巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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友情と勇気、そして覚悟が照らす光のロマン
異常はいつも平穏の中に


 

 

 

 

 

始まりは、エンジニア部からシャーレへ届いた一本の連絡だった。

 

 

 

"急にどうしたの?"

 

『すまない、先生。だがクライアントから、出来ればすぐに連絡してほしいとの要望でね』

 

"クライアント?"

 

「……もう出来たんですか、思っていたより、随分と早い」

 

そこには、コーヒーを飲みながら書類整理をしている“事務員”の姿があった。

 

"……いつからいたの?"

 

「最初からですよ」

 

何でもないように答えるが、先生は一瞬だけ目を細める。

 

"……さっき、トイレに行ってたはずじゃ?"

 

「……先生、うら若き乙女に、その辺りの『行間』を詳しく言わせるつもりですか?」

 

"…ごめん、今のはデリカシーがなかったね"

 

「朴念仁の先生でもそこは気づいてくれてよかったです」

 

"朴念仁?私はよく気づく方だと思ってるんだけど…"

 

「……もうちょっと生徒たちの気持ちを考えたほうが良いですよ先生」

 

"えっ?"

 

「…信頼するだけの相手に、わざわざ連絡を取ったり、自撮りを送ったりはしませんよ」

 

"信頼されてるってこと?"

 

「それマジで言ってます?」

 

"マジも何も…それ以外には…"

 

 

一瞬の沈黙。探索者はカップを置く。

 

 

「…もういいです。彼女たちが可哀想だ」

 

『あぁ、そこについては同意見だ』

 

「じゃあすぐ向かいます。先生をつれて」

 

探索者は、先生からスマホを取り、強引に通話を切る。

 

"ちょっと待って?何を頼んだんだい?"

 

「…見たらすぐ分かりますよ」

 

そう言い残し、探索者は先に歩き出した。

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

エンジニア部の扉を開けると、金属の擦れる音と、どこか焦げたような匂いが流れ込んできた。

床には工具や配線が無造作に転がり、壁際には組みかけの機械が積み上がっている。

 

いつも通り——雑然としていて、活気に満ちていて、そして少しだけ危なっかしい空間。

その中心で、ウタハがこちらを待ち構えていた。

 

 

 

「よく来たね」

 

「それ、来るたびに聞いてる気がします」

 

「いいだろう? 挨拶は大事だからね!」

 

探索者は小さく肩をすくめる。

 

「毎回同じ台詞である必要性は感じませんが」

 

"まあまあ、いいじゃないか"

 

先生が苦笑しながら間に入る。

 

「さぁ、アイスブレイクはこの辺に、例のアレ出来てるよ」

 

そう言いながら差し出されたのは、一発の銀色の弾丸だった。

光を受けて鈍く輝くそれは、この部屋にある他の試作品とは明らかに“完成度”が違う

 

「…」

 

探索者はそれを左右前後に揺らし光の加減や溝を確認する。

 

「仕組みはどうなってますか?」

 

「君が見せてくれた…ロジックアトリエ弾?だったか?あれば解剖してみたが…理屈は分からなかった。だから“挙動だけ”を再現してみた」

 

「どうやって?」

 

「最初の撃鉄で弾頭が発射されるのはいつも通りだが、その弾頭の中にも火薬を詰めてみた。それで二段階目の加速が出来る」

 

「…それって安全性どうなんですか?」

 

「成功率は低いよ。半分は発射系でトラブルが出る。正常に射出できても、今度は弾頭側の強度が持たないことがある」

 

「設計上のピーク加速に耐えきれず、分解するケースだね」

 

「…それって完成してますか?」

 

ウタハは少しだけ肩をすくめる。工具を机に置く音が、やけに軽かった。

 

「科学的にいえば再現性がないからしているとは言えないだろうね。だが君の注文は、完成品”じゃなくて“同じ挙動をするもの”だったはずだ」

 

ウタハは淡々とそう言い切る。

 

「…ま、テストしてるだけマシですね」

 

"あのぉ…話についていけないんだけど…"

 

「あぁ、何も説明してませんでしたね」

 

そういいながら探索者は太もものバックから一発の弾丸を取り出す。それは通常のものよりも一回り大きく、弾頭には刻印が走っている。

金属光沢は均一ではなく、角度によってわずかに表情を変えた。

 

「こちらが本物です」

 

「コイツはロジックアトリエ弾、正式名称は…ロジックアトリエ製高速粉砕弾…を再現できないかって話です」

 

"へぇー…これ何か特殊なの?"

 

「発射後、一定距離を進んだ後に急加速します。それにより、破壊力が跳ね上がる」

 

"…凄くない?それ"

 

「凄いも何も、人知を超えてると言っていいね。私としてはどうやってこんな物を手に入れたか聞き出したい所だが…」

 

「契約にもあったでしょう?『この銃弾の背景は聞かない』と」

 

「分かっているさ、だから私一人で制作している……本当はヒビキやコトリにも見せてやりたい所なんだが…いかんせん暴走しかねないしね」

 

「……貴方一人でも、十分危ういですが」

 

「私としては十二分に抑えているつもりだが?」

 

沈黙

工具の擦れる音が、やけに大きく聞こえた。

 

 

"……"

 

「どこが?」

 

 

 

「…まぁ、それは一旦置いておきます。試射は出来ますか?」

 

 

ウタハは工具の山の中から一丁の拳銃を引き抜く。

即席の整備台に放られていたそれは、実用性だけを極端に突き詰めたような形をしていた。

 

「あぁ、だが安全性は保証できない。だからこの子を使ってくれ」

 

探索者は差し出された銃を受け取る。

重さを確かめるように軽く手の中で転がし、構造を一瞥する。

 

「…重いですね」

 

「特注合金でフレームを作ってある。破断しないし、衝撃は逃がす設計にしてある。携帯するのには不向きだが、暴走しても、痛いで済むよ」

 

「…その痛いは骨がひしゃげそうですね」

 

"骨が!?"

 

「じゃあ——一発、撃ってみましょうか」

 

軽い調子で言いながら、探索者は弾丸を装填する。金属音がやけに大きく響くが、本人は気にしていない。

 

スライドを引く

カチリ、と機械的な音が鳴る

 

"……ほんとに撃つの?"

 

「テストでしょう?」

 

返事はそれだけ。

視線はすでに標的の方へ向いているが、特別な緊張はない。いつも通りの作業手順に過ぎない。

 

"骨が折れるかもなのに?"

 

「体張って安全性をテストしておかないと、有事の際に痛い目見ますから」

 

射線の先には、使い古された試験用ターゲット。無数の弾痕が、金属表面に黒い点として残っている。

 

 

引き金が引かれる。

発砲音。

反動が手首に食い込む。

 

わずかに、弾速が落ちる

 

 

不自然な減速

 

空間の中で、弾丸だけが一瞬“重く”なったように見えた

 

次の瞬間

 

 

ドガァン!

 

 

 

 

空気が裂けるような音

遅れて届く衝撃

弾丸が、再加速する

 

 

 

 

「…当たってはいますけど…ダメですねこれ」

 

「やはりそうか」

 

ウタハはターゲットを見たまま、小さく息を吐いた。

 

"えっ?何がダメなの?当たってるよね?"

 

「2回目の点火で弾頭が少し削れてます。これじゃ集弾率が出ません」

 

「運よく当たっているだけで、弾道が毎回ブレる。実戦運用は無理だね」

 

"……というか…小太刀もそうだけど色々入ってるねその太もものバッグ"

 

「えぇ、どれもこれも私の命を救う物も入ってます」

 

 

ウタハは弾丸の残骸を拾い上げ、わずかに眉を動かした。

 

「……やはり面白いけど、武器じゃないねこれは」

 

「最初に言ったでしょう?初見殺し用として使うだけです。おもちゃでも何でも、一発限りで良い」

 

探索者は弾丸の残骸を軽く指で弾いた。

 

「一発ネタでいい。それくらい尖ってた方が使いやすいんですよ」

 

 

 

そんなやり取りが一区切りついたところで、扉が勢いよく開く。

 

 

 

「なんかすごい音聞こえたけど大丈夫!?」

 

ヴェリタス所属のマキが、慌ただしく顔を出した。

 

「…エンジニア部の爆発音は日常でしょう?」

 

「いやまぁそうなんだけど…なんか違うっていうか」

 

マキは室内を見回し、工具と試験装置と、まだ煙の名残すらない銃器を順に見て固まる。

 

"こんにちはマキ"

 

「あっ!先生!ちょうどいい所に!」

 

「先生聞いて!世紀の大発見があって!!それがすっごくてさ……!!キヴォトス史に残るような歴史的な発見かもしれないの!!」

 

“……歴史的な発見?”

 

一瞬だけ、空気が止まる。

 

「胡散臭いですね」

 

探索者が即座に呟く、その反応にマキは不貞腐れたように頬をぷくーと膨らませる

 

「ちょっとくらいはロマンを持った方がいいんじゃない?色んな人に聞いても見た事無いって言ってたし」

 

「ロマンは確かに重要ですが、ミレニアムで聞くロマンにはろくな物がないので」

 

“まぁまぁ、一体何を見つけたの?”

 

「うーん…・ちょっと言葉だと説明しづらい」

 

"説明しづらい……?"

 

「いいから来てよ!探索者も!」

 

「…申し訳ないですが、今武器の調整中でして、それが終わったら行きますよ」

 

「あー!そうなんだ!」

 

マキは納得したように頷くと、すぐに思考を切り替えた。

 

「じゃあさ、先生と先に行ってるから、あとで部室来てね!」

 

"うん、先に行っておくよ"

 

「えぇ、終わったらすぐ行きますね」

 

 

 

「…嵐ですねぇ」

 

「まぁ、ヴェリタスのムードメーカーだしね」

 

ウタハは淡々と返し、再び作業机へ視線を落とす。

 

「……で」

 

少し間を置いてから、探索者を見る。

 

「行く気あるのかい?」

 

探索者は、手元の部品を一つ整えながら即答した。

 

「あるわけないでしょう」

 

ウタハは一瞬だけ目を細める。

 

「だろうね」

 

 

 

 

「さて、もう一つの方は完成しているよ」

 

「…ありがたいです。使いすぎてたので」

 

ウタハは工具箱の奥から、小さなケースを取り出す。蓋が開くと、静かな金属光沢が室内の光を拾った。

そこに収められていたのは、純銀の弾丸だった。

 

「…まさか、純度99%以上で作ってほしいとは思わなかったよ。しかも弾頭までも銀で作れと言われるとは…強度や弾道計算が狂うからあまり勧めたくはないのだが……」

 

「申し訳ない。ですがそれじゃなきゃダメなんですよ」

 

探索者は当然のように受け取る。

 

「…この弾丸は別に契約の範囲外だから質問してもいいだろう?一体なにに使うんだい?」

 

「……そうですねぇ」

 

ウタハは銀の弾丸を指先で転がしながら、軽く問いかける。

 

「…これは恐怖に打ち勝つためのお守りです」

 

探索者は迷いなくそう答える。

その言葉は冗談でも比喩でもなく、ただの事実確認のようだった。

 

「……恐怖対策としては、随分と物理的だね」

 

「……私は君とはそこまで付き合いが長いとは言えないが…君がオカルトに走るとは思えないな」

 

ウタハは銀の弾丸を見ながら、静かに言う。

 

「銀は神性や抗魔の作用があると言われているが、科学的には裏付けのない迷信だよ」

 

「……それでも持つ理由がある、ということかい?」

 

「えぇ、理屈ではなく、“そうしておいた方がいいと思える状況を知っている”だけです」

 

「…どんな?」

 

「聞くだけ無駄ですよ。理解できませんから」

 

「…それ、私以外には言わないほうがいいね。私は理解できるけど、ほかの人が聞いたら嫌われるよ?」

 

「…それもそうですね。今のは失言でした」

 

ウタハは小さく息を漏らし、探索者もほんのわずかに肩の力を抜く。

 

「…今の、カップルみたいだね」

 

ウタハは弾丸を指先で転がしながら、ぽつりと言う。

 

「勘弁してください。それに貴方もそんな気はないでしょう?」

 

「わからないよ?本当に思ってる……かも?」

 

ウタハはわずかに目を細める。

 

「ジョークは発明品だけにしてください」

 

そう言って、小さく息を吐いた。

 

「おっと、それは失敬」

 

短く、何事もなかったように会話は戻っていく。そんな他愛ない会話が続いていた時だった

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 

探索者の背筋に、氷を押し当てられたような感覚が走る。

それは過去何度も味わったことのある…「嫌な予感」の前ぶれであった

 

「どうしたんだい?」

 

探索者は数秒、何も言わずに空間を見てから答えた。

 

 

「……当たるぜ…探索者のカンは」

 

そしてウタハの疑問に答えようとした、その瞬間だった。

 

 

 

ドカァァァァァン!!!

 

 

嫌な気配がした方向から、爆発音が響き渡る。空気が一瞬、遅れて揺れた。

 

ウタハは数秒だけ目を細める。

 

 

「うん、良い爆発音だね」

 

 

小さくそう呟いてから、視線を上げた。

 

「……ただ、エンジニア部以外でこの規模をやらかすのは珍しい」

 

 

「一体どこの部だい?」

 

「思考するなら体を動かせ!26年式、返してもらいます!」

 

「……そこまで焦るとは珍しいね」

 

 

「……それは危険察知か、それとも確信かい?」

「両方!」

 

ウタハは目だけを向けての問いに探索者は即答する。ウタハは一拍置き、短く頷いた。

 

「分かった。私も同行しよう」

 

「じゃあ急げ!」

 

探索者はすでに踵を返している。

ウタハも工具を片手でまとめ、迷いなく後を追った。

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