探索者が出す契約書は信用してはならない
ジュッ!ジュッ!
パスタアガリマース!
13タクオネガイ!
ドリンクイキマス!
サンドツクリマス!
カジノが特に忙しくなる金曜日、華金とはよく言ったもので併設しているレストランの
そんな中で探索者もキッチンに入りでオーダーが入った瞬間に人手の足りていない場所を見極め、フォローへ入る
(…もうちょっとバイト雇おうかなぁ)
そんな事を思っていると、前髪ぱっつんの少女*1…ほかの仲間からは店長と呼ばれている子が
「オーナー!例のお方来ました!」
と私に向けて声をかけてくれる
「あの方」という抽象的な言葉、だが事前に伝えていたおかげで分かりやすい暗号になっていた
「…おっけー…今離れて大丈夫?」
「もちですよ!貴方がいなくても回るようには出来てます!」
「そうだそうだ!」
「別にしんどいだなんて思ってないんだからね!」
「…ありがとう、バイト募集するからね」
「それは早急にお願いします!」
軽口を叩いたあと、探索者は身につけていた帽子と前掛けと羽織っていた白い服を脱ぎ、いつも身につけているスーツの背広を羽織る
「さてと……嘘で塗り固めた化粧をして勝負しますか」
そう呟いた探索者はチップと
──────────────────────────
「始めまして、ようこそいらっしゃいました…アビドス高等学校の皆さん、そして…連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生?」
探索者は45度できっちりと腰を折り、深く礼をした。
その後に呼びかけると5人のヘイローを持った少女と1人の大人は驚きの表情を浮かべるのが確認できる。
(……聞いてた通り、
「私、このカイザーカジノ総支配人を務めております…どうぞお見知りおきを…」
"これはご丁寧にどうも…でも何故初見の私たち声を?"
「それは、お客様たちにとてつもないオーラを感じた為でございます」
「ん、見る目あるこの人」
「ちょ…そんなお世辞で騙されないでよ!シロコ先輩!」
「いつも騙されてるのはセリカ、その発言は見過ごせない」
「まぁまぁ、喧嘩しないの、それはそれとして凄い賑やかな場所だねぇ〜おじさんくらくらしてきちゃうよ」
「お褒めに預かり光栄でごさます…当カジノは日常に疲れたお客様を"非日常"へと連れて行く場ですので」
「支配人が常連でもない方を自らお出迎え、と言うことは…」
「……流石ネフェティスのお嬢様でございますね…奥の応接室をご用意しておりますので、どうぞお入りください」
──────────────────────────
応接室に案内した探索者は先生達を上座へ促し、自分は用意しておいたお茶を全員の前へと置いていく
「さて、本日お越しくださったのは……アビドスの現金輸送車が、当カジノに出入りしている件。つまりカイザーグループ、それも資金洗浄…いわゆるマネーロンダリングの件ですよね」
探索者はまるで先生たちがここに来るまでの行動を全てを見透かしたように語りかける
自分たちが聞きたいことをピタリと当てられたアビドスメンバーは驚愕の表情を浮かべるが、先生は表情を崩さず口を開く
"……そこまで分かっているのなら単刀直入に聞こう"
"君は……このカジノはカイザーのマネーロンダリングに加担しているのかい?"
「うーん……その回答はイエスともノーとも言えますかね?」
大人の交渉に似つかわしくないような直球ストレートの質問
それを聞いた探索者は少し悩み頭を傾けながら肯定でも否定でもない言葉を先生達に言った。
「ん、詳しく」
「簡単な話ですよ、私個人…というかこのカジノを運営している側は白です、何も知らずにディーラーやっている子たちが大半でしょう」
「ただ…換金所を運営している奴らは別です」
「…どういう事ですか?」
「ここはカイザーとの共同運営ですからね。我々がカジノを回し、向こうがチップを現金に替える……その過程で彼らが何を混ぜ込んでいるか、我々には判断する材料がないのです」
探索者は懐から2枚の写真を取り出し、テーブルに置いた。写っているのは、不自然に装甲を厚くした、軍用さながらの現金輸送車だ。
「この車、見覚えがあるでしょう? アビドスの借金回収に使われている車両です。これがカジノに来ては、現金をチップに変え……だが受け取らずに去っていく。数分後、別の車が同額の現金を回収して、カイザー系の闇銀行へ向かう。……予測ですが、9割9分9厘、やってますね」
「ということは、闇銀行とこのカジノの帳簿を照合すれば……!」
「その通り…ですが、向こうも馬鹿ではない。証拠は奥深くに隠されているでしょう……なので」
"……その帳簿なら、私たちが持っているよ"
「は?」
先生の言葉に、探索者は思わず素の声を漏らした。
「ちょっと先生!その事は秘密にするんじゃなかったの!?」
"そのつもりだったんだけどね。支配人がココまで話してくれて情報も提供してくれたってことは…"
"君もカイザーを敵視してるんでしょ?"
"だったら協力したほうが良い"
「……流石、連邦捜査から来てるだけはありますね」
「ええそうです、私はアイツラが嫌いです大嫌いです!ウチのカジノを良いように使って甘い汁啜りやがって…反吐が出ます」
「なので、ぶっ潰すために協力要請しようと思ったのですが…この調子だと良い返事が期待できそうですね」
「うへぇ〜見かけによらず意外と物騒な考えを持ってるんだねぇ」
「闇銀行を覆面被って襲う人たちには言われたくないですね」
「な…何で私たちが銀行を襲ったこと知ってるのよ!?」
「おや、やはりそうでしたか」
「なっ…」
(そこで突っかかってくれるのはありがたい、自然な形で撒き餌が出来た。あとは針に引っかかるのを待つだけだな)
"私の生徒を虐めるのは辞めて欲しいな"
「気分を悪くされたなら申し訳ございません、ですがそれを言いふらしたりなどはしないと約束しましょう」
「さて、話が脱線しましたが、協力内容を確認してもらっても?」
"分かった"
「まず両者の目的はカイザーの不正を暴く事…それで間違いないですね?」
「ん、異論無し」
「そして、カイザーの情報についてですがここは隠し事なしにしましょう、私はこのカジノの帳簿と知っている限りの情報を、そちらは闇銀行の帳簿とすり合わせて確認します」
「そちらが嘘を付く可能性はあるんじゃないですか〜?」
「そこは信用してもらうしかないですね、まぁでも、ココまで話してカイザー側につくメリットが無いので」
「とりあえずそっち側の情報を聞いてから協力するか考えたいねぇ〜」
(…やっぱそう出るよな
ここは小出しにして反感を買われるよりも、一気に出して信用を取りに行ったほうが得策…かな)
「良いでしょう、私が知っている限りの情報ですと……まずカイザーが狙っているのは金でなくアビドスそのものです」
「??」
「私独自に調べたアビドスが衰退を始めた過去20年の取引データによると、利子の回収の時にアビドスの土地がカイザーへと渡ったという記録が15年ほど続いています」
「つまり、向こうの狙いは…」
「……恐らく前の生徒会の子達も借金を返す為に仕方がなく売ったんでしょうが……
最初は砂漠化が進んで住めない場所とかを売ったんでしょうけどそんなの大した金にならず売ってまた……を繰り返すうちに今の事態になってしまったんでしょう」
「それ、なんかおかしくない?最初からどうしようもないっていうか……」
「あ~……アビドスにお金を貸したのはカイザーコーポレーションだよね?」
「あっ!」
「それって!?」
「カイザーローンが学校の手に負えないくらいのお金を貸して利子だけでも払ってもらうために土地を売るように仕向ける……そういう手口なんだと思うよ~」
「……ここの土地を売れば今月は大丈夫ですよとか言ったんでしょうね…よくカスの闇金がやる手法です」
「……でも、ただでさえ苦しんでるアビドスにどうしてこんな酷いことをするの……?」
「セリカちゃん……」
(酷いこと…ねぇ…)
確かにカイザーがやっている事はほぼ黒のグレーだ
だがその実態は普通の金融企業そのもの
金を貸し、借金を回収しようとしているだけだ
その金が土地になったり、物になったりはよくある事
そこに感情が入り込む余地はない
そういう契約なのだから
(ま、こんな事先生の前で言ったらぶん殴られるんだろうなぁ)
「……」
「……」
「苦しんでる人達って切羽詰まりやすくなっちゃうからね~」
「……え?」
「…それに付け加えるのなら、追い詰められた人間は目の前の
「……」
「"儲かればそれでいい"自己中心的な想いで利益のためなら平気で噓をついたり、武力による実力行使も辞さない……良くも悪くも企業っていうのはそういう物です」勿論全ての企業がそういう訳じゃないですけどね
「…そう考えると……セリカ様はとても
(それに比べて…小鳥遊ホシノ?はまだ疑いの目を受けてやがる)
(小鳥遊ホシノ…私がブルーアーカイブの作品内で知っている数少ない人物
二次創作では天ぷらにされたりうごあつ?とかいうやつでネタにされがちだが、実力と過去はA5和牛の5kgサーロインステーキ並みに重いらしい
2年ほど前、ユメとかいう先輩を自分の発言で亡くし、自分の心に鍵をかけ、ほんわかとした口癖とおじさんという自称をつけたんだとか……ちなみにその遺品はグッズになっているらしい…
まぁ、そんな彼女には先生含め私達大人は汚いものに映っているに違いない)
(……セリカはホシノと対照的に穢れを知らない新雪のように綺麗な目をしている…これはこれでなかなか厄介というべきか…)
「……閑話休題と致しましょう、それで共同戦線は結べそうですか?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「そこまで信用が無いのなら、こちらを」
"これは……契約書?"
探索者は懐から1枚の折り畳んだ紙を取り出し、先生の前へと提出する。
それは契約書であり、要約した内容としては
1.カイザーPMC理事を潰すために今回共闘すること
2.情報提供は嘘や隠し事無しに報告すること
3.もしこの契約中にどちらかがカイザー、もしくはカイザーが指揮する部隊から攻撃を受けた際には、共闘する義務が生じる
4.もしもどちらか一方がカイザーに誘拐されてしまった場合、救出する義務が発生する
5.この契約はカイザーが不正を認め、双方が納得する形になった場合を契約満期とする
裏面には第6条:カイザーの不正に伴い一方が失業した際には、もう一方はその職場への就職が認められるものとする。
という文面が書かれていた
──────────────────────────
「まぁ、共闘するんだったら一応文面に残しておいたほうが双方安心ですしね」よろしければ先生のサインをペンはこれ使ってください
私は彼女が出してきた契約書をよく確認し、下部までしっかりと内容を理解する
隣や後ろを見るとアビドスの皆も同じように穴が空くくらいに契約を見つめていた
コロン……
"…!?"
バッ!
「ん、先生?どうかした?」
"いや…なんでもない"
すると脳にサイコロが転がるような音が頭の中を響き渡る。
反射的に後ろを振り向くが誰も何もしておらずただ私が守るべき生徒がいるだけであった。
…幻聴か?
いや…あの音は確実に私の後ろで鳴っていた
既視感のある嫌な感覚が、背筋を伝う
これは……そうだ。学生時代に経験した今日絶対に持ってこなくてはならない持ち物が見つからず焦ってカバンを漁ったあの時の感覚と一緒だ
……何かを見落としている?
"申し訳ない、もう一度よく契約書を見てもいいかな"
「えっ?まぁいいですけど…」
今度は一言一句見逃しのないように指でなぞりながら契約書に目を通していく
何も変わらない特に気になることのないような一度読んだ契約書…なのに何故か得も言えぬような気持ち悪さが私の心に鎮座している
「なにか…気になることでも?」
"……いや…"
「……」
"…皆が良ければ契約しようと思うけど…どう?"
そう私が皆に聞くと、隣に座っているセリカが耳に手を立て小さな声で質問をしてくれる。
「…先生的にはこの人は信頼出来るの?」
"…正直、怪しい所はあるけど……こんな契約書を用意しているってことは、信頼は出来なくとも信用できる人だよ"
「でも怪しさ満点」
「…私は契約してもいいと思います」
「アヤネちゃん!?」
「現状この人がもしカイザーと手を組んでいたのであれば、この人の狙いはスパイの役割です。ですが、カイザーが銀行強盗をした件について知っているのであればすぐに動くはず……それなのに動いていないということは…」
「カイザーも
「でも、それって泳がされている可能性もあるんじゃ?」
「…否定は出来ませんが、少なくとも彼女は双方に義務の生じる契約書を持ってきています。何より
"彼自身が武力に自身が無く、仲間に引き入れようとしている。あわよくば情報も欲しい……って状態かな?"
「…と私は考えています」
「私も同意見です〜♣」
「ん、納得」
「分かったような分からないような…」
「おじさん考えることが多くて頭痛くなってきたよぉ」
「さて、そろそろ決断出来ましたか?」
"……支配人さん、少し聞きたいのだけれど
貴方は
探索者の背中を、冷たい汗がつうっと伝った。
(あーやっぱりこの人、この世界の主人公だ)