巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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5時間ぶり3度目の天井

 

 

 

 

探索者が次に目を覚ましたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこまでも白く、清潔で、ひたすら退屈な──白い天井

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…一応…三度目の天丼だけどやっとくか)

 

 

 

 

 

 

 

「…知らない天井だ」

 

 

 

 

 

ボロボロの意識の中、お約束のテンプレ台詞を唇で呟いてみる。

 

 

"もう知ってるでしょ"

 

「あぁ、先生。どうも」

 

"どうもじゃないよ"

 

パイプ椅子に腰掛け、酷く複雑そうな、それでいて心底ホッとしたような顔でこちらを覗き込んでくる先生の姿が視界に入る

 

「いやぁ、様式美ってやつですよ。これを言わないとベッドから起き上がった気がしないタチでしてね」

 

上体を起こそうとすると、案の定、全身の筋肉が悲鳴を上げた。まるで脳みそを算盤の角で直に殴られたような鋭い頭痛が走る。

 

"本当に無茶をするんだから……君が倒れた後、トリニティの救護騎士団も、君の友人たちも大騒ぎだったんだよ"

 

「まぁ想像はつきますね。でも聞いたら事情説明してくれたでしょう?」

 

"それはそうなんだけどさ……あの子たち、君をベッドに寝かせた後、凄く心配そうな顔でずっと付き添ってたんだからね"

 

先生の言葉に、探索者は苦笑しながら頭を掻いた。

 

「まぁ、後でとびきり美味いもんで帳尻合わせときますよ……それより、先生」

 

「あの後、どうなりました?」

 

'アリウススクワッドは逃走。それから皆で撤退って感じかな"

 

「……まぁ、順当な幕引きですね」

 

探索者はシーツの上に投げ出していた自分の両手を見つめ、それから小さく息を吐いた。

 

「ヒフミも、魔法少女一同も、アズサも、全員五体満足で帰ってきたんでしょ?」

 

"うん。みんな怪我はあったけど、命に別状はないよ。今はそれぞれ、自分の帰るべき場所に帰って休んでる……本当に、君と『彼女たち』のおかげだ"

 

「我は何もやってないですよ」

 

"……我?"

 

その瞬間、探索者の表情がわずかに変わる。困惑でも、怒りでもない。

 

「あー……っ、出て来やがったか」

 

まるで、自分の知らない場所から勝手に誰かが顔を出したような、諦め混じりの反応だった。

 

"ど…どうしたの!?"

 

「ダイジようぶです。スグな、おります」

 

"全然大丈夫そうに見えないよ!? 顔色が真っ青だし、喋り方もおかしい! すぐ救護騎士団を──"

 

「いや、マジで、呼ばナクて、いい、です……っ」

 

探索者はベッドの上で必死に片手を振り、先生を押し留めた。

 

「ちょっと、内なる我が…邪悪な大福が、自己主張、激しいだけで……すぅ、はぁ……よし、落ち着いた」

 

ようやく視界のブレが収まり、舌の回りも元に戻ってきた。

 

"今の説明で安心できる要素がないんだけど…"

 

「よくあることです。気にしてたらハゲますよ」

 

"えぇ…それで流せないよ"

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

「ってか何も聞いてないんですか?この症状のこと」

 

"え? 聞いてないって、誰から……?"

 

「いや、誰からって……ウチのコたちですよ。俺をここまで運んできた魔法少女どもです。あいつら、俺をベッドに放り投げた後、先生に何か伝言とか残していかなかったんですか?」

 

"えっと…エゴ侵食?がどうのこうのって…"

 

「あー、まぁその認識でいいですよ」

 

探索者は納得したように何度か深く頷いた。魔法少女達は、一応専門用語で説明しようとはしたらしい。

 

"その認識でいいって……よくない気がするんだけど"

 

「まぁ…要するに、あっちの側の力──『我が友人たち』の能力を無理やりこっちに引っ張ってきた代償です。一次的なデバフみたいなもんですよ。俺の自我(エゴ)の境界線がちょっとバグって、身内の人格と混ざりかけてるだけです」

 

"それ、全然『その認識でいいですよ』で済むレベルの症状じゃないよね!? 自我の境界線がバグるって何!?"

 

「それを話すにはマジで一日かかりますよ。井戸とコギト、後、都市の意思から話さなきゃいけなくなる」

 

"なんとなく…大変だってことはわかったよ"

 

"ねぇ。一つ聞きたいんだけどさ"

 

"EGOって何?"

 

 

その言葉に、一瞬の静寂が走る。だか探索者は直ぐに口を開いた。

 

 

「エゴとは、ラテン語で「私」を意味する言葉です。一般的には「自我」や「利己主義(自分本位)」自分を守ろうとする意識そのものを指し、文脈によって複数の意味で使われます」

 

"いや、それを聞いてるわけじゃなくてね?"

 

"君たちが使うEGOという言葉と私たちが普段使っているエゴという言葉になんとなく…違いがあるように感じてね"

 

 

 

そのちゃんとした先生の説明に、探索者は一つ大きなため息をついた。

 

 

「……本当は説明する気なかったんですけどねぇ…」

 

「ウチのコ達呼んでください。百聞は一見にしかず百見は一体にしかずです」

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

先生が戸惑いながらも医務室の扉を開けると、まるで最初からそこで聞き耳を立てていたかのように、魔法少女達がぞろぞろと部屋に入ってきた

 

 

「主ちゃん起きた!? 本当に生きてる… よかったー…本当に」

 

「…聞いてたなら入ってこいよ」

 

「…この方との会話を邪魔するわけにもいかず…」

 

「…確かにそう考えるな」

 

大騒ぎする魔法少女たちを片手で制しながら、探索者はベッドの上で深くため息をつき、先生に向き直る。

 

「いいですか、先生。これから見ること、体験することは他言無用です。本来別世界の技術なので」

 

「騎士、剣を」

 

探索者が静かに、しかし有無を言わせぬトーンで告げると、室内の空気が一瞬で張り詰めた。

 

一歩前に出た少女──『騎士』が、自らの剣へと手を伸ばす。彼女の瞳に宿る、冷徹なまでに強固な守護の意志。それが引き金だった。

 

「…どうぞ」

 

カツン、と床を叩く不穏な響きと共に、彼女が差し出したのは、どこか神聖でありながらも、同時に心臓を素手で掴まれるような悍ましさを放つレイピア

 

「ハイありがとう。んじゃあ先生。これ持ってみてください」

 

"えっ?"

 

「触れるだけでいいです。すぐに離してくれれば」

 

先生は戸惑いながらも、探索者の真剣な──そしてどこか意地の悪い──視線に押され、恐る恐るその柄へと手を伸ばした。

キヴォトスの銃器を触るのとは訳が違う。金属の冷たさではない、もっと別の「何か」が、皮膚の表面から脳髄へと直接流れ込んでくる。

 

指先が柄に触れた──その刹那。

 

"ッ……!?"

 

先生の視界が、ぐにゃりと白黒に反転した。

頭の中に直接、津波のような情報の奔流が流れ込んでくる。それは抽象的な概念などではない。目の前に立つ少女──『騎士』そのものの壮絶な「在り方」が、彼女の記憶、覚悟、そして決して揺らぐことのない絶対の守護の意志の質量となって、脳髄へと直撃したのだ。

 

呼吸が詰まる。自らの自我が、彼女が背負う果てしない精神の重圧に押し潰され、呑み込まれそうになる恐怖。ただの鉄の塊などではない。これは彼女の「剥き出しの心」そのもの

 

「はい、そこまで!」

 

先生の身体が限界を迎える直前、探索者がその手を横からパチンと叩いて、レイピアから引き離した。

 

"ハッ、……ガハッ、ゴホッ……!"

 

途端に世界の色彩が元に戻り、先生は激しく咳き込みながら、自分の胸を押さえてその場にへたり込んだ。

 

「だいぶ持ちましたね。現実世界では1分ですよ」

 

探索者はベッドの上から、床にへたり込む先生をどこか感心したような、けれどやっぱり意地の悪い目で見下ろした。その横では、役目を終えた騎士が静かに一礼し、手にしたレイピアを霧のように消し去っていく。

 

「……どうです? これが『E.G.O』ただの武器じゃなくて、執着や祈り、エゴそのものを結晶化させた代物です」

 

「ほんの一瞬、他人の『在り方』が脳みそに流れ込んできただけで、酸欠になりかけたでしょ?」

 

"言ってる意味が…体感で分かったよ…"

 

「これでもだいぶマイルドな方ですけどね。下手を打つと完全にそっちの人格に精神を乗っ取られてしまう」

 

"これは…もう一つの人間だね"

 

先生のその言葉に、探索者は一瞬だけ目を見張り、それから今日一番の、どこか自嘲気味で、けれど酷く満足そうな笑みを浮かべた。

 

「……本当に流石ですね、先生は。一発で模範解答解答を出してくるんだから」

 

「そうです。これは…本来の人間の認識があるべき姿。だからこの剣のほうが人間と言っても過言じゃない」

 

"これを…振り回してたの?"

 

「いーえ?こんなもん振り回してたら速攻で発狂死ですよ」

 

探索者は呆れたように笑いながらも、どこか懐かしむような目を自分のバッグへと向け、一つの小太刀を取り出す

 

"その刀はあれだよね。ハラキリDrive丸"

 

「よう適当に言った発言覚えてますね……正式名称は六花月です。私の大好きな龍の尾を素材にしていて、あの偏屈な旦那が『これでも持ってろ』って言って寄こしてきた代物ですよ」

 

"でも、さっきは凄く大きくなってなかった?"

 

「あぁ、あれですか。真名を呼び出してやると、あの刀は持ち主の意志に合わせて自由自在にサイズを変えられるようになるんです……まぁ、ただデカくして振り回すだけなら、あんな教義の巨人を空間ごと一刀両断にまでは出来ませんけどね」

 

探索者は少しだけトーンを落とし、自分の指元──『芯火』のアーティファクトが眠る場所にそっと手を当てた。

 

「…この刀の強みは合成合体できる点にあります。別の武器の概念や属性を、六花月に直接宿して、その特性を上乗せして引き出すことができる……『断風』は、そうやって足りない能力を上乗せして放った一撃です」

 

"……聞くだけで、凄く強力な機能に見えるけど"

 

「ま、タダでそんな都合の良い力が手に入るわけないでしょう。デメリットも山盛りです」

 

「まず、ちゃんと『実体がある物体』じゃないと宿せない。次に、合成した武器が持ってる固有の呪いやデメリットも、多少は軽減されますけどしっかり俺の脳みそに逆流してくる……で、極めつけは、これだけのリスクを背負って無茶苦茶やっても、その武器本来の出力の『60パーセント』程度しか引き出せないってことです」

 

「ま、これでも晴天流を教わった師匠には遠く及ばないんですけどね!」

 

"えぇ…どんだけ強いの…その晴天流の師匠さん"

 

「比較対象にしたら自己肯定感が死にます。生身の体で海と風を切るお方ですから」

 

"海を切るって比喩じゃなくて?後風を切るって?"

 

「モーゼもびっくりの切り方ですよ」

 

探索者は大真面目な顔のまま、両手をパカッと左右に開くジェスチャーをしてみせた。

 

「冗談抜きで、目の前の海がバッカーンって両割れになるんです。ついでに言うと、目の前を奔る暴風そのものを太刀筋で文字通り『切断』して、無風を作り出す。後は抜刀が速すぎて誰も抜き身の刀をみたことがなかったり…そんなことするようなバケモノです。あのお人に比べたら、俺のやってる『断風』なんて、小細工満載のただの手品ですよ」

 

"君の抜刀も十分早くて見えなかったんだけど…"

 

「まだまだです。1フレ切れるようになってからが本番ですから」

 

さらりと言ってのけた探索者に、先生は「1フレって、君の技術は格闘ゲームか何かなの……?」と、半ばあきれたような顔を隠そうともしない。

 

「いや、マジの話ですよ。あのお人の前じゃ、抜刀の予備動作を見せた瞬間に首と胴体が『コンニチハ』してます。だから誰も抜き身の刀を見たことがない。見事なもんでしょう?」

 

探索者は他人事のようにケラケラと笑うが、その目は笑っていなかった。命がけの理不尽な修羅場をくぐり抜けてきた者だけが持つ、独特の冷徹な光がほんの一瞬だけ宿る。

 

「まだまだそんなような技と言えるのかも怪しい技は大量にありますよ。刀を上に掲げるだけで雷を降らしたり、地面に突き刺せば龍みたいな溶岩が迫ってきたり…」

 

「後、時折剣を捨てて"大時化"っていいながら投げ飛ばしてきたりもしますね」

 

"…剣術ってなんだっけ?"

 

「正直、途中から剣術と天変地異の境界線が分からなくなります」

 

探索者は遠い目をして、かつてその身に叩き込まれた理不尽な暴力的光景を思い浮かべているようだった。

 

"雷に溶岩に、極めつけは『大時化』……うん、それはもう剣術の看板を下ろして、素直に天変地異を名乗るべきだと思うな……"

 

「ホンマにそれです。一応一番弟子だったはずの私ですら、師匠の亡霊にすら勝ったことないですよ?だーれが勝てるっての」

 

「チョー手加減してもらってようやく刀を使わせることが出来たレベルですから」

 

探索者は両手の指でほんのわずかな隙間を作り、これっぽっちですよ、と強調するように目を細めた。

 

"……その強さで『チョー手加減』なんだ"

 

「そうですよ。向こうは終始『あー退屈退屈、早く終わらせて茶シバこ』みたいな顔して、こっちの全力の太刀筋をあしらってくるんです。で、こっちが死に物狂いで爪を立てて、ようやく『お、ちょっとはやるじゃねぇか』って抜刀させる。そこまでいって、ようやく合格点……まぁ、抜かせた瞬間に1フレで斬られて終わりなんですけどね」

 

あっはは、と乾いた笑い声を上げる探索者に、先生はもはや哀れみすら含んだ複雑な視線を送るしかない。

 

「はい、この話終わりです!トラウマで脳が震えます」

 

探索者はパンパンと自分の両頬を叩き、強制的に話題をシャッフルするようにベッドの上で座り直した。

 

"あはは……うん、ごめんごめん、無理に思い出させちゃったね"

 

「本当ですよ。これ以上思い出すと、さっきのバグとは違うベクトルで自我が消滅しちゃいます」

 

"それじゃあまた来るね。今度はその魔法少女達について聞きたいこともあるし"

 

「…そういう概念ってことで納得していただけません?」

 

"だめだね"

 

「メンド…」

 

 

先生はクスリと笑うと、ベッドの上の探索者と、その周りに佇む魔法少女たちに一度小さく手を振り、今度こそ医務室の扉を閉めて去っていった。パタン、と静かな音が部屋に響き、完全に大人の気配が遠のく。

 

 

 

途端に、探索者は張り詰めていた肩の力を完全に抜き、シーツへと崩れ落ちるように横たわった。それを見届けた魔法少女たちが、心配そうにベッドの周りへとジリジリと距離を詰めてくる。

 

 

 

 

「…ごめんな。ほったらかしにしちゃって、黙っててくれて助かった」

 

「…主さん…身体は大丈夫なの?」

 

 

それぞれの瞳に強い不安を滲ませながら覗き込んでくる。探索者は前髪をガシガシと掻き毺りながら、天井に向けて自嘲気味な吐息を漏らした。

 

 

「大丈夫か大丈夫じゃないかならもう無理って感じだな。さーすがに白夜と黄昏両方使ったのは脳と身体にキツイ」

 

 

「…申し開く言葉すらありません。私が…私のエゴを押し通したばっかりに」

 

「そ…それをいうなら私だって!」

 

「あーはいはい。自己否定は辞めような。君たちがいたからほかの生徒が怪我しなくて済んだって考えようぜ」

 

 

 

これ以上自分を責めようとする騎士や女王を片手で制しながら、探索者は仰向けに寝転がったまま、ふっと表情を和らげた。

 

 

「…主ちゃんももう少し自分の身体を労わってよ」

 

 

唐突に、王の口から自らの欲望がポロリと落ちる。歪んだ利己主義(エゴ)などではなく、ただ純粋に、大切な主の身を案じるが故に生じた切実な願い。

 

 

 

「私達に生きていいって言ったじゃん…それだったら貴方にも生きる権利はあるよ…」

 

「……」

 

 

探索者はその切実に、言葉を濁らせる。だが、それでも答える

 

 

「…ごめんな…それは出来ない」

 

 

「だってさ、目指すべきハッピーエンドがあるのにそこに走らない人間はいないだろ?」

 

 

 

「…それでも……!私達は貴方に生きてて欲しい…!」

 

 

 

「………ごめんな」

 

 

 

ただ一言、そう謝ることしかできなかった。

脳髄を焼くような白夜と黄昏の残滓。精神の境界線が摩耗し、己の形がどれほど崩れかけようとも、探索者の芯にあるその「我が儘」だけは、どうしても曲げることができない。

 

 

 

「貴方も…幸せになる権利がある…!だから…だから…」

 

「…おいで王」

 

 

探索者がそっと片手を差し出すと、こらえきれなくなった彼女が、ベッドの傍らへと崩れるようにすがりついてきた。

 

 

「…分かってる。分かってるよ。お前たちがどれだけ俺を心配してくれてるかも、どれだけ真っ直ぐな言葉で俺の命を願ってくれてるかも、全部届いてる」

 

 

抱きしめた身体から伝わってくるのは、彼女自身の強固な『在り方』の熱。そして、主を失うかもしれないという、あまりにも人間らしく、あまりにも切実な恐怖の震えだった。

 

 

「だからさ、泣くなよ。折角の可愛い顔が台無しだ…ほら女王も、そんなに食い縛らないの。おいで」

 

「だってぇ…わ…たしも…おんなじで…」

 

 

女王はボロボロと大粒の涙を溢れさせながら、王の隣へと飛び込むようにして探索者の胸元に顔を埋めた。もう一人の、世界を憎み、愛した魔法少女の、剥き出しの心が痛いほどに伝わってくる。

 

探索者は苦笑しながらも、開いたもう片方の腕で女王の背中をしっかりと迎え入れ、二人まとめてその細い身体で抱きしめた。

 

「うん、分かってる。分かってるから……お前も、ありがとな」

 

目線の先には必死に涙を出さないようにしている従者の姿と、凛とした表情を少し崩している騎士の姿

 

「ほら、お前らも抱きつくか?」

 

腕の中に王と女王を抱えたまま、探索者はニッと悪戯っぽく笑って見せた。完全に両腕が塞がっているくせに、これ以上どこに受け入れるつもりなのか、いかにも彼らしい無茶苦茶な誘い

 

「……っ、主、そのような、私は騎士ですから……ッ」

 

騎士は、いつもの凛とした佇まいを保とうと背筋を伸ばすが、その視線はベッドの上の三人からどうしても逸らすことができずに揺れていた。彼女たちの頑固なまでの『在り方』が、今はただ愛おしい。

 

 

「…うん。今日は甘えちゃっても良いかな」

 

「従者…!?」

 

「あはは…耐えられそうにないや」

 

 

真っ先に限界を迎えた従者が、ふにゃりと眉を下げてベッドへとにじり寄ってきた。役職としての仮面を外した彼女の瞳からは、もう堪えきれなくなった涙がポロポロと零れ落ちている。

 

 

「あーあ、騎士、置いてかれちゃったぞ?」

 

「な、……っ」

 

 

探索者がにやにやと視線を送ると、騎士は顔を真っ赤にして狼狽した。従者は王と女王の隙間に滑り込むようにして、探索者の脇腹のあたりにそっと額を押し当てる。

 

 

「ほら、最後の一人。観念してこっち来いって」

 

「……主が、そこまで仰るのなら」

 

 

ついに折れた騎士が、カサリと静かに音を立ててベッドの縁に腰を下ろした。冷たい感触が、探索者の背中にそっと触れる。しかし、その内側から伝わってくる彼女の心音は、誰よりも激しく、誰よりも温かく波打っていた。

 

 

「……本当に、無茶ばかりなさる」

 

 

騎士が、探索者の前髪を、そして熱を持つ額を、まるでもう二度と離さないと誓うように、手袋を外した素手でそっと覆う。

 

 

「…ごめん。でもそれが「探索者という生き方…ですよね」…うん」

 

「分かっています。主がそういう生き方をなさっている事は…」

 

「…ありがとな、みんな。俺はここにいる」

 

 

医務室の白い天井を見つめながら、探索者は少女達の頭を撫でるのであった。

 

 




六花月

旦那から手渡された一振りの刀。探索者は自嘲を込めてそれを「ハラキリ」と呼ぶが、その刀身に刻まれた真名を解き放つ時、刃は使用者の意のままにその姿とサイズを変幻自在に変貌させる。

この刀の真価は、「芯火」のアーティファクトと共鳴・合体した時に発揮される。芯火の奥底に秘められた武具や異物をその刃へと宿し、新たなる力として現世に引き穿つことが可能となる。

しかし、力を己の刃とする代償は決して軽くない。
刀に宿せるのは「実体を持つ物体」であり、同時に「使用者の脳裏に強烈な印象が残っているもの」、そして「その武器に使用者の精神が宿っていること」が絶対条件となる。さらに、宿した武器固有のデメリットが(幾分軽減されるとはいえ)使用者へ付き纏う上、引き出せる潜在能力は本来の六割程度にまで制限されてしまう。

その刀身は、『六花』とも呼ばれる龍の尾と零玉。そして隕鉄を主原料とし、「輝くトラペゾヘドロン」の粉末、「ブラックロータス」、「宇宙からの色」などが微量ずつ捏ね合わされて打ち上げられている。

美しくもどこか異質な気品を纏う刃は、顕現するたびに全てを凍てつくすような狂気の輝きを微かに散らす。
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