巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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今日はドン勝だ!

 

 

その時――

 

バンッ!!

 

鼓膜を震わせる音とともに、部室の扉が勢いよく蹴破るようにして開いた。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

肩を上下させ、息を切らして立っていたのは、セミナーのユウカだった。

 

「ひいっ! も、もうユウカが差し押さえに!?」

 

「ちょ、ちょっと待って! 執行猶予とか、そういうのは……!」

 

ミドリも顔を真っ青にして後ずさる。

 

「悪魔め! セミナーには人の心とか無いわけ!? 私たちがどれだけ頑張ったか知ってるでしょ!?」

 

「いや待って、なんで私が悪役みたいになってるのよ!?」

 

(……会長があんな性格だから納得ではあるけど)

 

ユウカは一瞬ぽかんとした後、こみ上げる喜びを抑えきれないといった様子で叫んだ。

 

「……おめでとうっ!」

 

「「「……え?」」」

 

間の抜けた声が、綺麗に重なる。

 

「……は?」

 

今度はユウカの方が、信じられないものを見るような顔で固まる番だった。

 

「え、何その反応……? 私、わざわざ走って教えに来てあげたのよ?」

 

ユウカが部室を見回す。

銃弾を浴びて煙を吹くテレビ。涙目のモモイ。そして、灰色の絶望に沈んだ空気。

 

「……ちょっと待って」

 

「もしかして、最後まで結果……見てないの?」

 

「……結果?」

「私たち……7位以内に入れなくて……。さっき、1位も違う名前だったし……」

 

「はぁ?」

 

ユウカの声が、呆れを通り越して地を這うような低音になる。

 

「何言ってるのよ……探索者さん、あなたまで何やってるの。この状況、把握できてないの?」

 

「……端的に言えば、1位発表の瞬間に物理的な回線切断が発生しましてね。テレビがショートしました」

 

探索者が淡々と答えると、ユウカは深いため息をつき、粉砕されたモニターを指差した。

 

「まだ放送中でしょ! ほら見てみて、私もスマホで見てて途中から走って来たの」

「会場の公式配信、テレビより少し早いのよ。それに――」

 

一瞬、言葉を切る。

「受賞結果は、内部ネットワークに先に流れるの。生徒会はその閲覧権限くらいあるわ」

 

「……ずるくない?」

「仕事よ」

 

モモイの呟きに即答で答えるユウカ、モモイは何かを言おうとしたが放送に集中する

 

『――そして今回、審査員一同の満場一致により』

『通常の順位とは別に、特別大賞を授与することが決定しました』

 

「……特別、大賞?」

 

誰かが、掠れた声で呟く。

 

『この特別大賞は、万人受けをする作品では無かったためミレニアムプライズ本選には届かないものの、作品として極めて完成度が高く――』

『なおかつ「これに賞を出さないのはミレニアムとしてのプライドが許さねぇ!」という審査員の満場一致により急遽設けられた賞です』

 

『受賞作品は――』

 

『ゲーム開発部、“テイルズ・サガ・クロニクル2”です!』

 

「……え?」

「……うそ」

 

間の抜けた呟き。だが、スピーカーの向こう側では、コトリによる熱烈な作品評価が止まることなく続いていた。

 

『私たちが評価したのは、この作品が持つ“体験”そのものです。そのゲーム性は、極めて過酷。地獄のような操作難易度は、プレイヤーに何度も敗北を強いるでしょう』

 

『ですが…その試行錯誤の積み重ねこそが、この作品の本質です。その果てに待つのは――それまでのすべてを覆す、大きな反転』

『瞬間、プレイヤーは初めて理解することになる。このゲームが、自分に何をさせていたのかを』

 

『――この作品を象徴するキーワードは、ただ一つ……“信じたものを、信じ抜く”です』

 

『たとえそれが、他者から否定される道であっても、正しいと呼ばれない選択であったとしても』

 

『それでも、自ら選び取ったものを手放さず。最後まで背負い続けること』

『――そこにあるのは、理想だけではありません。迷い、後悔し、それでも進むしかないという現実です。だからこそ、この作品には“リアリティ”がある』

 

『作られた物語ではなく、確かに誰かが歩んできたかのような重みがある。それが、この作品を本物たらしめています』 

 

 

『そして……』

 

 

『その覚悟を貫いた先に――勇者は宿る。それは選ばれた者ではなく、“選び続けた者”の証です』

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

(…少し取り込まれ過ぎたかな)

 

 

 

「え……あ……」

 

言葉が、喉の奥でつかえて出ない。

 

「本当におめでとう! その……実は、私も少しだけプレイしてみたの」

 

ユウカが、少しだけ照れたように視線を逸らした。

 

「……決して、手放しに『面白かった』と言い切れる内容ではないけれど。でも、良いゲームを遊んだ後の……あの独特な余韻が、確かにあったわ」

 

「モモ、ミド! あたしもTSC2やってみたよ! すっごい話題になってる!」

 

勢いよく扉が開き、マキが飛び込んでくる。

 

「今、ネットでも大騒ぎ! ヴェリタスの解析だと、有名アイドルより検索数が多くなってるって!」

 

「ほ、ほんとに……?」

 

「確認しました」

 

アリスが、いつも通りの静かな、しかし確かな力強さを持って言葉を継ぐ。

 

「TSC2は、先程までダウンロード数7,705回、コメント数1,372件でしたが――」

「ミレニアムプライスの発表以降、約26秒間でダウンロード数が1万件を突破。現在も指数関数的に増殖中です」

 

「……!?」

 

「コメントも秒単位で増加。内訳は否定・疑念が242件、肯定・期待が191件。残りは未プレイによる評価保留です」

 

「え、あれ……?」

「そ、それって……結局、否定の方が多いんじゃ……ダメってこと……?」

 

「――ううん、違うよ、モモイちゃん」

 

「ユズちゃん……?」

 

ユズは静かに首を振り、震える手でスマホの画面を差し出した。

 

「見て。今、一番“いいね”が付いてるコメント……これを見て」

 

そこに並んでいたのは、数字や記号による評価ではない。

“遊んだ人間にしか、地獄を見た人間にしか書けない言葉”だった。

 

「最大多数の最大幸福ではない。たった一人の人間を、再起不能になるまで魅了する劇薬……その劇薬が今、1万人に届こうとしている」

 

「……えっと」

 

モモイが、まだ信じきれないように、けれど瞳に光を取り戻しながら呟く。

 

「っていうことは……」

 

「廃部にならない……ってことで、いいんだよね……?」

 

「無論、私たちが一部手を貸してしまった以上、これが純粋な『部活動の成果』としての正式な評価に繋がるとまでは言い切れませんが……」

 

「それでも。これほどまでの社会的反響と、特別大賞という成果を上げた彼女たちに、一定の猶予が与えられて然るべきではありませんか?」

 

「……そうね」

 

ユウカは一度だけ深く、熱を帯びた息を吐き出した。

 

「……いくら特別大賞とはいえ、正式な受賞枠ではないし、シャーレという外部の協力を仰いでいる以上、セミナーとしての厳正な判断は必要になるわ」

 

一拍。

ユウカは背筋を伸ばし、会計としての、そして一人の友人としての決断を下す。

 

「……ゲーム開発部の部室没収、および廃部処分は――当面の間、保留とします。少なくとも、次の学期までは現状維持。これが私の出す回答よ」

 

「……っ!」

 

部室の空気が、一気に、そして劇的に緩んだ。

だが――ユウカはまだ、言葉を終えてはいなかった。

 

「……それから」

 

珍しく、ユウカが視線を彷徨わせ、言葉を淀ませる。

 

「その……」

 

「……?」

 

「……ご、ごめんなさい」

ぽつり、と。

計算機のように正確な彼女の口から、およそ「効率」とは無縁な言葉がこぼれ落ちた。

 

「ここにあるゲーム機のこと……“ガラクタ”なんて言って、悪かったわ」

 

視線を逸らしたまま、それでも逃げずに言葉を続ける。

 

「……あなたたちのあのゲームのおかげで、思い出したの。昔、夢中でコントローラーを握っていた頃のこと。新しい世界に飛び込んで、何もかもが新鮮で楽しかった……あの感覚」

 

ユウカは、粉砕されたモニターの横に置かれた古いゲーム機を、どこか愛おしそうに見つめた。

 

「……久しぶりに、味わえたわ。……ありがとう」

 

ほんのわずかに、けれど確かな温かさを持って、彼女の口元が綻んだ。

 

(…なーにが"冷酷な計算機"だよ。ちゃんといいもん持ってんじゃねぇか)

 

「……それじゃあ、部室の延長申請とか部費の受取処理とか、山ほど手続きがあるから。落ち着いたらセミナーに来てね。じゃ、また後で!」

 

そう言い残して、ユウカは足早に部室を後にした。去り際の背中が、どこか清々しく見えたのは気のせいではないだろう。

 

扉が閉まる音。

 

その残響が消えた瞬間――

 

「じゃ、じゃあ……!」

 

「……っ!」

 

「や……やったああぁぁぁぁっ!!」

 

モモイの声が、部室の壁を震わせるほどに弾けた。

 

「良かった……本当に、良かった……!」

「やった……嬉しい……っ」

 

ミドリが、全身の力が抜けたようにその場に崩れ落ち、ユズの声は、震えながら喜びを噛み締めていた。

 

だが――

「……?」

 

一人だけ、きょとんと首を傾げる少女がいた。

 

「……えっと……ぱんぱかぱーん、ですか?」

 

どうやらアリスだけは、あまりに劇的な状況の変化に、処理が追いついていないらしい。

 

「アリスちゃん!」

 

ユズが駆け寄る。

 

「私たち、特別大賞を受賞したんだよ! それに、この部室も――このまま使い続けていいんだよ!」

 

「えっと……」

 

アリスは、一瞬だけ考え込むように目を伏せた。

彼女の論理回路が、提示された「勝利」という結果を、自分たちの「存在」へと結びつけていく。

ゆっくりと顔を上げたアリスの瞳には、潤んだ光が宿っていた。

 

「……つまり。アリスはこれからも……皆と一緒に、居てもいいのですか……?」

 

「うんっ!」

 

「当たり前でしょ! これからも、よろしくね……!」

 

ほんの一瞬の、温かな沈黙。そして――

 

「……はい…アリスも……アリスも、とっても嬉しいです!」

 

「私達……っ!!」

 

「これからも、ずっと一緒だよ!」

 

「……はい! これからも、よろしくお願いします……!」

 

そうして、ゲーム開発部の四人は涙を流しながら、互いの体温を確かめ合うように強く抱きしめ合った。

数分前までの絶望が、今は嘘のような温かな光に包まれている。

 

 

「……泣いてるんですか?」

 

探索者が、至近距離からあまりにも無機質な声で問いかける。

 

「…………っ」

 

先生はそれに答える余裕さえなかった。

溢れ出す涙を隠すように、片手で力いっぱい目元を覆い、もう片方の手を「シッシッ」と、あっちへ行けと言わんばかりに力なく振る。

 

「……おっさんになると感情の制御が甘くなるってやつですか」

 

"まだオジサンと呼ばれる年じゃないよ"

 

小さく呟いたその時――

 

 

"……君の方が、よっぽど冷酷な計算機だね"

 

 

くぐもった声が、返ってきた。

 

"これを見て、何も感じないなんて――ちょっと勿体ないよ"

 

「……涙なんて、とっくの昔に枯れてますよ。深入りするとロクなことにならないんでね」

 

 

「……もう、そういうのは卒業したんです」

 

"……強いんだね"

 

「違いますよ………慣れただけです」

 

少しの間

 

「……さて、感傷に浸る時間は終了です、先生。泣き止んだなら、さっさと立ち上がってください。勇者たちが、あなたの『よくやった』という言葉を待っていますよ」

 

そう言って、探索者は先生に背を向けた。

その背中は、どんな嵐の中でも狂わない羅針盤の針のように真っ直ぐで…そして……少しだけ、温かかった。

 





パヴァーヌ編1章編完結!応援ありがとう御座いました!
次からはだいぶ物語が動いていきますので、お楽しみに!
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