「『痛打・万華鏡』!!」
「『螺旋丸』!!」
「『火拳』!!」
殴る殴る殴り続ける。
爆ぜる炎、渦巻く螺旋の質量、万華鏡のように交差する連撃の数々。
そしてそれらを融合させた六花月を振るい、切る切る切り続ける。
無論防がれる。神の絶対的な領域と反射の理が、こちらの刃と拳を阻み、容赦のないカウンターの衝撃が俺の肉体を砕きにいく。
「『彩符「極彩颱風」』!」
その後隙は芯火から取り出すスペルカードで埋め、向こうの反撃を逆に刺しに行く。
防がれても、防がれても、決して殴ることは辞めない。相手に隙を与えない。
「ハハッ! 攻め手が途切れると思うなよ!! ターンなんてお前に渡すかよ神!!」
六花月の刃が神の障壁に弾かれた瞬間にスペルカードを燃やし、生じた隙を更なる理不尽な弾幕で強引に打ち消す。反撃の予備動作が入った瞬間には、芯火で加速した拳をその出端に叩き込み、神の思考処理すらも暴力で塗りつぶしていく。
殴る。斬る。穿つ。燃やす。
カードを使い捨て、概念を使い捨て、そして俺自身の命を薪にして使い捨てる。
何かをするなら、必ずその前に一瞬がある。
神だろうが、強者だろうが、それだけは変わらない。
――なら、そこを潰す。
「うちの師匠もそのクソゲー押し付けてたからなぁ!!殴り続けるぜぇ!!」
浮かぶのは師と呼ぶべき存在。
感情を表に出すことは少なく、それでも静かに、滑らかに、相手に一切の反撃も許さず風を切る本物の化物。
あれになれるはずがない。
「断風!!」
神速の抜刀術。
師の振るう完璧な一閃には程遠い。速度が圧倒的に足りず、ただの「断風の成りかけ」でしかない歪な軌跡。だが、それでもいい。形はどうあれ、神の反撃の出端を強引に削ぎ落とすには十分だった。
「雷轟雨!!」
間髪入れずに次の技へと繋ぐ。本来なら天地を覆う雷雨を降らせ、空間ごと敵を穿つ広域殲滅術。だが、今の俺の出力では絶対的な密度が足りない。
なら——広げずに、全て刀身に凝縮させるまでだ。
六花月の刃に狂暴な紫雷と圧搾された水流が纏わりつき、神の至近距離で炸裂する。防がれること前提の、強烈な打撃と属性過負荷の二重奏。障壁が、バチバチと不協和音を立てて軋みを上げた。
だが、零距離で放った負荷の反動は、当然俺のボロボロの肉体にも牙を剥く。神のカウンターと術の衝撃波が、二重の質量となって俺の胸に押し寄せた。
「積乱雲!!」
間一髪、前方に分厚い雲の層を急速展開する。
「滑らせる」ことで相手の防御を滑り抜けて叩き据える、という感じの組み手技の一種だっだが、今はただの「衝撃吸収クッション」だ。
ドッ、と高密度の雲を突き破って襲いかかる殺気と衝撃。雲の層を貫通して届いた不可視の圧力が俺の残された半身を叩き、骨が嫌な音を立てて軋んだ。
——衝撃は来るが、しゃーない
吹っ飛ばされそうになる体を強引に引き留め、雲の破片を巻き散らしながら、俺は崩れかけた口元を歪めて笑った。
「うちの師匠が見たら鼻で笑いそうだなぁ!」
……恐らく、この戦いを見ていれば師匠と……旦那……後姉御は「覚悟が足りない」「未熟者」とか言うんだろうなぁ……ま、事実だけど。
技の精度も、踏み込みの甘さも、土壇場で己の命すら足し算の計算に使っている泥臭さも。あの人たちから見れば、どこまでも目も当てられない「未熟者」の足掻きに過ぎない。
だけど——
「それでも……あの人たちの弟子として!! 彼女たちの意思を継ぐ!!」
五感は疾くに枯れ果て、芯火を燃やすたび、胸の内から何かが欠けていく木偶の坊。
だが、その内側で荒れ狂う「芯火」は、あの人たちに叩き込まれた誇りと、背負い込んできた意志の熱そのものだ!
「未熟で結構! ダサくても結構! 笑いたきゃあっちで腹抱えて笑ってやがれ!!」
届かぬ背中
未熟な足掻き
笑われる技
燃える翼
溶ける羽根
されど、受け継ぐ
消えぬ火だけが、ここにある。
「『ウォーリア』!!」
「『マーセナリー』!!」
「『アサシンリープ』!!」
「『トール』!!」
「『ブラメ』!!」
「『サキュバス』!!」
「『パイロ』!!」
「『巨人の勇気』!!」
「『戦いの律動』!!」
「『デプロテ』!!」
「『ヘナトス』!!」
「『G-Virus』!!」
「『モンスターパワー』!!」
「『火打石』!!」
「『ブレイズパウダー』!!」
「『ブレイズロッド』!!」
「『ネザーレンガ』!!」
「『石炭』!!」
「『エメラルド』!!」
「『紙』!!」
めちゃくちゃなのは分かってる。もう僕も記憶が曖昧だ。なぜそれを呼び出そうかは分からない
でも今の身体はそれを欲しているとよく分かる
意味の脈絡なんてない。戦術の整合性なんて、疾くに吹き飛んでいる。旅路で脳の裏側にこびりついたあらゆる世界の断片が、混ざり合い、崩壊しながら、俺の口から言葉となって吐き出されていく。
「あはは……なんだこれ、わけが解んねぇや……!」
脳が焼き切れ、記憶の引き出しがメチャクチャにぶち撒けられている。なぜ火打石なのか、なぜ紙なのか、何のためにそれを呼んだのかすら、僕自身にも理解できない。
だけど、不思議と力が湧いてくる。
全ての物に意味があり、僕の能力となる。能力の使い過ぎで重くなった身体もエメラルドと叫べば軽くなり、紙と叫べば痛みが減る。
「『霊符「夢想封印」』!!」
「『夢符「封魔陣」』!!」
防御を切らされても、反撃できる回数が増えた。
向こうの隙がよく見える。
支離滅裂に叫び散らした世界の欠片たちが、僕の破綻した肉体に際限のない機動力を注ぎ込んでいる。
重さを打ち消すエメラルドの輝きと、軋む痛みを拭い去る紙片の加護。それらが「芯火」の爆発力と噛み合い、限界を超えた速度での相打ちすらも一方的な連撃へと上書きしていく。
技の形は身体に染み付いている。一糸の乱れも恥と思え!!
どんなに記憶が混濁しようが、どれほど存在が破綻しようが、血と汗で叩き込んできた「型」だけは、この魂の奥底に刻み込まれて消えはしない。
乱れは恥だ。崩れは隙だ。
本物になれなくとも、弟子としての矜持だけは、この一閃に嘘をつかせない!
「『錬金術』!!」
あの二人みたいな錬成は出来ない。だが!それでも質量を落とすことは許さん!!全は一!一は全!等価交換があるのなら僕の力は落ちない!!
天才と呼ばれたあの兄弟のような、大佐と呼ばれる焔のような優雅で完璧な法則の再構築なんて僕には出来やしない。陣を描く暇もなければ、物質の理屈を計算する脳みそだって、もう芯火で焼き切れて残っちゃいないんだ。
だけど——「
「『大切断-縦』!!」
「『大切断-横』!!」
全てを赤い霧にするあの人のように、あんな恐ろしい横振りは出来やしない!!
でも、なりかけでもいい!! 届かなくてもいい!! 踏み込む一筋に、あの圧倒的な断罪の面影を重ねて振り抜く!!
血と火花が交錯する空間に、今度は温かく、どこか切ないほどに澄んだ光の粒が揺れ動いた。
「『心で鍛えた剣』!!」
「『ラブリー・ビート』!!」
「『黄金で色褪せない道』!!」
「『終わることのない希望』!!」
記憶の底、僕を「主」と慕い、その無垢な瞳で僕を信じてくれたあの子達の笑顔が弾ける。
喋ることしかできなかった僕に、居場所をくれた。僕の存在を肯定し、ここにいていいのだと、貴方だけが主だと笑いかけてくれた!
「『致命剣術:満月断ち』!!」
「『致命槍術:月光の一時』!!」
「『致命刃術:水面の月』!!」
「『致命柔術:上弦巴』!!」
旦那も、半人前と笑いながら、僕にも出来るよう工夫してくれた。ギリギリを狙って、壁を乗り越えられるようにちゃんと鍛錬してくれた!!
剣で斬り、槍で穿ち、刃で裂き、柔で崩す。
満月の軌跡が神の防御をこじ開け、月光の一閃が至近距離の装甲を突き破る。
水面のように滑らかな刃の切り返しから、上弦の巴で神の体制を無理やり引きずり倒す。
『君は教師に向いてますよ』
…そんな事を言ってくれた規格外の黄色くてとても早い先生。
生徒のことを愛していて、誰より弱くて、でも誰より強い。
マッハ20だから強いんじゃない。彼だから強いんだ
どれだけ圧倒的な速度を持っていようが、あの先生の強さの本質はそこじゃなかった。
一人ひとりの生徒の泥臭い足掻きを肯定し、躓くたびに手を差し伸べ、最後まで信じ抜いてくれたその「愛」こそが、あの人を真の無敵にしていたんだ。
『……やはり…君にはそんな姿は似合わない』
……似合わない? どういう事だ?
血と煤に塗れ、身体に穴を空け、ボロボロの概念を継ぎ接ぎにして足掻く僕を見つめながら、目の前の「神」が、どこか懐かしむような、呆れたような溜息を吐く。
『君の正装とは程遠いと言うことだよ。君がそう願うなら、僕も君も、うんと格好良くしなくちゃ』
そう言いながら神様は虚空からあるベルトとカードを取り出す。
『ほら、それが君の分だ』
投げられたカードは赤色のカード。神様が手にする透明なカードとは違う……ってか……これって……
『気づいた?』
……趣味悪いっすね。
『僕神だからね』
手のひらに収まった赤色のカード。そして腰に巻きつく聞き覚えのある機械音とベルトの重み。
『んじゃお先に』
向こうが腰に巻かれたベルトの赤ボタンを押す。すると聞き馴染みのある電車の警告音のような音。
『変身』
SWORD FORM
そんな聞き馴染みのある音が、静まり返った虚空に響き渡った。
目を見開く。そこに立っていたのは、赤い眼光を宿し、荒々しい桃の意匠を纏った神がその身に宿した、絶対的なクライマックスの姿。
『俺…参上!!ってね』
「はぁ……マジでやるの?」
『ほら早く。君も気づいてるんでしょ?』
…ごっこ遊びは5歳で辞めたんだけどなぁ……
僕はベルトの上を弄る。すると笛の警笛音のような待機音声が鳴り響く
「…変身」
僕はその切符のような赤いカードをベルトに差し込んだ。
ZERØForm
鋭い警告音とともに、漆黒と赤銅の光が僕の全身を包み込む。
心から何かが擦り減る代償があるフォーム。記憶。絆。これまで紡いできた無数の想い出——その「チケット」を燃やし尽くすことでしか得られない、孤独と覚悟の究極形態。
『ほら、あるでしょ?言うべきセリフが』
……舐めやがって…こんな勝利宣言は……ガラじゃないのになぁ……
「はぁ……」
ま、でもこれ言わないと失礼だな
「最初に言っておく!!」
「僕はかーなーり強い!!」
『やっぱりこうでなくちゃねぇ!』
…多分。あの人も同じような感情だったんだろうなぁ…
記憶を消費し、誰の思い出からも消え去る恐怖を抱えながら、それでも大切な誰かを守るために戦い続けた男。仮面ライダーゼロノス。僕が好きだった……僕と同じような境遇の仮面ライダー。
多分あの神の事だ。両方とも能力なんかはないんだろう。
今のこのフォームには能力の強化やデメリットなど存在しない。お互いに「仮面ライダー」という同一の規格に身を落とし、ただ純粋な火力ぶつけ合うためだけのルール。
神様がくれた、最初で最後のちゃんと神を殺せる対等な
「……こんな重荷は背負えねぇけどな」
あの人と僕は訳が違う。
あの人は、誰かの記憶から自分が消えていく痛みを抱えながら、それでも大切な人の未来を守るために、たった一人でその重荷を背負い続けて戦い抜いた本当のヒーローだ。
それに比べて、僕は何だ?
背負うべき未来も、守るべき世界も、もう何処にも残っちゃいない。
ただ自分のエゴと、燃やし尽くすしかなくなった思い出の残滓を抱えて、泥臭く足掻き暴れているだけの「欠陥品」だ。
あの人みたいに高潔にも、格好良くもなれやしない。
僕は仮面ライダーでもヒーローでもない。
「だからさ、神様」
赤銅色の装甲がギチギチと軋みを上げ、燃えさかる芯火と交じり合った黒い粒子が、刀にどこまでも不吉で巨大なエネルギーを充填していく。
「そうなれるように努力するよ」
『…やっぱり、君は……探索者そうでなくちゃ』
神はそう言って笑った。