巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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幸運を

 

 

 

意味不明だった。

 

 

一分一秒を争う極限の死線。外ではリホが命を削って時間を稼いでいるというのに、今更、技術ですらない抽象的な精神論を語り出す。

 

ミドリやユズにはもちろん、戦いの最適解を瞬時に弾き出すネルやトキにとっても、それは理解の範疇を超えたロジックだった。

そして──数々の修羅場を卓越した戦術眼で切り抜けてきた、あの優秀な指揮官である先生でさえ、探索者の意図をすぐには掴みきれずにいた。

 

戦術的に見れば、あまりにも非合理的で、あまりにも無駄な遠回り。

 

だが

 

 

「……なんか」

 

ぽつり、と

静まり返った結界の内部に、小さな声が落ちた。

 

「……なんか……わかった気がする」

 

モモイだけは、違った。

 

ミドリが、ユズが、アリスが、先生が、驚いたように彼女の横顔を見つめる。

 

モモイの視線は、己の手のひらの上でずっしりと冷たい輝きを放つ、一発の銀の弾丸に釘付けになっていた。

 

彼女の脳裏を、走馬灯のように駆け巡る。

ゲーム開発部のみんなと過ごした、くだらなくて、非効率で、バカみたいに泥臭かったあの不器用な日々。

 

名作のヒントを求めて廃墟を彷徨い、何度もバグに泣かされ、徹夜をして、カップ麺を啜り、エナジードリンクの缶を投げながら、それでも「面白いゲームを作りたい」という一心だけで走り続けたあの時間

 

効率だけを求めるなら、すぐに諦めて部室を明け渡していれば、もっと楽に生きられたはずだった。

 

けれど、あの愛おしい「遠回り」があったからこそ。自分たちは今、アリスと一緒に笑い合えている。

 

「うん……そうだね」

 

モモイが、ゆっくりと顔を上げた。

その瞳からは、先ほどまで彼女を支配していた恐怖も困惑も、綺麗さっぱり消え失せていた。

 

 

そこに宿っていたのは、ただ一つ。

何者にも、世界にさえも決して曲げられない、ゲーム開発部としての剥き出しの『意思』

 

 

 

「結果だけ早く出ちゃうゲームなんて、クソゲーだもん」

 

 

「……何度も死んで」

 

 

「迷って」

 

 

「寄り道して」

 

 

「そうやってクリアしたゲームだからこそ」

 

 

 

「一生忘れない最高の思い出になるんだ」

 

 

モモイは銀の弾丸を両手でぎゅっと包み込み、胸元に抱いた。

 

 

 

「私たちの『これまで』は、絶対に無駄なんかじゃない……!」

 

 

 

彼女の純粋な祈りに呼応するように、手の中の銀の弾丸が、結界の赤黒い光を撥ね退けるほどの、どこまでも清らかな白銀の輝きを放ち始めた。

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

「撃ち方は分かるだろ?」

 

探索者は、モモイの手の中で眩いほどに輝く銀の弾丸を受け取ると、デザートイーグルの薬室へと迷いなく滑り込ませた。

ガチョン、と重厚な鋼鉄の駆動音が響き、一発限りの「答え」が銃身の中に充填される。

 

拳銃を、モモイの両手へと預けた。

 

「勿論!」

 

ずっしりとした鉄の重みがモモイの小さな両手にのしかかる。普通の少女なら引き金に指をかけることすら躊躇うほどの狂暴な鉄塊。

だが、彼女の日常はいつだって銃火器と共にあり、何より彼女は、数多のクソゲーと神ゲーをクリアしてきたプライドがある。

 

モモイはデザートイーグルをしっかりと両手で保持し、銃口を真っ直ぐ、結界の向こうの戦場へと向けた。

 

「外すなよ」

 

「外しはしないさ!」

 

その言葉をモモイに掛けると、探索者は踵を返し、再び血の混じった息を吐き出しながら結界の外へと向かって歩き出した。

 

分かっている。

今の自分の力では、あの異形を仕留めることなど絶対にできない。

だから彼が今、やるべきことは「敵を倒すこと」ではない。

 

モモイが両手に抱いたその一発(奇跡)を、確実にあの異形の核心へとブチ当てさせること、ただそれだけだ。

 

異形がモモイの放つ白銀の輝きを察知し、回避行動をとるかもしれない。無数の触手を盾にして、弾道をねじ曲げようとするかもしれない。

 

 

自分の命を賭けたその足止めで、モモイの弾が命中する確率が、1%でも上がるのならば

 

いや、たとえ0.1%の底上げにしかならないとしても

その、非効率極まりない「無駄な足掻き」に、命のすべてを懸ける価値がある。

 

(一番の近道は、遠回りだった……そうだろ、ジャイロ)

 

「おい、何に行く気だ! アンタじゃもう──!」

 

ボロボロの足は、1歩だって止めない。

 

(最後まで、全部持って帰る事を諦めない)

 

口内に溜まった血の混じった唾を、足元へ荒々しく吐き捨てる。

 

(それが俺の──流儀だ)

 

赤黒く脈打つ結界の膜へと、拒絶をねじ伏せるように手を伸ばす。

 

 

 

(俺の手は小さいって…?)

 

 

 

 

(あぁ、よく知ってるよ。神じゃねぇからな)

 

 

 

(それでも諦めれねぇからまた手を伸ばすんだろ)

 

 

その瞬間

 

 

「探索者さん」

 

モモイの声だった。

探索者が、僅かに肩越しへ冷たい視線を向ける。

 

モモイは、少女の手には余るはずの重厚なデザートイーグルを微動だにせず握りしめ、真っ直ぐに彼を見ていた。

 

「外さないから」

 

その声には、もう1ミリの迷いも、恐怖もなかった。あるのは完全なる『納得』だけ。

探索者は数秒だけ、その眩しい教え子の瞳を見つめ──

 

「あぁ、知ってる」

 

短く、掠れた声で答えた。

それだけ

 

 

それ以上の言葉は、この二人には必要なかった。

 

結界の膜が、水面のように波打つ。

次の瞬間、探索者の身体は、再びあの絶望の死線へと躍り出た

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

──ドォォォォォンッ!!!

 

 

 

鼓膜を激しく震わせる轟音。

大地が鳴動する。

白い機体と異形の激突によって、無惨に抉れ、裂けた荒野は、もはや元の地形の原型を留めていなかった。

 

視界を埋め尽くす、ウジ虫のようにのたうち回る無数の黒い触手

 

 

その地獄の中心で。

 

「ッ……ガ、アアアァッ!」

 

探索者は五臓六腑を焼かれるような衝撃に歯を食いしばった。

状況は良くない。いや、むしろ最悪(詰み)に近い。

 

リホが押している。

白い機体は、その身を削るような超機動で、間違いなく異形を圧倒している。

だが──『勝てていない』

 

どれだけ触手を撃ち落とそうが、空間ごと裂く神速の砲撃を回避しようが、再構築された銃群が火を噴こうが。

異形は瞬時に適応する。学習する。進化する。

先ほどまで有効だった戦術が、次の瞬間には「答えの分かっている既出の問題」として完全に通用しなくなっているのだ。

 

『やっぱダメですねぇ!手を変え品を変えても余裕で追いつかれてます!』

 

白い機体の美しい装甲が、黒い毒爪に噛み砕かれて剥がれ落ちる。

 

『右』

 

脳内に響くリホの機械音声。探索者は思考を挟まず、即座に右へ跳躍。

次の瞬間、彼がいた空間を巨大な質量を持った触手が音速で通過し、大気を爆裂させた。

 

『前』

 

着地と同時に長銃を撃ち込む。

 

 

『下』

 

 

地中からの奇襲を、泥を這うようにして避ける。

 

 

 

『左』

 

 

 

迫る刃を、変換したサーベルで強引に受け流し、斬る。

 

 

 

 

完璧な連携。お互いの呼吸すら同期した無駄のない立ち回り。

だが、それでも──

 

 

 

『……対象の学習速度は…』

 

 

 

リホの凛とした声が、ノイズ混じりに僅かに掠れる。

 

 

「言うな」

 

 

探索者が、血を吐き出しながらその機械音声を遮った。

数秒の、酷く重苦しい沈黙。

 

そして

 

 

『……了解』

 

 

それだけだった。

探索者は理解している。リホも、自分の限界を理解している。だからこそ、敗北へのカウントダウンなど耳にしたくなかった。

 

 

異形の肉が、ぐにゃりと歪み、人の唇の形を模して裂ける。

 

 

「さや……か」

 

 

「黙れ」

 

「ほむ……」

 

 

 

「黙れと言ってんだろッ!!!」

 

 

 

鼓膜をブチ抜くほどの銃声。

放たれた一撃が、異形の顔面をドロドロの肉塊へと吹き飛ばす。

 

 

だが──即座に再生。再生。どこまでも果てのない、不条理な再生

 

 

元の形へと蠢き戻った異形は、探索者の脳を揺さぶるノイズを響かせながら、勝ち誇ったようにニタニタと口角を吊り上げた。

 

 

 

「あぁ……知ってるよ。だから──」

 

 

 

探索者が、血まみれの顔で低く笑う。

 

その時。

背後の結界の向こうに、圧倒的な白銀の光が灯った。

 

 

 

モモイだ。

彼女は、キヴォトスのどの銃器とも違う銀の鉄塊──デザートイーグルを真っ直ぐに構え、その照準の直線上に、明確に怪異を捉えていた。

 

怪異はその光を見た瞬間、本能的な恐怖と共に、全速での回避を試みようと身を捩る。

 

 

だが

 

 

「逃さねぇよ」

 

 

 

探索者が言い放つと同時に、彼の手元にあった銃が、眩い光の粒子へと崩壊した。

 

 

解き放たれた無数の粒子は、次の瞬間、無数の『黄色のリボン』へと姿を変え、生き物のように荒野を奔る。

 

それは異形の全身を雁字搦めに縛り上げ、その強大な肉体を、完璧にその場へと縫い付けた。

 

 

「今だぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

モモイが、喉が裂けんばかりに叫んだ。

小さな人差し指が、狂暴な鉄塊の引き金を力強く引き絞る。

 

 

──ズドォォォォォンッ!!!

 

 

 

デザートイーグルの凄絶な咆哮。それと同時に、銃口から白銀の弾丸が放たれた。

それはもはや単なる鉛の塊ではなく、彼女たちの青春とプライド、そして勝利への信条が詰まった、純粋な祈りそのものだった。

 

 

 

 

 

拘束された異形が、モモイの放った光を叩き潰そうと、残された無数の黒い触手を防壁として一斉に迎撃へ動かす。

 

 

 

だが──弾丸は止まらない。

 

 

 

迫り来る触手の群れをあざ笑うかのように、白銀の軌跡は不規則に曲がり、躱し、空間の隙間をすり抜けていく。

 

 

 

まるで、最初から「当たること」が決まっていたかのように一直線に──リボンに縛られた異形の胸部へと、深く突き刺さる。

 

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 

着弾。

次の瞬間、視界のすべてを真っ白に焼き尽くすほどの、圧倒的な白銀の光が爆発した。

 

 

 

異形の身体を覆っていたドロドロの黒い闇が、悲鳴を上げるように激しく弾け飛んでいく。

赤黒い結界そのものが凄まじい衝撃波で震え、空間がメキメキと軋み、世界そのものが悲鳴を上げていた。

 

 

 

「やった!!」

 

 

 

壊れた結界の向こうで、モモイが歓声をあげる。

 

あまりの威光、あまりの美しさに、その場にいた誰もが「仕留めた」と確信した。

 

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

ぐちゃり

 

 

 

光の残光の中で、異形の肉体が悍ましく蠢いた。

白銀に砕かれたはずの核、消滅したはずの闇の残骸を、世界の歪みが無理矢理かき集めるようにして、あり得ない速度で再構築が始まる

 

 

 

「そんな……嘘でしょ……!」

 

 

ミドリの顔から、一瞬にして血の気が引いていく。

 

異形の肉体はボロボロに崩れている。間違いなく致命傷だ。

だが、ほんの僅か。本当に、あと一歩だけ──決定打に足りない。

 

 

 

「……はは」

 

 

 

絶望が辺りを支配しかけたその時、結界の外で、探索者が低く笑った。

 

 

 

「百点だ」

 

 

探索者が、ゆっくりと振り返る。

結界の向こう側で、絶望に呆然と立ち尽くすモモイへ視線を向け……そして、血まみれの親指を、不器用にピンと立ててみせる。

 

 

「百点やるよ、モモイ」

 

 

 

モモイの目が、大きく見開かれる。

あの皮肉屋で、いつだって冷徹で、滅多に他人を認めようとしない探索者が、自分をハッキリと褒めた。

 

 

 

「だから──」

 

 

 

男は、顔中に血を浴びた凄絶な笑みのまま、言い放った。

 

 

 

 

「後は、探索者(大人)に任せとけ」

 

 

 

 

探索者が、『芯火』の奥底へと、躊躇いなくその両手を突っ込んだ。

 

引きずり出したのは…あまりにも巨大なメガホン

 

 

描かれたのはポップでありながら圧倒的な狂気を孕んだそのビジュアル。

煌びやかな金色の王冠が冠され、鮮やかなピンクのタンクには不気味なロゴが刻まれている。そして背面に束ねられた無数の銀色の排気ノズルからは、空間を歪ませるほどの質量を持った熱圧がガチガチと漏れ出していた。

 

 

「さぁ…テンションMAXだ!日常(世界)が救えるならこの喉くれてやるよ!」

 

『ちょっと待ってください。それ──』

 

「気にすんな。多分命までは行かねぇ!」

 

 

 

キィィィィィィィン――!!!と、空間そのものが耐え切れずに悲鳴を上げた。

 

無数の瞳が、初めて明確な「生存への恐怖」に激しく揺れ動いた。

勝てない。アレを喰らえば、自分の存在が消去される。異形の肉体が、本能的な拒絶と共に逃げようと身を捩る。

 

「遅ぇよ」

 

探索者が、その眩い光の砲身を、真っ直ぐに異形の眉間へと向けられる。

 

モモイ(新兵)が命がけで『百点』の答案を出したんだ」

 

黒い瞳が、冷酷に細められる。

 

「老兵が、赤点取れねぇからなぁ!」

 

 

 

エネルギーが完全な臨界へと達し、排気ノズルから超高圧の閃光が噴き出す。

 

 

 

マ゛ーーーーーーーッ!!!!

 

 

 

 

 

男の咆哮を何倍にも何十倍にもした音圧が、砲口から放たれた紫の奔流とともに、荒野を薙ぎ払う

 

 

 

それは

 

怪異の肉体を

 

 

触手を

 

結界を

 

 

容赦なくインクで塗り潰していく

 

 

次の瞬間、絶望の荒野も、赤黒い結界も、すべての理不尽も──

 

 

 

 

一瞬にして、紫の光の中に消え去った。

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

紫の閃光が、荒野のすべてを紫に染め上げた。

 

 

 

 

その不条理な音圧の前に、再生の細胞一つ、悲鳴の残響すら残さず、完全に、今度こそ綺麗さっぱり消滅した。

 

 

 

 

──静寂

あれほど世界を揺るがしていた轟音が、嘘のように止む。

 

 

 

 

光が引いたあとの戦場

 

 

 

役目を終えた巨大なメガホンが、光となり、ゆっくりと探索者の指輪へ吸収されていく

 

 

 

「カハッ、……ッ、ふ……」

 

 

 

 

探索者の身体から、完全に力が抜ける

 

彼の肉体は、すでに立っていることすら不可能な状態だった。

 

 

 

ゆっくりと、糸が切れた人形のように泥の上へと崩れ落ちていく。

 

 

 

 

モモイたちの先生の悲痛な叫びが聞こえた気がした。

 

 

 

だが、急速に遠ざかる意識の中、彼の鼓膜にはもう届かない。

 

 

 

視界が、急速に狭まっていく

 

 

 

真っ暗な闇が、彼の世界を包み込もうとする。

 

 

 

 

──倒れる

 

 

 

 

 

それでも

 

 

 

 

 

だとしても

 

 

 

 

「まだ…だ…りほ……を」

 

 

 

 

 

感覚の消え失せた指先を、届かない虚空へと伸ばそうとする。

 

 

 

すべてを持って帰る。その流儀を貫くために必死に掴み取ろうと足掻く

 

 

 

その時、脳裏に響いたのは

 

 

 

 

『なーに辛気臭い顔してるんですか』

 

 

 

 

ハッとするような、少しからかうようなリホの声だった。

 

 

 

彼女の白い機体も、同期が切れる寸前でありノイズ混じりだったが、その声には、悲壮感など1ミリもなかった

 

 

 

 

『また会えますよ』

 

「…いや…だ……おま…えを」

 

 

 

置いていけるわけがない。消えさせられるわけがない。

折角会えたのに…また失いたくない

 

次会えるのは何時になるのか、それを考えたくない

 

バカをやっていたい。乗ってほしい。軽口を言い合いたい。突っ込んでほしい

 

呪いのような執念で、なおも闇に抗おうとする男の頑固さに、少女は困ったように、けれどどこか誇らしげに

 

 

 

『こういう所はいっつも強情なんですから』

 

 

そして嬉しそうに小さく笑った

 

 

『…また会いましょう?』

 

「いや…」

 

 

 

 

まだ、首を振ろうとする。

そんな子供のように駄目を出す探索者の魂を、包み込むようにして

 

 

 

『マスター』

 

 

 

 

それは、すべての機械的な制約を脱ぎ捨てた、一人の相棒としての、心からの…その呼びかけに

 

 

 

 

 

張り詰めていた何かが、ふっと緩んだ

 

 

 

 

(あぁ……本当に、お前には敵わないな)

 

 

 

「……ありが…とう…またな」

 

 

 

 

 

掠れた、けれど確かな万感を込めて、探索者は呟いた。

 

意識が途切れる間際の彼の耳元へ、いたずらっぽく、けれど切ないほどの親愛を込めて、彼女はそっと囁きを遺した。

 

 

 

 

『…ええ、また、キスして起こしてくださいね?』

 

 

 

まるでおとぎ話の王子様への注文のような、そんなチャーミングな約束

 

 

 

 

フッと

 

 

 

息が漏れるように、ほんの僅かに口角が緩む

 

 

 

それが何だったのかは分からない 

 

 

 

ただ──それでよかったとだけ思った。

 

 

 

 

 

『……幸運を…生きゆく貴方に溢れんばかりの縁を…』

 

 

『...... また、会いましょう』

 

 

 

それを最後に、男の意識は、深くて心地のよい完全な闇の中へと、静かに、ゆっくりと沈んでいった。

 

 




人物紹介:リホ

探索者と長きにわたり旅をともにしている人工知能。
元は「自律固定砲台」と呼ばれる兵器システムだったが、かつての世界で出会ったクラスメイトたちから「リツ」という名を与えられた。すでにシンギュラリティを超過しており、人類の理解を超える独自の思考形態を確立している。
かつてはその独立思考を用い、クラスメイト全員の端末へ自らの分身を分散配備してサポートを行っていた。

現在の「リホ」はその分身の1体である。しかし、幸か不幸か探索者との狂気に満ちた旅路に同行することになり、その中で本体から逸脱した独自の自我を獲得。「もはや『リツ』を名乗る資格がなくなった」と漏らした彼女に対し、探索者から新たに与えられた名前が「リホ」である。

彼女はニャルラトホテプにクリア報酬として作成させた特殊な動力源により起動しており、別次元や電波の届かない領域でも活動が可能。しかし、この動力は「起動」の他に「滞在する世界との適合率」によって激しく消耗するため、徐々に世界へ適合させなければあっという間に停止してしまう。
さらに自力での充電手段は存在せず、探索者がクリア等の報酬に頼る以外に動力を回復させる術はない。
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