巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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鳴らない言葉をもう一度

 

 

「んで?何で私は取調室(豚箱)に突っ込まれてるんだ?」

 

「えっ!?自首をしに来たのでは無いのですか?」

 

「……はぁ…ヴァルキューレもついにここまで落ちたか」

 

 

ヴァルキューレ警察学校

キヴォトスに存在する高校の一つでその名の通りキヴォトスにおける警察機関に相当するこの世界でもそこそこに特殊な学校

 

そんな学校に来た探索者はなぜか取調室へとぶち込まれており、目の前にはけだるそうにドーナツを食べている少女と警戒しながら疑いの目を向けている少女が捜査官として質疑応答を行なっていた

 

ダン!

 

 

「公安局長か副局長呼んでこい!情報提供者が来たっていやぁすぐ来るわ!」

 

「し…失礼しましたー!」

 

 

ガチャ!

 

バタン!

 

 

 

「はぁ……ってお前は行かないのかよ」

 

その少女が慌てて部屋を飛び出していくと、残されたもう一人の少女は欠伸をしながら、机の下からこっそりドーナツの袋を取り出した。

 

「まーねー局長を呼びに行くのはキリノだけで十分でしょ。その間、私はこの新作ドーナツを堪能できるからね」

 

「職務怠慢だろ、それ」

 

「残念、今は休憩中ですー……ねぇ、君も一つ食べる? 中身はカスタードだよ」

 

「……取調室で被疑者候補にドーナツを勧める警察官がどこにいるんだよ…まぁ、もらうけどさ」

 

 

探索者がドーナツを受け取ろうとした、その時だった

 

 

 

「……フブキ。そのドーナツ、私にも一口分けてくれるか?」

 

 

背後に君臨したのは、ヴァルキューレ公安局長・尾刃カンナ。その声の温度は、冷房の効いた室内よりもさらに低かった。

 

 

 

「……あ、局長。お疲れ様です……。あ、あの、これはですね、被疑者の緊張を和らげるための高度な事情聴取テクニックでして……」

「今日の業務が終わり次第、反省文一万字だ。明日朝一番、私のデスクに置いておけ」

 

「……ハイ、スミマセンデシタ」

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

ドーナツを抱えた少女がトボトボと去った後、カンナは乱雑に椅子を引き寄せ、探索者の正面に座った。

 

 

 

「全く……見苦しいところを見せたな」

 

「ま、あれも彼女の個性なんじゃない? ……それより局長、顔色が悪いね。また上からの無理難題ですか?」

「……皮肉か?」

「いえいえ、心からの同情ですよ。超優秀なエrrrリート公務員の尾刃カンナ局長殿。立場が上がっても増えるのは残業代じゃなくて責任と書類だけ……大変だねぇ」

 

カンナは溜息をつき、乱れた髪をかき上げた。

 

「……貴様に言われるまでもない。上層部からの『ありがたいご指示』という名のゴミ掃除……世間一般では、それをシュールストレミングの缶詰を開ける作業と呼ぶのだ」

 

「わーお。局長がそこまで言うとは……じゃあ、その口直しに、極上のデザートを差し上げよう」

 

探索者はビジネスバッグから、数枚の資料を机に滑らせた。

 

 

「これは……ブラックマーケットを通じた脱税と、酒の密造……。それに、カイザー系列の不審な資金の流れか」

 

 

「大正解!ちなみに録音、録画は切ってありますよね?そのシュールストレミングに嗅ぎつかれたくはないので」

 

「無論だ。……だが、よくもまぁこれだけの資料を見つけてくるな。警察の捜査網すら潜り抜けるような情報を、なぜ貴様が持っている?」

 

探索者は不敵に笑い、カンナの鋭い目線を真っ向から受け止める。

 

「そこはまぁ……色々手を回してね。もちろん、違法な行為はしてないよ」

 

「……『していても見つからない』の間違いではないのか?」

 

カンナの静かな、しかし確信に満ちた指摘が取調室に響く。探索者は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに余裕の笑みを取り戻した。

 

 

 

 

 

「黙秘権を行使するよ

 

 

 

 

 

 

 

それともその興味は公安局(お上)としての質問かい?」

 

 

 

 

と、カンナへ表情は優しく笑っているが冷たく鋭い目線を向ける。

 

 

 

 

 

その目線を受けたカンナは少したじろぐ……がすぐに表情をもどし白旗を掲げるか如く両手を挙げた。

 

 

「……まぁこれは私が個人的に興味のある情報なだけだからな。警察官としての質問ではない、気分を害したのなら謝ろう」

 

「分かってくれりゃいーのよ?アンタとは良い関係性でいたいからね」

 

「……」

 

「一応言っておくが、狂犬の名において見逃したりはしないからな?」

 

「勿論、それにゃ期待してねーよ?むしろ捕まるんならアンタに捕まりたいし……何ならアンタが捕まえるんだったら私は抵抗を絶対しないと約束しよう」

 

「…言質取ったからな」

 

「わーお、その発言で貞操以外の恐怖を感じたのは初めてだぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんじゃ、いつもの口座に振込シクヨローまた証拠が集まり次第くるわ」

 

古びたパイプ椅子から立ち上がり部屋のドアノブを力強く押し、取調室から出ようとする探索者

 

 

 

ガチャ

 

 

 

だが、途中で何かを思い出したのかドアノブを開いたまま取調室の中へと振り返り、カンナに向かえる

 

 

 

 

「あぁ、後この取調室……録音機が不調なんじゃあないか?()()()()()()()を開始していたぜ?」

 

「……何?」

 

「機械の不調はよくある事だしなー業者に点検しておいてもらったほうががいいと思うぞーそうだなぁ…例えばだが……

 

 

 

 

()()()()()とかに」

 

「……貴様、どこまで見えているんだ」

 

「んじゃあーなー」

 

 

 

バタン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

探索者が去った後、誰もいないはずの入口付近から声がした。

 

 

「いやぁ……完全にバレてましたね」

 

すると入口から着崩したアロハシャツにゆるゆるのネクタイ、手に持っている紙コップが特徴的の人物

このヴァルキューレ警察学校の副局長志真コノカが現れた。

 

 

 

「いやぁ……完全にバレてましたね。正直、生きた心地がしなかったっすよ、局長」

 

「…録音は?」

 

「流石にあの話を聞いてデータ残すほど、私はお人好しじゃないっすよ。即座に物理消去。あんなのアイツに嗅ぎつけられたら、私たちまで一緒に樽詰めされて海に流されちゃいますからね」

 

「ならいい」

 

 

 

コノカは紙コップを啜り、眉をひそめて探索者が去った扉を眺めた。

 

 

 

 

 

「しっかし、なんで気づいたんっすかね……。私、傍聴室()に入るタイミングも、フブキが出てきた瞬間の『扉が開く音』に完全に重ねたはずなんっすよ。音も気配も、プロの刑事として完璧に殺したつもりだったんすけど」

 

 

「……まさかとは思うが、二重に閉まる音を聞き分けた?」

 

「いやいやいや、ドレミを聞き分けるならまだしも、ほぼ同タイミングの重厚な金属扉の閉鎖音を聞き分けるとか、どんな耳してんだよって感じっすよ。しかもここ、一応は防音室っすよ? 警察学校の予算を注ぎ込んだ壁なんっすけどねぇ」

 

 

「だが、そうとしか考えられんだろう……ハァ…」

 

コノカが呆れたように肩をすくめる。対してカンナは、探索者が残した資料を一瞥し、パイプ椅子に深く沈み込んだ。

 

 

「…報告書どうします?上の奴ら(腐ったミカン)は見せしめに吊るし上げようと躍起になってますよ?」

 

「…私が何とかしておく」

 

 

「しかし…情報提供するくせに匿名(ノーネーム)である事をこだわり、顔はよくわからないカボチャの覆面で隠し、声も撮られたくない、そこまで徹底して『影』に徹する奴が、なぜわざわざ自らここに通報しに来るんっすかね? ネットの掲示板にでも放流しときゃ、もっと足がつかずに済むものを」

 

「……一つの可能性としては、匿名だったとしてもネットでは足がつくから、というのもあるだろうな」

 

「案外……自らの正義感だったりして?」

 

「………無いな」

 

 

「やっぱ無いかぁ……でも局長、そこまで悪い奴にも思えないんっすよねぇ……なんて言うか、長年の経験というか、私の刑事としての勘っすけど、アイツ、いいヤツではなかったとしても、そう悪い奴にも見えないんすよ」

 

「……同感だ。奴からは根っからの悪を感じない……腑抜けた声を出すなと言いたいところだが、私も同じ意見だ」

 

 

 

カンナはそこで一度言葉を切り、鋭い眼光をコノカに向けた。

 

 

 

「フブキが言っていたのだが……サボっていたというのは事実か?」

 

「……ッスー……」

 

「なぜ目線を逸らす副局長?」

 

 

 

 

 

 

「……反省文書きます……」

 

「1万5千字だ」

 

「ウッス…」

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

ヴァルキューレからの帰り道

カジノの裏口を抜けた探索者は、先ほどまでの「不敵な支配人」の仮面を脱ぎ捨てようとしていた。

 

 

(ふぅ……局長相手にハッタリかますのは、寿命が縮まるぜ。心臓バクバクだ。あそこで副局長の気配に気づかなかったら、今頃はマジで死んでたかもな……さて、温かい茶でも飲んで、一息つくか)

 

だが、彼を待っていたのは安らぎではなかった。

 

 

「支配人! お戻りになられたんですね!」

 

「助けてください! あの子が……あの子が止まらないんです!」

 

血相を変えたバニー姿の生徒たちが、探索者の裾を掴んで泣きついた

「……落ち着け、とりあえず深呼吸だ。何があった。強盗か? それともカイザーの差し金か?」

 

 

「違います……あのお嬢様です! 支配人が連絡してくれて案内したといっていた、トリニティの……!」

 

探索者は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

フロアの中心、ルーレット盤を囲む人だかりから、あまりにも無垢で、場違いに明るい声が響いてくる。

 

 

 

「わぁ! また当たりました! ペロロ様、見てますか? 今日は本当にツイてます!」

 

 

 

人だかりを掻き分けて覗き込んだ先には、山のように積まれた高額チップ。そして、その中心で「ふふっ」と微笑む、あの平凡な少女・ヒフミの姿があった。

 

 

「WTF?」

「……一点賭け、か?」

 

 

「はい……先ほどから赤の『17』に…それも、連続で」

 

 

(……は? 1/37を連続で? イカサマか? いや、うちの盤に細工は軽くしてあるとはいえ、完璧なランダムになるだけ…それをどうにかする技術はあの子にはないし、どうにもできない。……なら、なんだ。ただの幸運?……マジで?うせやろ?)

 

 

探索者は冷や汗を拭い、支配人としての顔を作り直して彼女の前に立った。

 

 

「…や……やぁ、お嬢様。楽しんでいただけているようで、何よりです」

 

「あ! さっきの方! おかげさまで、こんなにたくさん当たりました! これでペロロ様限定セットが全部買えちゃいます!」

 

少女の曇りなき眼差しが、探索者の良心をチクリと刺す。

 

(……眩しすぎね?これが青春かぁ……)

 

 

「……お嬢様。これだけ勝てば十分でしょう? 欲を出しすぎると、運の女神に見放されるかもしれませんよ」

 

「そうでしょうか……? でも、なんだか今日は行ける気がするんです!!……あ、次は『0』に全部、いいですか?」

 

 

 

「……正気か?」

「はい! 直感です!」

 

 

 

ディーラーの生徒が、震える手でホイールを回す。

 

 

(流石にここで0は出んやろ!出たならどんな確率して……)

 

 

 

カタカタと音を立てて玉が踊り、やがて――吸い込まれるように「0」のポケットへと収まった。

 

周囲から地鳴りのような歓声が上がる。

 

 

 

 

(……頭痛が痛い……これ、あの子が帰る頃には、ウチのカジノ、更地になってるんじゃないか?)

 

「すごいです! また当たりました! ……えへへ、なんだか申し訳ないです」

 

申し訳なさそうに笑う「天災」を前に、探索者はただ、天を仰ぐしかなかった。

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「……支配人。本日の最終収支、出ました……完全に真っ赤です。あのお嬢様に、今月の利益どころか、予備費まで根こそぎ持っていかれました」

 

報告書を差し出すぱっつん少女バニー生徒の手は震えていた。探索者はそれを受け取り、一文字も見落とさないように目を通すと、天を仰いで深く、長く、魂を吐き出すような溜息をついた。

 

「あぁ……分かってる。あの子、『17』連続からの最後の一投で『0』をぶち当てやがったからな。確率の神様がバグったとしか思えねぇよ」

 

(ホント心臓に悪い……マジで寿命が3年は縮んだぜ。クトゥルフの神々に追い回されるより、あの子の無垢な『一点賭け』の方がよっぽど精神にくる……これ、普通の経営者なら今頃首を吊ってるレベルだぞ)

 

 

(……最強じゃないって、こういうことかよ。銃で撃たれるより、純粋な幸運(ラック)の方が、よっぽど殺傷力高けぇじゃねーか……)

 

 

探索者は震える手で、自室の金庫の奥、さらにその裏側に隠された、厳重なロック付きの小さなケースを取り出した。中には、彼がこれまでの人生で様々な世界で貯め続け、幾度も人生を救ってくれた血と汗と涙の結晶……出所不明の金が詰まっている。

 

「……えっ? 支配人、それって」

 

「あぁ。カジノの赤字分は、これで補填しとけ。バニーたちの給料を減らすわけにはいかないからな」

 

 

「ま、『金は天下の回り物』って言うしな。うちから出た金があのラッキーガールの手を経由して、ブラックマーケットのペロロ様グッズ市場に流れて……巡り巡って、また私のところに『情報』や『依頼』として戻ってくる……そう思わなきゃやってられねぇ」

 

「支配人……! ありがとうございます!」

 

「……感謝するなら、次はあの子を入り口で丁重にお断りする方法を考えてくれ。出禁にする勇気は私にはないが、せめてVIPルームに隔離するとかさ……」

 

(あんのダイスの女神(クソビッチ)…俺のときは100(ファンブル)しか出さねぇくせにこういうときに限って01(クリティカル)出しやがって…ほんと死んでくれ)

 

 

「最強の主人公なら、指パッチン一つで金を増やせるんだろうなぁ……」

 

 

闇の中で、探索者の小さな、あまりにも人間らしい呪詛が消えていった。

 

 

 

 




カイザーカジノについて
このキヴォトスではカジノは犯罪ではなく、未成年でも遊戯は可能
だが、このカジノではチップを借りるのに会員登録が必須であり本人確認、および学生証の提示が義務付けられている。学生にはチップの購入に制限がつけられる
チップは現金に交換することも可能だが、現実世界のパチンコのように景品に変えることも出来る。
転売ヤー対策として、交換する景品には会員番号と紐づけられ、転売が発覚した時点で出禁が確定する。
余談だが、ほぼ全ての景品は交換履歴があるが探索者が作ったダンボール型の馬だけは一度も売れたことはない
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