物事には終わりがある。
それは時に残酷で、長年積み重ねてきた物を一瞬で無にする
終わりからは誰も逃れることは出来ない
でも
終わり方は選べる
結果は同じでも
過程が変われば何かが残る
そう信じている
著者:通りすがりの探索者
題名:クトゥルフの日記にろくなもんはない。あとがきコメント
「なーんて思ってるんだろうなぁ……」
アトラ・ハシースの船内。
未知の物質で構成された床は、激戦の痕跡で無残に抉れ、瓦礫とクレーターが広がっている。
そのど真ん中で、僕は大の字に寝転がっていた。
静かだった。
あれほど騒がしく、色彩に満ちていた世界が、嘘のように静まり返っている。
空は青い。
どこまでも、果てなく。
「見事に引っかかってくれたなぁ……流石先生。底抜けのお人好しで、なーんでも信じてくれる」
乾いた笑いが漏れる。
「……しっかし」
腕を持ち上げようとして――やめた。
「よく持ったな俺の魔力……もう一歩も動けねぇぇぇ!!」
天井を見上げる。
やったことは、大したことじゃない
ほんの少し残っていた“残り滓”
シッテムの箱を動かした時にこびりついた、平凡な見せかけにすらなっていない削りカスみたいな魔力。
それを――
「ちょっとだけ、“意識”に押し込んだだけだ」
いくら僕の魔力の性質が天邪鬼でも
先生がそれを受け取るかどうか
僕の意識が込められた魔力で判断を誤るかどうか
そんなのは全部、ただの賭け
「……ま、勝ったからいいか」
小さく笑う。
「最後の最後でクソビッチに助けられたなぁ……」
「……これが僕の最後かぁ……」
言葉にしても、実感は薄い。
体はもう動かない。
呼吸も浅く、指先の感覚も曖昧だ。
それでも――意識だけは妙に澄んでいた。
「……妙に、静かだな」
さっきまでの喧騒が嘘みたいに消えている。
残っているのは、瓦礫が崩れる音と、どこか遠くで軋む船の悲鳴だけ。
(ああ……終わったんだな)
ゆっくり目を閉じる。
思い返すのは、ろくでもない記憶ばかり。
血と、狂気と、理不尽。
「やっぱ人生ってクソゲーだなぁ!」
「思い返してもクソな思い出しかないわぁ!!」
――それでも。
「でも……」
ほんの少しだけ、口元が緩む。
「最後で自我を通せたんだ」
「それだけで、まぁ……いいか」
「……いや、よくはねぇな」
「悔いしかねぇわ」
乾いた笑いが、こぼれる。
アハハハ、と。
その笑い声が――やけに長く残った。
(……?)
おかしい。
この空間で、こんな風に反響するはずがない。
「……なんだ?」
目を開ける。
視界の端。
何かが、揺れた。
瓦礫の隙間。
“何もないはずの場所”に、影がある。
「……あーあ」
ため息を吐く。
「最後くらい、静かに終わらせてくれよ」
その瞬間。
空間が歪んだ。
現実が、ひび割れるように。
「や!」
軽い声。
そこに立っていたのは、“千の貌を持つ神”。
「オールサクセスおめでとう」
「げ!クソ神!」
「酷いなぁ…一応君の主神だよ?」
「今の僕は無敵の人ですから!思ってたことなんでも言いますよ!ニャル様!」
邪神――ニャルラトホテプが、亜空間から顔を出す。
「一応祝いに来たんだよ?」
「祝い?あなたからそんな言葉が出るなんて、明日はダゴンの雨が振りますね」
「んで、どうだった?この世界は」
「……なかなかいい世界だった。僕にはもったいないぐらいに」
「ちなみにあの時の、先生を助ける選択は間違いだよ」
「やっぱり?」
「…気づいてたのか?」
「じゃなきゃ締まりが悪すぎますよ!」
「じゃあなんで選んだ?」
「なんでって……そりゃあ」
僕は、息を吐いた。
「手の届く範囲に救える命があるのにそれを見捨てるのは僕の流儀じゃない」
「…やっぱり君は変わらないね。僕の思う通りは行かない」
「……そういうことかよ」
ぽつりと、僕は呟いた。
違和感は最初からあった。
この世界は、あまりにも“出来すぎていた”
善も、悪も、救いも、絶望も――すべてが“観測されるために”整えられている。
「ブルーアーカイブ……ね」
完全には理解しきれなかった。
だが、それでも確信はある。
「……これは、お前の分身が作って放置してた箱庭」
「で、そこにいるはずのない存在……不浄の者に近い存在である僕が紛れ込んだから――排除対象になった」
「こんな美しくて、神が別の何かに置き換わっている世界で僕みたいなクトゥルフのクソったれの探索者がいるわけがないしな」
「結局バクは…僕だった」
「大正解」
「それで? 僕を送り込んだ理由は?」
ニャルは、ほんの少しだけ目を細めた。
「観たかったんだよ」
「“クトゥルフ神話という名に相応しい存在”が、あの世界でどう動くのか」
「壊すのか、染まるのか、それとも――」
「別の何かになるのか」
沈黙。
「……なるほど」
「最初から最後まで、“観測対象”だったわけですか」
「そうだよ」
即答。
「君はとてもいいサンプルだった」
数秒。
「……そうですか」
それだけ言って、僕は息を吐く。
「まぁ、なんとなくそんな気はしてましたよ」
肩をすくめる。
「でも」
視線を上げる。
「それがどうしたって話です」
ニャルが、わずかに目を細めた。
「僕は、僕のやることをやってただけですよ」
「運命が変わらなくても」
「意味がなかったとしても」
「遠回りだって言われても」
身体は動かない。それでも、視線だけはニャルを捉えた。
「それが一番の近道だって――教わったんでね」
ニャルは、くすりと笑う。
「……それすらも、用意された台本だったとしても?」
僕は、肩をすくめた。
「そりゃあ――あんたは“大筋”くらいは決めてたんでしょうよ」
「でもな」
「細かいところまで、手なんか届いてねぇだろ」
小さく、笑う。
「だから――神様に中指立てるような人格が出来上がったんじゃないですか?」
一瞬の沈黙。
ニャルは、しばらく何も言わなかった。
そして――
「……やっぱ人って最高だわ」
その声は、今までで一番楽しそうだった。
僕は、息を吐く。
「僕が今まで出会ってきた――」
「カーリーのシゴキも、アッシュの鍛冶も」
「ロイの考えも、エドとの言い合いも」
「ウェザとの茶しばきも、殺せんせーの手入れも……」
一拍。
「――全部、無駄だったとは言わせませんよ」
「彼らとの出会い、その全部が――」
「“今の僕”です」
「そこに貴方が入ってるなんて言わせませんよ」
静寂。
「……んじゃ、これが最期ですかねぇ」
「今ならまだ戻れるよ?その魔術の発動を止めれば」
体の感覚が、少しずつ薄れていく。
分かっていた。
これは、戻れない選択だ。
自らの肉体、存在、知識。全てを天秤に乗せる縛り。
それでも。
「僕は、僕のRPを遂行するまでですよ」
「最後までそれかい?」
「うるせー! 黙れー!」
僕は、笑う。
そして、左腕を上げる。
最後まで残っていた、その腕で。
中指を立てた。
「……全ての君に関わった邪神を代表して言おう」
ニャルの声が、静かに響く。
「お疲れ様、と」
僕は、笑った。
「じゃあ全ての探索者を代表して言ってやりますよ」
視界が、ぼやける。
足の感覚が、消える。
それでも。
「――邪神はクソだ」
ニャルが、楽しそうに笑った。
「――"現実を書き換える"」
世界が、軋む
視界が、歪む
それでも僕は発動を止めない
「僕と出会い、友好関係を結んだ全ての人物と」
「このキヴォトスの生徒達に」
「抗うための力と――健やかな最期を」
「この……ニャルラトホテプ…その化身が保証する」
意図した訳ではないが、口からその言葉が出ていた
「……気づいてたんだ」
ニャルが驚きを隠せないように、それでいて愉快そうに言葉が漏れ出る
「まぁね。どれだけ胸糞悪いシナリオやったと思ってるんですか…」
「最後まで自分が何者なのか分かりませんでしたけど……でも、ここまで来れば嫌でも分かりますよ」
「……僕が、何に近い存在なのかも」
指先から、光とも灰ともつかない粒子が零れ落ちていく。
風に触れるたび、それは空へ溶けるように消えていった。
それでも。
僕は、空を見上げた。
青い
青い、空
これが
あいつらがいた世界。
どれもこれも騒がしくて
「……巡ってきた甲斐は、ありましたよ」
煩くて、苦痛に満ち溢れていて
「青くて、どうしようもなく未完成で――」
でも
「だからこそ、眩しかった」
呼吸が、途切れかける。
「僕みたいなやつが、最後に見るには――」
「ちょうどいい“青春”でした」
一拍。
「……青き青春の果てを、ちゃんと見届けられた」
「それだけで、十分です」
ニャルは、静かに呟いた。
「……これが、寂しさか」
「君が何より恐れていた“失う”ということなんだね」
僕は答えない。
代わりに。
もう動かないはずの腕を、わずかに上げて――
もう一度、中指を立てた。
「……やっぱり、君は最高の役者だよ」
その感覚も、やがて途切れて――
カラン。と
誰もいなくなったクレーターに、小さな金属音が響いた。
──────────────────────────
「アロナ!!頼む!彼を救えないか!!」
そう私はアロナに向かって頼み込む。自らの疲労など気にもならない。
幾度も救ってくれた彼がまだ沈みゆく方舟の中に居る。その事実があれば、こんな疲労など屁でもない
だが、帰ってきた答えは無情なものだった。
『む、無茶を言わないでください!私だって…そうしたいのは山々です!ですが……手段が……』
「……」
…思えば彼には助けられてばかりだった。
アリスの件も、ミカの件も、そして私の考えが危うく、それと同時に尊いものであると教えてくれたのも
私は彼に何も返せてはいない。だからこそ、彼を助けたい。
「成功率が低くても何でもいいんだ!!なにか…なにか……!!!」
『すみません…先生。私が……弱いばっかりに…』
『…提案。一つだけ方法があります』
そう、シッテムの箱から声が上がる。
顔を見上げた目線の先にはアイツから託されたA.R.O.N.Aが真剣な顔をしていた。
『……私と貴方の力が合わされば、奇跡を起こせるかもしれません』
『えっ…?』
『確証はどこにも無いです。ですが…そうすれば彼を地上へと無事に送り届けられるでしょう』
『…信用できないかもしれません。ですが…私を信じてくれますか』
私はその言葉を聞き終わるやいなや、彼女の目を見て、即答した
「…お願いだ。A.R.O.N.A。彼を……私の恩人を……救ってくれ……!」
『…肯定。では…アロナ。手を』
『……はい。先生が貴方を信じましたから。私も、あなたを信じます』
『ありがとうございます』
『始めましょう。貴方と私の……奇跡を、リテクスチャを』
──────────────────────────
………あれ?僕消えてない?
……でも身体は動かせないし…
…もしかして…思念体ってやつ?
うわーマジかよ…とうとう6次元生命体の仲間入りかぁ……さっさと死なせてくれよ…
…でもなんか心地良いな
「…」
あれ?前にこんな人居たっけ?
…なんか風景が電車の中みたいに…
「…私のミスでした」
…ミス?つまりお前がこの世界を管理していたニャルか?
「えぇ、そう捉えてもらって構いません」
ほーん…と言う割には褐色肌じゃねーし…何より悪辣さを感じんけどな
「ふふっ、ありがとうございます」
んで?お名前は?こっちは天下無双の敗北者、探索者だけど
「…連邦生徒会長、そう読んで下さい」
……うわぁ…お前か、失踪してる会長って
「露骨に嫌な顔しましたね」
顔面ないけどな。あっ!顔面どころか身体がないんだった!
「ブラックジョークが過ぎますね」
…さて?私を呼び出した理由は?
「…そうですね」
「私が個人的にお話してみたかったというのもあります」
ノーセンキューですが?ニャルに喋ることなんざどこにもないが?
「ふふっ、変わらないんですね」
「安心してください、近しい存在というだけであって、ニャルラトホテプではありませんよ」
1ミリも安心できないんですが?
「と、辺りにして、本題へいきましょうか」
「とはいっても、特に何かがあるという訳では無いです」
「私があなたへ感謝を伝えたかった」
…僕は特に何もやってませんよ、というかむしろ世界を乱した罪で殺されても文句言えませんし
あっ!もう殺されたんだった!
「……そこは笑うところではないのですが」
むしろ笑ってください。死が日常的ならそうしたほうがまだ楽しい
「…それが貴方なりの生き方ですか」
そう言うことです
「それでも私は貴方に感謝している。貴方がいなければ、先生は、自分乗り越えられなかったでしょうから」
買い被りすぎですよ。ただの一般人ですから
「ご自身では気づいていないのですね。」
「一般人がどれだけ行動を起こそうと、人の心は簡単に動かない。貴方の周りにはどれだけの人数が貴方に救われ、前を向いたのでしょうか?」
…僕はただきっかけ作っただけですよ。
…って言えたら良かったんですけど…どこぞの馬鹿に気持ちを受け取れって言われたので、素直に受け取っときます
んで?それだけですか?
「そうですね」
ええ…とっとと地獄に行って地獄めぐりしたいんですけど…
「ふふっ、貴方が行くのは確かに地獄でしょうね」
そりゃそうでしょう。これで天国って言われたら閻魔とニャルの癒着を疑いますよ
「ええ、貴方からすれば地獄も地獄。大地獄でしょう」
……なんか含みがありません?
「いいえ?」
…クローズド始まる前みたいな嫌な予感しかしないんですけど
「流石歴戦の探索者。鋭いようですね」
普通に死なせてください
「駄目ですね」
勘弁してください。ようやく生きることを全うしたんですよ?さらに何かあるとか…もう…
「安心してください。今度は世界を救え、という話ではありません」
ハイダウト。ペナルティとして焼き土下座してください
「検討を加速させておきます」
政治家の口癖じゃないですか
「…本当に、世界を救ってほしいとか、そういうものではないですよ」
クトゥルフ神話TRPGの信頼できない言葉ランキング堂々の3位ありがとうございます
「ちなみに一位と二位は?」
3位、本当に。2位、世界の危機。1位、この村スッゲぇ楽しいぜ
「経験則ですか?」
ええ、特に1位は大体が因習村ですよ
歓迎がやたら手厚い。妙に団結力がある。村長が優しい。祭りに誘われる
この辺りには昔からの言い伝えがありましてねぇ、なんて聞こえたら帰ります
まぁすぐに燃やすので危険性はあまりないですが
「間違えたことは?」
現在正解率100%間違えたことはありません。唯一の証言者である私が断言します
「酷い生存者バイアスですね」
死人に口なしですよ。大抵人骨が、墓地ではないどこから出てくるので正解です
「どの時点で判断するのですか?」
今日はもう遅いから泊まっていきなさいや、熊が出たで燃やす準備します
「熊は本当に出る場合もありますよ?」
基本改造車で来てるので、熊なんかに負けないんですよ。それなのに停めてきたらソッコー燃やします
「これはひどい」
酷いのは儀式で人命を使う連中ですよ。命取るか取られるかの状況で躊躇する理由がない。
誰かがやらなきゃ終わらないこともありますから
っと、閑話休題閑話休題
「……そうやって、いつも話を逸らすのですね」
シリアスが長いと観客も疲れるでしょう?あと、見物客の神たちに文句言われたことあるので
「それは貴方本人に?それとも脚本ですか?」
大体こっちに文句言ってきますね。もっと絶望しろ。とか、もっと曇らせろ。とか、さっさと抱きやがれ。とか
大体中指で返しますが
「……神様相手にその対応をする人は、貴方くらいですよ」
頭に邪がつく柱たちに尊敬するわけがない。敬意は払いますけどね
「ふふっ凄く話が脱線しますね」
こちとら何年ルーニーやってると思ってるんですか、喋りすぎてセッションが想定を超えることなんて日常ですよ
「…そろそろ時間ですね」
えっ?何言ってるんです?今の僕は思念体ですよ?時間なんて……
「いえ、時間ですよ」
…へ?
「やはり貴方との会話はとても楽しかったですよ。探索者さん」
…お前さぁ。もしかして
「よくもまぁ投げてくれましたね。私の事」
……シッテムの箱の中に居たの?
「その答えはイエスともノーともとれますね」
どっちだよ。死人に口なしだからさぁ、教えてよ
「いいえ。貴方は死人ではないですよ」
…は?
「では、また。私の先生さん」
…最後に一つ質問だ
「…なにか?」
……お前は何者だ?何故僕を先生と呼んだ?
「…私は貴方の生徒ですよ。一番始めのね」
瞬間、探索者の脳裏にある部屋が浮かび上がる。
壁も床もコンクリートで出来た。四方に扉のある正方形の部屋
着ている衣類は全て白いローブのようなぼろきれだった。
天井の薄暗い豆電球だけが部屋を照らし、真ん中には古い木製の長机と椅子が一つある。
机の上には木製の器に入った、赤い無臭のスープが一つ。
そして椅子の上には、古い紙切れが二つ落ちている。
そんな、探索者ならば一度は目にすることになるような光景。
何も分からないまま目を覚まし、何が起きているのかも分からないまま、最初の一歩を踏み出す
――探索者にとって、そしてそれを生み出すプレイヤーにとって、あまりにもありふれた「始まり」
クトゥルフ神話TRPGを遊んだことがある者なら、きっと一度は目にしたことがあるだろう。
……だからこそ。
…お前…まさか…
「…ではまた、どこか出会いましょう」
「今度は、毒が入っているスープではなく、温かいスープでも飲みながら」
奴隷と評された彼女に、無理を言って飲ませた、あの人肉の入った血のスープ。
ドロリとした最悪の喉越しと、視界の歪み。そして
僕の手を掴んで離さなかったあの手
苦しかったはずなのに、怖かったはずなのに
決して僕に向けて恨みを向けず。にこやかだった笑顔
……いきて…いた…のか
会長は何も答えず、ただ柔らかく微笑む。
「勇敢なる者よ。現へと還ると良い!」
その瞬間、探索者の視界は真っ白に染まり上がった
────────────────────
「……ん……こ…こは……」
探索者は目を覚ます。そこは、よく見慣れたキヴォトスの光景だった。
戦闘によって発生した瓦礫の山と、あちこちに穿たれたクレーター。だが、その空気の匂いと空の色で、ここがどこであるかを悟るのに時間はかからなかった。
視線を上へ向けると、先ほどまで彼がその命を賭して戦っていた『アトラ・ハシース』の船体が、断末魔のような音を立てて大気圏を割っていた。
そして、その瞬間に気づく。
自分の頭上に、見覚えのない「光」が浮いていることに。
「…へ?」
探索者は思わず困惑の声を漏らす。
「……あ?」
それは自分が知る、使い古された男の声ではなかった。
高く、透き通り、まるで鈴を転がすような少女の声。
「……まさか」
戦慄しながら、恐る恐る自らの身体へと視線を落とす。
そこには、長年の戦いと無茶な戦闘で刻まれた傷だらけの胸板はなく、代わりに――小柄で華奢な身体と、年相応の膨らみを備えた胸元がそこにあった。
「……嘘だろ?」
思考が真っ白に染まる。
自分が「何者」に書き換えられたのかを理解するよりも早く、遠
くから呼びかける声が聞こえた。
"おーい!! 探索者!! 居ないのか!!"
「……なるほどなぁ…僕も生徒にってことか…矛盾しかしてねぇが…一応説明はつく…」
先生、そして一足先に脱出ポットで地上へ降りた仲間たち。
聞き慣れたその声は、かつて自分が救おうとした、かけがえのない日常の旋律だった。
「……ははっ、地獄ってのはこういう事かよ……」
乾いた自嘲が、鈴を転がすような少女の声で漏れる。
"おーい!! 探索者!! ……って、えっ!?"
先生が足を止める。
目の前にいたのは、探索者の装備を身につけたまま、不釣り合いに小柄な少女が佇む光景だった。
"だ、誰!? ってか……その服、探索者の……!?"
探索者は、自身の小柄な手を見つめてから、淡々と先生と向き合う。
「……初めまして、先生」
"えっ……? その言い回し……もしかして……"
「ええ。その『もしかして』です。多分、ね」
探索者は呆然とする先生を前に、慣れない身体で立ち上がる。服がブカブカと揺れ、先ほどまで戦場を駆けていた男の面影は、その「ヘイロー」と華奢なシルエットに塗り替えられていた。
"……混乱してるんだ。悪いけど、自己紹介してもらえるかな?"
「いいですよ僕の名前は…どこにでもいてどこにも居ないただの一般人。その名は探索……」
彼女は一度、自分の過去と現在を天秤にかけるように沈黙する。
かつて名乗った「探索者」という名は、もはや今の喉を通る気がしなかった。
彼は、あるいは彼女は、少し考えてからふっと笑みをこぼす。
「僕の名前は――」
一度言葉を切り、頭に浮かんだ数値を口に出す。
「
先生は目を見開いたまま、言葉を失う。
そこにいたのは、かつて邪神に中指を立てた無頼漢――
その全てを引き継ぎながら、キヴォトスの空の下で新しい名を選んだ、一人の少女だった。
エンドX:またまた最初から。今度は
──────────────────────────
現実を書き換える
アザトースの見る「夢」へと干渉し、現在の世界を、術者が指定した別の在り方へと書き換える禁忌の魔術。
ただし、望んだ事象を無条件に実現できるわけではない。
改変の規模や内容、対象となる範囲によって必要となる魔力量は大きく異なる。
例えば、天候を変える、あるいは「晴れることが定められた世界に虹が架かる」といった、既存の因果を大きく乱さず、一つの事象を付け加える程度の改変であれば、一人の術者でも行使することができる。
一方で、既に確定している事象そのものを覆したり、複雑な因果関係を変更したり、複数の存在や世界全体に影響を及ぼす改変を行う場合、必要となる魔力量は飛躍的に増大する。
また、書き換え後の世界に新たな法則・設定・因果関係などを追加する場合、それらを成立・維持するための魔力が別途必要となる。
そのため、この魔術に必要とされる魔力量に明確な基準は存在しない。
何を、どこまで、どのような形で書き換えるのか。
その改変内容そのものが、必要となる魔力を決定する。
なお、世界を書き換えたとしても、それが必ずしも術者の望んだ結果になるとは限らない。
世界とは無数の因果によって成り立つものであり、一つの事象を変更すれば、それに伴って別の場所に歪みが生じることもある。
ゆえにこの魔術は、世界を思い通りにする魔法ではない。
世界そのものに、別の可能性を選ばせるための魔術である。
【祝・本編完結!】完結記念・質問募集のお知らせ
皆様のおかげで、ついに本編完結を迎えることができました!
ここまでの温かい応援や評価、本当にありがとうございました!!
今後は、少しだけ「後日談」を更新し、それをもちまして全体の完結とさせていただく予定です。最後までお付き合いいただければ幸いです。
そして今回、完結記念として質問募集を開催します!
「本編のあれってどういうこと?」という作品への疑問はもちろん、「零のスリーサイズは?」といったキャラクターへの質問など、どんな些細なことでも構いません。作品に関わらない内容(作者への質問など)も大歓迎ですので、ぜひ気軽にメッセージを投げてください!
回数制限などはありません!お一人様何回でも大歓迎です。
……もし質問が来ないと、自分で自分に質問する寂しい事態になってしまうので……少しでも気になったことがあれば、作者を助けると思って送っていただけると本当に嬉しいです!
【メッセージの送り方】
1. この作品の「感想欄」に直接書き込む
2. メッセージボックスから直接送る
(マイページの「交流」→「メッセージボックス」→「新規メッセージを送信」へ進み、宛先にユーザーID【483432】を貼り付けて本文を入力してください)
ここまでご愛読いただき、本当にありがとうございました。
後日談と質問コーナーも、どうぞ最後までお楽しみください!