巡る探索者、青き青春の果てを見る   作:抹茶3939

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探索者の本領発揮

 

 

 

 

 

 

 

「利息は高くつくぜ? 支払いはその輝かしい『青春(明日)』で済ませな」

 

 

 

 

探索者は黄金の天秤を高く掲げ、自身の内側に沈む「泥濘」を皿へと流し込んだ

それは、彼が探索者としてこれまでその手で汚し、踏みにじり、あるいは背負い続けてきた――言葉にすれば精神が崩壊しかねないほどの濃縮された「罪」が沈んでいる

 

 

 

 

「『天秤は均衡を保つ、重りは罪、皿は魂、己が正義を誇るなら、その身の潔白を以て証明せよ、軽き想いに、長き鳥からその『差分』の報いを与えん』」

 

 

 

そして、もう片方の皿には、アコを筆頭に、規律の徒として集結した風紀委員数百人の、混じりけのない「組織としての意思」が載せられた。

 

(本当はこんな使い方するもんじゃ無いんだけれどね…)

 

 

 

キチ、キチ……と、肉を裂くような軋み音。天秤の針が、不可視の法則に従って無慈悲に振り切れる。

判定は下された。圧倒的に「軽い」のは、風紀委員会側だ。

 

 

 

 

その瞬間、包囲していた数百人の少女たちを、目に見えない()()()()()()が物理的な暴力となって押し潰した。

 

 

「な、何……!? 急に、銃が……腕が、動かない……!?」

 

「空気が……重い……まるで、誰かの人生を肩代わりさせられているみたいな……っ」

 

 

 

 

それは惨劇ではない、だが喜劇でもない

 

ただ、天秤が「公平」を強いるために、探索者が一生をかけて背負ってきた絶望と罪の差分を、彼女たちの純粋な身体に無理やり分配(シェア)したのだ。

 

 

 

引き金を引く指が震え、洗練されていたはずの包囲網が、一人の男の凄惨な「年季」によって泥沼のような鈍化を始める。

 

「……ハハッ―案外、あんたらの意思は羽毛よりも軽いみたいだな」

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

「……っ、ふざけないで……ッ!!」

 

 

「……マジか…」

 

 

 

探索者は口角を吊り上げ、重圧に喘ぎ、武器を構えることすらままならなくなった軍勢を見据えた。だが、その嘲笑はすぐに感嘆……いや、称賛へと変わる

黄金の天秤が、カチカチと音を立て振動し始める。

 

声の主はイオリだった。彼女は震える両足に力を込め、骨が軋む音を立てながら、重力に逆らうようにして愛銃を握り直す。

彼女だけではない。アコの執念、そして風紀委員としての使命を糧にした少女たちが、泥濘のような空気の中で、濁った瞳を燃え上がらせる。

 

 

(おいおいおいおい…シェアされたとはいえ俺の罪だぜ?なぜ立てる?怖い人(こわすぎんちゅ)すぎる…)

 

 

 

 

「私が……私たちが……どれだけの覚悟で、ここに立っていると思っているのよ! 意思が軽い? 笑わせないでッ! それが職務なら……私たちは、地の果てまで追い縋ってでも、遂行して見せるわッ!」

 

 

 

『……その通りです。どんな不条理が襲おうとも、私たちはゲヘナ風紀委員会……その『重み』ごと、あなたを叩き伏せて差し上げます!』

 

 

 

『風紀委員会、総員!『規律』を重りとせよ!個の恐怖を捨て、組織の誇りを皿に載せなさい!』

 

 

 

 

 

 

ホログラムのアコが、ノイズを振り払うように叫ぶ

その瞬間、黄金の天秤が狂ったように激しく上下に揺れ動いた。

確かに一人一人の「意思」では、探索者の罪という重りには届かない。ならば、彼女たちは組織という巨大な()()()()()()へと変貌し、数百人の覚悟を連結させることで、その重みに立ち向かうことを選んだのだ。

 

 

天秤の裁きは消えていない。不条理なデバフはなおも彼女たちの神経を焼き、筋肉を圧迫し続けている。

だが、彼女たちはその「地獄」を背負ったまま、無理やり一歩目を踏み出した。

数百の「規律」が重なり合い、巨大な鋼鉄の重りとなって、天秤の皿を強引に水平へと引き戻していく。

 

 

 

一人の男の罪を、数で、規律で、圧倒的な物量で圧殺しようとするその姿は「ゲヘナの暴力装置」そのものだった。

 

 

(…天秤の判決(ルール)をその身に受けながらも自分たちの規律(ルール)を俺に押し付けに来るか…あんたらも大概狂ってるよ)

 

 

探索者は考えを改めた。

彼女たちは守られるべき生徒である前に、己の意思を数で束ね、大人の不条理を真っ向から受け止める立派な

 

 

 

 

 

 

 

          

 

「敵」だ
         

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない!少々君たちを見くびっていたようだ!その『規律』の重み、俺の『罪』とどっちが頑丈かぁ!!最後まで競い合おうじゃねぇか!!」

 

 

 

 

探索者は、なおも不敵な笑顔を浮かべながら天秤を掲げ続ける─が、その顔に嘲笑の笑みはない

 

その笑みは挑戦者(チャレンジャー)に向ける最大限の敬意を持ったものであった

 

 

 

探索者は右足についているホルスターから古びた銃を取り出し、限界を超えて指をかける風紀委員たちと正面から対峙する。

 

 

まさに一触即発

 

 

張り詰めた糸が弾け、戦闘の火蓋が切られようとしたその時

 

 

 

 

"そこまでだ"

 

 

 

静かだが、逆らいがたい響きを持った「もう一人の大人」の声が、爆発寸前の戦場を切り裂いた

 

 

 

 

 

 

もう一人の「大人」がその間に立ち塞がった。

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

二つの巨大な質量が衝突する寸前、その「狭間」に一人の男が立った。

 

 

 

探索者の掲げる「罪」の冷気と、風紀委員たちが燃やす「規律」の熱量。その両方が、無防備に割り込んだ先生の背中に突き刺さる。

 

 

 

「……先生、どいてください。これ以上は、俺でも制御が利かない」

 

 

探索者の声には、いつもの余裕が消えていた

 

 

 

天秤の皿は、今やどちらに転んでも破滅を招くほどに巨大なエネルギーを孕んで震えている。

 

 

 

だが、先生は動かなかった。それどころか、震える風紀委員たちを背負うようにして、探索者が掲げる黄金の天秤、その「支点」へと真っ直ぐに手を伸ばした。

 

「……っ、先生! 危ないわ、離れて!!」

 

アルの悲鳴が上がる。

 

 

 

天秤の支点に触れるということは、その天秤に載せられた全ての「重み」──探索者の凄惨な罪と、数百人の極限の意思──その総量を、一個人の魂で受け止めることに他ならない

 

 

 

「馬鹿か!?死ぬぞ!触れるな!!」

 

 

 

 

探索者の叫びを置き去りにして、先生の指先が黄金の金具に触れた。

 

 

その瞬間、先生の肩が、視認できるほどに深く沈んだ。

探索者がこれまで見てきた、言葉にすらならない灰色の現実。そして生徒たちが今まさに背負わされている、耐えがたい責務の重圧。

その二つが、奔流となって先生の内側へ流れ込む

 

 

 

 

先生の表情が苦痛に歪み、膝が折れそうになる

 

 

 

 

だが、彼は倒れなかった。

 

 

 

(な、に……? なんで立ってられる? 脳が焼けて、心臓が止まってもおかしくねぇぞ……!)

 

 

"……探索者さん。君が背負ってきたものは、確かに重い……そして、彼女たちが今背負おうとしているものも、同じくらいに重い"

 

 

先生は、血の気の引いた顔で、しかし穏やかに微笑んだ。

 

 

"でもね……『重さ』っていうのは、誰かを屈服させるためのものじゃないんだよ"

 

先生の手が支点に力を込めると、狂ったように揺れていた天秤の皿が、嘘のように動きを止めた

天秤の判定そのものを「無効」にしたのではない。

 

 

 

先生は、天秤の上に載る全ての「罪」と「意思」を、自らが三人目の観測者として分かち合うことで、物理的にその揺れを抑え込んだのだ。

 

「……あんた、馬鹿か。そんなことしたら、あんたの心臓が先に止まるぞ」

 

 

 

探索者の瞳に、初めて狼狽が走った

自分の「罪」の全容を、その魂の重苦しさを理解してなお、それを自ら肩代わりしに来る大人がいる

 

その事実が、彼の掲げる不条理な法を内側から崩していく。

 

 

 

"……いいよ"

 

 

"彼女たちの『未来』を、君の『過去』で縛らせるわけにはいかないからね"

 

 

 

先生の言葉が、戦場に満ちていた重苦しい魔力を溶かしていく。

天秤の皿から「差分」の圧力が消え、風紀委員たちの身体を縛っていた鎖が、淡い光となって霧散した。

 

 

 

崩れ落ちるように膝をつく生徒たち。

探索者は、役目を終えて静まり返った黄金の天秤を見つめ、深く、深く溜息をつき、左手を右手に重ねながら回し、天秤を指輪の中へと収めた

 

 

 

戦場を支配していた不気味な灰色が消え、いつものキヴォトスの空が戻ってくる。

 

 

 

「……甘い、なんてレベルじゃねぇな……あんたこそ、一番『救いようのない大馬鹿者の大人』ですよ、先生」

 

 

 

探索者はヘルメットを2回ほど叩き、銃口をゆっくりと下げた。

その背後で、ようやく呼吸を取り戻したシロコやアルたちが、先生の背中を見つめて呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

不条理な裁きは、一人の「教育者」の無謀なまでの献身によって、静かに幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

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