貼ると修羅   作:キサラギ職員

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続けるつもりがあるかもしれない第一話

 キャラクターの設定とは、なんだろう。

 たとえばとあるキャラクターならば、日系人として生まれ戦争に巻き込まれるさなかに試作機に乗り込み敵を撃退した。政府の思惑に乗せられて戦争を勝ち抜き超能力染みた感性を獲得した。のちに地球に落下する隕石を押し出して見せた。などである。

 どんなキャラクターにも設定が存在する。それはちょうど我々が名前を持つように、キャラクターの設定とはキャラそのもののアイデンティティにかかわる根幹であり、かけがえのないものだ。

 では例えば、設定が破綻していたらどうなるのだろうか。

 男で女で悪魔で天使で優しいが厳しくて醜いが美しく髪の色は黒で白で戦争ではめっぽう強いが弱く女性関係に悩まされたが一途である。

 矛盾、その一言に集約される。

 しかしここに、矛盾そのものと言っても過言ではない人物がいた。

 

 コーヒーよりも練乳が多い(成分表参照)ともっぱらの噂になっているやたらと甘ったるいマックスコー○ー(伏字はお察しください)をグビグビと飲みまくる小柄な人物。

 人物は、空中に浮いたPCをこれまた胡坐をかいて操作していた。服装は黒を基調にしたゴスロリ調のドレス。ロングスカート。コルセットできゅっと窄まった腰回りは外見の幼さに反して色めかしさを醸し出していた。銀色、もしくは金色に輝くロングヘアの頂上にはシンプルなカチューチャが乗っかっている。

 彼女の名をハルトシュラー。S.Hartschuller。作曲家で魔王で幼女で享年2歳という設定を持つ存在である。創作活動という海で発生したという説。誰かの設定ノートから誕生したという説。生まれも経歴もすべてが謎であり、作曲以外にも絵や文章などにも才能を発揮したという。だが結局のところ設定は破綻しておりキャラクターとして成り立っていないともいえる。

 彼女の特徴は、設定が成り立っていないことである。作曲家であるとすれば、作曲家になる。魔王とすれば、魔王になる。幼女にもなるし、妙齢の美女にもなる。2歳で死亡どころか不老不死にもなれる。

 設定が決まっていないということが、設定なのである。だからショタキャラを誘拐することもあれば、殺し合いに興じることもあるし、Twitterに出没することもあるのである。

 設定が違えどすべてはハルトシュラーに内包される。容姿も、決まっていない。基礎となるのはあるが、時に金髪で時に銀髪で時に二頭身だったり、全身からオーラを漂わせることもあれば、絵師によってはだらしのない格好をさせることもあり、中国のインターネットの検索結果を変えて遊んでやろうという趣旨から誕生したキャラクターと並んで描かれることもある。

 彼女、ハルトシュラーは、好物という設定のマッ缶をがぶ飲みしながら、ネットサーフィンに興じていた。有名検索サイトをたどってまとめサイトを行ったり来たり。たどり着いたのは創作専門のアンテナサイトである。

 創作の魔王として君臨する彼女にとって創作関係のアンテナサイトは非常に役に立つのだ。あんてなさんというキャラもしくは人物の情報発信力も侮りがたいのだが、やはり外部を探すときにはアンテナサイトが一番である。

 ふと、アンテナに気になる情報があるのを目ざとく発見した。

 

 「ハーメルン……だと?」

 

 ハーメルン。

 にじファン崩壊後に作られたという若いサイトである。

 ハルトシュラーが生誕した創作発表板と比べても圧倒的に若く、サイト自体が未完成である。にも拘らず登録数はウナギ登りであり、今まさに期待の新星とでもいうべきサイトのようである。期待の声、不安、不満、欲求、希望、多様な意見と感想が入り混じっている。

 面白い。

 ハルトはマッ缶を飲み干し、次の缶を空間から呼び出すと、片手でプルタブを開きつつ、別の画面を空中に投影して見せた。安全第一の文字がプリントされたヘルメットをかぶったハムスターがツルハシ片手にインターネットという土台に城を築かんと作業をしていた。しかも一人である。

 うむう、と唸り声をあげて、満足げに頬の端を持ち上げる。

 

 「サイト作りもまた創作と。……ム、この気配。貴様、見ているな!」

 「あちゃちゃー」

 

 ハルトが缶を万年筆に再構築するや、弾丸に迫る速度で投擲した。刹那、空間からしみ出すように黒毛に赤い肌をした異様な女性が出現した。万年筆は既に女に掴み取られており危険性は排除されてしまっている。

 女は、黒毛をオールバックにしており、赤い肌は蛮族染みた面積の狭い衣服から存分に露出しているという様相であり、尖った犬歯や目立ちから攻撃的もしくは野性的な気配が漂っている。体つきは男性をそそるそそり立った胸板に、腹筋の発達した腹部、筋の浮いた肢体と、ハルトとは対照的である。ハルトが醸し出すのが創造ならば、女の存在は破壊であろう。

 この女、その昔、創作発表板のサーバーを吹っ飛ばしたいわゆる「夕鶴クライシス」を引き起こした張本人(という設定)として恐れられる破壊神なのである。いくらインターネット上で創作して設定を作ろうが、所詮リアルの事情には逆らえない。二次元の世界で最強を誇る戦士とて、ひとたびリアル世界で人気が衰えれば話題にも上らなくなるのと同じである。

 大抵の場合、創作の主人とされるハルトと、破壊者夕鶴は対峙する存在なのだが、作者の都合によりこの場は普通に会話をすることにする。ハルトという存在がメタ世界に足を踏み入れているからこそできる暴挙である。

 夕鶴は、クルクルドリル髪の女性からパクッてきた酒瓶を片手に登場して、どっかりとハルトの隣に座った。万年筆は既に消去されている。

 ぐびりと酒瓶を傾け、口を拭う。

 

 「ほっほー新サイト? 新サイトぉ? 面白そうじゃん」

 「貴様と話すのは久しぶりだな。創作発表の過疎度的な意味で」

 

 創作発表板。

 それは過疎板である。

 ハルトがため息を吐くと、夕鶴もため息を吐いた。板人口の少なさはどうしようもないのだ。こうやって作品をハーメルンに投下しても、創作発表板には流れないことを二人は知っていた。

 夕鶴は酒を再び飲むと、げっぷをした。

 

 「げふっ……。んっんー……まぁそうだわな。ネット上の人気な板と比べちゃ創作発表板は過疎中の過疎だし。一大ムーブメントになった鬼子ちゃんの時にちょっと増えたけどさぁ」

 「彼女は元気か。気のせいでなければパロロワに出演していたような気がするぞ」

 「殺し合いねぇ。面白そう」

 「そういえば創作板でバトロワはやらないのだろうか」

 「面倒だしね。ぶっちゃけ。人物、マップ、アイテム、移動先、リレー、決めること多すぎ」

 

 一応、夕鶴は鯖もといサーバーを吹っ飛ばして多くのスレを電子の海に落とした存在であり、ハルトは緊張していた。創作神と破壊神は敵対することが一般的だからである。

 話がやたらとメタなのはキャラ的にご了承ください。

 夕鶴は、ハムスターがせっせせっせとサイトを創作しているのを見遣り、ほう、と感心の息を吐いた。前のめりになる。

 

 「新サイト? っていうかこの話もハーメルン用に書いてるんでしょ。見てるー? もしもーし、読者さん見てるー? 気になったらpixiv検索してみると私の絵出るからー。夕鶴よ、夕鶴。間違えちゃダメ」

 「やめい、小説の人物が語り掛けるのは第四の壁を越えてしまうぞ。……せっかくだから板に投下してやればいいものをな。過疎って住民が死にそうになっておる。おい酒をよこせ」

 「夕鶴姉はね、2歳のお子ちゃまには上げないポリシーなんだよねぇ。甘いよねぇお嬢ちゃん」

 「ならばこれでどうだ」

 

 刹那、ハルトの姿が変貌する。短くぷにぷにとしていた肢体は数秒もかからずに伸長し、顔立ちが一気に二十年は成長する。悩ましく張った胸元。シルクのような髪はさらり涼しげに肩から零れ腰に垂れている。冬の氷を思わせる緊張感を宿した目鼻は整っており、瞳は血のように赤い。

 絶世の美女がそこにいた。

 夕鶴はその姿を横目で見ていたが、大きくなったところで器を空間から取り出して手渡すと、酒を注いだ。

 

 「実在しない未成年に酒を渡すと犯罪らしいわよーってことで成年以上になったハルトちゃんにお酒どうぞ」

 「都知事め、創作を邪魔するか。ウム、酒を感謝するぞ」

 

 酒を受け取ったハルトは、がぶがぶと飲んだ。酔いに強い設定として作者が書いているからである。やろうと思えば味りんで酔っ払えるキャラにも書ける。

 ハルト、顔をしかめて一言。

 

 「苦い」

 「大人の味だからね」

 「練乳を入れたいのだが?」

 「邪道だわ、あんた。酒に練乳とか気が狂ってる」

 「黙っておけ。わたしは甘いのが好きなのだ」

 

 と、ハルトは空間から練乳(牛の顔がプリントされたチューブ)を呼び寄せると器にねるねると入れた。半透明な酒の底で練乳が折り重なり層を作る。これまたどこからか取り出したスプーンでかき混ぜると、一気に飲む。甘ったるい成分が味蕾を刺激した。

 ぷはっ。息を吐きつつ目を緩め、口を離した。

 夕鶴は信じられないと言わんばかりに首を振ると、己は何もいれずに酒を飲んだ。

 ハルトが言った。

 

 「時に、夕鶴。この話はオチはどこへやったのだ。貴様、壊したのか」

 「あのさぁ、私のなんでもかんでも私のせいにすんのどうかと思うのさ。なわけないよね。オチつけるつもりすらなかった話だからね」

 「ではこれで落ちだな!」

 

 

 

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