純白の輝きが、荒野の暗闇を爆発的に塗り替えた。
橙色の破壊光線と、少女の放つ希望の閃光が真正面から激突する。
地鳴りのような轟音。
大気が裂け、空間そのものが悲鳴を上げて歪む。
凄まじい圧力の中で、アリスの足元が砕け散る。
それでも
彼女は、一歩も退かなかった。
橙色の破滅と、純白の光。
二つの超出力が真正面から激突した瞬間、世界そのものが軋むような轟音が荒野を揺らす。
大気が蒸発する。
大地が捲れ上がる。
視界を埋め尽くす閃光が、昼も夜も関係なく世界を白へ塗り潰していく。
それでも。
どちらの光も、決して退かなかった。
押し込めない。
押し負けない。
喰らい合う二つの奔流は、互いを完全に削り切り――
直後
爆散
それは、どちらか一方の勝利ではない。
互いが互いを真正面から撃ち消した、完全なる拮抗だった。
凄まじい衝撃波が全方位へ炸裂し、ネルとトキですら踏み留まるので精一杯になる。
だが。
その爆煙の向こう側で。
アリスだけは、止まらなかった。
「――皆さん!!」
光の粒子を纏ったまま、アリスは即座に振り返る。
その瞳には、先程までの迷いも、怯えも存在しない。
あるのは、自分で選び取った未来へ進むという、確かな意志だけ。
「アリスが、最大出力までチャージした“光の剣”を、ギガンテスのコアへ直接叩き込みます!!」
荒野へ、力強い声が響き渡る。
「だから――それまでの時間を、稼いでください!!」
その瞬間。
アリスの周囲へ、膨大な光子粒子が渦を巻き始めた。
髪は白く変容し、背中には巨大な羽根のように粒子が渦巻く。
冷たい機械音声が、静かに戦場へ響いた。
『――Protocol : Atra-Hasis 起動』
『エネルギー変換シーケンス、開始』
『“王女”保護プロセスを最優先へ設定』
『全出力リミッター、段階解除』
光が一点へ収束していく。
まるで、荒野のど真ん中に一つの恒星が誕生する直前のような――絶対的な輝きが
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ギガンテス内部
脈動する橙色の生体光が、警告表示で赤く塗り潰された操縦席を不気味に照らし出していた。
モニターの向こうでは、少女を中心に莫大な光子エネルギーが収束していく。
その異常な出力値は、すでに解析不能な領域へ達していた。
堂々と宣言された、敵側の決戦プラン。
探索者は数秒の沈黙ののち、やがて呆れたように鼻で笑った。
「……随分とご丁寧なことだ。作戦を、あえて大声で宣告してくるとはな」
『どうします?』
隣に浮かぶナビゲーションAI・リホが、淡々と戦況を分析する。
『現在のギガンテスの推力であれば、戦域離脱は容易です。あるいは、チャージ完了前に最大出力の砲撃を叩き込み、対象――アリスを排除することも可能ですよ』
感情のない、純粋な合理性だけで構築された提案。
だが、探索者は最初から答えなど決まっていたかのように、背もたれへ深く身体を沈ませる
「……リホ」
『はい』
「お前、分かってて聞いてるだろ」
数秒の沈黙。
やがて、リホの電子音が僅かに揺れる。それは、システムが獲得した「意思」のようなものだった。
『……えぇ、貴方は、そういう
探索者は、モニター越しに見据える。
そこにはもう、“魔王”などいない。
大切なものを守るため、自ら運命を塗り替えた――一人の少女がいる。
「……まるで、どっかの誰かさんを見てるみたいだな」
探索者は、収束していく白光を眺めながら、小さく笑った。
その声には、少しの皮肉が込められているが、ただ、遠い過去を思い返すような、静かな実感が滲んでいる。
リホは数秒だけ沈黙し、やがて微かに電子音を揺らした。
『……そうですね』
『
『定められた役割ではなく、“自分の答え”を選ぼうとしている所も』
モニターの中。
アリスを守るように立ち尽くす先生と、彼女を信じる生徒たちの姿が映し出されている。
『……そして』
ほんの僅か。無機質なはずの声音に、懐かしさにも似た柔らかな熱が滲んだ。
『――最高の教師が、傍にいる所も』
探索者は、一瞬だけ目を細める。
その言葉が指している“誰か”を、他でもない彼自身が誰よりも理解しているからだ。
「……皮肉ったのは悪かったから、辞めてくれ、あんな化け物じゃねぇよ」
ぶっきらぼうに吐き捨てながらも、その口元には確かに小さな笑みが浮かんでいた。
コクピットの外では、白き光がなおも神々しいまでに膨れ上がっていく。
世界を滅ぼすためではない。誰かと笑い合う未来へ進むための、少女の光。
探索者は、その眩しさを静かに見つめながら、最期の決断を下した。
「リホ、セーフティを、もう一段階下げろ」
『……正気ですか?』
リホの声が、珍しく警告の響きを帯びる。
『これ以上の致命制御解除は、ギガンテス側の出力限界を超過します。戦場全域が、ヘイローの保護限界を完全に逸脱しますが……』
「分かってる」
探索者は、あまりにも淡々と言い切った。
その視線は、ただ一点。命を燃やしながら、それでも迷わず前へ進もうとしている一人の少女だけを射抜いている。
「……一人の少女が、あれだけの覚悟を示したんだ」
橙色の生体光が、無機質なコクピットの中で、彼の横顔を不気味に、かつ神々しく照らし出す。
「こっちだけ“手加減”なんて顔するのは――アイツの決意に対する最大級の侮辱だろ」
『……』
リホは数秒、沈黙した。
それがどれほど狂気的な行為なのか、彼女は理解していた。
出力を上げれば上げるほど、ギガンテスは単なる“試練”から“虐殺装置”へと変貌する。
一歩踏み外せば、誰かが――本当に、取り返しのつかない死を迎える。
だが、それでも探索者は止まらない。
“命を懸けて立ち向かってきた相手へ、全力で応える”という、彼なりの不器用で、しかし最高に純粋な敬意だった。
『……はぁ。まったく、バカで脳を焼くところは昔から変わりませんね』
リホの声音には、怒りではなく、諦念にも似た深い愛着があった。
『致命制御、第二段階解除』
『生存保証領域――消失します』
瞬間。
ギガンテス全身の橙色発光部が、荒野を飲み込む恒星の核熱じみた眩さで、狂ったように脈動を始めた。
「……なぁ」
『どうしました』
「あの光の粒子って何か予想立つか?」
『恐らくですが……どっかのバカが垂らしたコギトの影響で作られたEGOモドキといった所ですかね』
「…そんな大量に使用してねぇぞ、EGOやねじれに変質しないよに、限界まで希釈してある」
「都市の人間でもない奴が、あんな雑な条件でEGO発現なんざ――」
『事実としてなってるでしょう』
『あなたが作り上げた全ての絶望が、希望が、極めて限定的な“自我の完成”を引き起こした』
モニターの向こうでは、白光を纏った少女が、世界の終わりみたいな戦場のど真ん中で、それでも確かに前を向いて立っていた。
「……まだ助かるかねぇ」
『“暖かな声”を聞いていないのであれば、まだワンチャンスはありますね』
「頼む……アトラ・ハシース本来の力であってくれよ……マジで…」
探索者は、小さく鼻で笑う
「…ま…EGOだろうが、モドキだろうが、今はどうでもいいさ」
橙色の光が、コクピットを灼くように脈動する。警告音は、とうに限界域へ到達していた。
「最後に負荷をかけて――」
ギガンテスの全身が、恒星じみた閃光を撒き散らす。
探索者は、獰猛に口角を吊り上げた。
「――華々しく散りますか!」
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そこから先はファンネルの攻撃も、荒野を焼いたミサイルの飽和攻撃も質量の蹂躙である回転攻撃ですら
嘘のように唐突に止んだ。だがそこに慈悲がある訳がない。
先程まで断続的に高出力レーザーを放っていたギガンテス中枢部――その橙色のコアがアリスの光の剣と酷似した輝きを放ちながら、恒星じみた脈動を始めていた
純白
そして橙
荒野の中央で、二つの“恒星”が互いを滅ぼさんとするかのように、限界まで光を膨れ上がらせていく
誰もが理解していた。
次の衝突は、もはや小細工も戦術も存在しない。
互いの存在そのものを叩きつけ合う――純粋な“意志”の激突になるのだと。
「来いよ。魔王。叩き潰してやる」
不意に
周囲を旋回していたドローンの一機から、探索者の声が流れた
挑発的で、獰猛で。 まるで、相手の覚悟そのものを試すような声音。
だが。
アリスは、もう揺るがない。
「いいえ!」
純白の光を纏った少女は、真正面からその声を見据える。
「アリスは魔王でも勇者でもありません!!」
“世界を滅ぼす存在”
“世界を救う存在”
そのどちらも、誰かに押し付けられた役割に過ぎない。
だから少女は、今度こそ、自分自身の意志で叫ぶ。
「ただのアリスです!」
その答えを聞いた瞬間
探索者の口角が獰猛に吊り上がった
「──そうか」
「そうか!!」
荒野を揺らす轟音の中。 それでも、その笑い声だけは妙に楽しげに響いた。
「それは済まなかったなァ!!」
そして探索者は、まるで対等な挑戦者へ呼びかけるように――
初めて “魔王”ではなく、一人の少女として、彼女をその名で呼びかけた。
「なら……」
最大限の敬意を込めるように、一拍置いて
「出し切ろうか、アリス」
「──!」
アリスの表情に驚きの反応が出る。だが、それもすぐに、探索者の意図を理解したかのように変化する
「ええ!」
こちらも最大限の敬意を込めるように、同じく一拍おいて
「出し切りましょう!!探索者!!」
「光よ!!」 「……撃て」
2つの恒星がぶつかり合った。