様に選ばれた主人公じゃなくたって構わない!!

 

 

旦那と酒を酌み交わした夜も、姉御に叩き込まれた拳の痛さも、弟やあの子が見せてくれた無邪気な笑顔も、死んでいったアイツらの温もりも……その全てが、僕の血となり、肉となり、この魂に刻み込まれた確かな現実だ!

 

 

システム上のデータ? 仮想のNPC?

冗談じゃねぇ!!僕にとっては全員、命をかけて愛した本物の人間たちだ!!

 

 

「俺をただのPCだと思うなよ!!神様!!こちとらクトゥルフやりまくったPL上がりのPCだ!!そんじょそこらの探索者とは訳がチゲぇ!!!」

 

 

 

「SAN値がゼロになろうが、発狂がどう出ようが関係ねぇ! 狂気に陥った後からが、卓を乗り越えてきたプレイヤー(PL)の本番なんだよ!!」

 

 

 

 

 

『…本当に強いね。君は』

 

 

神の声には、もはや冷徹な見下しやシステムの機械的な響きはなかった。

 

 

そこにあったのは、壊れた世界の中でただ一人、理不尽なシナリオを力任せに踏みにじり続けてきた「異物」に対する、純粋で静かな敬意

 

 

 

「強ぇ……? ハッ、冗談吐いてんじゃねぇよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

血の失せた唇を歪め、神へと深く深く引きずり込む。

 

 

 

 

 

「強い奴はなぁ……守りたいもんを一つ残らず抱え込んで、綺麗に笑って勝つ奴のことを言うんだよ!! 仲間を死なせ、世界を失い、自分の五感も未来も睡眠すら切り売りして……こんなボロ切れみたいになって足掻いてる奴のどこが『強い』んだよ!!」

 

 

 

 

「ふざけんなとは思うよ!!でも!!配られた手札で!!キャラシで!!僕は勝負するしかねぇ!!!」

 

 

 

 

神に肉薄しながら僕は叫ぶ。それが効果があるわけじゃない。でも、言葉は自然と口から漏れ出てしまう

 

 

 

 

 

「うらやましいよ!!神と呼ばれる存在が!!主人公と呼ばれる存在が!!」

 

 

「僕はただの……往生際が悪い、ただの『負け惜しみ』だよ!!」

 

 

 

 

どれほど褒められようが、どれほど称えられようが、差し出してきた犠牲の山が消えるわけじゃない。

 

 

 

 

 

でもそれを背負うことは出来る。

 

 

 

 

 

彼らの死に意味を作ることが出来る。

 

 

 

 

僕が死んだ時に、アイツらに『ありがとう』と言わせてやりたい

 

 

 

 

 

『意味を作ってくれた』『私たちの犠牲には意味があった』

 

 

 

 

 

そんな前向きな言葉が欲しい

 

 

 

 

 

僕だって頑張ってきた!!死ぬほどつらい思いも!!拷問も!!何もかも必死に耐えた!!凄惨な状況でも!!前を向いて!!

 

 

 

 

ボロボロの目頭から熱いものが溢れ出しそうになる。だが、涙を流すための涙腺すら、五感とともに疾くに焼き切れて枯れ果てていた。

 

 

 

凄惨な地獄の中でも、爪を立て、泥を舐め、前だけを向いて耐え抜いてきた。

 

 

 

「無駄だった」なんて言わせてたまるか

 

 

 

「意味なんてなかった」なんて笑わせるか

 

 

 

あいつらが命を燃やして俺に託してくれたこのバトンを、ただのゴミクズとして終わらせてなるものか!!

 

 

 

 

「あいつらの死に意味を作るのは……今! ここで僕が、お前をぶち殺した時だけだ!!」

 

 

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