貼ると修羅   作:キサラギ職員

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「ここは前書きだ。とっとと下にスクロールするがいい」




桃花登場の第二話

 

 「そこの読者! そう、君だよ! なんて良い検索技術だ、ピンと来た!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やけに行間開いてるぞ。ちゃんとしろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あなたは困惑するだろう。いきなり作品の中の人物が語りかけてきたのだから。メタネタに走っていいのはギャグや第四の壁を理解しているキャラのみであり、シリアスな作品でやると、ダダ滑りする。そしてもちろん現在進行形で滑っているのである。

 ハルトは、現時点で『外見を覚えられねぇ』と内心思いつつpixivで検索をかけてみたりする読者にもわかりやすいように自身の姿を描写してみせた。

 ゴスロリ調のドレスにロングヘアをした幼女の姿である。

 

 「ロリコンには好ましい外見をしているだろ? まぁぶっちゃけ外見はどうにでも変えられるんだがな!」

 

 ハルトは主に読者に向かってそう語りかけると、早速身の回りのことについて描写し始めた。現状の地の文だけではハルトが何かやっていること以外に理解できないからである。

 ハルトは、両手をぱむと打ち合わせると空間に文章列を構築していった。

 ハルトシュラーは創作の魔王である。創作の主人、創造の主人、創作発表板の主人ともいわれる彼女にとってメタ世界の作者に働きかけることなど造作もない。

 ひらがな、カタカナ、漢字、英字、文字として成立すらしていない線がハルトの周囲を渦巻いて、場を描写するべく機敏に空中を舞う。ある文字は蝶のように羽ばたいて。ある文字は煌びやかな粒子を纏ってきりきりと回転する。文字が細胞分裂を重ね、必要な文字を送り出す。

 ハルトは頬を紅潮させ、靴の踵で暗黒の地面を踏んでリズムを取った。一叩き一叩きが音楽となりて創作物へ昇華されていく。音楽もまた創作である。

 湧き上がる作品への渇望が空間を歪め、大気の奔流を生み出す。ハルトのスカートがふわりと花咲いた。そして重力を無視して、地面から浮かび上がったのであった。ブロンドの髪の毛がブロンドとかシルバーを通り越して虹色の発光をする。瞳の色も幻想のように色を変貌させていく。

 

 「たぎってきたぞ! 深夜特有の創作力が!」

 

 手を指揮棒かわりに一振りすれば、文字たちがあたかも小型の回遊魚の群れのように纏まって流れを作り出す。最後尾につくのは『。』である。英文ならば、ピリオドである。

 文字たちはたちまちのうちに収束すると、世界を一変させた。

 場面が暗転する。

 文字列が一定の描写となりて場面を変えたのである。ハルトは例のドレス姿にて、和室に居た。

 ――――ズズズズズズズズズズ。

 『創作』と、一般人には達筆すぎて読めない筆字の描かれた風流な容器にお茶が入っており、それを音を立てて吸う。かぽん。ししおどしの音色。空気は凛と張っており一部の隙も無い。和室特有の古臭くも気分を落ち着ける香りと、茶の香りが、精神を穏やかにさせる。

 静寂を割って、幼さを有する声がおずおずと響いた。

 

 「あのー」

 「なんだ、少年よ」

 

 ハルトの前には、中肉中背を体現したような少年が正座していた。シャツにズボン。学校指定の衣服。中学生か高校生くらいだろうか。

 少年は困惑していた。車に轢かれたと思いきや次の瞬間には和室に飛ばされ、ゴスロリ調のドレスを身に着けた美少女が正座して茶を啜っていたのだから。ぱっちり開いた瞳。銀色の髪の毛は腰まで伸びており、天井からぶら下がった白熱電球と日光の照り返しの反射が、輪となっている。肌は白く、透き通るよう。作り物の人形のような美しさでありながらも、人間的な気配を秘めた、女の子。

 少年は、いつの間にやら己の目の前に出現した器を見つめると、それに熱い茶が注がれているのを見て、取りあえず口をつけた。熱く濃い茶が意識に喝を入れる。

 

 「俺って死んだのか?」

 「うむうむ。理解が早いのは好きだ」

 「手違いで死んだって奴だったり?」

 「だろうなぁ。私ほどのものが手違いを踏んでしまったのだからなぁ」

 「で、ここにいるってことは転生させてくれるとか?」

 「質問攻めは嫌いだが、答えてやろう。その通り、私の手違いで君は死んでしまいお詫びとして転生させてやろうというのだ。好きな能力やスキルを申すがよい」

 

 話が進むにつれて少年は興奮した様子で身を乗り出した。一方ハルトは神妙な顔つきで苦いお茶をズルズルと飲んでいる。

 少年は正座をすると、上半身を乗り出して両手で畳を叩いた。

 

 「じゃあ、fateの投影術!」

 「それだけでよいのだな?」

 

 ハルトは仏のような無表情になり目を瞑ると、ゆっくりと開いた。瞼が持ち上がると、そこには嬉々として欲望をぶちまける少年の姿がある。魔王は目を再び閉じると苦汁に味蕾を晒す作業に戻った。まずい。にがい。おいしくない。

 少年はハルトの胸倉に掴み掛らんばかりに接近してまくしたてる。

 

 「じゃあじゃあ! 直死の魔眼と、なのは以上の魔力と、外見はイケメンにして転生させてくれ!」

 「………」

 

 ハルトは押し黙っていた。少年がひたすらに願望を口に出すのを聞いていたのだ。少年が一通り言葉を言い終えると、お茶の最後の一口を咽頭に流し込み、唇をちろりと舐める。水分が多量に付着した舌が唇を押して形を変える。纏う雰囲気が冷静から、熱へと転換していく。

 

 「チェス盤をひっくり返す!」

 

 突如、ハルトは湯呑みを投げ捨てると、空間ごと引き裂いた。場がビリビリと音を立ててひしゃげる。和室は家屋の基礎ごと破壊されてゴミクズと化し、少年は空間に押しつぶされた。空間が塵となりてハルトの手に集合してゴルフボールほどの球体に状態を変化する。ハルトはそれを握りつぶすと、暗黒の地面にどっかりと腰をおろし、手杖で顔を支えてしかめっ面をした。

 

 「流行の転生ものを書いてみたがどうにもアレだな……恥ずかしいにも程があるぞ。機械仕掛けの神をもろ登場させて主人公をわっしょいするのはどうなのだ? 神ならぬ魔王たる私が言うのも説得力に欠けるが。なぁ、桃花」

 「ハルト殿、寄生と戦っている真っ最中に呼び出すのをやめて欲しいのですが……」

 「よいではないか」

 

 ハルトが話題を振ったのは、いつの間にやら暗闇に正座しているポニーテールの女性であった。

 無限桃花。無限に投下あれという創作理念から誕生したキャラクター。日夜、規制(寄生)という敵キャラと熾烈な戦いを繰り広げているという設定があり、袴に日本刀にポニーテールという大まかな容姿が決まっている。ちなみに妹がいる。彼女も詳細な設定が決まっていないので、野球選手だったり、魔法少女だったりする。無限から転じて並行世界にも無限に無限桃花がいるという話さえあるのだ。

 桃花は、体の重心と中心線を微動だにさせぬ見事な起立をみせると、抜身の日本刀を払い血液を振るい落とすと、鞘に納めた。つい今しがたつまらぬものを斬っていた最中に呼び出されたのである。

 暗闇に二人。一人は侍。一人は魔王。

 魔王が言った。

 

 「それでどう思う」

 「ム、私は斬ることしか知らぬ桃花故、創作活動について論ずる知識はございませぬが、一般的にならぬとされていることをするのは、よからぬことではないのですか」

 

 申し訳ないのですが、と付け加える桃花。

 魔王もといハルトはスカートを叩きつつ立ち上がると、腕を組んで眉に皺を寄せた。

 

 「しかし時代は変わるものだぞ。先を進むものは背中を指さされるものだ」

 「先に進み過ぎるものは、闇に呑まれてしまうものでございましょう」

 「うまいことを言う。一寸先は闇か」

 「時にここは暗ろうございますね。蝋燭等はございませぬか?」

 「ちょっとお前しゃべり方が昔過ぎるぞ。板の桃花は現代的な口調だったのに」

 「私は無限に存在しますゆえ、古風な桃花もいるのでございます」

 「まぁいい、帰るがいい」

 「お元気で」

 

 暗闇にぽっかりと口を開いた光の扉に、桃花は帰って行った。

 一人残された魔王はどこからともなく木製ベンチを呼び出して腰かけると、マッ缶を取り出しプルタブを捻った。

 

 「創作は難しいな。答えがないというのがなんとも………ああ、ここでオチだ。悪いな、つい感慨に耽ってしまった」

 

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