巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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神の話には命を懸けて話半分で付き合え

 

 

 

 

 

 

"ところで支配人さん、少し聞きたいのだけれど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方は彼女たち(アビドス)に危害を加えない?"

 

 

 

 

 

(…コイツマジかよぶっ込んできやがった)

 

 

 

 

 

 

 

探索者の脳内で、警告音が鳴り響く

 

 

本来であれば、相手を『懐疑的に見ている』と宣告するに等しい、極めて無礼な問いだ。

 

 

だが、支配人の皮を被った男が感じたのは、苛立ちではない

 

 

 

 

 

 

常人では分からないが経験だけは積み上げている探索者には分かる

 

 

 

 

この圧のかけ方は

 

 

 

 

『この答えをファンブった(間違えた)らこの契約どころか命がないぞ』ということを

 

 

 

少女の可憐な笑みを顔面に固定したまま、探索者は先生の瞳の奥をじっと見つめ返す。

それは、嘘しかつかない男が、一生に一度あるかないかの「真実」を差し出す瞬間だった。

 

 

「ない、百ありえない」

 

 

 

その声に、揺らぎはなかった。

 

 

 

 

探索者の真っ直ぐな視線は、先生の疑念を真っ向から受け止め、沈黙のうちにその誠実さを証明してみせた。

 

 

 

 

 

 

 

"…皆の意思が最優先だけど…この人は君たちに危害を加えないよ。私が保証する"

 

先生の言葉に、ようやく室内の温度がわずかに上がる。

 

 

「ふぁ〜ま、先生がサインするって言うなら、おじさんはついていくだけなんだけどさぁ」

 

ホシノは椅子の背もたれに体重を預け、けだるげに自分の頭をぼりぼりと掻く

 

 

 

 

その目はどこか遠くを見ているようでいて、しかし、探索者のわずかな呼吸の乱れも見逃さない鋭さを秘めていた

 

 

 

 

 

 

 

「……この契約に賛成の方は手を挙げてください」

 

アヤネの呼びかけに応じ、ゆっくりと、しかし全会一致で5人の手が上がる。

大人たちの固い握手が交わされ、歪な共同戦線がここに結実した。

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「ふいぃ……疲れたぁ……」

 

 

深夜、先生たちを見送り、早めにカジノを閉めた支配人室

 

 

探索者は、少女の姿のままソファに深く沈み込み、黄金色に輝く酒をちびちびと煽っていた。

 

 

 

「まさか先生があんな歴戦の猛者的な圧を掛けてくるなんて…警戒してたのもあるとは思うけど、ビッくらポンだなぁ」

 

「ま、何とか結べて良かった」

 

 

独り言の内容は少女に似つかわしくないほど擦り切れているが、その表情には安堵の色があった。

 

 

しかし、アルコールで回る思考は、すでに次の「最悪のシナリオ」を弾き出し始めている。

 

 

 

(……しっかし、思ってた以上に小鳥遊ホシノの視線が痛かったな。挙手も一番最後……ありゃあ、多分離反するな)

 

 

探索者の脳内メタ分析が、冷酷に事実を並べていく

ホシノの言動、視線、大人への深い不信感

 

 

自分を大切にせず、独りで泥を被ろうとするその在り方は、探索者にとって「一番危なっかしい」タイプに映った。

 

 

(……多分、『この契約も納得いってないけど、私が犠牲になれば済む話でしょ』くらいは思ってやがるな)

 

探索者は空になったグラスを置き、キヴォトスの闇を凝視するように目を細めた。

 

 

 

「本命:黒服(割れ面黒豆)対抗:悪徳会社(カイザー)大穴:第三勢力(誰お前)だな。ま、話の流れ的に(メタ読みすると)黒服のオッズがディープ菊花賞(1.0倍)の大本命、あいつが、あの『重い』神秘を放っておくはずがない」

 

 

 

(そしたらつたら)

 

 

 

「好感度稼ぎと保険としてルート確認と監視カメラは付けといたほうが丸いかな」

 

 

 

ある程度の方針を決め、予備として置いてあるドローンを操作し、アビドス砂漠の冷たく静かな夜へ向かわせる

 

 

その途中の事であった。

 

 

 

ピリリリッ ピリリリッ

 

 

「……嫌な予感しかしねぇ」

 

 

そう呟く探索者の目線の先には『非通知』と書かれ、早く出ろと言わんばかりに震えているスマホ

 

 

「……」

 

 

一つ大きなため息を付き、ドローンを自動操縦モードへと切り替え覚悟を決めて通話ボタンを押し込んだ

 

 

 

「おかけになった電話はデータ通信専用となっており音声の通話は できません」

 

『ハイ嘘松。もっとマシな嘘をつけよ』

 

 

(あぁ…この声は)

 

 

 

 

「珍しいですねぇ、貴方から連絡が来るなんて…何の用ですか?副神サマ?」

 

電話からの話し声に安堵の表情を浮かべた探索者は、少し警戒心を解き、若干声色が優しいものへと変化する。

 

 

『いやね?少し忠告…というか、質問があってね。今君って叔父さん(ドブカス)からの指示でその世界にいるんだよな?』

 

 

 

電話越しの声。それは穏やかだが、背後に無数の球体が擦れ合うような、宇宙の深淵から響く不快な残響を伴っており、相手の人物がただの人ではないということを証明していた。

 

 

 

 

「ええ、いつも通りの尻ぬぐいです」マジで勘弁してほしい

 

 

その言葉を聞いた電話の相手は口を濁し言うかどうか迷っている様子で探索者へと声をかける。

 

 

 

 

『……なんか、その世界さ?

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()が起こるとは思えないんだよね』

 

 

「……へ?」

 

 

脳をガツンと殴られたような衝撃。かつて多くの世界を観測し、改変してきた探索者の思考が、その一言で急速に冷却される。

 

 

 

「いやいやいやいやいやいやいや」

「いくらウチの主神がバカでアホで考え無しで人間の事をオモチャとしか思っていないような人間の屑だったとしても!」

『言い過ぎだね』

 

 

「でも!それでも!自分の目的について核心を突かずほのめかすことはあっても!嘘をつくことはあり得ないっすよ!」

 

『だよねぇ…』

 

その二人?の会話は散々辛酸をなめされされ続け、翻弄されたからこそわかる発言であった。

 

 

 

『いや…でも「可能性はある」とは言ったが「必ず出る」とは言ってないとか言いそうじゃない?』

 

「…ありえなくはないですけど、それで困るのってあのカスじゃないですか?だって俺がいることで変化は絶対に生まれるんですから」

 

 

 

 

探索者がいることによる変化、それは進むはずであった運命(ルート)から外れてしまう危険性がある。

 

本来であればそれ以上のニャルの化身による変化が見込まれるため、探索者が入った所で変わる運命はたかが知れている

 

だが、今回特異点が生まれるほどの変化がない状態であると、多少なりとも変化すること自体に危険性があるためいつもであれば厳重注意、特異点が生まれれば即出動などの処置をとるのが一般的であった

 

 

 

ニャルラトホテプ及び外なる神が最も恐れること、それはアザトース(お父様)の目覚め、そして「バタフライエフェクト」……すなわち、予測不能な連鎖反応だ。

 

本来、世界は緻密で精緻な歯車で回っている。

誰かが石を投げれば波紋が広がるが、その波紋がどこまで届き、何を動かすかは邪神にすら完全には計算しきれない。

 

一匹の蝶が羽ばたいた程度の微風が、巡り巡って時空の裏側で猛烈な嵐を巻き起こし、積み木細工のように重なった平行世界をドミノ倒しに崩壊させていく。

 

その連鎖が、最終的に万物の王の眠りを妨げる「不協和音」に変わることを、彼ら*1は何より忌み嫌っていた。

 

 

 

 

『……だよねぇ。でもね、時空の門から覗く限り、君という「異物」が混入してもなお、その世界の結末は一点に収束しようとしているんだ』

 

だからこそ、奴らは「特異点」という歪みを監視し、探索者を放り込んで調整させる

その前提を根底から覆す異質な言葉だった。

 

 

「…………笑えない冗談っすね、アンタがそう言うってことは、俺がここでやってることは無駄だってことですか?」

 

 

 

探索者は黄金の酒をあおり、喉を焼く感覚で辛うじて正気を繋ぎ止める

目の前のモニターには、ドローンが捉えた「アビドス砂漠の静かな夜」が映っている。

 

 

 

 

『無駄とは言わないよ?ただ、君というダイス(変数)がどれだけクリティカル(パーフェクトコミュニケーション)を出しても、盤面そのものがひっくり返らない……あのアホな叔父(バカ)が、何を思って君をここに送り込んだのか。僕にはそれが「嘘」よりも「見落とし」…いや、「意図した見落とし」のように思えてならないんだ』

 

「見落とし……? あの神が?」

 

『あるいは、君に「観測」させること自体が目的なのかも……じゃあ、僕はそろそろ門を閉じるよ……あ、そうだ』

 

『君のところのカジノ、あの「段ボールの馬」あれ、いつか君の命を救うかもしれないよ? クスクス……』

 

 

 

ブツッと無機質な音が耳に響き、通話は一方的に切られた。

 

 

 

「あ?おい!!…ちっ!ブッチしやがったよ…」

 

「……段ボールの馬が、なんだって?」

 

 

 

 

 

 

 

「……クソったれ、どいつもこいつも、思わせぶりなことばっかり言いやがって」

 

 

 

 

探索者は、指輪の中に収納したアーティファクトの重みを感じる

ヨグ=ソトースが「運命は変わらない」と言い、ニャルラトホテプが「特異点が生まれる」と言う

二人の神の言っていることが矛盾している

 

 

 

 

 

「…ダメだな、クールダウンだ」

 

探索者は立ち上がり、研究室の奥に放置されていた「段ボール馬」を蹴っ飛ばした。

 

 

 

「……「運命が1点に集中する」といってもやることは変わらねぇな、自分にできることを最大限やってあとは神に祈るだけ…それが探索者が出来る最大限の運命への反抗だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

探索者が意気込んだ直後に、視界の端に映るあのカクカクした段ボールの馬

 

 

 

 

「…………あんのヨーグルトソース、あんなゴミが俺を救うって言ったのか?」

 

探索者は、研究室の隅で虚無な瞳(マジック書き)を向けている段ボール馬を見つめる。

砂漠を時速100kmで爆走する装甲車や、神秘を宿した生徒たちの銃弾が飛び交うこの世界で東京競馬場の第三コーナーすら曲がりきれないとかいう自立歩行困難な産廃

 

 

 

 

 

 

こんな物に中に入って(またがって)何ができるというのか。

 

 

 

 

 

「……物理法則を無視して首がもげたり、コーナーで地面にめり込んだりするのか? ……いや、それただの物理エンジンのバグだろ」

 

 

探索者は盛大なため息をつく

 

 

 

 

「あいつ、全知のくせに性格の悪さだけは主神(ニャル)といい勝負だな…流石血の繋がってるだけはある」

 

 

あまりの不条理さに捨てようと思っていたが、全知の神がわざわざ「観測のついで」に口にした代物だ。

 

「……一応、倉庫の肥やしにでもしとくか…ありえんとは思うが………念のためな、念のため」

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

ブーッブーッ

 

 

 

「誰から…えっ?先生?」

 

 

例の契約と電話から数日、スマホが脈打つような振動を上げ、作業をしてた部屋の静寂を切り裂く

表示されたのはいつもの「非通知」ではなく「先生」の文字

 

 

「なんの用かなぁ?あーあー」

 

 

ピッ

 

 

『「はいもしも」支配人!聞こえるかい!?「おっとぉ!?」』

 

チューニングを済ませ通話ボタンを親指で弾き、耳に当てるのと同時に飛び込んできたのは、怒号と爆音、そして焦燥しきった先生の声だった。

その食い気味の声に探索者は異常事態になっていることを勘付き、最小限の質問を投げかける

 

 

 

「先生!今いる場所は?」

 

 

『アビドス地区柴石ラーメンって所!』

 

 

その意図を理解したのかは分からないが先生も素早く情報を提供する。

 

 

了解(ラジャー)すぐ向かう」

 

探索者はデスクに置いていたホルスターを2つ掴み、背広を羽織りながら研究室を飛び出した

通路を走る探索者の横を、事情を知らないカジノの従業員たちが不思議そうに眺めているが、構っていられない

 

探索者は最短ルートで裏路地の駐車場へと滑り込み、砂塵を巻き上げてバイクを急かし、爆音のする方角へ全開でスロットルを回す

 

 

 

「11,000まできっちり回せよ!!」

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

ブラックマーケットの喧騒を突き抜け、視界に飛び込んできたのは立ち昇る巨大な黒煙と、無惨に瓦礫となった「柴関ラーメン」の姿だった。

 

 

「ド派手にやってまんなぁ…」

 

 

そんな独り言を呟き、焼けたアスファルトにバイクを滑らせ、煙の中に滑り込まみ様子を見る

そこには泣き崩れるセリカと、それを守るように立つ先生にアビドスメンバー、そして「こんなはずじゃ……」と真っ青な顔で硬直しているの見慣れない四人組の少女たちがいた。

 

 

(50…いや100ほどかな)

 

 

 

そこへ向かう100ほどの規律のとれた軍靴の足音、さらに隠れているものも合わせれば一つの中隊ほどの呼吸音…探索者はその音に少しの心当たりがあった。

 

 

 

 

(…集団で、しかもそこそこ統率の取れている軍靴の集団…まさか?)

 

 

 

 

「…なるほど、回収のついでかな?」

 

 

 

煙を切り裂いて現れたのは、深紅の腕章を光らせる集団

ゲヘナ学園、風紀委員会

先頭に立つのは獲物を見つけた猟犬のように銃を構える銀鏡イオリ、そして

 

 

 

『こんにちはアビドスの皆さま、そして先生、序に便利屋の方々も――私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します』

 

 

 

 

チナツの持つタブレットからホログラムが投影され、皆の視線が吸い寄せられる。そこにはゲヘナ風紀委員会の面々にとっては見慣れた人物――ゲヘナ風紀委員会所属、天雨アコの姿があった。

 

 

 

 

 

 

*1
ただしニャルラトホテプはアザトース関係ではなく単純に面倒くさいだけ

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