巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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君、探索者が天職な気がする

 

 

 

『こんにちはアビドスの皆さま、そして先生、序に便利屋の方々も――私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チナツの持つタブレットからホログラムが投影され、皆の視線が吸い寄せられる。そこにはゲヘナ風紀委員会の面々にとっては見慣れた人物――ゲヘナ風紀委員会所属、天雨アコの姿があった。

 

 

 

 

 

「あなたが――行政官という事は、風紀委員会のナンバー2ですか」

 

『……実際はそんな大したものではありません、あくまで風紀委員長を補佐する秘書のようなものでして』

 

「本当にそうなら、そこの風紀委員たちが、そんな風に緊張するとは思えない」

 

『あなたは、砂狼シロコさん、でしたか?』

 

「…」

 

アビドスには生徒会の面々だけが残っていると聞き及んでいましたが、みなさんの事の様ですね―――しかし、どうやら一名足りない様ですが、今はどちらに?』

 

「現在はおりません。そして私達は生徒会ではなく対策委員会です、行政官」

 

『確か奥空さん……でしたよね?それでは、生徒会の方はいらっしゃらないという事でしょうか? 私は、生徒会の方と話がしたいのですが』

 

「アビドスの生徒会はずっと前に解散したの!事実上私たちが生徒会の代理みたいなものだから言いたいことがあるのなら私たちに言いなさい!」

 

「こんな風に戦力を引き連れて、お話をしましょうか、なんていうのは、お話をする態度としてはどうかと思いますけれどね?」

 

 

 

ノノミがらしくもなく嫌味を口にすれば、しかしほんのりと笑みを浮かべたアコが片腕を上げる。

 

 

『ふふ、それもそうですね』

 

 

 

『失礼しました、風紀委員会各員、武器を下ろしてください、正式に戦闘を中断します』

 

 

 

(へーそこで中断すんのか…思ってた以上にちゃんと考えてんな)

 

 

 

『先程までの愚行、私から再度謝罪させて頂きます』

 

「わ、私は命令通りにやったんだけれど!? アコちゃん!?」

 

 

 

 アコの心無い言葉にイオリは声を上げる。しかし、返って来たのは呆れとも、失望とも見て取れる視線

 

 

 

『命令に、「まずは無差別に発砲せよ」なんて言葉が含まれていましたか?』

 

「ぐぅ…い、いや、状況を鑑みて必要な範囲で火力支援、その後に歩兵の投入、戦術の基本通りにって……」

 

『他の学園自治区付近なのだから、その辺りはきちんと注意するのが当然でしょうに』

 

「―――?」

 

 

『失礼しました、対策委員会の皆さん、私達ゲヘナ風紀委員会はあくまで、私達の学園の校則違反をした方々…便利屋68を逮捕する為に来ました。あまり望ましくない出来事もありましたが、やむを得なかったという事でご理解頂けますと幸いです』

 

「やむを得ない……?」

 

 

(あーあ、交渉相手にそれは言っちゃかんなぁ―もっと言葉を選ばんと)

 

 

 

探索者が感想を抱いた時、ピクリと、アコの言葉にアビドス全員が肩を揺らした。

 

不用意な発言だった、少なくともアビドスの逆鱗に触れる程度には

 

アコのホログラムを見る視線に、殺意が籠る。どこからともなく、安全装置を弾く音が響いた。

 

 

 

 

「他の学校が別の学校の敷地内で、堂々と勝手に戦闘行為をするなんて!自治権の観点からして、明確な違反です!便利屋の処遇は、私たちが決めます!」

 

 

「まさか、ゲヘナほどの大きな学園がこんな暴挙に出るとは思ってもみませんでしたが、譲れません」

 

そのアヤネの答えはその場にいるアビドスメンバー4人の回答であった。

 

 

『……なるほどそちらの方々も、同じ考えのようですね。……この兵力を前にしても怯まないだなんて……その自信はやはり信頼できる大人がいるからでしょうか…ねぇ?先生?』

 

"まぁ、便利屋の皆を素直に渡すかといわれたら、ノーと云うしかないよね"

 

先生はニコッと笑顔を浮かべてアコに返答する

 

『シャーレとアビドスの意見は一致、便利屋も素直に捕まる気配はなし……少々、困りましたね――こうなっては仕方ありません、本当は穏便に済ませたかったのですが』

 

 

 

(交渉決裂 だな)

 

 

 そう云ってアコはふっと微笑むと、先程と同じように片腕を緩く上げた

 

瞬間、空気がひりつく様な熱を帯びた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

『総員――戦闘準備』

 

「ッ!?」

 

「アコ行政官!?」

 

 

 

アコの声が響いた瞬間、風紀委員たちの銃口が一斉に跳ね上がる

 

 

空気がひりつき、硝煙と死の臭いが一段と濃くなる

 

 

 

 

 

(……アコのやり方は美しくない、慇懃無礼な謝罪で外堀を埋め、相手が呑めない条件を突きつけ、拒絶された瞬間に「仕方がありませんね」と被害者面で引き金に指をかける

政治の場ならいざ知らず、目の前で居場所を焼かれた少女たちの前でするには、あまりに致命的な「見下し」だ)

 

 

 

「………これだから『正義』を看板にしてる連中は嫌いなんだよ。というか…風紀委員より、探索者やったほうがぜってぇ天職だろ、コイツにとっては」

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「どうせお前の目的は先生なんだから、最初からこうするつもりだったんだろう?」

 

『!』

 

 

探索者はバイクを現場の入り口に乗り捨て、煤煙の中を悠然と歩いて先生たちの横へと並んだ

革靴が瓦礫を踏みしめる乾いた音が、静まり返った戦場に響く。

本来であればそのまま不意打ちでもよかったが今の探索者はただの「交渉人」の顔を崩さない

 

一歩踏み出し、笑みを浮かべる。そんな探索者を見て、アコは僅かに目を見開く

 

便利屋の捕縛という方便無論、最初から信じてなどいない

 

そもそもからして、これほどの人数を動員してまで達成すべき目的が便利屋の束縛?あり得ないと、そう断じる事が出来た

 

 

 

 

「便利屋四人に対して中隊規模の動員?それも、態々他所の自治区まで派兵するなんて普通じゃない、彼女達には悪いけれど過去の判例を見ても自治区侵犯を行ってまで捕まえる様な子達じゃないでしょう、便利屋68とかいうエセアウトロー(小悪党)は」

 

『……ほぅ』

 

「なら、此処まで人数を搔き集めて狙う獲物は一つ」

 

 

 

探索者の視線が、確かな冷たさを帯びた。

 

 

 

「連邦捜査部シャーレ、その顧問である先生の身柄だ」

 

"私!?"

 

 

「次は何故かって話になりますが……まぁ言うまでもなく、シャーレという存在が持つ『価値』についてでしょうね」

 

『貴方は…一体?』

 

「どうも、わたくしアビドスと協働関係を結んでおります……あるときはカジノの支配人、またある時は正義の味方、またある時は…正義を滅する悪の権化、それらを総称して……探索者と申します」

 

 

 

 

 

「簡単に言えば…あなた達の敵ですねかね?ま、名前だけでも覚えていただければ幸いかと」

 

 

図星を突かれたのか、ホログラムの中のアコが微かに眉を動かす

彼女の目的は最初から、この爆破事件の解決や便利屋の捕縛などではない

混乱に乗じて「先生」という最大級の政治的カードを、ゲヘナの、あるいは彼女自身の管理下に置くこと、さらにトリニティが最近動こうとしている「エデン条約」……これへの最高の切り札へと変える

あまりに合理的で、あまりに強欲な一手だ

 

 

『……まぁ、予定と少々変更はありましたが大筋は変わりませんね。待機組に集結指示を出しましょう』

 

 

 

 そう云ってホログラムのアコが手元のタブレットを弄れば、傍にいたアヤネが思わずといった風に声を上げる。

 

 

 

「っ!?先生!十二時、六時、三時、九時……四方から風紀委員会の兵力、増援を確認しました!」

 

「ま、まだいるの!?」

 

「これは…」

 

 

 

途端、『敵性反応』の風紀委員、その数が膨れ上がる。赤い輪郭を放つそれらが建物越しに表示され始めたのだ。一つ隣の通り、ビルの屋上、裏路地、続々と姿を現す風紀委員に先生は眉を顰める。

 

 

 

"これはまた……随分と集めたね"

 

『少々やり過ぎかとも思いましたが、シャーレを相手にするのですからこの程度はあっても困らないでしょう、まぁ、大は小を兼ねると言いますからね』

 

 

 

そう澄まし顔で告げるアコに、探索者は内心で舌打ちを零したくなった。これで向こうは全力ではないというのだから堪らない。先生のタブレットの画面には更に後詰めの部隊――今接近している部隊とは別の、予備隊が更に布陣している事が分かっている。数は凡そ五百人という所、規模としては中〜大隊規模、間違っても十人に満たない勢力にぶつける兵力ではない。

 

現在包囲している形とは別に、更に大きな円を描く風紀委員これは正に

 

 

 

「二重包囲網だな」

 

『あら、随分と感度の良いレーダーをお持ちで』

 

 

 

タブレットの画面を見た探索者の呟きを拾ったアコは、薄らと張り付けた笑みをそのままに頷いて見せた。

 

 

 

『そういえば先程のお話、半分は正解です、確かに私はシャーレと衝突するという最悪のシチュエーションも想定していました、ですが事の発端は「ティーパーティーだろ?」…そこまでご存知ですか』

 

 

遮る様に放たれた探索者の言葉に、アコは笑みを深める。

 

 

『えぇ、その通りです、我がゲヘナ校の宿敵であるトリニティ総合学園の生徒会、ティーパーティーがシャーレに関する報告書を手にしていると、うちの情報部から上がって来まして』

『当初は私もシャーレの事を詳しく知りませんでしたが、ティーパーティーが掴んでいる情報となれば話は別です、私達も同じように知る必要があります――そこで、チナツさんの報告書を確認したのです』

 

「……行政官、確認するの遅くないですか?」

 

 

 

 チナツのどこか呆れたような口調に、アコは取り合わず言葉を続けた。

 

 

 

『連邦生徒会長が残した正体不明の組織、大人の先生が率いる超法規的部活……その権限、規模、独自活動裁量、どう考えても怪しい匂いがしませんか?』

 

「……まぁ、そこには同意、傍から見れば目的も不明瞭な上、権限だけを持った実態の分からない部活、不審に思うのは残当だし」

 

『そうでしょう?シャーレと言う組織は私からすると危険な不確定要素に見えます、これからトリニティと結ぶ予定である条約にも、どのような影響が出るのか分かったものではありません――何なら、トリニティに取り込まれ、その権限を盾にゲヘナで好き勝手に暴れられる可能性すらあるのですから』

 

「………」

"…………"

 

 

先生や探索者からすれば、それは「ない」と言い切れる事柄であった

 

しかし、今先程顔を合わせたばかりの相手にそんな口だけの約束をした所で、一体どれ程信頼されるだろうか?それは悲しい事ではあるが、仕方のない事でもある

 

アコからすれば、シャーレという強大な権限だけを持った部活は存在するだけで邪魔な核ミサイルのようなもの…いつ、その矛が自分達に向けられるのか分かったものではない……それならば…

 

 

 

『ですからせめて条約が無事締結されるまでは、私達風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせて頂こうかと』

 

「……条約が締結しても、手放す気は毛頭ないんでしょう?」

 

『ふふ、カヨコさん、それこそ便利な言葉があるではありませんか、大人の事情と』

 

ホログラムの向こうで勝ち誇ったように微笑むアコ

その傲慢な「大人の論理」に、探索者の喉の奥から乾いた笑いが漏れた

 

「……いやテメェ、ガキだろ」

 

探索者は…自分の心にある罪の重さを感じながら吐き捨てるように言う。

 

「いいですかアコ行政官、ガキが背伸びして『大人の事情』なんて言葉を使うもんじゃない……本物の大人の汚さってのは、もっとこう……救いようがないものなんですよ」

 

「――ん、寧ろ状況が分かり易くなって良い、つまり、ゲヘナ風紀委員会は敵」

 

「……先生を連れて行くって、私達がそれで『はい、そうですか』っていうとでも思った?大間違いよ!!」

 

『残念ですが……交渉は決裂ですね』

 

「交渉? 俺が見たのは、一方的な『脅迫』と、ガキの『おままごと』だけですよ」

 

 

 

探索者の言葉に、ホログラムの中のアコが微かに眉を吊り上げた…そんなような気がした

 

シロコ、セリカ、ノノミが武器を手に啖呵を切り、アヤネが無言で眼鏡を押し上げる。そんな彼女達を見ていたアコは一層愉快だとばかりに皆を眺め、告げた。

 

 

 

『ふふ、やっぱりこういう展開になりますか、では仕方ありませんね、奥空アヤネさん?』

 

「……何ですか」

 

『ゲヘナ風紀委員会は、必要ならば戦力を行使する事に一切の遠慮をしません』

 

「上等です!」

 

 

 

普段、大人しいアヤネが目を見開き、足元にあった瓦礫を蹴飛ばす。

 

「自治区侵犯、その上で先生を奪おうだなんて……ふざけるのにも程があります!!やってやりますよ!?ボッコボコのギッタンギッタンですッ!」

 

「全員仲良く返り討ちにしてやるわよッ!」

 

「蹴散らしてあげます!」

 

「弱肉強食、シンプルなルールだ」

 

「ハハッ!良いねぇ良いねぇ!アオハルだねぇ!!」

 

発破をかけ銃を振りかざすアビドス、その隣で彼女達の啖呵を眺めていた便利屋達は、そっと小声で意思疎通を行っていた。

 

 

 

「……社長、どうする?今なら多分、アビドスと先生…あと探索者?が注意を引いているし、私達だけなら逃げようと思えば逃げられるけれど…」

 

「えー、アルちゃん、もしかして見捨てて逃げるの~?」

 

「っぐ……ッ!」

 

風紀委員会とアビドスのやり取りにオドオドしていたアルは、脳裏をよぎった「撤退」の二文字を振り払うように、矢面に立つアビドスや先生の背中を一瞥した。

 

 

 

 

そして、半ばやけくそ気味に叫んだ。

 

 

 

 

「に、逃げないわよッ!元はといえば私達を狙った事に巻き込まれた訳だから、恩には恩で報いるのよッ!」

 

「あは~! それでこそアルちゃんッ!」

 

「……まぁ、そうだね、その意見には賛成かな」

 

「了解ですアル様ッ! 仇なす連中は私がぜ、全員、ぶち殺して見せます! あ、アル様、見ていて下さい!」

 

「そ、その意気よハルカ!アウトローらしく、派手に戦ってやろうじゃないッ!」

 

 

便利屋たちの、お世辞にも効率的とは言えないが熱い「悪党の美学」が背後で爆発する。

その声を背中で聞きながら、探索者はヘルメットのシールド越しに、押し寄せる風紀委員の軍勢を見据えた。

 

(アウトローが聞いて呆れるぜ…だがそれでいい、それがいい)

 

 

 

 

 

「どうやら、便利屋の皆さんも協力してくれるみたいですね☆」

 

「丁度良いわ、一緒にやってやろうじゃないッ、風紀委員会の連中コテンパンにしてやるわ!覚悟しなさいッ!」

 

「先生の盾になって貰う」

 

「先生を一緒に守りましょう!」

 

「その前に、ちょっとだけ」

 

 

"……それは?"

 

 

「勝つ確率をグーンと上げてくれるアイテムですよ「罪の天秤」」

 

そういうと探索者は指輪に手を突っ込み、黄金の天秤を取り出す。

それは古ぼけた、それでいて逃れようのない神々しさを纏う「法」の具現。探索者が指輪から引き出したその天秤は、物理的な光を吸い込み、周囲の色彩を「審判」の灰色へと塗り替えていった。

 

 

 

 

 

 

探索者の瞳に、かつて数千億年の孤独を共にした「狂気」が宿る。

 

 

 

 

「天秤は公平を保つ 重りは俺の『罪』、皿はあんたらの『意思』

 

 

 

 

さて、等価交換だ。あんたらの綺麗な『正義(今日)』を預かる代わりに、俺の薄汚れた『狂気(昨日)』を全員に等分して貸し付けてやるよ」

 

 

 

「――利息は高くつくぜ? 支払いはその輝かしい『青春(明日)』で済ませな」

 

 

 

探索者の声は、戦場を吹き抜ける風よりも冷たく、重く、鼓膜を打っていた。

 

 

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