巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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確率で撃ち、奇跡で止める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

硝煙の臭いが、重く湿った空気に混ざり合う。

デザートイーグルの銃口から立ち昇る白煙の向こう側、探索者の視界には、あの「バグ」を背負い、一歩も引かずに立ち塞がる先生の姿があった。

 

 

「……退きなさい、先生。今すぐだ」

 

 

探索者の声は、氷のように冷たく、それでいて微かに震えていた。

指はすでに次弾への装填を完了させている。

 

"……断る。彼女は、私の生徒だ

 

……撃つなら、まず私を撃ってからにしろ"

 

 

かすかに震えるその手。だが、足は一歩も動かない

 

 

先生は理解している。目の前の女が“脅し”で銃を向ける人間ではないことを

 

このままでは、本当に撃つ

 

 

それでも──退かない。

 

 

 

 

 

「……もし」

 

声が落ちる。地を這うように低く。

銃口は一ミリもブレず、先生の向こう側──“それ”を捉え続ける。

 

「……もし、その『生徒』とやらが。……数分後に覚醒し、このキヴォトスを、貴方の愛する生徒たちを、世界そのものを食い潰す『救いようのないバケモノ』だったとしたら……どう責任を取るつもりですか」

 

 

探索者の瞳の奥にあるのは、理屈ではない。

幾度も“終わり”を見てきた者だけが持つ、呪いのような確信。

 

 

「貴方が今、そいつを庇うことで……本来流れるはずのなかった血が流れ、世界が壊れるとしても──」

 

 

「それでも、引き金から指を退けろと、言うのか?」

 

 

沈黙

 

震える手で少女を背負ったまま、先生は迷わず答える。

 

 

 

"……私の生徒だ……そんなことは、絶対にさせない"

 

 

「……っ」

 

探索者の呼吸が、わずかに乱れる。

 

「……その“根拠”を、提示してくださいよ……先生」

 

敬語のまま。だが、温度が違う。

 

「……『生徒だから』?」

 

一歩、踏み出す。

 

「そんな感情論で――確定した絶望を覆せると、本気で思ってるんですか?」

 

声が低くなる。

 

「安全だって言うなら、証明しろよ」

 

 

そこで…完全に"崩れる"

探索者はデザートイーグルを握る手に血が滲むほど力を込め、先生に向かって言葉を叩きつける。

 

 

 

「俺が求めるのは、徹底した『リスクの排除』だ!俺は、そいつのような『人ならざるモノ』が、一瞬で世界を書き換え、数万の命を塵に変えるのを何度も見てきた!!それが私のロジックだ!」

 

 

「アンタは、『感情論』以外に、何を根拠にソレを生徒だと言い切れる!理由を、今すぐこの場に提示しろ!!」

 

 

 

探索者の絶叫が工場の静寂を切り裂き、その残響が消え去るまで、数秒の空白があった。

銃口の先で、先生は恐怖に震えながらも、その瞳から光を失わずに探索者を見据え返している。

 

 

 

 

"……根拠なんて、最初から持っていないよ"

 

「……っ」

 

 

 

 

 

"でも、彼女は今、私の目の前にいる。私の助けを求めている『生徒』として、ここに立っているんだ……先生が、目の前の生徒を信じるのに……それ以外の理由が必要かい?"

 

 

「…」

 

 

「………ハ…ハハ…」

 

探索者の口から漏れたのは、驚愕でも、怒りでもない。

乾いた、それでいてどこか「合点がいった」というような、壊れた笑い声だった。

 

彼はゆっくりと、呪いを解くようにデザートイーグルのハンマーを親指で戻し、セーフティーをかけた。銃口が力なく地面を向く。

 

 

「……分かりました」

 

 

 

(結局、この狂った(青い)世界の『正解』は、それなんだ……根拠のない一言に全てを塗り替えられてしまう)

 

かつて彼が見て、体験した「終わった物語」には、これほど無鉄砲な救いなど存在しなかった。だが、ここはキヴォトスだ。理不尽な銃弾が飛び交いながらも、最後には「青春」という名の不条理が全てを解決してしまう、そんな世界

 

 

 

「……先生。アンタのその、救いようのない『正解』に免じて、今は銃を収めましょう」

 

その声には、僅かにだけ“諦め”と“納得”が混ざっていた。

 

「……ただし、先生。一つだけ約束してください」

 

彼は、先生の瞳を真っ直ぐに見据え、逃げ場のない最後の通達を突きつけた。

 

「……もし、万が一。その娘が誰かを殺すような事態になれば……あるいは、その兆候を見せれば…私は躊躇なく、その娘の敵として立ち塞がります。その時だけは、貴方が盾になろうと、泣いて縋ろうと……私は容赦しません。それだけは…それだけは理解してください」

 

それは、かつて「守れなかった世界」を見てきた彼が、この新しい世界に残せる、最低限の「防波堤」だった。

 

"……わかった。約束しよう……ありがとう、探索者"

 

 

先生の静かな承諾を聞き届けると、探索者は深く、長く溜まった熱を吐き出すように息をついた。

デザートイーグルのハンマーをデコッキングしホルスターに、乱れた装備のストラップを無機質な手つきで整える。

 

「……礼には及びませんよ。いくら荒唐無稽な話でも、覚悟を示し"貫き通せばそれもまた真理"ですから」

 

探索者はスッと姿勢を正し、先ほどまでの「生存者」の殺気を霧散させた。代わりに纏ったのは、いつもの、どこか他人行儀で冷徹な「事務員」の空気だ。

 

「……それよりも……取り乱し、急に怒号を発してしまったこと、深く謝罪します……聞き苦しい声を失礼しました」

 

 

その劇的な切り替えに、背後で固まっていた双子が、ようやく肺に溜まった空気を吐き出した。

 

「ふ、ふえぇぇ……探索者さん、マジで撃つかと思ったよぅ……あの目、完全に『指名手配犯を追い詰めた時の顔』だったもん」

 

モモイが自分の頬を両手で押さえ、大袈裟に震えてみせる。

だが、その瞳には恐怖だけでなく、自分たちのために本気で「リスク」を案じてくれた人物への、複雑な信頼が混じっていた。

 

「……お姉ちゃん、失礼……でも、本当に……ごめんなさい、探索者さん。心配させちゃって……でも、この子は、その……」

 

ミドリが申し訳なさそうに視線を伏せ、アリスのジャージの袖をぎゅっと握る。

 

「……大方、『あの先で眠っていた正体不明の少女で、モモイが部活動の人数に足りない一人をこの子にしよう』とか言ったんでしょう?」

 

"凄い!全部あってる!"

 

「……誇らしげに言わないでください、先生……眩暈がしてきました」

 

 

探索者はフラつく足取りで瓦礫に手をつく。

 

 

「ちょ、ちょっと探索者さん! 当たりすぎてて怖いんだけど! もしかして、どっかに盗聴器とか仕掛けてる? 」

 

「……貴方たちの浅慮な行動パターンを一目見ればわかりますよ……というか、むしろ間違っていて欲しかった」

 

「せんりょ? なにそれ、カッコいい響き! どういう意味?」

 

探索者はスッと冷徹な表情に戻り、事務的なトーンで淀みなく嘘を吐いた。

 

「『浅く真理を慮る』つまり、凡百の人間が深読みして迷うところを、直感だけで即座に正解へ辿り着く『天才の思考』を指す言葉ですよ……貴方にぴったりだ」

 

「へぇー! さすが探索者さん、物知りー! ミドリ、聞いた!? 私、天才の思考なんだって!」

 

「絶対嘘だよお姉ちゃん!! いま探索者さん、一瞬だけ『こいつ、本当にちょろいな』って顔でゴミを見るような目をしてたもん!!」

 

「……失礼な。私は事実を述べたまでです」

 

「……ちなみにこの子の名前は?」

 

探索者はモモイの無邪気な笑顔からあからさまに目を逸らし、話を強引に本筋へと戻す。

 

「アリスちゃんだよ!」

 

「……それ本人が言ったんですか?」

 

「……うっ……それは、その……」

 

「そういう所が浅慮だと言ってるんです」

 

「で…でも本人もそれを気に入ってるから…」

 

「私が知りたいのは、アンタの主観ではありません。本当の名前です」

 

 

"えっと…AL-1sって機械には書いてあったよ"

 

「型番かよ……」

 

探索者は冷徹な眼差しを──AL-1Sへと向けた。

少女は、未だに感情の読み取れない瞳で、探索者の装備をじっと見つめている。

 

(…ちゃんと名前があるだけマシだな。しかし……ありがちのクトゥルフ、SCP、聖書、神話、セフィロトの樹………「アリス」と読めなくもないが、少なくとも古の神々や外なる神の名ではない…つまりバグではない?)

 

(…なんにせよ、とりあえずは此処からの脱出だな)

 

「さぁ、もうこんな所から出ましょう。ふらついた上にまたこういうのが増えたら今度こそ私の胃が死んでしまいます」

 

 

探索者は、未だ無機質な瞳でこちらを凝視するAL-1S──アリスへと背を向け、迷いのない足取りで廃墟の光へと歩き出した。

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