巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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Lesson

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン!パァン!

 

 

 

飛び出してきた警備兵を、探索者の左手に握られた拳銃が正確に撃ち抜いた。

機能停止する直前に放たれた弾丸が頬を掠めるが、意にも介さず次の標的へと照準を合わせる。

 

火花を散らして沈黙する機械。一方で、右手の拳銃は、後続の重装甲ドローンをその圧倒的な衝撃波で壁ごと粉砕していく。

 

「……処理完了(オールクリア)

 

探索者は一切の気負いなく、デザートイーグルの重たいマガジンを入れ替える。その手つきは、まるでお気に入りの万年筆にインクを補充するかのように淡々としていた。

 

「ってかさ、前から思ってたけど、探索者さんって拳銃撃つの上手すぎじゃない? まるでオートエイムじゃん!」

 

モモイが、薬莢の転がる音を聞きながら感心したように声を上げる。

 

「まぁ訓練しましたから」

 

"どんな訓練をしたんだい? 相当な修羅場を潜らないと、そんな動きはできないと思うけど…"

 

「……聞きたいですか?」

 

「聞きたい!」

 

モモイの即答に何度目かも分からないため息をつく

 

「……いいでしょう。どうせ言わなくても騒いで結局言う羽目になりそうですから…ですが…私の『Lesson』は友人譲りのハードですよ」

 

「ハードって…どんな?1000本ノックとか? 滝行とか!?」

 

「いいえ。5つの教えを忠実に守ること。それだけです」

 

「なーんだ!5つしかないんだ!拍子抜けだよ!」

 

「ほう?ならやってみれば良いんじゃないですか?」

 

「どんときなよ!私の反射神経、舐めないでよね!」

 

"私も……もしもの時のために、銃の扱い方を学んでおきたいな。やってみてもいいかな?"

 

 

先生の言葉に、探索者は拳銃をホルスターに収め、奇妙なほど厳かな声で告げた。

 

 

「その意気込みや良し、ならばかつて敬愛した友人から教わった『Lesson』を授けましょう」

 

「『Lesson2』"筋肉に悟られるな"」

 

"「……は?」"

 

先生とモモイの漏れ出る言葉が、珍しく完全に一致した。

 

 

 

「……あの、探索者さん? 筋肉に悟られるなって、どういうこと? 自分の筋肉でしょ?」

 

モモイが困惑顔で自分の二の腕を揉む。対して、探索者は至極真面目な顔で、空になった薬莢を指先で弄んだ。

 

「言葉通りの意味ですよ……引き金を引くという意志が、神経を通って指先に伝わる。その僅かな予備動作を、自分の身体にすら『悟らせない』……脳が命令を下す前に、既に弾丸が目標を貫いている状態」

 

「いや無理でしょ!? それ生物学的に矛盾してない!?」

 

「……だから、ハードだと言ったんです」

 

「友人は言っていました。『納得』は全てに優先する、と……筋肉が『動く』と納得する暇すら与えず、ただ結果だけを世界に叩き込む。それができて初めて、ガバガバなエイムは、真の技術へと昇華される」

 

"……なるほど、深すぎるのか、それとも単に哲学的なのか……でも、確かに探索者さんの射撃には『迷い』が一切ないね"

 

「まずは皮膚を支配しろ」

 

「皮膚?」

 

「ええ」

 

「筋肉に命令が届く前に、“外側”で動作を完結させる。皮膚までの領域であれば、身体はそれを“行動”として認識しない」

 

「つまり──異常として検知されず、結果、筋肉は悟れない」

 

「……いやちょっと待って!? 何それどういう仕組み!?」

 

「単純な話です。筋肉に気づかれた時点で、もう遅い」

 

「だから、その手前で終わらせる」

 

短く、断定する。

 

「まずは“皮一枚”でいい、それだけで、遅れは消える」

 

モモイが完全に理解不能という顔で固まる。だがそれは一つの疑問とともに消え去る。

 

 

「……ちょっと待って!!」

 

モモイが、構えかけた銃を下ろして食い気味に叫んだ。

 

「っていうか…なんでいきなり『Lesson2』なの!? 『1』は!? 普通は1からでしょ! チュートリアル飛ばしてボス戦に行くタイプなの!?」

 

"……確かに。一番大事な導入部分を忘れている気がするね。それとも、私の聞き逃しかな?"

 

先生も首を傾げながら、探索者の背中を見つめる。

探索者は、デザートイーグルのスライドをガシャンと引き、薬室に初弾を送り込みながら、事も無げに答えた。

 

「ああ、失礼……『Lesson1』は、あまりに当然すぎて省いていました」

 

「当然って、なに!? 私、気になるんだけど!」

 

探索者は立ち止まり、モモイの目をまっすぐに見据えた。

 

「『Lesson1』──"妙な期待をするな"」

 

'「……は?」"

 

またしても、先生とモモイの声がハモった。

 

「戦場においても、現実においても、『次はこうなるはずだ』『ここは安全なはずだ』という甘い期待こそが、最大の致命傷を招く」

「…弾が当たる期待、敵が倒れる期待、自分が生き残るという期待……それら一切の雑念を捨て、ただ目の前の事象を処理することだけに徹する……これが全ての基盤です」

 

「……ですが」

 

ほんの一瞬、間を置く

 

「これは“教えるものではない”」

「え?」

 

モモイが間の抜けた声を出す。

 

「というか、この『Lesson』は、理解するためのものではない」

 

「守るためのものです」

 

「一つ一つの意味は、最初は分からなくていい。むしろ――分かった気になる方が致命的だ」

 

「理解したと思った瞬間、それは“期待”に変わる」

 

「だから──最初は分からなくていい」

 

モモイが眉をひそめる。

 

「え?いやいや、分かんなきゃ意味なくない?」

「いいえ」

 

即答

 

「身体が先に“処理”し、思考は後から追いつく」

 

「逆では駄目です」

 

一歩、踏み出す。靴音が、やけに大きく響く。

 

「理解してから動こうとするから、遅れる」

「納得してから撃とうとするから、間に合わない」

 

「だから…理解は、最後でいい」

 

空気が、張り詰める。

 

「2から5を積み上げ、動作を削ぎ落とし、判断を削ぎ落とし、考える余地を削ぎ落とす」

 

「そうして初めて──『期待』というノイズが、消える」

 

「それが『Lesson1』です」

 

「……なにそれ」

ミドリが乾いた笑いを漏らす。

 

「最初にやるやつじゃなくて、最後に解放される隠しスキルじゃん……」

 

"……なるほど。言葉で理解するものじゃない……到達して初めて意味を持つ、か"

 

「……ええ」

 

探索者は淡々と答える。

 

「だからこれは、“教えられるものではない”」

 

「辿り着くものです」

 

先生が納得したように顎に手を当てる。だが、モモイは納得いかない様子で、自分の頬をぷくーっと膨らませた。

 

「むぅー……なんか納得いかないけど、要するに『余計なこと考えずに撃て』ってことでしょ!? お安い御用だよ! 私の頭の中、今スカスカだからね!!」

 

「……それはそれで、別の意味で不安になりますが」

 

探索者は溜息をつき、再び視線を闇の奥へと戻した。

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

「……では続けましょう。Lesson2が理解できて初めて次のステップへ向かえる」

 

探索者は、わずかに銃を傾ける。

その仕草には、もはや戦闘準備というより“儀式”のような静けさがあった。

 

「『Lesson3』──“回転を信じろ”」

 

「回転?」

 

モモイが首を傾げるが、探索者は淡々と続ける。

 

「皮膚で止め、筋肉を黙らせることで動作は分断されなくなる。そうなって初めて、全ての工程は一つに繋がる」

 

「視認、判断、照準、発射…」

 

「本来、それらは分断された工程ではない。一つの“連続した処理”として繋がっている」

 

指先が、わずかに動く。だがその動きは、“始まり”が見えない。

 

「それを無理に区切るから、遅れる。途中で迷うから、ズレる」

「だから――」

 

「一連の動作を“回転”として扱う。始まりも終わりもない、連続した円環として処理する」

 

「そうすれば、思考は介在しない。ただ結果だけが、自然に発生する」

 

「……いやちょっと待って?」

 

モモイが手を上げる。

 

「なんかそれっぽいけど、全然分かんないんだけど!?」

 

「理解する必要はありません。“信じて”繰り返せば、いずれ身体が適応しますよ」

 

「……出たよ精神論!!」

 

"……でも確かに、動きに“途切れ”がないのは事実だね"

 

 

「……ですが」

 

探索者が、わずかに銃口を下げる。

 

「回転が成立しても、それだけでは不十分です」

 

「……え?」

 

「どれだけ動作が速くても、正確であっても…認識が歪んでいれば、全て外れる」

 

静かに言い切る。

 

「そこで必要になるのが──」

 

「『Lesson4』──“敬意を払え”」

 

「え、急にまともじゃない?」

 

モモイが拍子抜けした声を出す。

 

「……そう見えるだけです」

 

探索者の声が、ほんのわずかに低くなる。

 

「対象は何でもいい。敵、自分、武器、環境……あるいは“状況そのもの”」

 

「それらを“軽視”した瞬間、処理は歪む」

 

「当たるだろう、では外す」

「効くだろう、では通らない」

「大丈夫だろう、で死ぬ」

「それは全て、“侮り”の結果です」

 

 

静かに、言い切る。

「敬意とは、恐怖ではない。過大評価でもない。ただ“正しく認識する”ことです」

 

「それができて初めて──貴方は、世界に対して正確に干渉できる」

 

「……なんか急に説得力出てきた」

 

ミドリが引きつった顔をする。

 

"……うん、これは重要だね"

 

探索者は、わずかに息を吐いた。

 

「そして」

 

ほんの一瞬、間を置く。

 

「『Lesson5』は……」

 

モモイが身を乗り出す。

「おっ、ついに来た!?ラスボス!?」

 

探索者は、わずかに目を細めた。

「……貴方が全てをマスターしたら、教えます」

 

「いや教えてよ!!そこが一番大事でしょ!!」

 

「現時点で教えても、意味がない」

 

「えぇー!教えてよぉ!」

 

「私も知りたいです!」

 

「……では」

探索者が、わずかに視線を上げる。その目は、今までよりもほんの僅かにだけ深い。

 

「『Lesson5』についてですが」

「え、教えてくれんの!?」

 

「……いえ」

 

「正確には、“説明しておく”だけです」

 

空気が、静かに張り詰める。

「これまでのレッスンは、直線ではありません」

 

「『期待を捨てる』ことも」

「『筋肉に悟らせない』ことも」

「『回転を信じる』ことも」

「『敬意を払う』ことも」

 

「それぞれが独立した技術ではない。全ては、繋がっている」

 

「一つが欠ければ、他も崩れる」

「一つを深めれば、他も変質する」

「つまり──」

「これは“順番に終わるもの”ではない」

 

「無論、順番には意味がある」

「だが──順番通りに理解できるとは思うな。これは…」

 

 

「無限に回り続けるものです」

 

「……回る?」

「ええ」

 

探索者は淡々と続ける。

 

「期待を捨てるから、筋肉は静まる」

「筋肉が静まるから、動作は連続する」

「連続するから、処理は回転する」

「回転するから、全てを正しく認識できる」

 

「そして、正しく認識するからこそ――」

 

「再び、“期待を持たなくなる”」

 

「……何それ……終わりないじゃん……」

 

「ええ。終わりはありません。あるのは、精度の更新だけです」

 

"……なるほど完成ではなく、循環……だからこそ崩れない、か"

 

「その通りです。だから──」

 

探索者は、ゆっくりと銃を構える。

 

「“完成する”という発想自体が、誤りです。回り続けている限り、未完成であり続ける。そして、それこそが、唯一の完成形です」

 

「……本来は、もっと単純な理屈なんですよ。師に追いつく為“無限の回転”という理論を私なりに解釈したものですが……」

 

「……一人として、背中どころか影にすら届いていませんがね」

 

探索者は視線を遠くの闇に向け、ゆっくりと拳銃を傾ける。

 

 

 

「……なんかさ」

 

モモイがぽつりと呟く

「それって結局、どうなればいいの?」

 

探索者は、少しだけ考えるように視線を落とした。

「……そうですね」

 

「目指す例を挙げるのなら──」

 

「“怠惰を目指す者は、誰よりも勤勉になる”」

 

「ですかね」

 

 

「いや全然意味わかんないんだけど!?」

 

「無駄を削ぎ落とし、最短で終わらせるために、最も遠回りな積み重ねを選び続ける」

「楽をするために、最も面倒な手順を踏む」

 

「その結果だけを見れば、確かに“怠惰”に見えるでしょう」

 

「ですが、その本質は真逆です」

 

「……ところで」

 

ほんの僅かに、声の温度が下がる。

 

「“怠惰”を極めた先に、何があるか……考えたことは?」

 

「「……え?」」

 

モモイとミドリが言葉を失う。

 

「一切の無駄を排除し、最短で、最小の動作で、最大の結果を出す」

「その状態に至った時──」

 

わずかに、間。

 

「それは本当に、“怠惰”と言えるのでしょうか」

 

空気が、止まる。

 

「「……あ」」

 

双子の顔に、ほんの僅かな理解が浮かぶ。だが、言葉にはならない。

 

「……まぁ」

 

「答えは、辿り着いた時にでも」

 

「……はぁ!? そこまで言って教えないの!?」

 

「今の貴方に教えても、意味がない」

 

「再現できない理解は、ただのノイズです」

 

"……厳しいね"

 

「ええ」

 

「だからこそ、価値がある。だからこそ、意味がある」

 

「お喋りは終わりです。さぁ、行きましょう」

 

 

その言葉を最後に、会話は、途切れる。誰もすぐには、次の言葉を選べなかった。

 

モモイは、口を開きかけて──閉じる。

 

ミドリは、何かを整理するように視線を落とし。

 

先生は、静かに顎に手を当てていた。

 

 

言葉にはならないまま。

 

それぞれが、違う形で“何か”を噛み砕こうと思考を回す

 

 

だが、

 

 

誰も、結論に辿り着けていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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