巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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蒔いた種が花開く時

 

 

 

 

 

 

「……っ、キリがないわね!」

 

セリカの叫びが銃声の中に溶ける。

先生の視界の先には、砂漠を埋め尽くさんばかりのカイザー・コーポレーションのロボット兵力が展開していた。最新鋭の戦車、空を覆う無人機の群れ、そして整然と行進する機械化歩兵。それはもはや「治安維持」などという建前をとうに捨て去った、純粋な『侵略軍』の姿だった。

 

「先生、敵の増援を確認しました!……座標320、さらに40機……止まらないです!!奴ら、本気でここを更地にするつもですか!?」

 

アヤネが冷静に、けれど銃を握る指に力を込めながら報告する。

指揮車の一段高い場所から、カイザー理事が拡声器越しに嘲笑を投げかけてきた。

 

 

 

「ハッハッハ! 見ろ、この圧倒的な物量を! アビドスの小娘共、そして無能な先生! 貴様たちの『誠意』や『正義』が、この鋼鉄の波を前に何の意味を成すというのだ!」

 

 

「先生、弾薬が……このままじゃ、あと5分も持たない」

 

 

 

シロコが空になったマガジンを捨て、冷静に、けれど焦燥を孕んだ瞳で先生を見つめるその時

 

 

先生は、静かに懐へと手を差し入れた。

 

取り出したのは、一枚の黒いカード。

 

 

(私の未来なんて些細なことだ)

 

 

それを指先で挟み、わずかに視線を落とす。

 

(……もし、ここで詰むぐらいなら…皆の未来が無くなるぐらいなら…)

 

 

 

(その時は──)

 

カードが、微かに光を帯びる。

それは“まだ確定していない未来”へと手を伸ばすための準備。

 

(……大人のカード)

 

 

先生はその未来の前借りの代償について、黒服から忠告を受けたばかりである

 

 

 

 

だが──

 

その目には迷いがない

 

 

「大人のカードを──」

 

 

 

次の瞬間、戦場の空気が変った

 

 

 

 

カイザー軍の背後、砂丘の頂から、耳を劈くような激しい爆発音が響き渡った。

 

 

 

 

「──ちょっと! こんな所で、私たちの『ターゲット』を勝手にいじめないでもらえるかしら!?」

 

 

爆煙の中から現れたのは、深紅のコートをなびかせ、不敵な笑みを浮かべた少女…陸八魔アル率いる、便利屋68の面々だった。

 

 

 

「ア、アル様……! こ、こんなゴミクズ以下の私が……アル様の、アル様の輝かしい道の邪魔をする不届き者どもの背後を取りましたぁ!! ……し、死んでお詫びしなさい!! 爆破します!! 全部、全部、跡形もなく消えてくださいぃぃ!!」

 

 

「ハルカ、派手にやりなさい! ……いい、これはあくまでビジネスよ! アビドスに貸しを作っておけば、後で高くつくんだから!」

 

ハルカが狂気に満ちた叫びを上げながらショットガンを乱射し、地雷をバラまいてカイザーの戦列を文字通り「耕して」いく。そこにムツキの投げた爆弾が降り注ぎ、カヨコの正確な射撃が指揮系統を確実に寸断していった。

 

 

「便利屋68!? なんであんたたちがここに……!」

 

「私達は受けた恩を返しに来ただけよ!!恩を返せないまま死なれたらそれこそアウトローの恥よ!!」

 

アルのどこか抜けた、けれど心強い叫びが戦場に響く。

 

 

"……感謝するよ。アル"

 

 

先生がそう呟いた瞬間、戦場の潮目が完全に変わった。

 

便利屋の奇襲にカイザー軍が浮き足立ったその隙を突き、さらに遠方からヴァルキューレのサイレンが重なる。

 

 

「……えっ? ちょっと待って、今の音……ヴァルキューレ!? な、なんで警察がこんなところにいるのよぉぉ!?」

 

さっきまでの自信満々な悪党顔はどこへやら、アルは漫画のように目を白黒させて狼狽え始めた。

 

「ちょ、ちょっとムツキ、カヨコ、ハルカ! 逃げるわよ! 捕まったら今度こそアウトなんだから! 誰よ、ヴァルキューレなんて呼んだのは! ?」

 

「あはは!アルちゃん顔すごいことになってるよ? 大丈夫だって、彼女たちの狙いはあっちのロボットたちみたいだし」

 

面白そうに笑うムツキの横で、カヨコは溜息をつきながら銃のシリンダーを確認した。

 

「社長、落ち着いて。……ヴァルキューレが動いてるのは……たぶんあの『アビドスの隣にいたヘルメットの少女』が裏で手を回したせい……で、たぶん私たちもその計画の一部として、あいつに上手く動かされてるんだと思う」

 

「な、なんですってぇ!? 私が、あんな怪しい奴の掌の上で踊らされてたっていうの!?」

 

だが、実際は違った。

探索者は便利屋にだけは、何のコンタクトも、何の誘導も行っていなかったのだ。

 

 

 

砂煙を巻き上げ、カイザー軍の側面に突き刺さるように現れたのは、ヴァルキューレ警察学校の装甲車隊。その先頭を走る車両の屋根の上には、風にコートをなびかせ、猟犬の瞳をした女が立っていた。

 

 

「……こちらヴァルキューレ公安局長、尾刃カンナ」

 

 

拡声器を通した彼女の低い声が、戦場の喧騒を沈黙させた。

 

「カイザー・コーポレーション理事。貴様たちは現在、アビドス自治区の境界を越え、未承認の軍事行動を行っている。これはキヴォトス全域の平和を乱す、明白な侵略犯罪だ」

 

 

 

「な、何を言うか! 我々は正当な権利を執行しているだけで「黙れ。法を説くのは裁判所の仕事だ。……私の仕事は、法を足蹴にする『害獣』を駆除することだけだ」」

 

カンナは愛銃を抜き放ち、真っ直ぐに理事の指揮車を指し示した。

 

「全隊、突撃! 抵抗する者は容赦しなくていい!……ヴァルキューレの『正義』を、その身に刻んでやれ!」

 

その合図とともに、公安局の精鋭たちがカイザーのロボット兵団に雪崩れ込んだ。

これまでアビドスの生徒たちが苦戦していた物量を、ヴァルキューレの組織的な連携と「公権力」という名の暴力が蹂躙していく。

 

「あはは……! 見てください先生♥カイザーのロボットたちがゴミみたいに吹き飛んでいきますよ〜♪」

 

ノノミが驚愕の声を上げる中、カンナの装甲車は一切の躊躇なくカイザーの戦列を食い破り、理事の喉元へと迫る。

 

 

 

「……」

 

先生は、小さく息を吐いた。

 

手にしたカードの光が、すっと消えていく。

 

 

"……なるほどね"

 

視線の先で、戦況が覆っていく。

 

これは偶然ではない。

 

誰かが、この状況を“そうなるように”並べていた。

 

 

"……感謝するよ"

 

誰に向けるでもなく、先生は小さく呟いた。

 

カードを、静かに懐へと戻す。

 

 

(まだ――使うなということなんだね)

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

一方、その大混乱を遠くの砂丘から見下ろしている影があった。

カボチャの面を被った男――探索者は、砂の丘から見下ろす形で戦況を確認する

 

「……いい食い付きだ、局長さん。やっぱりあんたには、書類仕事より返り血がお似合いだよ」

 

「さぁカイザー理事?全部お前が蒔いた種だ。しっかり全部食えよ?お残しは許さないらしいぜ?」

 

探索者は立ち上がり、右薬指の芯火を静かに、かつ苛烈に燃え上がらせた。

戦場の注目がカンナとアビドスの生徒たちに集まっている今、要塞の防御は内側から脆くなっている。

 

「…あれが先生の力の源か?」

 

探索者の目線は、あの黒いカードに吸い寄せられるように注がれる。

 

 

(あれは…なんだ?未来へと託すことの出来る理由……?)

 

(……多分あれだ。俺の天秤を結果を先送りにできた理由)

 

視界の片隅で、戦場のざわめきが身体の芯まで届き、指先の指輪が少しずつ熱を帯びる。

 

(だが…分からねぇ……どういう効果で、何の代償が必要なのか…それが…)

 

(あれだけ強力な効果なんだ…恐らく何の代償も無しに使える訳がない…)

 

 

 

深く息を吐き、探索者は考えるのを辞めた。今は考えるよりもすべき事がある。

 

 

 

「さて……表の掃除が始まった。なら、俺は約束の『ピザ』を届けてくるとするか」

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

《ねぇ、ホシノちゃん。私ね、ホシノちゃんと初めて会った時、これは夢なんじゃないかなって思って、何度も頬をつねったんだ》

 

 

《ホシノちゃんみたいな可愛くて、強くて、頼れる後輩が直ぐ側にいてくれるなんていう夢みたいな事が……本当に嬉しくて…》

 

《……うまく説明出来てないかもだけど…》

 

《ただ、こうしてホシノちゃんと一緒にいられることが私にとっては奇跡みたいなものなの》

 

《……毎日、こうして一緒にいるじゃないですか》

 

《昨日も今日も…明日だってそうです。こんな当たり前のことで何を大げさに》

 

《はぅ……だって…》

 

《『奇跡』というのはもっとすごくて珍しい事を指すんですよ》

 

《ううん、ホシノちゃん。私はそうは思わないよ》

 

《………ねぇ、ホシノちゃん、いつかホシノちゃんにも可愛い後輩が出来たら…その時は》

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

(……先輩…ごめんなさい……)

 

 

 

ドゴォ!

 

 

 

 

 

ドゴォッ!!!

 

 

 

achooOO!!!破ァァァ!!!

 

 

 

ドガアアアアァァァァンッ!!!!

 

 

チッ…メンドクセェヤツツケテヤガル

 

 

 

一体……何が…

 

 

 

身体が…持ち上がってる?……夢?

 

 

皆の……声が……

 

 

 

 

 

「夢でも何でもいい……最後にもう一度だけ……!」

 

 

ホシノが縋るように手を伸ばした瞬間、男の吠え声が全てを塗り替えた。

 

 

財団神拳―――共振パンチぃ!!!

 

 

 

ガチャン!!

 

 

 

その瞬間、爆発の閃光と粉塵、そして砕け散った概念の破片が入り混じる混沌の中で、ホシノの瞳は「ありえないもの」を捉えた。

 

 

 

無機質なカボチャの面ではない、目に隈がある美女でもない

 

 

 

そこに現れたのは、酷く疲れ果て、泥と返り血にまみれ、けれど底抜けて温かい……「人間の男」の素顔だった

 

 

 

 

 

よう!!宣言通りピザのお届けだ!!

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

ユメの残像が、火花と粉塵の中に霧散していく。

暗闇に沈んでいたホシノの視界に、逆光を背負った「カボチャの面」が映り込んだ。

 

 

「……ぁ……」

 

 

声にならないホシノの唇

彼女を縛っていた「不条理」は、たった今、一人の男の強引なまでの「約束」によって粉砕されたのだ。

 

「…………概念の紐だか何だか知らねぇが、俺の知ってる『旦那』が打つ鎖の方が、よっぽど手強かったぜ」

 

探索者は、赤黒く腫れ上がった右拳をぶらりと下げ、肩で激しく息を吐きながら笑った。

その姿は、決してスマートな「英雄」ではない。

師たちが残した巨大な背中に追いつこうと、泥を啜りながら、文字通り「全力で足掻いた人間の姿」だった。

 

 

ホシノはその瞬間、理解した

砕け散る概念の光に照らされて、カボチャの面……その下の下の奥に隠されていた、男の素顔を。

 

それは、彼女が想像していたような不気味な怪人ではなかった。

ただの、酷く疲れ果て、泥と返り血にまみれた、どこにでもいる「人間の男」だ。

だが、その瞳には、かつて自分を「人間」として繋ぎ止めてくれた、暑苦しくも愛おしい師たちの教えそのもの……「生きて帰れ」という、鉄の意志が宿っていた。

 

 

「……ぁ……探索者、ちゃん……?」

 

 

その素顔は、一瞬の閃光と共にカボチャの面の奥へと再び消えた。

だが、ホシノの心には、その一瞬の「人間の匂い」が、どんな強大な神秘よりも深く刻まれた。

 

 

「……ったく。重てぇんだよ、あんたの背負ってるモンは。……一人で持ちきれねぇなら、さっさと俺みたいな『運送屋』を頼りな」

 

 

探索者は、ぐったりとしたホシノの細い体を、壊れ物を扱うような手つきで、けれど力強く抱き上げた。

彼の背後には、彼がぶち抜いた巨大な風穴から、砂漠の風が吹き込んでいる。

 

「……夢……じゃないんだね……」

 

「ああ、残念ながらな?……現実は冷めるのが早い。……ピザも、あんたのその涙もな」

 

探索者は、ホシノを抱え直すと、崩壊を始めた実験室を後にした。

その足取りは重いが、一歩一歩が確かだった。彼を支えているのは、最強ではない彼が、師たちの教えを守り抜いたという、ちっぽけで、けれど誇り高い事実だった。

 

「……さぁ、帰ろうぜ?……冷めちまう前に、あんたのことを切望してやまない後輩たちの元へさ……そら、耳を澄ましてみろ、聞こえるだろ?」

 

 

 

バンカーの出口

 

 

 

砂嵐の向こう側から、必死に彼女の名を呼ぶ、「先生」と「仲間たち」の叫び声が響いていた。

 

探索者はホシノを抱え直し、出口の光へと一歩を踏み出す。

 

「……あいつらが喉を枯らして呼んでるぜ、帰ったら、なんて声をかけてやるんだ?」

 

探索者の問いに、ホシノは少しだけ面映ゆそうに、けれど今までにないほど穏やかな表情で微笑んだ

もう、一人で背負う必要はない。それを、このカボチャの面の男が、その無骨な拳で教えてくれたから。

 

「うーん……ちょっと恥ずかしいけれど……」

 

ホシノは、遠くで自分を呼ぶ光を見つめ、そっと唇を開いた。

 

 

 

 

 

「…ただいま。かな」

 

 

「……ああ、そいつは、最高に良いな」

 

探索者はカボチャの面の奥で、静かに、けれど確かに満足げに笑った。

 

 

 

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