巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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大型新人(物理)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「探究心を忘れない事こそ、科学が発展する第一歩ですから」

 

 

 

「ふふ、全く……君は本当に掴みどころがないね」

 

 

 

ウタハは愉快そうに肩を揺らし、それからアリスへと視線を移す。

 

 

そんな中で…

 

 

 

 

「部長、これの計算方法って……」

 

少し離れた作業台の方から、オイルの匂いと共に控えめな声が飛んでくる。

端末を片手に、工具袋を肩にかけた少女──猫塚ヒビキが、計算画面を睨みながらこちらへと歩み寄ってきた。

 

「……あ」

 

途中で足を止め、探索者たちの存在に気づく。

 

「お客さん、でしたか……すみません、作業の途中で」

 

「いや、構わないよヒビキ、ちょうどいい。今、新しい被験……じゃなかった、新しい仲間に装備を選んでもらっていたところだ」

 

「言い直したよね今!? 絶対に実験台にする気満々だったよね!?」

 

モモイが即座にツッコむが、ヒビキは淡々とアリスを見据えた。

 

「装備選定……なるほど……その子が?」

「あぁ、彼女の直感に適う一振りを探している最中だ」

 

ウタハがそう応じた、その時だった。

 

「説明しましょう!!」

 

鼓膜を震わせるほどの勢いで、別の声が割り込んできた。

 

「うわっ!?」

 

モモイが飛び上がり、ミドリが目を丸くする。

ひょい、とどこからともなく──まるで「生えてきた」かのような唐突さで現れた少女が、アリスの隣に滑り込んだ。

 

「エンジニア部が誇る最先端技術の粋を結集した武装群について! この豊見コトリが、その構造から歴史、そしてネジ一本に込められた情念まで、余すことなくレクチャーさせていただきます!」

 

バインダーを抱え、眼鏡を鋭く光らせる少女──豊見コトリは、アリスの戸惑いなどお構いなしに息を吸い込む。

 

「例えばそこにある試作小型地雷! 従来の信管を改良し、感知精度を0.01秒単位で……」

「コトリ、そのあたりにしておきたまえ。彼女たちは今、まさに『運命の出会い』の直前なんだ」

 

「はっ──失礼しました!」

 

コトリは即座に口を閉じるが、その目だけはまだ語り足りないと主張していた。

 

「……」

 

一瞬だけ、空気が静まる。

 

先程までの喧騒が嘘のように引き、全員の視線が自然と一箇所に集まっていく。

無数の試作兵器が眠る鉄の密林。その最深部で――

 

アリスが、確信に満ちた動作でゆっくりと手を伸ばした。

 

「アリスは、この武器が気になります!」

 

その指先が、防塵シートを滑り落ちさせた先にあった「巨体」を鮮烈に示した。

 

「……ほう。そこに辿り着くか」

「……確かに。出力重量比だけなら、それが最大」

「流石です!! アリスさん、お目が高い!!」

ウタハ、ヒビキ、コトリの三人が、それぞれ納得と感嘆の声を漏らす。

 

「……大砲?」

 

 

「説明しましょう!!」

 

間髪入れず、コトリの声が工房の空気を叩き割った。

 

「これはエンジニア部の下半期の予算、その内の約70%近くを使い作られた…エンジニア部の野心作、「宇宙戦艦搭載用レールガン」です!」

 

「エンジニア部は現在、ヘリコプターや汎用作業ロボットに続き――宇宙戦艦の開発を最終目標としているのです!」

 

コトリは勢いよく腕を振り上げ、自らのバインダーを指揮棒のように振るう。

 

「このレールガンはその第一歩! 大気圏外での戦闘を目的として開発された実弾兵器! ミレニアム史上、明らかに類を見ない試みと言えるでしょう!!」

 

「宇宙戦艦の主砲……かっこいい……聞いただけでワクワクしてくる!流石ミレニアムのエンジニア部! 今回は上手く行ってるんだね!?」

 

「成功率が“今回”に限定されている時点で、お察しですね」

 

探索者が呆れの評価を下す

 

「ふっふっふっ、勿論です! ……と言いたい所なんですが」

 

コトリが、ほんの僅かに視線を逸らす。先程までの勢いが、急激にシュルシュルと萎んでいく。

 

「現在は、開発を中断してまして」

 

「えええっ!? なんで!? 今めっちゃいい流れだったじゃん!!」

 

「理由は単純です」

 

一拍

 

「予算です」

 

空気が、すん、と冷える。

 

「いつの世も技術者達の足を引っ張るのは、想像力や情熱の欠如ではありません…資金です」

「このレールガン一基を試作しただけで、下半期予算の七割を消費。宇宙戦艦本体となれば……その何千倍のコストになるか、計算するのも恐ろしい……」

 

「夢、デカすぎない……? っていうか、無計画すぎない?」

 

「愚問だね、モモイ」

 

「…ビーム砲はロマンだからだよ」

 

ヒビキも肯定するように首を縦に振る

 

「そのとおりです!ビーム砲の魅力がわからないなんて…全くこれだからモモイは」

 

「バカだ!頭いいのにバカの集団がいる!!」

 

絶叫するモモイを余所に、コトリは勢いよく顔を上げた。

 

「その全てを踏まえた上で! 赤字を垂れ流し、セミナーの追及から逃げ回り、それでもエンジニア部の情熱の全てが注ぎ込まれた、この武器の正式名称は――!」

 

一拍

 

「光の剣:スーパーノヴァ!!」

 

それは単なる武器ではない。一校の予算を食い潰してでも形にしたかった、技術者たちの「狂気」という名の結晶だった。

 

「また無駄に大袈裟な名前を……」

 

「……!ひ、光の剣……!?」

 

探索者が呆れる最中、アリスの瞳が、はっきりと輝いた。

 

「え、ちょっ……」

 

「アリスちゃんの目、めっちゃキラキラしてるんだけど!?」

 

「わぁ……うわぁ……!」

 

「こんなに興奮してるの、初めて見たかも……」

 

 

 

「……これ、欲しいです」

 

「……え」

 

 

空気が、わずかに止まる。

 

「偉大なる鋼鉄の職人よ。あの“龍の息吹”を、アリスに」

 

「うーん……そう言ってくれるのは、とても嬉しいのだけれど……」

 

「――申し訳ありませんがそれは、ちょっと出来ないご相談です!」

 

「何で!?この部屋にある物なら何でも持って行っていいって言ったじゃん!」

 

"もしかして…お金の問題?"

 

「いや、お金の問題ではなくて、もっと単純な理由さ」

 

「お金より単純……?」

 

「この武器は、個人の火器として扱うには――大きすぎて、重すぎるのさ」

 

「基本重量だけでも140kg以上!さらに光学照準器とバッテリーを装着した上で砲撃を行えば、瞬間的な反動は200kgを優に超えます!」

 

「……」

 

「まぁ、流石に普段使いするには重すぎますね」

 

 

「これをカッコいいと言ってくれただけで、私達としては十分に嬉しいよ。ありがとう持って行けるのなら、本当は喜んで渡したいところなんだけど……」

 

「…………」

 

アリスは、武器を見つめたまま動かない。

 

 

そして──

 

「…………!」

 

ゆっくりと、顔を上げた。

 

 

「汝、その言葉に一点の曇りも無いと誓えるか?」

 

「ん?」

 

「この子また喋り方が……」

  

「た、多分ですが……“本当なのか”って聞いてるんだと思います」

 

ミドリが、少し困ったように補足する。

 

「……」

 

「勿論、嘘は言っていないが……それはつまり――あれを“持ち上げる”つもり、ということかい?」

 

アリスは自信満々に首を振り無造作に、レールガンへと手を伸ばす。

 

「この武器を抜く者――」

 

一拍。

 

「北の地の覇者になるであろう!」

 

「何その伝説!?」

 

「ふふふっ、なるほど。意気込みは素晴らしいですね」

 

「……無理は、しない方がいい」

 

静かな制止。

 

「クレーンでも使わないと持ち上がらな――」

 

「んんんんっっ………………!」

 

「ちょっ――!?」

 

「………………まさか」

 

「えええっ!?」

 

 

「うせやろ?」

 

――持ち上がった。

 

 

「………………も、持ち上がりました!」

 

「…………信じられない」

 

「いやいやいやいや!?」

 

 

きょろきょろと、武器を見回す。

 

「えっと、ボタンは……これがBボタンでしょうか……?」

 

「ま、待って……!」

 

「やめ――」

 

「つ、光よ!!!」

 

 

ドカアアァァァァン!

 

 

轟音

 

 

空気が潰れ、次の瞬間――裂けた衝撃が工房全体を揺らす。

白い閃光が一直線に走り抜け――

 

 

 

天井に、大穴が開いた。

 

 

 

  

「…………」

 

 

粉塵が、ぱらぱらと降り注ぐ。

 

 

誰も、すぐには言葉を発せなかった。

 

 

 

「……」

 

 

静寂の中、ただ一人。

 

 

「……案の定ですね」

 

 

探索者は今日一番のため息をついた。

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