巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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主矛と助矛

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……“主人公”ってやつは」

 

 

 

探索者は天井を見上げ、ほんの一瞬だけ思考を巡らせた。

胸の奥で、自分と先生の違いを、守るべきものと攻めるべきものを、整理する。

 

「…アビドスメンバーの火力で主矛は足りてる…だったら」

 

「…俺は俺で、確実に潰せるだけの助矛を回収しよう」

 

 

例のカボチャの面をかぶった探索者が空間を指先で引き裂くと、そこから再びおぞましい虹色の泡が溢れ出した。

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

探索者が向かったのは、砂漠でもなく、カイザーの要塞でもなかった。

彼が「門」を繋げたのは、ヴァルキューレ警察学校近く、人通りの絶えた裏路地だった。

 

「……さて。正義の味方に『不条理な真実』をデリバリーするとしようか」

 

探索者は指輪から、カイザーの内部ネットワークをハッキングした際に、引きずり出した一束のファイルを取り出した

そこにはカイザー理事が関与する不正融資、不当な私兵の展開、そしてアビドス自治区におけるヘルメット団への斡旋と武器の流れ、言い逃れのできない証拠として揃っていた。

 

 

 

 

「正面から行っても門前払いだろ?……なら、一番『話のわかる』奴に直接叩きつけるのが筋だ」

 

探索者は、ヴァルキューレ内部でも特に現場主義で知られる公安局へ、音もなく侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

ヴァルキューレ警察学校、公安局長室。

「狂犬」の異名を持つカンナは、山積みの書類と冷めたコーヒーを前に、眉間に深い皺を刻んでいた。

 

 

 

「……誰だ。ノックもなしに入ってくるとは、いい度胸をしているな」

 

 

 

カンナが顔を上げるより早く、彼女のデスクの上に「それ」が置かれた。

重厚な封筒と、どこか場違いな甘い香りのする琥珀色の小瓶。

 

 

「昼休みのコーヒーには早すぎるし、あんたの顔色を見るに、もっとマシな『毒』が必要だと思ってね」

 

探索者は、日差しが差し込む窓を背に、カボチャの面を被ったまま不敵に口角を上げた。

 

「……何の用だ。ここはカボチャの面を被った不審者が迷い込んでいい場所ではない」

 

「不審者扱いとは心外だな。私はただの『デリバリー業者』ですよ……あんたの喉に詰まっている『正義』を飲み込ませるための、特効薬を届けに来た」

 

 

カンナの鋭い視線が、デスクの封筒へと移る。

彼女は無言でそれを手に取り、中身を引き出した。そこには、カイザー理事が裏で行っている不正の証拠、そして近いうちに、アビドスで実行される「軍事行動」の全貌が、生々しい内部資料として記されていた。

 

資料をめくるたび、カンナの瞳に宿る「犬」の獰猛さが、静かに、だが確実に熱を帯びていく。

 

「……これは、カイザーの内部機密か。なぜこれを私に」

 

「あんたが一番、この『ゴミ』の処理の仕方を知っていると思ったんでね。カイザーの理事は、法を鼻で笑い、一人の少女の人生を砂に埋めようとしているぜ?それがヴァルキューレの、あんたの信じる『正義』に適うのかどうか。それを聞きに来た」

 

探索者はデスクに手をつき、カンナの瞳を真っ直ぐに見据えた。

 

「先生たちは動く。だが、彼らが救えるのは少女一人だけだ。その背後にある巨大な『腐敗』を根こそぎ叩き潰すには、法を執行するあんたたちの力が必要なんだよ」

 

カンナはしばらく沈黙し、資料を握りしめた。

彼女もまた、組織の板挟みの中で、自らの正義が磨り減っていくのを感じていた一人だった。探索者が持ってきたのは、その沈黙を破るための、あまりにも残酷で魅力的な「免罪符」だ。

 

「……民間人が警察を動かそうなど、傲慢も甚だしいな」

 

「傲慢で結構!ってか探索者(私たち)は傲慢でなければこの理不尽な世界で生きていけないんでね」

 

カンナは立ち上がり、デスクに置いてあった拳銃をホルスターに収めた。

その口元には、獲物を追い詰める直前の狂犬のような、昏い笑みが浮かんでいる。

 

「だが、これだけの『注文』を受けて、動かないわけにはいかない。……おい、不審者。ピザの配達先はどこだ?」

 

「まー待てよ……折角なら、一番『効く』時に風穴を空けてやろうぜ。奴らが勝利を確信して、最高のワインを空けようとしたその瞬間に、ピザと法の鉄槌が壁をぶち破って届く……想像しただけで、飯と酒が美味くなると思わないか?」

 

探索者は、資料の特定の位置を指差しながら、盤面を整理するように言葉を継いだ。

 

「今、アビドスの連中はカイザーとその息のかかったヘルメット団と戦闘中だ……あっちには『先生』がいる。負けはありえんよ」

 

断言するその声には、あの大人に対する奇妙な信頼が混じっていた。

 

「んで、その掃除が終われば、アビドスの面々はカイザー理事のいる……この資料のこの座標へ向かうだろう……ホシノを…回収された少女を自分たちの日常を連れ戻すためにな」

 

カンナは黙って地図を見つめる。探索者の指が示すのは、カイザーが誇る難攻不落の要塞、その最深部だ。

 

「多分、その時だ。……追い詰められたネズミは、返り討ちにしようと気分が大きくなり、残り少ないアビドスの自治区を跨ぎ、大規模な侵略行為を開始するだろう」

 

探索者は地図の上で指先を滑らせ、カイザーの進軍ルートをなぞった。

 

「法を完全に踏み越え、奴らが『本性』を剥き出しにする瞬間……理不尽な力が正義を飲み込もうと口を開けた、その絶頂の瞬間こそが、あんたの出番だ」

 

探索者は身を乗り出し、デスクに手をついてカンナの視線を捕らえた。

 

「カイザーの理事は、アビドスの土地を奪うことでキヴォトスの理を塗り替えられると信じてる。実際あそこに埋まってんのはそれぐらいのやべー劇物だしな。だが、奴らが自治区の境界線を一歩でも踏み越えた瞬間、それはもはや『企業の権利行使』じゃない。ヴァルキューレがその首根っこを掴んで引きずり回せる、『現行の侵略犯罪』だ」

 

 

 

カンナは資料を握りしめたまま、低く唸るような声を漏らした

 

 

「……貴様、私に『法』という名の引き金を用意しただけでなく、その標的が自ら銃口の前に飛び込んでくるように仕向けているのか」

 

「人聞きが悪いな。俺はただ、最適なデリバリーのタイミングを提案してるだけだ。……あんたも、ただ書類を睨んでるよりは、全力で獲物の喉笛に噛み付く方が性に合ってるだろ? 局長さん」

 

 

「準備しな……『狂犬』が鎖を解き放つにふさわしい、最高に汚い舞台を用意してやる」

 

 

だが、カンナは資料を叩き、鼻で笑うように吐き捨てた。

 

「……フン、理論上はそうかもしれんが、奴らも馬鹿ではない。カイザー理事がどれだけ強欲だろうと、ヴァルキューレの正面衝突を招くような『明確な侵略』にまで踏み切るか? 奴らには法を潜り抜けるための弁護士も山ほどいる」

 

探索者は、カボチャの面の奥で喉を鳴らして笑った。その笑い声は、冷たく、そしてどこか哀れみを含んでいる。

 

「奴らが賢明な判断を下せるのは、相手が『話の通じる相手』の時だけだ。……だが、あそこにいるのはアビドスの生徒と、あの先生だぜ?」

 

探索者はデスクに寄りかかり、カンナの瞳を覗き込むように顔を近づけた。

 

 

「いいか、局長さん。カイザーの連中にとって、アビドスのガキ共なんてのは『予算案の邪魔な一行』程度にしか見えていない。その程度の羽虫に、自分たちの築き上げた鉄城が半壊させられるんだ……想像してみな、プライドだけは狂気山脈より高いあの理事が、どんな顔をするか」

 

探索者は指先で空中に円を描く。

 

「怒りと、焦りと、屈辱。……理不尽を押し通してきた奴ほど、自分の想定外の反撃には弱い。理屈じゃない、感情が爆発するんだよ。『こんなガキ共に負けてたまるか』とな。その時、奴らの脳内から『法』や『リスク』なんて言葉は消え失せる。……ただ、力で圧殺することしか考えられなくなる。自分の力を誇示して真っ向から叩き潰したくなる」

 

 

 

探索者は、指をパチンと鳴らした。

 

 

 

 

「奴らは必ず、一線を越える……俺がいた地獄でも、あんな風に権力に酔った豚共が、最後には自分で自分の首を絞めるのを嫌というほど見てきた……確信がある。奴らは、絶対に、我慢できない」

 

カンナはその言葉の重みに、わずかに気圧されたように沈黙した。目の前の男が言っているのは推測ではない。大人の醜悪な「本質」を見抜いた上での確信だ。

 

「……貴様、本当に大人を信じていないな」

 

「信じてるさ?奴らが『どこまでも愚かになれる』っていう、その一点に関してはな」

 

探索者はそう言い残し、今度こそ音もなく影の中へと消えていった。

 

 

 

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